①-1 奇妙な先輩後輩
side:seito
「今日は転校生を紹介しよう」
という担任の一言でクラスの人間の注意は全てそっちに向いた(俺を除く)。
何故俺を除くかといえば、俺にはすでに誰が天候してくるかわかるからだ。
そう。
あのクサレ暴力シスターが。
「転校生のレミレーゼ・イーシアです。レミィって呼んでください」
「彼女は見ての通り外国から来ている。日本語は喋れるが日本の文化などについてはまだよくわからんからお前らがしっかり教えてやれ」
『はーい!!!』
「じゃあ席は…。…天宮の隣が空いてるな、あそこに座りなさい」
「…? はい」
俺の顔を見て担任は一瞬顔を歪ませる。
それを不思議に思いながらもレミィは席に向かった。
教師ですらみんな俺のことを毛嫌いしてるからな。
ていうか周囲の視線がいつもの三割増しで痛い。
「よろしくお願いしますね」
「………」
こいつは学校ではこうして猫被っているつもりなのだろうか。
昨日の顔を知っている俺としては複雑でしょうがない。
まあ…関わらないに越したことはないな。
というわけでHR終了後。
「ねぇねレミィってどこから来たの?」
「好きな食べ物は?」
「なんか音楽とか聴く?」
「ズバリ好みのタイプは!?」
転校生特有の、しかもレミィは俺がいうのもなんだが三次元的に見ての美少女っぽく、その集まる人数も多かった。
廊下からは他のクラスの奴もいた。
ちなみに俺は何をしているかといえば。
「……………」
同人誌を書いていた。
お前らうるさいんだよ!
こっちは締め切り間近で切羽詰ってるってのにギャーギャー騒ぐな!
このリア充共が!
…などと言うことはできずに黙々と作業に打ち込んでいた。
そんなこんなで放課後。
「よーし学校終わったー! なぁなぁ今日モック行こうぜ!」
モックとはモクドナルドというファーストフード店でうちの学生もよく利用しているらしい。。
まあ普通の学生ならこういった会話はおかしくない。
しかし俺の場合は。
「よーし終わったー(同人誌の執筆が)! さてさて帰ってゲームでもするか」
とこうなる。
別に友達なんかいらないんだからね!
ってツンデレか俺は。
まあいいさ。
リアル友達なんかいなくても俺はネットでは帝王だからな。
さて、こんな残念な世界とはオサラバして二次元にダイブ…
「さぁ放課後よ聖人! 私たちの記念すべき初活動日だわ!」
…こいつがいた。
「やめろ離せ変態痴漢猥褻物卑猥ブス暴力女クサレシスターエセシスター…」
「遺言はそれだけ?」
人気のない場所まで引きずられたかと思ったらいきなり拳が俺の頬を掠めてきた。
「嫌だぁー! 俺はネットの世界に帰るんだぁー!」
「何言ってんのアンタ。てゆうか昨日手伝うって言ったじゃない」
「お前が無理矢理そうさせたんだろうが!」
そりゃ誰だって首元に鎌突きつけられたら言うこと聞くわ!
てゆうかこいつシスターじゃなく実は悪魔だろ!
絶対悪魔だ!
「とにかく場所はもう確保してあるし昼休みのうちにポスターも貼ったんだからもう後戻りはできないわよ」
「お前一人でやれ! 頼むから俺をリアルに巻き込むな!」
「できないの」
「は?」
それまでずるずると俺を引きずっていたのをやめたかと思えばいきなり声のトーンが沈む。
「アタシじゃあできないの。しちゃいけないの。だからアンタの…人の力が必要なの!」
こいつ…泣いてんのか…。
無茶苦茶な奴かと思ったけど…実はいい奴なのか?
昨日の話もよくわかんなかったし…話くらいなら聞いてやるか。
「なぁ、話くらいなら聞いてやっても…」
「ホント!? じゃあ早速いくわよ!」
と言うと再び俺の首根っこを掴むと走り出した。
あれえぇぇぇ!?
ちよっ、あれぇぇぇ!?
演技か!?
今の演技か!?
かんっっっぜんに騙されたわ!!
さすがに泣くのは可愛そうだなと痛んだ俺のわずかばかりの良心台無しだわ!!
返せ! 俺の同情を返せ!!
「あ、生徒」
「あら天宮さん! そんなところで倒れて…どうなさったんだすか?」
言うが遅いか、急にストップ&持っていた首を離したおかげで俺は地面にダイブした。
こいつ…あくまで俺以外には猫被る気だ。
一瞬その生徒はこちらに気を取られたがすぐに帰路に着いた。
「さぁ急ぐわよ聖人! こうしている間にも誰かが助けを待っているかもしれないわ!」
「わかった! わかったから引きずるのはやめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…」
そして到着したのが。
気がつけば校舎からわずかに離れた場所のプレハブ小屋まで引きずられていた。
そいて看板のようなものに書かれていた文字に俺は打ちひしがれた。
「ここが私たちの本拠地、願望実現委員会よ!!」
ああ…俺の平穏が音を立てて崩れているような気がした。
side:aina
どうしよう。どうしよう。
入部したての私は早速大ピンチです。
わたしたちのバスケ部は部員10人なのですが、レギュラーの先輩が一人怪我をしてしまいました。
思ったよりもひどい怪我で、来週の大会には間に合わないそうです。
ですが試合前、どうしても試合形式の練習は外せません。
キャプテンはもがくように悩んだ結果、一人の名前を挙げました。
「天宮聖人を連れて来い!」
それは前にキャプテンが言っていた人でした。
今の私の役目はその天宮っていう先輩を連れてくることです。
ですが今は放課後。
校内にいるとは限りません。
けれどキャプテンは今日中に連れて来いとのことです。
無茶なお願いでしたがマネージャーとしての初めての大仕事。
私はなんとしても成功させたくて校内を駆け回りました。
「はぁ…はぁ…だめだ、見つからない」
けど、見つかりませんでした。
とりあえず校舎の入り口で一休みです。
もう学校にはいないのかな。
「あれ…?」
ふと私は一枚の張り紙に目がいきました。
「こんな張り紙あったかな?」
なになに…願望実現委員会、大中小あらゆる願いを叶えましょう!
……。
こ、これです!
なんか胡散臭い臭いがプンプンしますが私は藁にもすがる思いで張り紙に記してある場所まで走りました。
「こ…ここだ…」
見つけました、願望実現委員会。
中から話し声がします。
ノックをするとすぐに返事が返ってきました。
わたしは息切れながらも急いでいたので扉を手早く開けると簡潔に伝えました。
「あ、あの! 天宮聖人を私にください!!」
あれ?
何か失敗した気がしました。
side:seito
「だから、こんなとこに誰もこないっての!」
「うっさいわね。アンタは黙って待ちなさい」
「だからその時間が勿体ねーんだよ!」
さっきから何を言おうとこいつは頑なな態度を一切変える様子を見せない。
強引に連れて来られてからもう30分は経過する。
いい加減に帰りたいのだが。
「おかしいわね、なんでこないのかしら?」
「来るわけねーだろ! 胡散臭さ満載じゃねーか!」
とあーだこーだ言ってると、不幸にも俺の望まない結果がやってきた。
コンコン。
「はーい! ほら見てみなさい聖人! ちゃんと来たじゃない!」
じ…冗談だろ?
まさか本当に来るなんて。
扉越しの人は返事を確認すると勢いよく扉を開けると開口一番にこんなことを言った。
「あ、あの! 天宮聖人を私にください!!」
「…………は?」
さすがの俺もその場で固まってしまいました。