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封術学園  作者: 遊馬瀬りど
間章「真夏の日の夢」
30/111

第29話「2053/08/21 10:20:00 天河聖奈」


★☆★☆★



 『夢』と『現実』の境界線というものは非常に曖昧なものです。

 わたしには時折、この世界が『現実』と『夢』のどちらであるのか不確かになるときがあります。

 

 たとえばそれは、とても嬉しいことがあったとき。

 酷く残酷な出来事が起こったとき。

 誰かに褒められたときや感謝されたとき。

 ほしいものが手に入ったとき。

 夢が叶ったとき——。


 例を挙げ始めたらキリがありませんが、それでは、わたしたちはいったい何をもってして、『現在(いま)』を判断しているのでしょうか。



 きっと、その境界線に明確な線引きなどはなくて。

 もしも『夢』と『現実』をひとまとめにして『現在(いま)』という世界が形成されているのだとしたら。

 

 『現実(ゆめ)』も『(げんじつ)』も。


 すべてを含めて『人の生きる世界』なのだと、わたしは思います。



 だからこそわたしは、あの夏の日に見た不思議な『夢』のことについて、思いを馳せます。

 

 わたしにとってのひとつの『悪夢(げんじつ)』が収束へと向かい始めた、あの夏の日の出来事を——。



★☆★☆★



 わたしが鷹津封術学園に入学して、三か月以上が経ちました。

 季節はすっかり夏真っ盛りで、八月中旬のこの頃は最高気温も三十度を優に上回る暑い日が続いています。

 世間一般の学生たちがそうであるように、鷹津封術学園の学生たちも夏季休暇を迎えています。

 鷹津封術学園の夏季休暇は八月から九月中旬までと定められているので、普段であれば総勢八百人近い同世代の人たちで賑わっている学園も、この時期は潮が引いたように静まりかえっています。

 時折、グラウンドの方角から聞こえてくる声は運動部員の掛け声でしょうか。

 彼らは十月後半に控えている学園行事のひとつ——四校統一大会に向けて、休みの間も部活動に励んでいるようです。


「聖奈さん、鏡使う?」


 洗面室から女子学生が顔を覗かせました。


「はい。綾さんは、もう準備ができたのですか?」


 わたしは同室の女の子——朱鷺戸綾さんに訊ねました。

 綾さんとわたしは、女子寮の同じ部屋で暮らしています。

 聖條女学院の卒業式が四月後半に行われる関係で、わたしはみなさんよりも一か月ほど遅れて、鷹津封術学園へ入学しました。

 入学して暫くの間はホテル暮らしをしていたのですが、学生自治会長である星条悠紀会長の計らいもあって、現在は同じクラスで仲良くなった寮生の綾さんと相部屋にしていただいています。

 快諾してくださった綾さんには、感謝の言葉でいっぱいです。

 女子寮の寮室は元々二人部屋として設計されているため、わたしと綾さんの二人で住んでいても、別段、窮屈さを感じるようなことはありませんでした。


「私の方は準備できたから、代わるね」


 そう言って、綾さんが洗面室から出てきました。

 わたしが着替えをしている間、先に着替えを終えていた綾さんが髪を整えるために洗面室を使っていたのです。

 クセの無い真っ直ぐな黒髪を梳かして自然な形で背中に流した綾さんと入れ替わるように、わたしは洗面室の鏡の前に立ちました。

 ブラシを手に取って、栗色の髪を丁寧に整えます。

 毛先までしっかりと梳かしてから、柔らかくまとまるタイプのヘアスプレーを使ってシルエットを作ります。髪の分け目や前髪の流れに意識しながら、立体感を髪全体で表現します。

 しばらくの間、自分の髪の毛と四苦八苦したわたしは、ようやく満足のいく形を作り終えると、洋服の皺や裾に注意を向けて身だしなみを整えてから洗面室を出ました。

 頭の上から足先までの身だしなみについては聖條女学院で厳しく教えられてきたので、わたしの中ではもうそれが習慣になっていました。


「お待たせしました」


 わたしはベッドに腰掛けてテレビを眺めていた綾さんに声を掛けました。

 綾さんはわたしの声にすぐさま反応すると、わたしを見てニコリと微笑みました。


「聖奈さんの髪ってほんと綺麗だね。わたしの髪の毛と交換してほしいくらい」

 

 と、そのようなことを言うのですが、わたしの方こそ綾さんの黒髪を羨ましく思います。

 他人の畑はよく見える、という言葉がありますが、わたしがそう言い返すと、


「私の髪なんてただ伸ばしてるだけだよ。黒いのも単なる遺伝だし、毎朝整えるのが大変だから、小学生の頃からずっと同じ髪型なんだよ」


 綾さんはこう言いました。

 でしたらきっと、小学生の頃から可愛がられていたことだと思います。


「玲衣ちゃんとの待ち合わせには十分間に合うね」


 時計を確認すると、玲衣さんとの待ち合わせの時間まで四十分ほどありました。

 女子寮から待ち合わせの場所までは歩いて二十分弱なので、時間的には十分余裕があります。

 

「それなら、十分後くらいに寮を出ましょうか」


 わたしがそう言うと、綾さんが頷き返しました。

間章はキャラクターの一人称視点で物語が進んでいきます。1話あたりの内容を短くして、週2更新の予定です(全体の長さとしては過去2話よりも短くなります)。


また、今回から文章を大きく区切ってみました。というのも、筆者自身が携帯からアクセスしてみたところ、若干の読み辛さを感じたからです。多少、気持ち程度の違いかもしれませんが、読みやすさが向上できたら幸いです。


それでは、封術学園一年目、天河聖奈の物語が大きく動き始める本作とともに、今年もよろしくお願いいたします。


2013/01/05 可読性向上と誤記修正対応を実施

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