①-2 スポーツマン? キモオタ?
side:aina
あうあうあう。
とんでもないことを言ってしまいました。
冷静になってみるとっても恥ずかしく私を赤が赤くなっていくのがわかっていても抑えられませんでした。
「すみませんレミィ先輩、わざわざ来ていただいて」
「いいんですよ。こうでもしないと聖人さんは来てくれませんからね」
この親切な人は二年生のレミィ先輩。
なんでも今日転校してきたばかりらしくて私は驚きました。
そして今回はレミィ先輩が立ち上げたという『願望実現委員会』のおかげで私は助かりました。
なんとか最初の仕事は成功みたいです。
でも気がかりなことが一つ。
「……………」
先ほどからものすごく不機嫌な顔で引きづられている人。
私が探していた天宮聖人先輩です。
キャプテンは気をつけろとか言ってましたが全然危なそうな感じじゃないです。
むしろかっこい…。
キャーーー!
何言っちゃってるんでしょうか私は!
ぼ…煩悩退散です。
「あの…天宮先輩はあれでいいんですか?」
私は無理矢理気持ちを切り替えるために気になっていた話題を振りました。
「あれはいいんですよ~。聖人さんは~」
レミィ先輩はとってもいい笑顔で言いました。
「わかりました。いいんですね」
先輩がそう言うのなら大丈夫なんでしょう。
私は急いで体育館に行きました。
「いやいいわけねーだろ」
途中天宮先輩が何か言った気がしましたが時間がもったいないので無視しました。
「キャプテン、連れてきました」
体育館に着くとすぐにキャプテンのほうに向かいます。
隣にはレミィ先輩と縄で縛られた天宮先輩もいます。
「おお、…ありがとうな」
キャプテンはやっぱり複雑そうな表情でお礼を言いました。
すると天宮先輩はあたりをきょろきょろ見渡すと頬を少しだけ緩めました。
「まいど」
「ぐっ…!」
「アンタらも大変ですねぇ、わざわざ俺にお願いするなんて」
「リスクは承知の上だ。その分はしっかり働いてもらう」
「へいへい」
なにやらよろしくない会話に聞き取れました。
悪っぽい天宮先輩、ちょっと怖いです。
「いけませんよ聖人さん。私たちはお金のためにやってるんじゃありません」
「はい?」
「いかなる条件でもそれがその方の願いなら貴方はそれを無償で叶える義務があります」
「はぁ!? ふざけんな! 今時ただで人の手伝いとかありえないっての! だいたいなんだそのキャラ! いい加減むかつ靴が足にめり込んでますぅ!!」
「なにか言いまして?」
「ちくしょ…リアル暴力社会…反対…」
一瞬レミィ先輩が天宮先輩の足を踏んだように見えましたがきっと気のせいですよね。
レミィ先輩は健やかな笑顔でキャプテンに視線を移します。
「というわけですので、この通り聖人さんは無償でお貸しします。どうぞご自由にお使いくださいな」
「あ、ああ。それはありがたいが…果たしてそれでちゃんと言うことを聞くのか?」
「ええ大丈夫ですよ。ね? 聖人さん」
「…誰か教会からシスターを派遣してきてくれ」
「ね?」
「はい」
天宮先輩は青ざめた顔をしながら首を縦に振りました。
「ちょっと待ってくださいっ」
後ろから割り込むように声がしました。
「どうしたお前たち?」
私を横切りキャプテンの前に来たのは今年入部した一年の三人です。
明らかな不満を感じます。
「こいつ学校で有名な二年のキモオタ野郎ですよね?」
「なんでこんなやつが助っ人なんすか?」
「納得いかないっす!」
ちょっと信じられない言葉を聴きました。
天宮先輩がオタクだってこと。
とてもそんな人には見えないんですが…。
「お前らの言いたいことはよくわかる。俺だって苦渋の決断なんだ」
「だったら…!」
「だが俺は奴の実力も知っている。どうしても文句があるなら戦ってみるといい。どうだ天宮?」
「もうやるのは確定なんだな…。まあ久しぶりだから感覚掴みたいし…別にいいっすよ」
天宮先輩は余裕そうな振る舞いです。
そんな態度にみなさん険悪なムードになりました。
「なんなら三人全員でこいよ」
「な…!」
「なめやがって…!!」
「上等だ!」
天宮先輩の挑発じみた挑戦に三人はすぐさま乗っかりました。
「じゃあコートの準備だ。マネージャー! 準備してくれ!」
「は、はい!!」
キャプテンの声で私ははっとなって返事をします。
いつまでもぼーっとしてはいられません。
私は急いでコートの準備に取り掛かりました。
「ルールは1対3。センターラインからのスタートとして先に6点入れたほうの勝ちだ」
「はい!」
「へーい」
「わ、わ、始まりますっ」
「ふふっ、楽しそうですね愛奈さん」
「はい! 私スポーツは見るのも大好きなんです!」
笛の音と同時に天宮先輩にボールが渡されゲームスタートです。
どんなプレーが飛び出すんだろうと私はドキドキしながら見ていました。
そんな私の心を一瞬で引き付けたのは天宮先輩でした。
受け取った瞬間、ゆっくりとしたテンポでドリブルをしています。
正面に一人赤岸君のマーク、後ろにも原君と坂江君の二人がいてとても一人で抜ける状態ではありません。
ですが先輩は一際ゆっくり地面にボールを付いたかと思うと、
目にも止まらぬ速さで赤岸君を抜き去りました。
「!?」
あまりに一瞬の出来事に赤岸君はその場で棒立ちしてしまっていました。
後ろの二人も一瞬固まってましたがすぐにマークにつきます。
「へっ!」
少しばかり余裕の笑みを見せる天宮先輩。
二人が必死に取りにいこうとするのを難なくかわしながらもあえてゴールを狙ってません。
完全に遊ばれています。
赤岸君も参加し完全に1対3ですが一向にボールをとれる様子はありません。
そろそろかと先輩はさらにスピード上げると坂江君を抜き去るとドリブルとは思えないスピードでゴールに向かいます。
そしてスピードを緩めることなく…
「わぁ……」
跳んだ先輩はまるで一瞬空中で止まっているかのようでした。
それほどまでに鮮やかなダンクでした。
それからの数分間は、まさに圧巻でした。
一年生三人組は結局1ポイントも取ることができませんでした。
しかも試合を終えた後、肩で息をしている三人に対して天宮先輩はほとんど息を乱していません。
「ふふ、どうかしら? うちの聖人は」
「す、すごいですかっこいいです! こんなプレー私初めて見ました!」
私は素直な感想を述べます。
レミィさんはなぜかニヤついた表情で私を見ていました。
「く、くそ! なんなんだアンタ!」
「キモオタ野郎じゃなかったのか!?」
「は、お前らみたいな中途半端なスポーツマンと一緒にすんな」
「なんだとっ!?」
「てめぇらがどれほど努力してきたかは知らないがな、俺には遠く及ばないってことだよ」
「い、一体何をしてきたってんだよ」
それは私も気になります。
一同の注意は今天宮先輩に注がれていました。
「ライブイベントで少しでも目立つようにと跳躍力の強化、コミケで心無い横やり野郎から耐え抜くためのフィジカルの強化、駅に到着してから一人でも多く抜き最前列に並ぶための脚力の強化etc…。それに比べたらお前らなんか大したことねーんだよ!!」
「………………」
一瞬空気に亀裂が入ったように感じました。
2,3年の先輩方は辛そうに頭を抱え、1年トリオは唖然とその場に立ち尽くしていました。
当の本人の天宮先輩は何食わぬ顔をしていました。
ち、ちょっと不思議な方ですね。
「まぁいーや、帰るぞ」
天宮先輩はレミィ先輩にそう声をかけます。
「ま、まってください!」
思わぬ行動を起こした天宮先輩の前に私は駆け足でたどり着き立ち塞がります。
「なんだよ?」
「ま、まだ練習は残ってます。勝手に帰られてはこ、困ります」
我ながらなかなかの説得! とおもわず自負してしまいました。
しかし先輩はニヤリと口元を緩めると。
「こいつらと練習? 勘弁してくれよ。素人相手に3人がかりで勝てないやつと練習しろってか?」
「そ…それは…」
「俺はそんなの御免だね。アンタ等だけで勝手にやってくれ。まぁ、試合くらいなら出てやるよ」
そう言うと先輩は私を強引に押しのけると、とっとと体育館を去っていきました。
「さて、練習だ」
「キ、キャプテン! あれでいいんですか!?」
「あーゆう態度は覚悟の上だ。まだ試合にでてくれるだけありがたいほうだ」
キャプテンは嘆息気味に言いました。
メンバーを集めて再び練習を再開しました。
「やっぱり納得できないです! いくらなんでもあんな態度をとるなんて…!」
私は誰に言うわけでもなく、ただ自分の中のモヤモヤを晴らすために独り言のように言いました。
「でしたら、手伝ってさしあげましょうか?」
「え…!?」
び、びっくりです。
レミィ先輩の存在に気づかなかった私を驚き声を漏らします。
「いいんですか?」
「ええもちろん。だって私は願望実現委員会部長ですから」
今はこの人に頼る他ありません。
そして私の天宮先輩連れ戻し作戦が始動したのです。