②-2 ストーカー犯を探せ!
side:syogo
右、よし。
左、よし。
後ろ、よし。
前…いよおおおおおぉぉぉぉぉしぃ!!
相変わらず可愛いぜぇ坂嶺さん!
それにしても今日はいつもより下校の時間が遅かったな、何かあったんだろうか?
まぁいい。
そんなことよりも最近物騒だからな、ストーカーとかも出るって噂だし。
坂嶺さんが変質者に捕まる前に助け出すためにも俺が毎日坂嶺さんを影ながら見守らなければ…。
と、手ごろな電柱に身を隠した瞬間―――
「それがストーカーっていうんだよ!!」
後ろから突然やってきた凄まじい蹴りのおかげで俺は電柱にめり込んだ。
「天宮!?」
そこには呆れ半分、怒り半分な表情をした天宮とレミィさんがいた。
「てめぇはここで何してた?」
「何って…坂嶺さんが暴漢に襲われないようにだなぁ…」
影ながら見守っているのだよ!
「それは世間から見てストーカーと言われる行為だぞ」
「な…なんだってぇー!?」
「当たり前だろうが。ただでさえその外見だけでもあれなのにそんなやつが電柱の影でこそこそしてたら怪しくも思うわ」
「くぅ! なんてこった!」
まさかストーカーを防止するあまりに自分がストーカーになっていようとは!
「まぁ…これで問題解決だな」
「ええ、そうですね」
「ちょっと待て。なんだ問題って?」
「あのあと坂嶺って子が来たんだよ。んで最近誰かにつけられてる気がするからどうにかしてくれってよ。よかったな犯人見つかって、まぁアンタみたいだけどな」
がーーーーーーん!
がーーーーーん!
がーーーーん!
がーーーん
がーーん
がーん
……
俺はその場に手足をついた。
俺、立ち直れそうもない。
二日後。
俺はなぜか願望実現委員会に入り浸っていた。
特に行く当てもなく、目的を失った俺にとってこの場所は格好の溜まり場みたいなものだった。
あれから坂嶺さんが来た様子もない。
どうやらストーカーというのは本当に俺だったようだ。
はぁ…。
つくづく喧嘩しか脳のない、いや…喧嘩でも負けてしまい今の俺には何が残っているのだろうか。
俺を喧嘩で負かした相手はというと。
「オー! ペペラペラペーラ!」
なんかテレビ電話していた。
しかも英語ペラペラで。
「おい天宮」
「…んだようっせぇぞ。今取り込み中なんだよ」
「何をしてるんだ?」
「見てわかんねぇのか? 向こうのレイヤーさんとコミュニケーションとってるんだよ。最近じゃ外国のコスプレはクオリティ高いから外せないの!」
といって再び携帯の液晶に顔を向けた。
数分後――――
「最後随分と盛り上がってたな」
向こうの笑い声がこっちまで筒抜けだった。
「あーあれな。俺が最後に『コイツが今も残る日本のゴリラだよ』って言ったら大笑いされた」
「きぃさまぁ! 俺の依頼を差し置いて呑気に外国美女と仲良くしてんじゃねぇぞぉ!」
「知るかボケ! つーか無理だろがもう! ストーカーさんなんか好きにならないっての」
「ぐぉう!」
その言葉が俺に重く突き刺さる。
そうだ。
確かに俺なんかじゃもう無理なんだろうな。
「意外とメンタル弱いんだな、見た目と違って」
天宮は天宮で俺を慰めるどころかさらにどん底に追いやろうとするし。
レミィさんはすでに興味を失ったのか呑気にお茶を啜っていた。
はぁ…もう帰ろう。
ここにいると自分があまりにも惨めに思えてくる。
のそのそと俺はドアへと向かった。
「し…失礼します」
神は…俺を見捨てていなかった。
side:seito
失礼しますというか細い声が聞こえたのでドアを見ると、不細工に立ち尽くした響の目の前で俯きオロオロしている坂嶺愛華がそこにいた。
「坂嶺さん? どうしたんですか?」
レミィは怪訝そうに問う。
というのも俺たち二人からしたら二日前の響の発見で事件解決、と判断したからだ。
その後で来るであろうはずの坂嶺の『満足』がこなくて俺が八つ当たりされたんだが。
ということは。
「あの…二日前にお話したストーカー被害のお話なんですが…まだ誰かの視線を感じるんです」
やっぱりな。
つまり俺たちが犯人だと思っていた響は犯人ゃないってことだな。
やれやれ、とんだ無駄足だ。
おかげで見たかったアニメを録画でしか見れなかった。
しかしこの事態を喜んでいるやつもいた。
「お、おおおおぉぉぉぉぉう…」
両手で握りこぶしをつくりワナワナと体中が震えていた。
やめろ、響。変人に見えるから。
「あの…私どうすればいいですか?」
「ああ? そんなの自分で考えろぉう!!?」
「聖人さん?」
「ち…ちょっと待ってくれ」
このクサレ天使ぃ!!
容赦なく俺の腹部に強烈なブローをぶち込みやがった!
天使の風上にもおけないやつだなコイツは!
と、俺が回復のためにしばし蹲っている間にレミィがある提案をした。
「ボディガートをするのはどうでしょう?」
…は?
ぼでーがーど?
なんだってそんな面倒なことを…。
「や、やる! 俺、やるぞボディガード!」
「ひゃっ!」
「おっと驚かせてすみません綺麗なお嬢さん。俺は響彰吾、今よりあなたの盾となりましょう」
「ちょっと待てや」
俺はすかさず静止に入る。
「なに勝手に話進めてるんだ。つーか坂嶺だってそんなん迷惑に――」
「あの…! みなさんがよろしければ是非」
「まさかの承諾!」
「地獄の三丁目までもついていきましょう」
「折角だから本格的にやりましょう。黒スーツを身に纏い、四六時中エージェントを影から見守る男…んープロフェッショナルを感じますね!」
駄目だコイツは。
何かと思えばこのエセ天使、最近ハマっている雇われ刑事的なものを大層気に入っていることを思い出した。
おそらく今回の発案もそれ繋がりなんだろうなぁ。
「えっとよろしくお願いします。えっと響さんでしたっけ?」
「ノンノンこれからは私のことはプロフェッサー響とお呼びください愛華お嬢様」
「お、お嬢様ですかっ!?」
「もちろん。男に守られる女性はみな大切な存在だと決まっております」
ああ、駄目だ。
鳥肌止まんねー。
さすがのレミィもこれには若干頬を引きつらしていた。
まぁ当たり前だよな。
そこそこカッコいいやつがやればまだ様になるだろう。
しかしこの響がやると、異常なまでに不気味だ。
「そして今から貴様のコードネームはコードSだ!」
「めんどくせぇなぁもう!」
「そして俺のコードネームはコードI。ふふ、愛のIさ」
いっそ死んでください。
「そして愛華お嬢様のコードはプリンセスだ!」
「なんか俺らとちがくね!?」
「当たり前だ、俺たち下賎の者と一緒にできるか」
面倒すぎる。
こいつこんなやつだったのかと思うほどに面倒すぎる。
響は乗り気も乗り気、坂嶺は響に押され気味になるも完全に嫌がってる様子はなく。
そしてレミィはといえば、ヤケになったのか無理矢理にテンションを上げていた。
「では翌日よりミッションをスタートする、です!」
「イエッサー!」
「む、コードS声が出ていないぞ、です!」
「たるんでいるぞコードS!!」
「あーもう…」
俺は軽く息を吸うと、思いのたけをぶちまけた。
「めんどぉくせぇーーー!!!!」
とりあえず、早く家に帰りたかった。
というわけで作戦名『坂嶺愛華護衛作戦』
ミッション、スタート!
…勘弁してくれ。