第55話「お泊まり会(後編)」
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「はぅあ〜……生き返るぅ」
「みぃちゃん、それ、なんだかお年寄りみたいだよぅ」
「疲れが取れていくこの感覚は命の回復なんだから良いのよ」
「亜子、湯船の中でタオルはマナー違反だからね」
身体にタオルを巻いたままで湯船に近付いてきた亜子に、先に入浴していた悠紀がたしなめる。
「わ、わかってますよぅ」
そう言うものの、亜子はなかなかタオルを外そうとはしなかった。湯船の縁に腰を下ろして、足のつま先だけを湯の中に入れる。
「心配しなくてもそこまで熱くないわよ」
「あこち、女は度胸!」
いつの間にか湯船の中を移動していた美空が、側面から亜子に抱きつく。そして伸ばした手で亜子の身体に巻かれたタオルをしっかりと掴んだ。
「きゃぁー!?」
「良きかな良きかな」
咄嗟にタオルを手で押さえて抵抗しようと試みたものの、ほんのわずかに間に合わず、身体に巻いたタオルはあっという間に引ん剥かれてしまった。亜子は顔を真っ赤にさせながら勢い良く湯船に浸かると、湯船の中で両膝を抱えながら縮こまった。
どうやら自分の裸を見られることに抵抗があったらしい。女同士なのだから気にすることもないのにと悠紀は思ったが、価値観は人それぞれなので深くはツッコまないようにする。
亜子は口元まで湯船に浸けてプクプクと空気の球を浮かばせながら、上目遣いで同級生の美空を見詰めた。その様子がまた小動物然として可愛らしかったのだろう。湯船に入りなおした美空が奇声を発しながら亜子の首に抱きついた。
「くぉー、あこちはなんと初いやつよの〜」
「きゃぁぁきゃぁぁ」
「むはー」
「美空、あなたのキャラが崩壊してるわよ」
遠巻きに眺めていた悠紀がやれやれといった調子で首を振る。美空に放り捨てられていた亜子のタオルを丁寧に畳んで湯船の縁に置いた。
「いやいや会長。キャラなんて後から付いてくるものですよ。今大事なのは、その場の雰囲気ですって」
「いきなりアブない発言が飛び出たわね」
「それもこれも、あこちが可愛いのがいけないんですよ! 私が犯罪者になったとしたら、その原因はあこちの可愛さにあったと言っても過言ではないです」
「過言だよぅ!!」
「ていうか、そのぷかぷか浮いてるモノは何!?」
「ふぇ!?」
「ひょっとしておっぱいなのね!? それが、おっぱいなのね!?」
「ひゃうん」
「くっ……こんなところにも格差社会があったとはね。でも良いわ、認めましょう! 胸囲(脅威)の格差社会というヤツをね!!」
「別にウマくはないわよ」
女性としては平均よりもやや低めの身長と細身の身体で、大きくも小さくもないバランスの取れた肉付きの悠紀が固い声でツッコみをいれた。
しかしその声も、テンションがハイになっている美空には届かなかったようだ。
「このロリ巨乳めっ!」
「いやぁぁ、揉んじゃらめぇぇ!?」
なんて。
三年生の二人が湯船でワーワーキャーキャー騒いでいると、シャワールームのドアが開いて二人の一年生が浴場に入ってきた。
聖奈と奈緒だ。
瞬間、二人に視線を向けた上級生三人が急に黙り込んだ。
「……えっと、何でしょうか?」
三人の視線が奈緒ではなく自分へと向けられていることに気づいた聖奈が戸惑ったように尋ねる。
「いや、ねぇ……」
「何ていうか、ね」
「ほへぇ……」
三人が顔を見合わせて、言葉にならない言葉を漏らす。
タオルで前を隠していても、同じ女性だからこそわかることがある。
絶妙なまでの頭身バランス。余分な脂肪のない脚と腕。タオルを押し上げる二つの膨らみ。引き絞られたウエストの括れ。肩や臀部などの身体の丸み。それらは七月に十六歳となった少女らしい発展途上さが垣間見えるが、そこには間違いなく、発展途上としての完成形があった。
「あの、そんなに見られてしまうと恥ずかしいのですが……」
「あっ、ごめんなさいね」
聖奈の声によって我に返った悠紀が謝罪の言葉を口にする。下級生の二人が湯船に浸かった頃には、美空が亜子から身体を離して、騒いで火照った身体を冷ますために湯船の縁に腰掛け、彼女から解放された亜子が湯船の中で足を崩してリラックスしたのだった。
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学生自治会の女子メンバーと奈緒が一つ処に集まったことで、話題は年頃の女子らしい内容に移っていた。
「ねぇ奈緒、ちょっと聞いても良いかしら」
「な、何かな、お姉ちゃん」
「さっきあなた、どうして秋弥君の部屋にいたのかしら?」
表情を落とした悠紀からそう問われて、奈緒は汗なのか水滴なのかわからない水分をタラタラと流し始めた。すると、足を湯船の中で泳がせていた美空の眼が、獲物を見つけた鷹のように鋭く光った。
「そんなの決まってるじゃないですか、会長。夜這いですよ、夜・這・い」
「!?」
何故か亜子が顔を真っ赤に火照らせて身体を丸める。チラチラと視線を向けている仕草から、恥ずかしいけれど興味があるといった様子が見え見えだった。
「へぇ、そう、ふぅん、そっか……夜這いなんだ」
「ち、違うよ、お姉ちゃん!」
「……でも、女の子で男の子が一人だけの部屋に行くって、夜這いと密会以外に何があるというのよ」
「それは、その……」
冷静になっていればいくらでも反論できたことだったが、気が動転していた奈緒は言葉に迷い、それすらもできずにいた。さらには、美空の言葉をそのまま使い続ける悠紀の様子を不審に思う余裕すらもなくなっていた。
「えぇっと、あの……」
秋弥と二人きりで会っていたことは事実だし、フリとはいえ、そういう行為に及ぼうとしていた自分の行動を思い出してしまい、奈緒は顔を真っ赤にした。
押し黙る奈緒に、さすがにちょっと意地悪しすぎたかな、と悠紀が硬い表情を崩そうとしたところで——、
「……合宿先の部屋で同級生の男女が二人きりとか、それ何てテンプレシチュよ。羨ましいったらないわ!」
「って美空、本音が漏れてるわよ」
「それでは、奈緒さんは九槻さんの部屋で何をしていたのですか?」
それまで静かに傍観していた聖奈が、何の裏表も感じられない表情と声音で尋ねたのだった。
「えぇ、そうね。何もやましいことがなければ話せるはずよね」
そして追い打ちとばかりに姉からもそう諭された奈緒は、半ば観念したような態度で溜息を吐いてから、口を開いた。
とはいえ、そもそも隠しておかなければならないような話ではなかったのだ。それを美空が無駄に煽ってハードルを上げてしまったせいで、奈緒はしどろもどろになってしまい、その様子を不審がられて、何だかおかしな雰囲気になってしまったのである。
話し始めてしまうと、言葉はスラスラと出てきた。
「——だから、改めてちゃんと秋弥くんにお礼を言いに行ったんだよ」
もちろん自分と姉の関係や、父親とのことは伏せた上で話をしたので、奈緒の話はすぐに終わってしまった。なんだそんなこと、という調子の悠紀に軽く非難の眼を向けてから、もう一度溜息を吐いて、奈緒は美空と入れ替わる形で湯船から上がって縁に腰を下ろした。
「なるほどね。でも、そっか。九槻君ってタダ者じゃないとは思ってたけど、一年生なのにクラス4thの隣神とか斃せちゃうんだ」
美空が感心したように頷く。その様子に、悠紀と亜子が呆れ顔で美空を見詰めた。
「みぃちゃん、報告書はちゃんと読まないとダメだよぉ」
「はーぃ」
気のない返事をする美空の態度からは反省の色があまり見られなかったが、亜子はそれ以上のことは言わなかった。美空が言っても聞かないことは、今に始まったことではないからだ。
「そうだったのですか。奈緒さんと秋弥さんの出会いには、そのような大変な出来事があったのですね」
一方、感心したような声を発したのは聖奈だった。聖條女学院の卒業時期の関係で一か月遅れの五月に封術学園に入学した聖奈は、当然のことながら、装具選定での顛末を知らない。
しかしながら、クラスメイトの誰かから話くらいは聞いているだろうと思っていた奈緒は、眼をパチクリとさせた。
(ひょっとして、聖奈さんは知らないのかな)
秋弥の『意』に宿る高位隣神リコリスの存在や、異能の紅い装具のことだ。
そうなると、三組のクラスの中で——否、もっと言えばいつも秋弥の周りに集まるメンバーの中で、聖奈だけが何も知らないことになる。それは何だか、彼女一人だけを仲間はずれにしているようで——隠し事をしているようで、奈緒の胸がチクリと痛んだ。
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「まあでも九槻君って、あの九槻月姫さんの弟君なんだよね。だったら普通じゃないのも納得できるかな」
聖奈と同じように、報告書の改竄によって秋弥の抱える秘密を知らない美空は、指を組んで腕を前に伸ばしてから肩までどっぷりと湯に浸かると、過去を思い出すように中空を眺めた。
「九槻さんには、お姉様がいらっしゃるのですか?」
そう尋ねる聖奈に、「あ、そうか。天河さんは知らないのか」と美空が頭を横に倒して、傾いた視界で聖奈を見た。
「≪矛盾螺旋≫九槻月姫。九槻君のお姉さんで、封術師見習いにして封術協会から『銘』を与えられた数少ない人物で、昨年まで封術学園の学生だった人だよ」
矛盾螺旋——その銘は何らかの得意(特異)な術式や装具の性質を意味しているのだろうか。しかしそれよりも聖奈が引っかかったのは、
「昨年までですか? ということは、九槻さんのお姉様はもうご卒業されているということでしょうか?」
美空の言葉からそのように読み取った聖奈であったが、途端に奈緒を含めた全員が表情に陰を落としてしまったのを見て、何か失言をしてしまったのではないかと疑った。
考えて見れば、これまで秋弥たちと一緒にいながら、聖奈は彼に姉がいるという話を一度も聞いたことがなかった。
もしかしたら、話しづらいようなことだったのかもしれない。
静寂が周囲を包み込む。
水蒸気によって天井に張り付いた水滴が地面に落ちる音が聞こえた。
「九槻月姫さんは去年、封術事故に巻き込まれちゃってね……。そのときの後遺症で、今は休学しているんだよ」
美空の言葉に、聖奈は小さく首を傾げた。
封術事故——。
それは、聞き慣れない言葉だった。しかし、言葉の意味から察するに、封術による事故であることは想像に難くない。
それでは、いったいどんな事故が起こって、どのような後遺症が残ったのだろう。疑問に思うが、場の雰囲気的に、無理に聞かない方が良いだろうと聖奈は判断した。
だが、その思いとは裏腹に、学生自治会長である悠紀がすぅっと空気を吸い込んだ。
「聖奈さんが知らないのも無理はないわ」
そう前置きしてから、
「……月姫はね、昨年度まで私やスフィアと同級生だった人なの。だけど、去年の四校統一大会で起こった封術事故に巻き込まれてしまって……。その事故は月姫の封術のおかげで最小限にまで抑えられたのだけれど、それによって月姫は外傷だけでなく、『意』にも重度の負荷を受けてしまったの。……何とか一命は取り留めたのだけれど、それ以来、月姫は封術を行使するための媒体——装具を扱えなくなってしまったのよ」
聖奈はハッとして両手で口を覆った。
装具を形作っているものは、自己の『意』だ。
その装具が扱えなくなってしまうほどの重い負荷が精神にかかったということは、最悪の場合、『意』が壊れてしまう可能性もある。
「不幸中の幸いというべきなのかしらね。秋弥君から聞いた話だと、私生活を送る上では何の支障も出ていないということよ。装具が扱えなくなってしまったことが一時的なものなのか、あるいは恒久的なものなのかは、まだわからないわ。だから暫くの間、月姫には自宅療養をしてもらっているのよ」
そう話す悠紀の口調や表情からは、それほどマイナスな感情は感じ取れなかった。意識的にそう装っているという可能性もあったが、封術事故が昨年度の四校統一大会で起こったということは、もう既に一年近くが経過していることになる。これは推測でしかないが、月姫の病状は当時よりも良い方向に向かっているのかもしれなかった。
そんなことを聖奈が考えていると、不意に悠紀と眼が合った。悠紀は聖奈を安心させるようにニコリと微笑むと、
「だから、聖奈さんが心を痛めなくても、きっと大丈夫よ。それにね、月姫って在学中はホントにすごかったのよ。彼女の武勇伝を話し始めたら、とてもじゃないけれど今夜だけじゃ足りないくらいにね」
「そうですね。あの人はもう何ていうか、常軌を逸していましたよ」
美空が同意すると、亜子も首をコクコクと縦に振った。
「私も統一大会でしか秋弥くんのお姉さんを見たことなかったけど、とっても綺麗な人だったんだよ。昔の童話じゃないけど、儚げで、奥ゆかしくて、だけど芯は強くて——名前のとおり、月の姫っていうのがピッタリ合う感じだった」
奈緒にそう言われて、聖奈は幼い頃に女学院の図書室で読んだ竹取物語を思い出した。どうやら『かぐや』という名前は、月の姫と書いて『月姫』と読むらしい。
「——とまあそんな感じで、九槻君はいろいろと規格外だった月姫さんの弟君だからね。彼に何もなかったら遺伝子を疑うレベルだよ」
それはそれで酷い言い様だったが、封術師見習いとして規格外だったという月姫の武勇伝は丸ごと割愛されてしまったので、聖奈はただただ納得することしかできなかった。
「だから、会長たちが九槻君に惚れちゃうのも、無理のない話ですよね」
美空がそんな余計な一言を付け加えた瞬間——。
浴場内に大きな水しぶきがひとつ、出来上がったのだった。
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「いや、ホント、さっきは面白いものを見させていただきました」
美空が両手を合わせて、頭をわずかに下げる。
舞台を大浴場から美空と亜子が泊まる客室へと変えて、ガールズトークの延長戦が始まっていた。
「夜這いの話をしたときから奈緒ちゃんの反応は予想していたけど、まさか会長が、あんな露骨な反応を見せるなんて思いもしませんでした」
楽しそうに笑う美空に、悠紀が非難めいた視線を向ける。彼女が腰を落としたベッドの上では、身体を火照らせた亜子が横になってぐったりとしていた。
「それに極め付きはあこちですね。そういえば九槻君とは一度だけ『課外活動』で一緒になったことがあるんでしたっけ。そのときに何があったかは知らないですけど、この反応は私もさすがに予想外でしたよ」
美空は悠紀からの非難の視線なんてものともせずに亜子へと眼を向ける。亜子がぐったりしているのは長湯によって逆上せたためではなく、美空の言葉によって極度に興奮してしまったことが原因だった。美空の声を聞いて「そんなんじゃないよぅ……」という抗議の声がかすかに漏れたが、ベッドに押しつけられた亜子の口から出た言葉は当然、美空の耳に届く頃には音としての形を完全に失っていた。
「……あったあった、この報告書ですか。ふむふむ……、あぁやっぱりそうだ。高等調律術『領域支配』。調律師を目指す学生の卒業基準となる術式の一つですね。なるほど、こんな術式を扱える一年生の男の子が目の前に突然現れたら、あこちじゃなくても好意を持ってしまうかもしれないですね。っていうか、やっぱり九槻君も規格外じゃないですか」
デバイスを操作して『課外活動』の報告書を素早く拾い上げた美空はひとり、納得顔で言った。「ほんとにそういうのじゃないんだからぁばかぁ」と言う亜子の声はやはり、モゴモゴと言っているだけにしか聞こえなかった。
「いやいやしかし……、『星鳥』の血統が本能的に良質な遺伝子を求めてしまうようになっているのだから、これは……」
美空がしわを寄せた額に人差し指と中指を押し当てて自問する。
「んん? ちょっと待って……。上級生と下級生。ロリ。巨乳。調律。領域支配。……おぉ、これはまた何という天の巡り合わせ! ヤバ、次から次へと構想が膨らんできた!! あああっと、忘れてしまう前に早くメモを取らないと!!」
真面目そうに見えたのも一瞬のこと。美空は興奮しながらデバイスを操作してメモツールを立ち上げると、ホロキーボードを表示した途端に奇声を発しながら目にも留まらぬ速さでタイピングをし始めた。
悠紀が完全に自分の世界へと入ってしまった美空に向かって溜息を漏らすと、横になって呻いている亜子にチラリと視線を向けた後で、唯一残ったまともな人物——聖奈に顔を向けた。
「……聖奈さんは平気そうね」
奈緒は自室に籠もってしまったため、客室に集まっていたのは自治会メンバーだけだった。亜子は真っ赤な顔をしてぐったりとしており、美空は瞳を爛々と輝かせながらウィンドウに向かっている。一見まともそうに見える悠紀は、初めて見る表情で自嘲気味に微笑むばかりで、何処か怖い。
明らかに全員が普通の状態ではなかったので、相対的に聖奈が平常を保っているように見えるのだが、聖奈もまた、内心では普通とは少し違っていた。
聖奈は鷹津封術学園に入学するまでずっと、女性しかいない聖條女学院で日々の生活を送ってきた。異性に対する好意や感情が意味するものを知識として知ってはいても、実際に体験する機会がなく、そのため、自身の中に芽生え始めていた感情が何に起因するものなのか、わからずにいたのである。
(好きとは違う、と思う)
身近な異性として気にはなっているし、意識しているかと問われれば間違いなく「はい」と答えるしかないのだが、聖奈は彼のことをまだほとんど知らない。
だからこの感情は、おそらく興味なのだと、聖奈は結論付ける。
気になっているのは、彼のことをもっと良く知りたいと思っている自分がいるからであり、意識しているのは、彼のことを知ろうとする自分がいるからだ、と。
しかしそれが結局、恋愛感情の根底に結びついているのだということを、聖奈はまだ気付いていなかった。
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翌朝、使用人の桃花とともに大食堂へとやってきた秋弥は、既に揃っていた女子メンバーの様子が昨夜と違うことに気が付いた——奈緒は授業があるので先に朝食を済ませて出て行ったようだ。
正面の美空はくまの浮かんだ両眼を真っ赤に充血させて、疲れた表情で「おはよ〜」と棒読み気味なあいさつを送ってくる。おそらく例の怪しげな妄想に浸かって時間を忘れて端末と向かい合っていたのだろう。そんな光景を秋弥は自治会室で何度か見かけたことがあった。
美空の隣では、亜子が秋弥と眼が合った途端に頬を朱色に染めて視線を逸らし、オロオロとしながら、「お、おはようございます」と言った。たどたどしくて言葉を良く噛むところはいつもどおりなのだが、反応がいつも以上に過剰だった。
悠紀に至っては最初から秋弥と視線を合わせようともしない。気付かぬうちに会長を怒らせるようなことをしてしまっただろうか。まさか、昨日の花鶏姉妹が会長に何かを言ったとか……。
そして、昨日と同じく秋弥の隣に座っている聖奈は一見すると普段どおりで、朝のあいさつも食事の様子もいつもと変わりないのだが、ふと気が付くと彼女の視線を感じることがあった。しかしそれも一瞬のことだったので、最初の頃は気のせいだと割り切っていたのだが、その頻度があまりにも多かったので、秋弥は不審に思ったのである。
(こんな調子で、これから大丈夫なのかな……)
昨夜に何があったのかは知らないが、秋弥は若干の居心地の悪さを感じながら、これから向かう四校統一大会の開催地へ、不安な思いを馳せたのだった。
2012/12/27 可読性向上と誤記修正対応を実施