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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 トルコギキョウ : 楽しい語らい 』
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『 騎士たちの午後 』

* ジョルジュ視点

 わかっていた事なんだが……。私の胸中は複雑だった。

ソフィアとの12日間も終わり、昨日の求婚の儀も申し分ないほどうまくいった。


ソフィアも喜んでくれたし、ソフィアの家族も喜んでくれていた。

なぜか、私よりも私の家族が一番安堵していたのは気のせいではないだろう。


セツナとノリスには感謝してもしきれないぐらいの恩がある。

あの2人に出会わなければ、一夜明けたこの日を笑っていられたか疑問だ。


登城したときから、投げかけられる祝いの言葉に

簡単にお礼をいい国王様の元へ私は急いだ……。


-……気が重い。


国王様に聞かれるだろう事はわかっている。

薔薇に魔法をかけたのはいったい誰なのか……ということだろう。


昨日、私の家族にも根掘り葉掘り聞かれたのだが、最後まで黙秘を通した。

それがセツナとの約束であり、私が守るべき唯一のことだったからだ。


私の弟は、しきりに今回の贈り物の価格を知りたがっていたが……。

価格は関係ないだろうというと、「兄貴なんか死ねっ」といって

自分の部屋へ行ってしまった。


弟のその態度に私は眉をひそめたが、両親はただ苦笑しているだけだった。

弟には悪いが、価格にしても公にするわけにはいかないのだ。


"金貨2枚と銀貨4枚(240.000円)"、あの魔法で破格といえる価格……。

その価格の裏には善意だけではなく、口止め料も含まれているのだから。


昨晩ノリスも色々と聞かれていたようではあったが

自分は薔薇を提供しただけだということになっている。


ノリスが魔導師を知っていると知れた場合、権力者から身を守るすべが無いからだ。

世界に時の使い手はセツナをいれて3人、1人は行方知れずでもう1人は竜の大陸にいる。


近いうちに時の使い手が、もう1人現れたと情報が回るだろう。


-……思い切ったことをしてしまったものだ。


自分がとった選択に後悔は微塵も無いが……。


家族や他人ならともかく……。

忠誠を誓った王に真実を話せないというのはとても気が重かった。


1つだけ救いだったのは、昨日帰り際にセツナが言ってくれた言葉だ。


『ジョルジュ様、国王様に聞かれた場合のみ僕の名前を出してくれてもいいですから』


セツナの申し出は嬉しかったが……名前を告げるということは時の使い手であることを

明かすということだ。セツナはこの国に仕えても言いと思ってくれたのだろうか。


それとも、すぐにこの国をたつのだろうか……。

12日間毎日顔をあわせていただけに、話せなくなると思うと寂しい気がする。


様々な事を考えながら、謁見室の前に着く。1度深呼吸し扉を守っている騎士に

国王様に呼ばれたことを伝えるとすぐに扉が開かれた。


左右に大臣達が並び、玉座には国王様と王妃様が座っている。

王妃様の隣にはユージン様とサイラス。国王様よりにはキース様がいた。


きっと見えないところに

キース様の第一騎士であるソフィアの兄、フレッドも居るのだろう。


私は背筋を伸ばし、国王様の前まで進むと騎士の礼をとり膝を突く。


「楽にしてくれていい、ジョルジュ。まず、ソフィアとの婚約を祝う」


「ありがとうございます」


「なぜ呼ばれたか、心当たりがあると思うが聞こう。

 あの魔法は時の魔法であろう?」


「……はい」


「ジョルジュは時の使い手を知っているのだな?」


「はい」


「その者の名前を告げよ」


「申し訳ありません、その者の名前を言うことができません」


私の返事に、周りの大臣達がざわめく。

サイラス達は心配そうに成り行きを見守っている。


「口止めをされているのか?」


「はい、魔導師と交わした約束なのです」


「ジョルジュ、わかっているとは思うが

 時の使い手は数が少ない、新しく現れた使い手と面識を持っておくのは

 この国を預かるものとしては譲れぬ事だ」


「……」


「お前の言い分もあろう

 だが可能性があるならば、他国に取り入られる前に我が国に仕えてもらいたいのだ」


国王様の仰ることは理解できる。彼が帝国へ仕えることになると思うとぞっとする。

私も彼と戦うことになるのは嫌だが、彼との約束が守れないのも嫌だったのだ。


私が思案するように黙っていると


「ジョルジュ、名前を告げよ。これは命令である」


国王様の声音は、強制するようなものではなく

私の心理的負担を取ろうとしているものだった。


私から約束を破ったという形ではなく

命令されて仕方なく答えなければいけなかったという

方向へ持っていって下さったのだろう。


「国王様のお心遣い感謝いたします。

 しかし、私は命令されたのではなく自分の判断で告げたいと思います」


国王様の心遣いはありがたかった。しかし、どのような理由があったにせよ

約束をたがえるのは私自身なのだ……。それは私が背負うべきものだ。


「魔導師の名前は、セツナといいます」


私が国王様にセツナの名前を告げると、国王様はとても微妙な顔をしていた……。

国王様の微妙な表情の理由がわからず、私や他の大臣は困惑の色を隠せない。


訪れるのは沈黙……。誰も口を開くことなく国王様を見ている。


その沈黙を破ったのはサイラスだった……。

この場にあるまじき言葉で……。


「ちくしょうっ! あいつ絶対フードのしたで笑っていたなっ」


私はサイラスの言葉に驚いた。言葉遣いも驚いたが……。

彼の口ぶりは、フードをかぶっていた人物を知っているということになる。


サイラスが腹を立てている理由は、昨夜花びらまみれにされたことだろう……。

その時のことを思い出しているのか、ユージン様とキース様は肩を震わせている。


国王様がサイラスにチラリと視線をやると、自分の言動を思い出したのか

国王様に騎士の礼をもって謝罪していた。


ユージン様とキース様もばつが悪そうな表情を浮かべている。


「ジョルジュ、下がってよい」


国王様の言葉に驚いたのは私だけではなかった。

大臣たちも口々に、国王様に意見していく。


その1つ1つにこたえる気はまったくないのか、ただ事実を淡々と告げた。


「セツナという人物は、この城にいた吟遊詩人と同一人物だ。

 彼は誰の下にも仕えないであろう……これ以上の議論は無駄である」


そういい残し、王妃を連れ退室した国王様を我々はただ呆然と見送るのだった。


私も謁見室から退室し、今は騎士の待機室で1人座っていた。

周りの騎士が、いろいろ聞きたそうにしていたが……気がつかない振りを貫いている。


-……セツナがあの吟遊詩人と同一人物……?


国王様の毒を治療し、サイラスに竜の加護を与えた冒険者。

通りで聞き覚えのある声と話し方だと思ったわけだ……。


あの時とはまったく違う容姿だったので……わからなかった。


そのようなことをつらつらと考えていると……。

待機室に、にぎやかな足音が聞こえてきた……。


-……来たな……。


「このやろう! 昨日はよくも花びらまみれにしてくれたな!」


「サイラスにはお似合いであろう?」


昨夜のことを思い出してクククっと笑う私。

言葉遣いはほめられたものではないが、さほど怒ってはいないらしい。


「……サイラス、私をおいていかないでくれ」


サイラスの後ろから、ユージン様とキース様まで待機室に顔をだした。

私は椅子から立ち上がり、礼をする。後ろにはフレッドもいた。


「かしこまらなくていい。少し話を聞きたいと思ってね」


ユージン様が、他の騎士にもう一つの待機室に行くように促し。

この部屋にいるのは私たち5人になった。


それぞれが適当な椅子に座り、私の話を聞く体制になっている。

キース様の後ろに立って控えているフレッドに、ユージン様が声をかける。


「フレッドも座りなよ」


「いえ、私はこのままで結構ですので」


「そう? それならいいけど、会話に混ざっていいから

 それと、堅苦しい言葉も使わなくてもいいよ」


「ありがとうございます」


フレッドとユージン様のやり取りを横目で見つつ

サイラスが私に矢継ぎ早に質問してきた。


「なーんで、ジョルジュがセツナと楽しく遊んでるんだよ」


「……私は遊んでいた覚えはない」


「セツナと何時あったんだ?」


「サイラスが私に巡回を促した日だ」


「くそっ、俺も行けばよかった……」


サイラスは本当に悔しそうに呟き

その呟きを聞いたユージン様がサイラスに突っ込んでいた。


「いや……さすがに第一騎士と第二騎士の両方が

 私のそばを離れるのはちょっと困るよ」


ユージン様に苦笑を返し、私のほうに視線を向け

セツナとどこで会ったのか聞いてくる。


「で、どこで会ったんだ?」


「……花屋だ」


「何で花屋なんだ? ジョルジュと花屋は接点があるけど

 セツナと花屋は接点ないだろう?

 セツナが花を買いに来ていたとしても、普通話さないだろう?」


「セツナは、花屋の店員をしていた」


私の言葉に、フレッド以外の3人が目を丸くして私を見つめている。

確かに、私も彼の正体がわかっていればこの3人のように驚いたかもしれない。


「セツナが……花屋の店員?」


「ああ……」


「何でまたそんなことに」


私は、セツナとノリスから聞いた事情を話して聞かせる。


「なるほどね、セツナらしいといえばセツナらしいな」


サイラスが、やっと納得いったという風にうなずいている間に

今度は、キース様が問いかけてくる。


「セツナ君は、本当に時の使い手なのか?」


「……それはお答えできません」


「どうしてだ」


「私が答えてもいいと言われている範囲は

 セツナ殿の名前だけですので……申し訳ございません」


「……なるほどな」


「キース、そんなの直接セツナに聞けばいいことだろう

 ジョルジュを困らせるのはやめろ」


「サイラス……本人に聞くのもどうかと思うけど……」


ユージン様が呆れたようにサイラスを見て

今度はユージン様が私に質問してくる。


「ジョルジュ、あの求婚の発案は誰が考えたの?」


ユージン様の質問に、フレッドが興味深げに私のほうを見た。

目が合った瞬間、ニヤリと笑った奴を殴りたい衝動に

駆られたのは仕方がないことだろう。


「はい、発案はセツナ殿です。

 その時に12本の薔薇の意味も教えてもらいました」


「そう……、永遠を12日目に持ってきたのは君の考え?」


「……」


ユージン様のセリフに私は絶句する。

キース様とフレッドは私が答えるのを黙って待っていた。


「……」


「……」


私が答えを口ごもっていると

サイラスが思いっきり吹き出し笑いだした。


「……ぶはっ、あはははははは!」


いきなり笑い出したサイラスに不快な気分になり問う。


「……何がおかしい」


「何がおかしいって……お前、なんていう顔してんだよ。

 それは、もう返事しているのと同じだろうが!

 あ……腹が痛い……死にそうだ」


なかなか、笑うことをやめないサイラスに苛ついた私は

机の下で思いっきりサイラスを蹴飛ばした。


「いた! 何するんだよ!」


椅子から立ち上がり、私にやり返そうとするサイラスを

止めたのはキース様だった。


「サイラス、やめておけ

 ユージンも、そういったことを聞くんじゃない」


サイラスを止め、ユージン様を嗜めるキース様。

サイラスはしぶしぶ椅子に座り直し、足をさすっている。


ユージン様は、サイラスが足をさする様子を横目に見ながら


「いや、普通気になるだろう?

 完璧な求婚の儀をやってのけたんだからさ

 あんな風にされたら、一生忘れられないよ」


悪びれた様子もなく、キース様に言い返していた。

フレッドは、ずっとニヤニヤして私を見ている。


-……後で……殴る。


私が心の中でフレッドを殴ることを決めたと同時にサイラスが


「で、俺を花びらまみれにしたのはどっちの考えなわけ?」


「……」


「それは私も知りたいな。あのサイラスの驚きようは……。

 今思い出しても笑えるから……」


そういって肩を震わせて笑うユージン様。キース様も思い出したのか笑いをこらえている。

そんなユージン様とキース様の様子を見て、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるサイラス。


「花びらが夜空に舞い上がって、綺麗だと見とれていたら……。

 いきなり攻撃してくるんだぜ? 驚くに決まってるだろう!」


「ククク……」


「お前が笑うなジョルジュ!」


「私は、セツナにサイラスの目をくらませてほしいと

 頼んだだけなんだが……」


そう……11日目の夜、私はソフィアを抱きしめたくて仕方がなかった。

しかし、それをサイラスに見られるのはとても嫌だったのだ。


だから、セツナに頼んで少しの間だけサイラスの目をくらませてほしいと頼んだ。

結果はサイラスだけではなく、その場にいる全員の視線が私達から外れた。


それもとても幻想的な方法で……場の雰囲気を壊すことなくやってのけたのだ。


そこでふっと思い出す。

私の頼みごとにセツナがとても楽しそうに笑っていたことを。


-……セツナはサイラスと仲がよかったんだな。


だから容赦しなかったのだろう。


「そうか……あの攻撃はセツナが考えたんだな。

 ユージン、俺は明日休暇を取る」


いきなりの休暇宣言にみなが驚く。


「休暇をとってどうするの?」


「セツナが店員をしているところを

 冷やかしにいくに決まっているだろう?」


仕返しを考えないとなっと、楽しそうに話すサイラスを

呆気にとられたようにユージン様もキース様も見ていたが……。


サイラスが、以前のような明るさを取り戻したことに

ここにいる全員が喜んでいたし、嬉しく思っていた。


「待ってろよセツナ……ふふふ」


サイラスの不気味な笑いを眺めつつ、私は心の中でサイラスに教えてやった。


”セツナが花屋の店員をするのは今日で最後だ ”


明日行っても会えないだろうことを

私は言葉にして伝えるつもりはなかった。感じ取れないほうが悪いのだ。


後日、セツナに会えなくて肩を落として帰ってきたサイラスを

ユージン様とキース様が慰めていたのだった。






読んでいただきありがとうございます。

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2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
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