②-3 プロフェッショナルな俺たち!
side:syogo
「こちらコードI、前方に異常なし、オーバー」
「了解引き続き注意を怠らないよう、です。オーバー」
本部との確認を終え、俺は再び注意を前方に向ける。
うん。
いつも通りの朝の通学風景だ。
「こちらコードI。コードS、応答せよ」
しかし反応がない。
俺は再び奴のコードネームを呼ぶ。
「コードS、応答しろコードS!」
すると怒声を交えた返答が返ってきた。
「やって…らんねぇぇぇぇぇぇええ!!」
「ちょっとコードS? 今はミッション中ですよ?」
「そうだぞコードS。プロフェッショナルの俺たちが簡単に大声を出すんじゃない」
「だから何なのコードS!? そのノリ続いてるの!?」
「続いてるも何も、現在進行中です」
「だよなぁ!」
「おい、あまり無駄口を叩くな。クライアントを見失うだろうが」
そう。
今回のミッションの内容は至ってシンプル。
坂嶺さんをお守りすること!
ああ、これほどピッタリな役目にはこの先めぐり合えないだろう。
しかもお近づきにもなれるチャンス。
これは絶対にモノにせねば。
なにより…。
「合法的に坂嶺さんを覗けるしな!」
「本音そっちか!」
さぁ、まずは朝の通学路からミッションスタートだ。
side:seito
というわけで。
普段より一時間も早く起こされ一体何事かと思えばいきなり黒服に着替えさせられまだ朝のゲームもしてないままに外へと駆り出された。
そしてレミィの一言がこれだ。
「さぁ聖人! 愛華ちゃんを守るのよ!」
だ。
それが今日聞いた恐らく最初で最後の素のレミィだろう。
無線やらエアガンやらを手渡され響も歪なほどに似合わない俺と同じ格好でそれぞれ指定された場所につかされた。
というのもレミィの想像する護衛というやつは、影からこっそりとクライアントを見守り危険を感じればすぐさまその危険を排除、再び影へと消えるものらしい。
何に影響されたかは知らないが、そのおかげで俺は朝っぱらから木陰に身を潜める羽目となった。
「とはいっても、ただの学生にそうそう危険が及ぶわけねーだろ」
あくまでも独り言のつもりがこのフルタイム接続の無線のおかげで全て筒抜けだった。
「甘いですコードS。人は常に危険と隣合わせなのですよ」
「少なくとも今の俺たちがその危険なモノに見える気がするんだが」
「気のせいです」
「お前はいいよな! 遠くいるから害ないもんな!」
なにやら遥か遠く離れたところから遠距離スコープとかで見ているらしい。
「ぬ! コードR、クライアントが人と接触した模様!」
コードRってのはレミィのことな。
つーかあれどう見ても坂嶺の友達だろ。
危険なんかあるわけ…。
ドォン!ドォン!
パタパタ。
銃声と共に坂嶺の友人二人が倒れた。
「ゴーゴー!!」
「イエス・マム!」
反応と同時に響がものっそいスピードで友人二人に接近、回収。
坂嶺が他所を向いてる間に友人二人はいなくなった。
「あれ? みっちゃん、よっちゃん?」
あれーと坂嶺は怪訝そうに首を傾げる。
おぉぉぉぉぉおおおおうううぃ!!!
何撃ってるの!?
「あぶないところでした…」
「危ないのはお前だっての!」
「やはりクライアントの周囲には危険がいっぱいだな」
「どうみても学友だろコレ! つーか死んでんじゃないのか? 大丈夫なのか!?」
「うるさいですね全く、ただの麻酔銃ですよ」
「なんでウザがられてんだろ俺! 俺が間違ってるの!?」
駄目だ。
コイツらに対して俺一人じゃツッコミが追いつかなさ過ぎる。
坂嶺も坂嶺で怪訝そうにしながらもそのまま学校に向かった。
ちなみにその二人は後でちゃんと通学路に返しました。
授業中―――。
というか現在、なぜか。
女子更衣室にいます。
いや、さすがにこれはマズくね?
「甘いですよコードS。こういった無防備なときが一番狙われやすいんですよ」
「そそそそそそそそうだぞコードS、こ、こ、こ、これはあくまで護衛で」
「その一番狙いそうなやつが隣にいるんだが! もうコイツ始末したほうがいいんじゃね!?」
まだ女子はこの更衣室には来ていない。
だがもうすぐ体育の授業のために使うことはすでにレミィが調べていた。
おそかれ早かれ必ず女子はここにやってくるということだ。
「ま、まずい」
「どうした」
「鼻血が止まらん」
「もう帰れお前!」
「いけませんコードS! そうやって女子の肢体を独り占めしようという魂胆ですね!」
「話の流れ読め!」
もう面倒すぎる。
ただでさえ俺、レイヤー意外のリアル女子に興味ありません的な人間なのにただの女子高生如きじゃ正直ぜんぜんテンション上がんねぇ!
ガチャっ。
女子共のきゃっきゃっという効果音が適切だあろう会話とともにこの禁断の花園、女子更衣室に生身の女子が入ってきた。
「ふおおおおおおおおおおおお!!」
落ち着けボケ!
「あーこのゴリラはもう駄目ですね」
「いきなり冷たいな」
「とりあえずその場で待機していてください」
「一刻も早く退場したいんだが」
続々と着替えを始める女子。
当然坂嶺もその一人だ。
あー。
世の男子には申し訳ないんだが。
ちっともテンション上がらないっす。
どうしてリアル女子はこうもガサツというか…二次元の覗きシーンを見てみろ、端から端まで非のない美少女だらけだろうが。
それに比べてこっちは端から端まで何かしら残念すぎる。
正直眼福とは程遠いな。
そういや今日たまたま主人公が変態ヤローで覗きとかもするやつがあったな。
丁度覗きシーン前でセーブしてたし、あれでもやるか。
ガタン。
ロッカーの開放と共に、響終了のお知らせ。
どうやら興奮しすぎで飛び出てしまったらしい。
「キャーーーー!!」
「へ、変態よ変態!!」
「誰かソイツを殺してー!!」
「ぬぅう!!」
なんとか顔だけは隠して逃走に成功する響。
バカでなアイツ。
リアルなんかに興奮するからそんなことに。
さて、ほとぼりが冷めるまでのんびりゲームでも。
ガチャン。
「あ」
俺、終了のお知らせ。
「きゃーーーー!」
「また変態よー!!」
「ていうかコイツ天宮じゃん!」
「信じらんない! 女子のロッカーの中に入るとか!」
「しかもゲームでも女子更衣室覗いてたし!」
「キモ! 死ね!」
ちょっ!!
俺の扱い酷くね!?
「日ごろの行いのせいですね聖人さん」
「呑気でいいなぁお前!」
どうせ今ごろ木陰で寝そべってからこっち見てるんだろうな!
『待ちなさい変態!!!』
「なんで俺なんだーーーー!!!」
全国の男ども。
女子に追いかけられるのは、決していいことではない。
放課後―――。
「これもうストーカーどころじゃなくね? 俺らの体力が持たないんだが」
結局その後も、半場覗きじみた行為により坂嶺を見守るも目立って危ないようなことはなく、むしろ俺ら二人のほうが危ない存在のように思われ、今日一日だけでかなり災難な目に合った。
「ふ、甘いぞ天宮。むしろ今から、下校中こそストーカーが本領発揮するときよ!」
「今一番それを実行しそうなのがおめーだよ!」
響は響で終始自らの欲望と格闘していた。
というかこいつが興奮して飛び出したりするから俺まで見つかる羽目になったんだ。
ていうかレミィの命令じゃなかったら誰がお前らリアル女子なんか狙うかよ!
「つーか下校風景見守ってるが、これといって怪しい奴なんかいねーぞ。強いて言うなら俺ら」
「いやまだだ。家に帰るまでがミッションだ」
遠足か。
はぁ、さすがに付き合いきれん。
今日は丸一日こんなことに費やしたせいでやりたいことがほとんど出来なかった。
とりあえず今日はとっとと家に帰ってテレビゲームでもしよう。
「むぅう!!」
俺が振り返ると同時に気合の入った響の声が聞こえた。
見ると坂嶺が誰かに襲われそうになっていた。
響はそれを見かけたのか急いで飛び出したのだ。
「ま、マジかよ…!」
「聖人さん、ここからじゃ木とかが邪魔で狙撃できません」
「役に立たねーなお前」
とはいっても、響はなんとか坂嶺が男に襲われる前に間に合っていた。
あのガタイで、ものすごい形相して突っ込んでくるんだ。
男のほうはたまったもんじゃないだろう。
ん?
響に殴り飛ばされた男、あの胸の紋章って…。
「ぐぉ!?」
うちの学校の生徒じゃねぇか!
「響さん!?」
同時にその背後から響の後頭部を殴りつけたのは他の男子だった。
こいつら…最近噂に聞くうちの学校のグループだ。
けっこうヤバイことにも手を出してるって話も聞くし…。
「なにをしてるんですか聖人さん! 早く助けにいってください!」
「お、おお!」
俺は茂みから飛び出した。
「いや! 離してください!!」
見ると人数は四人に増え、響と坂嶺を囲んでへらへらと笑っていやがる。
「へっへ。見ろよコイツ、尾賀さんの話以上の上物だぜ」
「だな。どうせなら尾賀さんに渡す前に俺らでちょっと…」
「や、やめてください!」
「うるせーんだよ! おとなしく俺らのいうこばはぁ!!?」
あまりにも醜いそのやり取りに俺は耐えられなくなり、話途中でソイツの後頭部を思いっきり蹴った。
「だ、誰だてめー!」
「こいつ二年の天宮だ!」
「あ? オタクって有名なあの天宮?」
どうにもオタクという称号はその人物を見下す不思議な力があるらしい。
コイツらは気づいていなかった。
誰にも悟られることなく背後に近づき、一撃で気絶させるほどの力があるということを。
「おい」
「あん?」
「あんましオタクなめんなよ」
「ぎゃはははは! 馬鹿だコイツ!」
「やっちまおうぜ!」
「死ねーーーー!!」
こんな頭の悪い言葉を発するコイツらを冷ややかな目で見ながら、俺は言い放った。
「悪いが、こっから先は俺の独り舞台だ」