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ネカマの俺は異世界でもモテる  作者: さささん
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序章:ネカマの弁

TSものです。中身男見た目女なのでボーイズラブともガールズラブともとれる描写が出てきます。ご注意ください。

『ネカマ』

あまり良い印象で使われない言葉かもしれない。

しかし断言しよう、良いネカマはみんなを幸せにする素敵な行為だ。


あるネトゲで俺が使うキャラクター『*ぺるねこ姫*』は女で、チャットも女性のような口調で話す。もちろん操作しているのは20代後半男性の俺だ。

この行為が詐欺だとか嘘つきとか言われるのは心外である。俺はエンターテイナーなのだ。ネカマとは一つのジョブなのだ。


許容範囲内のドジを踏み、戦闘ではふざけず、愛らしさをほどよくふりまくのが基本だが、時にはそんなキャラクターではないときもある。ちょっと背伸びした思春期の女の子、俺女、忙しい時間の合間を縫ってゲームをするOL…とその種類は多岐にわたる。


ただすべてに共通するのは俺のロールプレイによって誰かが楽しんでくれているという点。男女が雑多にまじるギルド内で色恋をうまくかわして聖域であり続ける美少女の存在がいかに幻想的であるかは想像に難くないだろう。


俺も一時は硬派を気取って効率を求めるギルドにいたこともあったが…最終的にいきついたのはネカマだった。俺の提供するエンターテイメントでみなが喜んでくれることにこそ俺のやりがいがある。


それに腕がよければ感動した客が「課金アイテム」とか「レア武器」とかいうおひねりを投げてくれる。今までに俺に投げられたその数々のアイテムはそれぞれのゲーム内のアイテム欄で勲章のごとく光り輝いている。…さすがにサービス終了したネトゲのアイテムは諭吉に変わったが。


まあこれは俺の自論であり、当然すべてに該当するものではない。

それにここまでいっておいてなんだが「行きついたのはネカマでした」ってだいぶ頭がおかしいようにも思えるが誓ってそんなことはない。

ただ誰もがよいネカマに当たることを祈っている。俺のような。


今日も仕事から帰ってすぐPCを立ち上げ、ゲームの方に入っているメッセージに目を通す。一通目はオフ会へのお誘いだ。残念ながら顔出しはNG、夢を売るジョブだからな。俺はすぐに丁重なお断りのメッセージをしたためる。二通目は個人的に会いましょうとのお誘い、お返事同上。三通目、同上、四通目…とまあそんな感じである。


何通かクエストの予定等必要な連絡だけしっかりと目を通す。と、その中におかしなメッセージが一通。


件名はなく、ただ本文に「ようこそ」とだけ書いてある。最近の業者はゲーム内のメッセージにまででてくるのか、それにしてはあやしげなサイトへの誘導がないなと思いながらゴミ箱へポイ。


あとはもう他愛もないお喋りのメッセージである。『ひよ子』になりきってノリノリで返信した。


そうこうしているうちに夜も更け夜半過ぎ、アイテム採集の最中に『ひよ子』が寝落ちしたということでギルマスの『ぶぶんた』さんの合図で解散の流れになった。周りは笑ってそれに同意していたが、何人かチャットの反応がにぶかったギルメンがいたのでおそらく俺の行動は渡りに舟だったことだろう。

一応断っておくが寝落ちはもちろん演技だ。それに演技でだとしても戦闘で寝落ちなどしたことはない。


お疲れさまでした~とみんながログアウトしていく。それを見届けてから俺はぱぱっとシャワーを浴びて、ぼふんとシングルのベッドにとびこんだ。PCの電源は落とさなくてもいいだろう、寝落ちしたことになっているから。

ああ充実した一日だった。自身のパッとしない業績のこともわすれられそうだ。

明日も一日、冴えないサラリーマンとして出社しなければならないのがたまらなく嫌だ…。


さきほどまでの心地いい気分もうすらいでどんよりした雲が寝ぼけ眼の上にかぶる。

まあいつものことだが、こういう時ふと思い出すのは『ひよ子』のことだった。


『ひよ子』はかわいらしい少女のアバターだ。長い銀髪をゆるーく幼い感じの二つ結びにし、かぼちゃのように膨らんだパンツルックでケープを羽織っている。サテンのような真っ赤なリボンのついた外国のお菓子のような紅白はてな型のロッドをもっている。元気さと無邪気さを押し出したこのデザインがとても気に入っている。


「…いっそひよ子になりたいな。」


口から馬鹿げた言葉がでてきた。出来るわけがない。わかっている。

楽しいゲームのひとときを演出して、そしてそんな自分を誰かから必要としてもらえる。その行為の魅力に俺は自分で自覚している以上にどっぷりと浸かっていた。


「ねよ。」


アホな考えはすぐに振り払った。

スタンドの電気を消すと完全な暗闇が目前に覆いかぶさった。昔から真っ暗で寝る派だ。豆球をつける派の姉とは折り合いが悪かった。


目を閉じれば朝がくる、そのさけられない事実がとても嫌だった。だがその思いとは裏腹に瞼はとろとろと溶けていく。抵抗もむなしく俺は早々に寝入ってしまった。


部屋は丸ごと寝静まったかのように静寂に包まれていた。

ただ一つ、画面に映る草原にぽつんと『ひよ子』がたたずむ、煌々と光り輝くPCをのこして…

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