巷で噂の殺人鬼
新連載開始しましたー!
途中で消えたらすいません。
朝日が差し込む部屋の中
買ってきた朝飯に手をつけながら
俺はテレビを点けた。
番組表から適当にニュースを選ぶと
画面に映ったのは
川原で作業する警察官達の映像。
「先週、狸川の河川敷で男性の死体が発見されました。男性は首を×印に切りつけられており、警察は最近起こっている連続殺人事件と同一犯の犯行と断定し、近隣住民へ注意喚起をーーーー」
と、ニュースキャスターが言い終わる前に
後輩が突然テレビの電源を消した。
不機嫌そうに見上げれば、そいつは呆れたような口調で言う。
「捜査してる側の人間が、ニュースで情報集めたって意味無いでしょうよー。俺たちが知ってること以上の情報は放送されないんだから」
「んなことわかってるよ。気分の問題だ」
パシッとリモコンを奪い返して、俺は再びテレビを点けた。
相変わらず画面の中のニュースキャスターは
警察への批判や
殺人犯への怒りの言葉を口にしている。
俺はパックの野菜ジュースを飲みながら
ときどき映る現場の写真を食い入るように見つめた。
すると
背後で、後輩がわざとらしいため息を吐く。
「まったく……捜査一課の刑事ともあろう者が、ただのオッサンじゃないですかー」
ーーーーそう、俺たちは刑事。
先ほどから失礼な後輩、蒼山と
俺、斎藤公平は
一応コンビまで組んでいる仲だ。
そして、捜査一課の主な担当は殺人事件。
たった今報道されている連続殺人事件の捜査本部にも、当然参加している。
「あ、そういえば斎藤先輩ー。
五人目の身元わかったらしいっすよー」
「早く言えよ馬鹿」
手元にあったバインダーで後輩の頭を軽く叩き、椅子にかけたままの上着を羽織る。
とりあえず鑑識行くか。
多分話聞き終わったら、丁度捜査会議の時間だろう。
そんなことを考えながら、俺と後輩は未だ進展の無い連続殺人事件の捜査に踏み出した。
「遅かったですねぇ。
斎藤さん、蒼山さん」
『鑑識課』と書かれた入口をくぐると
課長である新村彰良がわざとらしく微笑みながらそう言った。
「こんにちは、あっきー」
「……ちわっす」
正直言って、俺はこの人が苦手だ。
鑑識としてはかなり有能な人だけど
何考えてんのか予想も出来ないし
いちいち嫌味っぽい話し方をするから。
……だから、なんでこの人と後輩が仲良いのかがさっぱりわからない。
「じゃあ早速、五人目の話をしましょうか」
新村さんは書類を手に立ち上がり
ホワイトボードを示しながら話し出す。
ホワイトボードには、先週殺された男を含む五人の死体の写真と、五人分の死亡推定時刻や名前が書いてあった。
「今回の被害者は坂本春。例のごとく他の四人と交流はなし。
首の傷と、何一つ残ってない証拠ーーーー連続殺人犯の仕業でほぼ間違いないでしょう」
「またか……」
「警察の威厳も何もないですねー」
先の四件と、大差ない鑑識結果。
思わずため息を零すと、俺を見た新村さんは意地悪そうな笑みを浮かべた。
そして、ホワイトボードに貼ってある写真の内二つを手にとって、俺の眼前に突き付ける。
「証拠は残ってませんが、手がかりはあります」
その写真は、四人目の首と五人目の首のもの。
やはり二人とも×印の傷があり、違いなんてーーーー
ん?あれ?
「上下、ですねぇ」
俺が口に出す前に、隣にいた後輩がポツリと呟く。
そのとおり、一目見ただけではわからないけれど
四人目と五人目の傷のある部分が、わずかに違っていた。
四人目は首の中間あたりを
五人目は首筋……肩と首の境目あたりを切られている。
他の三人の写真を見ると、全員切られているのは
首の中間あたり、いわゆる頚動脈の真上だ。
つまり、五人目だけが
首筋を切られている、ということ。
「五人目、坂本春は1m90㎝の長身です。
その首の中間といえば1m70前後……
1m30㎝以上の身長があれば、悠々と届く高さですが
それはあくまで平面での話です」
新村さんは後輩を手招きし、のこのこ近寄って行った後輩の腕を掴んで
背後からきっちりと関節を決める。
ぎし、と骨が軋む音がした。
「痛い痛い痛い痛い!あっきーめっちゃ痛いんだけど!」
「新村さん、です。あっきーではありません。
……ではなく
他の四人は一般的な体格ですから、こうやって押さえつけて、空いた手で切りつければ確実です。が、五人目だけはそうもいきません。
押さえつけるだけで精一杯、最悪振りほどかれて反撃にあう可能性もある」
呻く後輩を離さずに新村さんは
人差し指で、後輩の首筋を斜めに切る真似をしてみせる。
「だったら背後から襲いかかって、切った方が安全でしょう。
同じくらいの体格だった、ということも考えられなくはないですが、そんな人物の目撃情報はありませんでした。
襲いかかって切った、ということは
頭の上からではなく
顔の前あたりから振り下ろした可能性が高い」
演技じみた仕草で手を離し、新村さんは
俺を見やって笑っていた。
この先はわかるだろ?とでも言いたげな笑顔。
見下された感じがするが、渋々口を開く。
「殺人犯は身長165㎝前後の、おそらく男。
そしてこの連続殺人事件は
ーーーー無差別ではない」
「ご名答」
話の意味がわからないのだろう。
掴まれた手首を労わるように撫でながら
後輩が不思議そうな表情でこちらを伺っているのが見えた。
そんな後輩に、五人目の顔写真を押し付けて
新村さんは言う。
「これで鑑識結果の報告は終わりです。
さっさと犯人見つけて、六人目の被害者なんて出さないで下さいよ。
現場検証って面倒臭いんで」
「なんで鑑識になったんだよ、あんた……」
「ノーコメントです」
くすくすと笑い続ける新村さんに軽く会釈し、俺は鑑識課から出た。
慌てて後を追ってくる後輩に
捜査会議始まるぞ、とだけ告げて
なんとなく歩く速度を上げる。
それは、一刻も早く解決したい正義感からか
遅刻はまずいという個人的な理由からか。
……まぁ多分、どっちもだろう。




