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WGS~あなたの願い実現します!~  作者: sevennight
wish1:芹沢愛奈編
8/14

①-終 最後のわがまま

今回で芹沢愛奈編最終話です。



side:aina


大会当日。


緊張してあまり眠れなかった私を見て天宮先輩が爆笑するのを怒れるくらいの余裕があり、意外にも落ち着いて大会に入れました。


県予選とはいえやっぱり公式戦は熱気が違います。

各チームが自分たちの目標に向かって汗を流す姿、私はそういった頑張る人を見るとなんだかとても応援したくなるのですが、今日はこの蓮城学園バスケ部のマネージャーとして来ているのでその辺りは自重です。


一回戦。

蓮城の練習の公式練習が始まりました。

みなさんとても堂々としていて毎年一、二回戦敗退チームとは思えません。

相手チームもそれを感じたのかチラチラとこちらを見ていました。

これは…。


「お~みんないい動きしてるな~」


カチカチカチ。

と言ってポータブルゲームを再開しました。



「って何やってるんですか先輩っ!?」

「見ての通りゲームだけど」

「そういう屁理屈はいいです! 場所を弁えてください!」

「いや弁えるも何も、俺にとってはいかなる場所でもゲームとかあれば生きていけるまぁ俗にいう駄目人間って奴で…」


だ、駄目です。

相変わらずこの人の変人っぷりは歯止めが利きません。

唯一頼れそうなレミィ先輩は退屈なのか観客席で大欠伸をしていますし。


「天宮」


するとドスの利いた声が天宮先輩の背後に立ったと思うと先輩のポータブルゲームが取り上げられました。


「あ、何すん…」

「ゲームをするのは勝手だが…今から試合ということを忘れるなよ…」

「あ、ああ…」


凄いです!

あの天宮先輩を抑えるなんてキャプテン何者ですか!?


とかなんとかしてる内に試合が始まりました。

結局天宮先輩は球出しだけしかしませんでした。


ジャンプボールを制し、こちらの攻撃から始まりました。

開始早々キャプテンのシュートで2点とるといつになくみなさん盛り上がりました。

いつになくいい動きだったみなさんは以前とは比べ物にならない動きをみせ初日を悠々と制することができました。



「さぁ明日勝てば念願のベスト8入りだ。相手は応塚工業、あまりいい噂は聞かないが実力は以前の俺たちなら歯が立たなかっただろう。だが今は違う。強くなった俺たちを見せ付けるぞ! 以上、解散!」

『ありがとーございました!!』


キャプテンの気合の入ったミーティングを追終え、選手のみなさんは帰路に着きました。

私も帰って明日のドリンクなどの準備があるので早めに帰ろうとすると。


「芹沢、ちょっと来てくれ。それから天宮も」

「はいっ」

「なんだよ」


私と天宮先輩は人気のない校舎裏に呼ばれました。


「天宮、なんで今日の試合でなかった?」


早速本題の質問から入りました。

確かに私も気になっていたので黙って聞くことにしました。


「俺はこの大会一度もでない」

「なんだとっ!? なんのために頼んだと思っているんだ!?」

「じゃあ逆に聞くが、仮に俺の力で勝ったとする。その後どうする?」

「どうするって…」

「また俺に頼むのか? 今度は『お前がいないと試合に勝てないから来てくれ』とかか?」

「なんだとっ…!?」

「実際そうなるだろ。俺の力に頼ったって所詮俺は助っ人、この試合が終われば必然的にオサラバってわけだ」

「それは…そうだが…っ」

「頼まれといてなんだがここで俺が試合に出て一人で勝っても、それはお前たちのためにはならない。なにより今の俺の実力じゃあお前たちの努力を否定するだけだ」


そう冷たく言い放った天宮先輩はキャプテンに背を向けて去っていきました。

一件に冷たそうに見えますが、実は一番チームのことを考えてくれているのかも知れません。


「天宮」


それはきっとキャプテンも気づいていることで。


「ありがとう」

「………」


呼び止めても止まらなかった先輩の背中にそっと声をかけました。


「それと天宮」


さらに付け足すようにと再度先輩の名前を呼びました。


「お前のプレーは決して人を否定するものではないと思うぞ」


最後、視野から離れる前に少しだけ歩く速度をゆっくりしたように見えました。

やっぱり天宮先輩は優しいです。

でも…。


それももう終わりなんですよね。




翌日。

応塚工業との対戦です。

さすがに三回戦となると人の数も昨日とは格段に違いますね。

一方天宮先輩ですが。


ジャカジャカジャカジャカ♪


「Hey!!」


これは…何をしているのでしょうか。

そういえばさっき…。



「今から今度のライヴで歌う曲のノるタイミング合わせるから邪魔すんなよ」



とか言ってましたね。

なんでも最近大ブレイク中も声優さんで歌手もバリバリこなす凄い人だとか語られた気がします。


というか、先輩には羞恥心というものが些か欠けているのではないでしょうか!?


いや絶対欠けてます。

だって大会二日目の試合の公式練習中にベンチで耳にイヤホン指して変なテンションでジャンプしている人がいたら誰もが不思議に思うでしょう!

実際にここにいるんですが!

おかげで私たちは変な意味で会場中からの注目を浴びることになりました。



「なぁ…次の相手…」

「ああ。楽勝だな」

「いつも通り"餌食”にしてやろうぜ」



一瞬相手の高校の生徒の会話が耳に入った気がしましたが、今の私は羞恥の元凶たる先輩を止めることで手一杯でした。



ピーーーー!!



ホイッスルと同時にジャンプボールが行われ試合が始まります。


「…………」


私のせいなのでしょうか?

天宮先輩の機嫌がよろしくありません。

やっぱり止めたのがいけなかったんですかね?

でもみなさんにはよくやったと声を揃えて言われたので…どうなんでしょう。


「チ…腹の立つチームだな」

「へ?」

「いや相手チームのことなんだが」

「何が腹が立つんですか?」

「あの3人がいるだろ」


といって先輩が指差したほうには先ほど会話の聞こえた3人がいました。


「アイツら誰かが審判との死角になってファール紛いの当たりばっかしてやがる」

「えっ!? それって反則じゃ!?」

「それをバレないようにやってるから腹が立つんだよ」

「そんなっ…!」


と再び視線を移した時にはすでに赤岸君のユニフォームが引っ張られて転倒しているところでした。

当然審判には見えていません。


「てめぇーーーー!!」


比較的短気な赤岸君はすぐに相手選手の胸ぐらを掴みました。


「なんだよ? お前が勝手にコケたんだろ」

「お前よくも…!」

「やめないか君たち!」


当然審判が止めに入ります。


「君、次やったらイエロー出すからね」

「そんな…! 仕掛けてきたのは…!」

「赤岸!」


そんな中赤岸君を止めたのは坂江君でした。


「坂江…?」

「実力でわからせればいい」


それだけ言うと再び坂江君はポジションに戻りました。

赤岸君もその言葉でモチベーションを取り戻したのか先ほどよりもさらに動きがよくなりました。


「あいつら…」


無表情に見ていた先輩に見えましたが心なしか嬉しそうに見えました。



試合は蓮城が有利に進む中盤に再びアクシデントが起きました。


「もらった!」


パスのスティールに入った原君。

これは取れると思ったその時。


「避けろ原! 罠だ!」


キャプテンが叫んだときには遅く。

再び審判の死角となった人の後ろでスティールに飛び込んだ原君の顔面に外見限りなく"事故に見せかけた"肘打ちが原君の顔面を襲いました。



「原ー! てめぇ! もう許さねぇぞ!」


赤岸君は再び胸ぐらを掴みます。

すると死角となった人が原君に駆け寄り。


「だ、大丈夫ですか!? 早く! 早く担架を!」


といかにも心配した様子で担架を呼びます。


「俺が運ぶよ。お前も手伝え」

「ああ」


そして"わざと"パスカットされた人と一緒に原君をこちらのベンチまで運んできます。


「赤岸、やめろ」

「キャプテン…!」

「やめろ」

「……くそ!」


キャプテンは審判に見つかる前に赤岸君を止めましたが、キャプテン自身、平静を装うので精一杯のようでした。


「いやーソチラのキャプテンは話がわかって助かる」


わりと近くにいたので原君に肘打ちを決めた人の声がよく聞こえました。


「そーそー」


それに運び終えた二人も頷きます。


「まぁ…」

『次は誰が犠牲になるかな?』


ゾクっと背中が悪寒を感じました。

3人合わさったその低い声はとても恐怖でした。

しかしそれを打ち払ってくれるかのように。



天宮先輩が立ち上がりました。



「交代だ」


「天宮…お前…」

「交代っつったら交代だ。さっさとポジション戻れ」


それだけ告げると天宮先輩は交代の要請を出しに行き、コートに入りました。


「いいのか天宮?」

「超ッッッッッッッ! 特例だ」


天宮先輩はゆっくりと歩いていきます。

その後ろ姿をみて、なんだか何かやってくれそうな気がするのは私だけではないと思います。


「赤岸、ボール貸せ」

「先輩…!」

「原の分は俺が返す」


そう言って先輩はボールを受け取り前に進みました。


「よー♪ よくみればさっきの身障君じゃーん。大丈夫? すぐに沈んじゃうよ?」


というと3人はすぐに得意の陣形、しかも一人でなく二人が審判との間に入り、より大きな死角ができます。

先ほど肘打ちを決めた人が今度は拳を振るって来ました。


「ははっ!! 沈めよ!!」


しかし先輩は顔色一つ変えずに。



「遅ぇ」



ヒラリとそれを避け、簡単に3人を抜き去りました。


「んなっ!?」


呆気なく抜かれた三人は呆然と立ち尽くしていました。


「キャプテン、アリウープ」

「アリウープってお前っ」

「適当にゴール付近に投げて」


といってパスを受けたキャプテンがすぐさまゴール付近にボールを投げます。


「ソイツを止めろーー!!」


執念にも似た叫びが背後より聞こえますが、天宮先輩は全く気にすることなく飛びました。

もちろんそれまでに他の二人も行かせまいと懸命にブロックしますがまるで紙切れの如くヒラリとかわし、気づけばキャプテンから放たれたパスに向けて跳んでいました。


そして――――。



あの時と同じように。

天宮先輩は高々と跳びダンクを決めました。


ワァァァァァアアアアアア!!!


これに沸き起こったのが会場です。

それも当然たかが県予選の、しかも高校生がアリウープを決めるなどと思っていた観客はほとんどいないでしょう。

会場の視線は今度は好奇の目でコチラに向けられました。



「クソ…なんなんだよってめぇ・・・」

「悪いな。こっから先は俺の独り舞台だ」



その宣言通り、その後はほぼ天宮先輩の宣言通り、独り舞台で試合を終えました。


途中ダンクするのに3人がかりで空中で止めいってもいとも容易く吹き飛ばすし、パス受けてから五人を一人で抜くし挙句の果てには試合終了間際に放ったセンターラインを半分以上こちら側に超えるところから放ったシュートがリングに掠りもせずスッポリ入ったりと天宮先輩の人間性を若干疑うことにもなりました。


さすがにこんな化け物相手にできるかとあの3人も後半は大人しかったです。




そして次の試合。

結局天宮先輩は出ませんでした。


原君はさすがに出すわけにもいかず、急増に補欠を一人入れましたが、相手は前回準優勝、とても勝たしてはもらえませんでした。

それでも、みんな試合が終わった後は笑顔でした。




「あ~痛ってぇ」

「いーよいーよ原、逆にイケメンになったって」

「そ、そうかな? ってんなわけあるかー!」

「あいつら今度こそシメるからな」


帰ってからもみなさん意外と落ち着いていました。

あの試合の問題よりも、自分たちについた確かな実力のほうが嬉しいのかもしれません。

しかし、悲しいことも一つ。


「先輩、本当にもう来ないんですか?」



天宮先輩は、もうこのバスケ部には来てくれません。


「ああ。短い間だけどまぁ世話になった」

「そんな…! むしろ俺らのほうが!」

「そうっすよ! 天宮先輩がいなかったら俺らここまで勝てませんでした!」

「ここに残ってくださいよ!」

「あー…悪いが、あんま一つに縛られるの嫌いなんだわ俺」


それでもみんな食い下がろうとします。

しかしそこにキャプテンが割って入ります。


「やめないかお前たち。本人に意志がないのに引き止めてもしょうがないだろ」

「キャプテン…」

「さすが、話がわかるね」

「天宮。この短期間、本当に世話になった。正直俺個人としても是非残ってほしいがそうもいかないからな。また気が向いたらいつでも来てくれ」

「はっ」


天宮先輩はなぜか短く笑いました。



「知らないのか? 俺を雇うのは大変なんだぜ?」

「ふ、重々承知さ」


キャプテン含め、みんなが苦笑する。


「まぁそれでもっていうんなら…本当に暇なときくらいなら顔出してやるよ。まぁ報酬貰うけどな」

「それで十分だ」


天宮先輩はすでに振り返っていました。



「アンタらも、変な奴だよなっ」



その日一番の笑顔を残し天宮先輩は去っていきました。




「ハァ、ハァ…!」


私は我が侭な子です、と今さら自覚しました。

あの後、どうしても諦めきれない私は今天宮先輩の後を追い走っていました。

ようやく先輩の背中が見えたので大きく声を張ります。


「せんぱ~~い…きゃぁ!」

「芹沢!?」


足元に全く注意していなかった私は捨ててあった空き缶で見事に転びました。

その転倒した時の音で先輩は私に気づき振り返りました。


「何してるんだお前?」


先輩はイヤホンを外しゲーム機をカバンにしまって私を起こしてくれました。


「あ、ありがとうございます」

「いいよ。んで、何の用だよ?」

「それはですね…」



………。

そ、そういえば何してるのでしょう私!

とりあえずあのままで終わるのはなんか寂しいなーとか思いながら来ましたけど私は…。


私は…。


「ふふ、察しなさいな聖人さん」

「きゃあっ!?」


いきなり現れたレミィ先輩に驚いて私は声をあげました。

そういえば今日も試合会場に来てましたよね。


「あら、私はお邪魔ですね。先に帰ってますね聖人さん」

「あ、おい!」

「頑張ってくださいね愛奈ちゃん」

「あ、あうぅ…」


どうやらレミィ先輩にはお見通しのようです。

でもおかげで決心がつきました。


「先輩」

「ん?」


私は最近、ずっと胸に秘めていた感情を吐き出しました。



「好きです。大好きです」



い、言っちゃいました。


「あの、好きって…その好き?」

「はい。LIKEじゃなくてLOVEです! 超LOVEです!」


一回言ってしまえば大したことないですね。

私は溜まった鬱憤を晴らすかのように何度も連呼しました。

けれど、私の望んだ結果を帰ってきませんでした。



「すまん芹沢。その願いは叶えてやれない…」



じわっと…目に涙が浮びましたが必死に堪えます。


「あ、あはは、やっぱり私なんかじゃ先輩とは釣り合いませんよね」

「そうじゃないんだ。なんつーか…その俺といるとお前にも迷惑が及ぶっつーか」


といって先輩は必死に弁解してきます。

なんだかんだいって結局この人は私のことを考えてくれている。

今だって結局私のことを按じての結論。

私は全然気にしないのに。


どうしようもないオタクヤローで。

どうしようもないだらけヤローで。

どうしようもなく優しい人で。

どうしようもなく好きな人。


そんな先輩だから好き。


「あれ…」


なんででしょう…涙が止まりません。

振られたショックでしょうか。

違いますね。

これはもっと大きな気持ち。


そう私は満足したんだ。


先輩に好きって伝えられたことに満足したんだ。


だってこれは叶わない恋。

最初からわかっていたこと。

だからこうして告白できたんだと思います。


「芹沢…」


申し訳なさそうな顔で、先輩は私を見ています。

そんな顔しないで先輩。

私はもう大丈夫ですよ。

ただ後少しだけ。


少しだけ欲張らせてください。



「先輩」

「なんだよ?」


私は先輩の両肩に手をかけ精一杯の背伸びをします。


そして。



「――――隙だらけですよ」

「―――っ///」



この日生まれて初めて、私はキスをしました。



今はこれで満足です。


でもいつか――――アナタを振り向かせてみせます。


だから覚悟しておいてくださいねっ、聖人先輩っ。






wish1:芹沢愛奈―――――解決。



    

                                        芹沢愛奈編―――完

最後長くなりましたが無事(?)愛奈編終了しました。

どうでしたか?

感想などいただけると励みになります。


次回は後日談を兼ねた番外編と一章のキャラ紹介でもしましょうかと。


それでは。

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