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短編集

所信表明演説

作者: 喜悦楽壊

あなたは夢を語れますか?

えー、私は演説なんて高尚なことは出来ません。

いや、勿論この演説台に立って無言のまま終わる、なんて事は御座いません。私の心臓はそこまで頑丈ではありませんので。

今まで一体どれほどの方々がこの場に立ち、未来を語ったことでしょうか。

叶った夢があり、叶わなかった夢もあったでしょう。

最初に私は言いました、『演説は出来ない』と。

代わりに夢を語らせて下さい。


この国は今、何処に向かっているのでしょうか。

私には分かりません。

少子高齢化、デフレ、税金の問題など課題は山積みの時に私が総理大臣になってしまいました。

私は、こんな大役を任される人間ではないと自負しています。学だって無いに等しいものです。『名采配』なんて言われてますが、単に人任せにした結果です。

ですが、何かに任命される度に毎回思うのです。

「やるしかない」と「為せば成る」と。

人の力を借りて、書類の一字一句に目を通して、間違いのないように、後世の憂いとならないように仕事をしてきたつもりです。

私は弱い人間です。人の目を気にしないとあっという間に堕落するでしょう。怠けるでしょう。

そんな私にも、分不相応な夢があります。

国民が笑って暮らせる国にしたい。

巫山戯た話だと笑う方もいるでしょう。構いません、これは私の夢です。私のたった一つの夢です。


今この国は夢がありません。現実と少し先の未来に必死です。現実に絶望して自殺する若者は上り階段。

お金の問題で子供が産めない夫婦がいれば、家計の問題で進学出来ない学生もいます。

貧乏人が損をし続ける社会は昔から変わりがありません。

夢を見たければ千葉に行くか眠るかだけです。

何よりも、大人が夢を見ていない。

私が子供の頃、よく大人達が夢を語っていました。

ある町工場のおじさんは「俺らの部品でロケットを飛ばす」と意気込んで、50年産科医をやっていたお婆さんは「赤子を誰一人死なせずにお母さんに抱かせてやる」と静かに言って、誰しもが大小問わず夢を持っていました。

今、私達大人は夢を語ることが出来ますか?

「子供が夢を見ない」などと言いますが、夢を見せる大人がいないのです。

後をついて来る子供に見せる背中はなんとも小さく情けない。


1963年8月28日、この日付を覚えている方がいるはずです。

ある一人の男が国に夢を語った日です。

彼が残した言葉は国を変えました。

「私には夢がある」

彼はたった一人の夢を国に広げ国民の夢にしました。

彼の死後、様々な醜聞が流れましたが、真実は墓の下にのみ存在します。


私にも夢があります。

貧困に苦しむ国民に手を差し延べたい。

難病に苦しむ患者さんを助けたい。

自殺する人々を押し止めたい。

もう一度言いましょう。笑いたければ笑って構いません。絵空事だと、奇麗事だと言う方もいるでしょう。

私は政治は奇麗事を成立させる為にあると信じています。

夢を語れない大人が国の未来を語れますかっ!

子供達に夢を見せる! 絶望の淵に立つ人々に希望の道を示す! それが私達に課せられた責務です!

私達政治家は歴史を作っているんです!

未来に汚点として残すことは断じてならない!


私はこの職務を任期満了します。何があっても辞職はしません。

辞職は責任をとるということではありません。ただ逃げるだけです。

任期満了して次に託す。その時まで、私は職務を全うする覚悟です。


以上を持ちまして、私の所信表明演説とさせて頂きます。

多分こんな人は政治家になれないでしょう。

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