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②-4 叶わない思い

side:syogo


不覚。

目の前の男に気を取られすぎて突然背後からきた衝撃に俺の意識は一気に薄れていった。


最後に目に入ったのは


天宮が怒っている表情だった。





「は!」


はっと我に返る。

ここは一体…?


「よう、目が覚めたみたいだな」

「天宮」


傍の椅子に座りゲームをしていた天宮が俺に気づいて声をかけた。

こんな時でもゲームをやる天宮がいる辺り、俺はまだ正常のようだ。


「医者の見立てでは軽い脳震盪だとよ」

「ん? ということはここは病院か?」

「いや」


にしては随分と病院らしくないが。



「坂嶺の家だ」



………………ん?

んんんん?


今、なんと言った?


「今は客間の布団を借りてる。坂嶺の家は親が病院の先生で…」


「いやっほぉぉぉぉおおおおおううう!!!!」


「どうしたんですか聖人さん!? 響さんに何か異変でも!?」

「いや、これは別の意味でだがな」


ままままままさか坂嶺さんの家だとぅ!?

そんな…。

そんな嬉しいイベントがこんなところで実現するとはぁ!!


は! そしたらまさか…。


「この布団は坂嶺さんが使った布団では…?」

「だから客間だっつっただろーが!!」


天宮の鋭いツッコミが入る。

むぅ、さすがにそう思い通りにはいかないか。


「あ、響さん。よかった気がついたんですね」

「さ、坂嶺さん!?」


突然の天使のお声(エンジェルボイス)に俺は裏声になってしまった。


「もう具合は大丈夫なんですか?」

「ええ。それはもうおかげさまで!」

「そんな…。元はと言えば私が変なお願いをしなかったらこんなことには…」


といって俺は気遣ってくれる坂嶺さん。

くぅ、この優しさが目に沁みる!


「とは言ってもお前が頼まなきゃ今頃どうなってたか知らないぞ」

「そ、そうですね。考えただけでぞっとします」

「だから、響さんにお礼を言ってあげたらどうですか?」

「は、はい。響さん、ありがとうございます」


ふ、おおおおおおおおおお!!!

嬉すぎるぅ! 生きててよかった!

まさかこんな日が来ようとは!

殴られた甲斐があったぜよ。


「それと天宮さんも」

「ん? ああ、気にすんな」


と、ここまでの会話中全て目線がゲームに行ってる天宮。

これで会話がきちんと成立するからすごいよな。


「そういえばあいつらはどうなったんだ?」


あいつらというのは先ほど襲ってきた奴らのことだ。


「ああ、あれならボコボコにしといたよ」


…確か3対1くらいだったはずだが。

さ、さすが天宮。


「はぁ、めんどくさかったよ」

「とか言って聖人さん、響さんが倒されたときものすごく怒ってたじゃないですか」

「別に怒ってねーよ」


そうか。

天宮、坂嶺だけでなく俺のために。


一緒に居てわかったが、こいつはちょっと人付き合いが不器用なだけで根はめちゃくちゃいい奴なんだ。

ただその不器用なのが目立つだけなんだ。


「もう大丈夫そうだな。じゃあ俺らは先に帰らせてもらうよ」

「ああ、じゃあな天宮」

「ありがとうございました天宮さん」

「ああ。"頑張れよ?"響」


最後、頑張れよを強調して出て行った。

何を頑張ると…はぅあ!?


よく考えると、これってまさか…二人っきり!?

天宮の野郎! 頑張れってこのことかよ! 

チクショー嬉しいじゃねぇか!


「あの…響さん」

「は、はい!」


おずおずと、遠慮気味に坂嶺さんは話かけてきた。

その頬は若干朱色に染まり視線は下の方を向いていた。


か、かわゆすwwwwww


何だこの人! 

お持ち帰りしてぇ!



「あ、天宮さんって今誰か付き合ってる人とかいますか?」



「はい?」

「知りませんか?」

「あ、あー…どうだろうな。いないんじゃないのか」

「そ、そうですか! よかったーありがとうございます響さん!」

「い、いやいや」

「もう遅いですしなんでしたら駅まで送りましょうか?」

「いや、一人で帰れるよ…」

「そうですか。ではお気をつけて!」

「ああ…」



…ふ。



ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!




side:seito


「どう思う聖人」


帰り道。

もう日は完全に落ち、俺とレミィは街灯に照らされた道を歩いていた。


「何がだ?」

「愛華ちゃんよ。どうして襲われそうになったんだと思う?」

「さぁな。大方金目的じゃねーか? 坂嶺の家病院だし」

「そうかしら? もっと深い理由がありそうなんだけど」

「ないない」


ふと、24時間営業のコンビニが目に付いた。


「なぁコンビニ寄っていいか?」

「いいけど何か用なの?」

「いやな、ここで『姉妹メーカー2~妹と姉に挟まれ生活~』の初回限定版を予約しようかと」

「そんなのコンビニであるかー!」

「ぐほぉ!」


いや、あるんだよ最近のコンビニは!



翌日―――。


「♪~♪~」


最近お気に入りのアニソン歌手の曲を存分に堪能しながら、俺はいつも通り昼食のパンを頬張っていた。

今日はレミィも大人しいので、平和だ。



「天宮ぁぁぁぁあああああああ!!!」



イヤホンしていても存分に聞こえる響の声で俺は一気に不快な気分になってしまった。


「坂嶺が用があるってよぉぉぉぉおおおおおおお!!!」

「普通に喋れ!」

「廊下にいるから必ずいってやれよおおおおおおおおお!!! こんちくしょーーーー!!!」


といって走り去っていった。

なんなんだ今のは?


と、とにかく。

坂嶺が待っているとのことなのでとりあえず行って上げることにした。


「あ、天宮さん」

「おう」


本当にいたよ。


「あの、昨日はどうもありがとうございました」

「だからそれはもういいって」


早く戻ってアニソンを聴きたい。


「それでお礼にと思いまして今朝クッキーを焼いたんです、よかったらどうぞ」

「あ、ああ。サンキュー」


可愛らしい子袋の中にはこれまた可愛らしく縁取られたクッキーが。

しかも丁寧に可愛らしいリボンでラッピングまでしてあった。

とりあえず俺には似合わなさ過ぎる物だった。

しかもクラスの数名が奇異の目でこちらを見ていた。


「で、では失礼しますね」

「ああ」


パタパタと走りその場を後にした。

…廊下は走っちゃいけないんだよ?


「あら、どうしたんですか聖人さんそれ?」

「なんか昨日のお礼だってよ」

「あらあら、モテモテですねー聖人さん」

「わけわかんねー」


そのクッキーは持って帰った瞬間に母さんと妹に奪取され、俺は一口しか食べられなかった。



side:syogo



「はぁ…」


思わずため息をついてしまう。

昨日からずっとこんな調子だ。

というのも俺は昨日失恋というやつを体験してしまったからだ。

別に嫌いと言われたわけでもなければ告白して断られたわけでもない。

だが、好きな女の子が頬を赤らめ彼に付き合っている人はいないかと聞かれればもうそれはその彼が好きなんだなということは俺でもわかってしまう。


つまり坂嶺さんは天宮が好きで俺の恋は叶うことはないということだ。


「はぁ」


再びため息をついてしまう。

俺はこんなにも姿勢が悪かっただろうか。

俺はこんなにも下を向いて歩いていただろうか。

そんなことを考えながら歩いていた。



「響さーん!」



背後から俺を呼ぶ声がした。

坂嶺愛華、俺の失恋の相手。


「聞いて下さいよ。天宮さんにクッキー渡せました!」


わざわざそれを言うために、坂嶺さんは走ってきたのだろう。

昨日以来俺は坂嶺さんに天宮のことを色々聞かれるようになった。

つまりは相談相手みたいなものだな。

メールアドレスに電話番号まで交換した。

正直嬉しかったがそれが全部天宮のためだと思うと途端に悲しくなる。


結局俺は天宮の知り合いというからこうして接せられているだけだろう。


「はぁ」


まただ。

俺はこんなにため息を吐く人間だったんだろうか。


「あのですねー響さん」


坂嶺さんが俺に呼びかける。

何故か手は後ろで組まれていた。



「実は…クッキーが余っちゃいまして。それで響さんにも…その助けていただいたんで…」



後ろに隠されていたのは可愛らしくラッピングされたクッキーの入った子袋。

しかも、天宮と全く同じ形のものだった。


「えと、あくまでも余ったものですからね? たまたま余っただけですから」


とはいってもその大きさすら天宮のと同じ。

とても余ったという量には見えなかった。


「あの…受け取ってもらえますか?」


す…と優しく差し出されたその手を。

俺はクッキーごと握った。


「ひゃあっ?」


気づけば俺は嬉しさで前が霞んで見えていた。

今まで何がいっても、どんなに窮地に追い込まれていても決して弱みを見せなかった俺が、恐らく初めて他人に弱みを見せたと思う。

けれどもそんなことは全く気にならないほどに、俺は嬉しかった。



「ありがとう…」



そんな俺の顔を見て坂嶺さん、いや坂嶺はオロオロとし出す。


「ど、どうしたんですか響さんっ? もー大の男が泣かないでくださいよ」

「ああ、ああ」


もう少しだけ、頑張ってみよう。

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