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封術学園  作者: 遊馬瀬りど
第1章「封術師編」
10/111

第9話「異能型」

説明回です。


★☆★☆★



「——失礼しました」


 装具選定の後で本棟の東側六階にある袋環の研究室——封術学園に籍を置く封術師は、学生に封術を教える傍らで封術の研究を行うため、専用の個室が与えられている——に連れて行かれた秋弥は、それから約二十分後、ようやく退出許可を得て、その場を後にしたのだった。

 研究室で袋環から問われたことは、二つ。

 一つは秋弥自身が手に入れた、彼本来の装具のこと。

 もう一つは隣神リコリスのこと——単純にリコリスの危険性についての話だった。

 封術師の責務が異層世界の脅威から現層世界を護ることである以上、それは当然の確認事項であるとも言えるだろう。

 その他に話したことと言えば、次の月例会議で他の封術師教員に装具選定での出来事について説明をするという話と、リコリスの存在が正式に認められるまでは、学園内で彼女を呼び出さないようにという注意だけだった。

 予想以上に呆気ない質疑応答だけで済んだことに秋弥は疑問を抱いたが、そもそも彼にしてみても、リコリスが顕現したことは予想外の事態だった。

 何せリコリスは現層世界の人間ではなく、異層世界に住む隣神なのだから。彼女が秋弥の意思に関係なく、己の意思だけで顕現することができてしまう以上、袋環の言葉に確約することはできなかった。

 しかし、その場合には彼自身が抑止力になるということで、今のところは何とか納得してもらえたのだった。


「シュウ君!」


 と、研究室を出たところで玲衣、綾、堅持の三人が不安げな表情で駆け寄ってきた。


「悪いな。いろいろと心配をかけたみたいで」


 秋弥は開口一番に、自分を心配して待っていてくれた友人たちに謝罪の言葉を口にする。


「ホントだよ! もうホントに心配したんだよ!」

「でも、九槻さんが無事で本当に良かったです」

「綾の方こそ、封術結界で皆を護ってたんだろう。良くやったよ」


 瞳を潤ませた綾に、秋弥は笑みを向けた。


「……オレは隣神が顕現したのを見て、秋弥のことがすっかり頭から吹き飛んでたぜ……」


 堅持がばつが悪そうに頬を掻いたのを見て、玲衣と綾の二人がわずかに反応したのを秋弥は見逃さなかった。

 だが、突然の事に気が動転して自分と周囲のことだけで手一杯になってしまったという三人の心情も十分に理解できたので、秋弥はそれを見なかったことにした。

 すると、視線を外した先にある階段の陰にちらりと人の姿が見えた。

 ちょうど階段を上がってきた女子学生は秋弥たちの姿を見つけると、躊躇いがちに近づいてきた。

 その女子学生は、波長障害を起こして意識を失っていた女子学生だった。

 もう歩き回って大丈夫なのだろうかという秋弥の心配をよそに、女子学生は彼らの前まで来ると、深く頭を下げた。


「さきほどは助けていただいて、ありがとうございました」


 秋弥の活躍については気絶していて知らないはずだから、このお礼の言葉は堅持たち三人に向けられたものだろう。


「それに、私の波障で顕現した隣神まで退治してくださったようで……、本当にありがとうございました」


 そう思っていたのだが、続く彼女の言葉は、秋弥にだけ向けられた言葉だった。

 大方、意識を取り戻した後に誰かから聞いたのだろうと、秋弥は勝手に推測した。


「大したことじゃないよ。それよりも、もう動き回って大丈夫なのか?」

「はい」


 頭を上げ、元気であることを仕草でアピールする女子学生は、天然系のように思えた。


「あ……私、星条奈緒(ほしじょう なお)です。これを機会に仲良くしてくれたら嬉しいです」


 ずいぶん嫌な機会だなと顔には出さずに内心で思ったのだが、天然成分の入った女子学生——奈緒は、自身の口にした言葉の違和感には気付かずに、ニコニコと微笑んだ。

 奈緒が『星鳥の系譜』序列一位の星条家縁の者であることは、疑いようもない。クラス名簿の中に彼女の名前を見たときから思っていたことが、秋弥の中で確信へと変わっていた。星条の名が持つ意味と、クラス4thの隣神を現層世界に呼び込んでしまうほどの高い異層認識力(オラクル)を結びつけることは容易なことだった。


「そうだ! 装具選定の終了記念に、これから外の喫茶店に行こうよっ」

「お、いいな。昨日は開いてなかったもんな」


 唐突とも言える玲衣の提案に堅持が便乗する。綾はどちらでも良さそうな感じで静かに笑みを浮かべた。


「ねぇ、奈緒も一緒にどう?」


 いきなり名前で呼ばれた奈緒は瞳をぱちくりとさせたが、必要以上に距離を取らない玲衣の態度を特に気にした風もなく、嬉しそうに頷いた。

 民主主義がどうこう以前に、この状態で秋弥だけが断れるはずもない。

 玲衣の無言の問いかけに、秋弥は首を縦に振って答えを返した。



★☆★☆★



 上級生にとっては春休みが明けて初日の登校日ということもあり、また、放課後という時間帯も相まって、本棟の外に設けられた喫茶店には午後のお茶や歓談を楽しむ学生たちの姿で賑わっていた。

 その中に新入生の姿があまり見られないのは、入学二日目で学園の設備にまだ慣れていないというよりも、上級生ばかりの喫茶店に入ることに躊躇いを覚えたからだろう。

 そんな新入生たちを横目に秋弥たち五人が店内に入ると、全員が座れる席を適当に見つけて腰掛けた————上級生たちからは若干不躾にもとれる好奇な視線を浴びることになった。


「ここでの注文手順も、食堂と一緒なんだな」

「学園全体で同じ注文システムを組んでいるんだろうな。……玲衣はさっきから何をキョロキョロとしているんだ?」

「えっ!? ううん、何でもない何でもない。ここにも太刀川さん……じゃなかった、夜空君がいたりしないかな、なんて、そんなこと全然思ってないよ!」


 素っ頓狂な声を上げながら、玲衣が慌てた様子で両手をぱたぱたと振る。


「ん……、茶店でバイトしてるって話はまだ聞いてないから、たぶんいないと思うぜ」

「え? なんでわかったの?」


 どうやら自分で口にしていたことには気付いていなかったらしい。それだけ、昼食の一件が玲衣にとって衝撃的な出来事だったということだろう。


「……『まだ』ってことは可能性としてはありえるってことだよね。いつでも心の準備はしておかないとね」


 その様子はまるで、好きな人の姿を探して焦がれているみたいに見えた。しかしそれを口にすると、玲衣は間違いなく怒るだろうと思い、秋弥は黙っておくことにした——のだが。


「玲衣ちゃん。何だかそれ、好きな相手のことを意識してるみたいだよ」


 恋愛話に敏感な年頃である綾が、くすくすと笑いながら言ってしまった。


「そ、そういうのじゃないんだから! シュウ君も、変な勘違いしないでよね」


 上気する頬を両手で抑えながら真っ赤になって否定する玲衣に、急に矛先を向けられて、秋弥は眼を白黒させた。


「あの、太刀川さんってどなたですか?」

「……知らなければ幸せなこともあるんだよ」


 意味がわからずにきょとんとした表情の奈緒を放置して、秋弥は喫茶店メニューからコーヒーをオーダーした。

 給仕——もちろん夜空ではなく普通の学生バイトだった——がテーブルに全員分のドリンクを運んで後ろに下がると、さっそく今日の出来事についての話題に花が咲いた。


「こう言ったら身も蓋もない話かもだけど、奈緒も災難だったね」

「それでも装具を手に入れた後だったのは救いでした。……もう心象世界には二度と行きたくないです」


 そのときの事を思い出したのだろう。奈緒は両腕で自分の身体を抱きしめながら、辛そうな表情で呟く。

 誰も、心象世界で奈緒の身に何が起こったのかを根掘り葉掘り聞こうとはしなかった。

 波長障害が起こるほどの心の揺さぶり——それは彼女の『(こころ)』のとても深い部分にあって、誰にも触れられたくないトラウマであるとわかっていたからだ。


「……私も、お姉ちゃんみたいにもっと強くなれれば良いんですけどね」

「奈緒にはお姉さんがいるんだ?」

「うん、お姉ちゃんは強くて、格好良くて、何でもできるんですよ」


 綾はまるで自分のことのように、とても誇らしげに姉のことを話した。


「星条さんのお姉さんって、学生自治会の星条悠紀会長のことですよね」


 アッサムの紅茶を頼んだ綾が角砂糖を一つ摘まんでティーカップに落としながら訊ねた。


「お姉ちゃんを知ってるんですか?」

「入学式の日に、祝辞をしていましたからね」


 堅持と玲衣の二人は揃って首を傾げた。どうやら二人ともあまり覚えていないらしい。

 ただ、綾が自治会長を覚えていた理由はそれだけではないだろう。

 『星鳥の系譜』に連なる家系として、序列一位の星条——その直系血族にして次期当主の最有力候補と目されている星条悠紀の名前を、綾が知らないはずがない。

 それを知ってか知らでか。単に姉のことを知っている人に出会えたからか、奈緒は嬉しそうに笑った。


「私はお姉ちゃんに憧れて、少しでもお姉ちゃんみたいになりたくて封術学園(ここ)に入学したんですけど……。最初からこんなことじゃ先が思いやられますよね」


 しかし、すぐにその表情に影を落とすと、奈緒は自嘲気味に微笑んだ。


「そんなことないよ! あたしなんて完全に素人だけど、これからたくさん勉強していけば良いって思ってるもん。だから、ね、一緒に頑張ろうよっ!」

「オレも封術のことはほとんど知らないけど、秋弥と朱鷺戸さんは頭一つ飛び抜けてるみたいだからな。一緒にいろいろと教えてもらおうぜ!」

「牧瀬さん、沢村君……ありがとうございます」


 二人の励ましに、奈緒は眼の端に涙の粒を浮かばせていた。


「そういや秋弥に聞きたいことがあるんだけどよ。あの隣……いや、お前の使った装具はいったい、何だったんだ?」


 堅持は言いかけた言葉を途中で止めて、質問を別のものへと変更した。それは誰が聞き耳を立てているかもわからない公衆の場で、隣神リコリスの話題を避けた結果だ。

 その意味を汲み取った秋弥は、堅持たちに目配せした後で言った。


「やっぱり、話したほうが良いか?」

「いや、無理にとは言わないけどよ……」


 入学早々から不可抗力であるとはいえ、隣神リコリスの顕現という予想外の事態を起こしてしまった以上、もはや彼女に関する話題は避けられないだろうと秋弥は思っていた。

 それでもリコリスに関わることを教えるわけにはいかなかったが、彼女の持つ紅の装具であれば、少しくらいならば話しても問題ないだろう。


「そうだな……真紅の装具のことだったら少しだけ、な」


 秋弥はブラックコーヒーに口をつける。

 適度に喉を湿らせてから、ゆっくりと口を開いた。


「まず、俺は装具を二つ使える。一つは今日の装具選定でみんなと同じように心象世界で手に入れた装具。もう一つは、星条さんの波長障害で顕現した隣神を還そうとして使った紅の装具だ」

「……あ、あの!」


 と、両手でグラスを持ってストローでジュースを飲んでいた奈緒が急に大きな声を出した。


「ん、どうした?」

「えっと、その……」


 奈緒はしどろもどろになりながら、頭の中で組み立てた言葉を必死に口に出そうとしていた。


「あの……、私のことは、名前の方で呼んでもらえますか?」


 言った途端、恐縮したように視線をグラスの中の液体へと移して俯いてしまう。


「へ、変な意味とかじゃないんです。名字で呼ばれるとお姉ちゃんと混同しちゃうかもしれませんし、それに名前で呼ばれる方が慣れていますから」


 慣れの問題なのかなと思いつつも、秋弥は深く考えずに「わかった」と応じた。


「それじゃあ話を戻すけど、俺自身の装具のことは置いておくとして、真紅の装具の話だな」

「『神器ではない装具』ですよね?」

「そうだ。神器と呼ばれる装具が何を指しているかはもう知っていると思うから省くぞ」


 全員の顔を見回して、頷きが返ってきたのを確認する。


「近接系魔剣『紅のレーヴァテイン』——それが、真紅の装具が属するカテゴリと名前だ」

「装具の系統はどちらになるんですか?」


 綾からの二択を前提とした質問(・・・・・・・・・・)に、秋弥はわずかに逡巡した後、やや声を潜めて言った。


「……異能型だ。未登録だがな」


 その瞬間、全員が驚愕に眼を丸くした。

 装具の系統には『強化型』と『特殊型』にカテゴライズすることができない特別な系統が存在している。それらは『異能型』としてカテゴライズされるのだが、そのほとんどが机上の空論に近い、例外的な性質を持ち合わせているとされている。

 何故なら——。


「堅持、異能型の定義を知っているか?」


 不意に秋弥から視線を向けられた堅持は、質問を反芻してから答えた。


「……異能であること?」


 あまりにもそのままであったため、秋弥は軽く吹き出してしまった。


「な、笑うことはねぇだろ!?」

「いや、悪い悪い……。堅持の言うとおり、異能型は異能であるから、異能型なんだ」

「ごめんシュウ君。全然意味がわからないんだけど」


 首を傾げる玲衣と、それを見て首を傾げる綾。

 秋弥は知る由もないことなのだが、綾は彼が現層世界を離れている間に、玲衣から彼の装具の話を少しだけ聞いていた。その際に綾は、玲衣が彼の装具について詳しく知っているものだと思い込んでいたのだが、今の彼女の様子から、どうやらそうではないらしいことがわかった。


「なら玲衣に聞くけど、強化型と特殊型の違いを説明できるか?」

「うん。入試の基礎知識だもんね。強化型が使用者や装具自体に干渉することに特化したもので、特殊型が自分の領域を生み出して支配下に置くことで空間領域に干渉しやすくすることに特化したもの……だったよね」

「入試レベルで言えば、ほぼ正解だ。装具の系統は大きく、この二種類で系統分けされている。たとえば堅持の装具は強化型で、綾の装具は特殊型だったな。両者に違いは、その人物の人生そのものの違いとしか言えないだろう。生まれてから——あるいはそれ以前の血縁から現在までに育んできた心の形が、装具の系統や形状として表れる」


 心の有り様によって系統が決まるという考え方は心理学的な観点から判断されたものであり、必ずしもそれが当てはまるとは限らない。

 しかし、心理テストのような自己分析も、あながち間違っているというわけでもなかった。


「そうだな……、もっと具体的な例を挙げると——これはあくまでも心理学と統計学に基づいたものだから、自分のことだとは思わないで聞いてほしいんだけど——強化型の持ち主は自意識過剰であったり、自己防衛が強い傾向がある。特殊型の持ち主は他人に依存しやすかったり、優柔不断な一面が多く見られたりする傾向がある。まあこれは、もっとも典型的な例だけどな」


 一度言葉を切り、コーヒーで再度喉を潤す。


「自身を世界の中心として考えたとき、この世界には『自分』と『他人』しか存在しないことになる。このとき、それを二元論的に捉えるのではなく定量的に捉えれば、人間の心の有り様はそのどちらかに必ず傾倒する。その結果が装具の系統や形状となって、それぞれの違いを生み出す。そして異能型というのは、強化型の傾向にも特殊型の傾向にも当てはまらないものを示している。心の有り様として言うなら極端な話、自分という殻に閉じこもることも、他人に何かを求めたりもしないってところか」

「え、それってどういうことなの?」

「……つまり、人間としての心の有り様を逸脱しているということだよ。もちろん特殊なケースは存在するけれど」

「だから、普通は考えなくても良いんだね」


 ソーダフロートのアイスクリームを突きながら、玲衣が言った。


「そういうことだ。人が操る装具においては、ほとんど必然的に異能型という系統を消去法で除外できてしまうんだ」

「えっと……つまりあの紅い装具は、九槻さんのものではないということですよね?」

「それって、神器ということですか?」


 装具が本人以外には使えないということは封術を行使する者の常識であり、本人以外でも使える装具が神器と呼ばれていることもまた、今では常識となっている。

 話をまとめると、秋弥は紅の装具を使えるが、その紅の装具は異能型であり、異能型は人の心からはほとんど生まれないという。これらの条件を満たすことができる装具は神器以外には有り得ないと、奈緒は思っていた。

 その疑問に対して、綾は「あれ?」と首を傾げていた。『神器ではない装具』を言いながら、それでは神器と何ら変わらないのではないかと……。

 思案気な二人の様子を見て、秋弥は苦笑した。


「二人とも間違ってはいないんだけど、現代(いま)の封術体系ではそれをうまく表現できる言葉がないんだよ。だから今は、そういうものだと思ってほしい」


 自分で言っていて可笑しくなるくらい曖昧な表現ではあったが、『星鳥の系譜』である二人にはその言葉だけで十二分に伝わったようだ。残りの二人は、もとより何でも良さそうだった。

 紅の装具は秋弥の装具でもなければ、ましてや封術体系によって定義された神器にも当てはまらない。

 何故ならばそれは隣神リコリスの装具であり、秋弥はある事情(・・・・)からそれを使えるというだけのことだった。


「異能型と他の系統がどう違うのか、これで大体わかったと思う。それじゃあいったい、異能型の装具は何に特化しているのかというと——」


 とはいえ、異能型の説明は非常に難しい。それが示す範囲は限りなく広く、一概にこれだと言えるものがなかったし、何より周知のサンプルケースがほとんどない。よって、秋弥は紅の装具を例にして説明することにした。


「たとえば、真紅の装具は原質(メディオン)への干渉に特化している」


 ただし、この説明は正鵠を射てはいない。

 秋弥は紅の装具が持つ異能の本質を隠し、広義的な捉え方ができる言い方を選んだ。


「原質への干渉? それって普通の干渉と何が違うの?」

「玲衣の言っているそれは情報体への干渉のことだろ。根本的に違うぞ」

「あ、そっかー……、ってごめん。全然わかんない」

「……まあ仕方ないか。事象改変のプロセスは情報体が持つ原質の組み換えであって、それはどちらか言えば化学変化に近いものだからな。一のものからは一のものしか作れないし、十のものからは十のものしか作れない。情報体への干渉行為というのは常に等価交換であって、また、ある側面では質量保存の法則にも縛られているからな」

「あっ」


 思わず声を上げたのは綾だった。彼女はすぐに紅の装具の異能性について察しがついたようだ。

 それでも頭を捻る三人のために、秋弥は言葉を続けた。


「原質への直接干渉なら、それらの必要条件を満たさなくても事象の改変ができてしまうんだよ。何故なら、基になるものが情報体ではなく原質そのものだからな」


 情報体が持つ九つの原質の総量は決まっている。事象の改変は、基となる情報体が持つ原質の総量以上の改変を行うことはできないし、原質の量によって術式で改変可能な事象にも制限が生まれる。

 しかし、世界を満たす原質に直接干渉できるのであれば、一から十を生み出すことはおろか、原質()から情報体()を生み出すことだってできる。


「おぉ、なるほど! 何となくわかったぜ!」

「えぇ! それってすごくない!?」

「そっか、だから異能……」


 三者三様に驚きと納得の入り混じった声を上げた。

 その様子を見て、秋弥は紅の装具について偽りの情報を含めたことに少しだけ胸が痛んだのだが、それをおくびにも出さずに、温くなったコーヒーを口に含んだ。

2013/01/02 可読性向上と誤記修正対応を実施

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