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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ブータンマツリ : いたずら心 』
90/126

『 12日目の魔法 』

『 真実 : 12本の薔薇 10/12』


城から帰宅する途中で僕の足が止まる。

自宅の玄関先で、妹と親友が話しているのが見えたからだ。


ここで邪魔をするのも無粋というものだろう……彼らの大切な時間が終わるまで

僕はここらで待つ事にした。


彼らを遠目から観察している僕。

彼にどういう心境の変化があったのか……ジョルジュの妹を見る目が今までとは違い

1人の女性として見ている事に気がつく。


10日前はまだ、ソフィアの位置が定まっていなかったように感じたのだけど。


-……やっと、気がついたのか。


それが私の正直な感想だった。

遅すぎる……いやこの短い期間で気がついたのが奇跡かもしれない。


ジョルジュの中に妹を愛しいという気持ちがあるのは確かだった。

だが、ソフィアの年齢を中心に物事を考えている節があったので少し心配していたのだ。


ジョルジュには悪いが……恋愛面での精神年齢はきっと彼よりも妹の方が高い。

なにせ……。


「……こんな所で何をしている」


つらつらと考えているうちに2人の今日の逢瀬は終わったようだった。

見つからないようにするつもりが見つかってしまった。


「何って、2人の時間を邪魔しないようにここで待っていたんだろう?」


僕の言葉に溜息を吐き歩き出したジョルジュを見て僕は彼の後を追いかける。


「……お前の家は向こうだろう」


「そうだけど、少し飲みに行こう付き合えよ?」


「……」


日頃あまり酒を飲まないジョルジュ。

断られるかと思っていたのだが返事は意外にも「いいだろう」だった。


どういった風の吹き回しかと内心驚いたが僕は表情には出さずに

落ち着いて話が出来る店に2人で入ったのだった。


僕達の前に酒が届き、特にこれといった話をすることもなく静かに飲んでいた。


「で、何か聞きたい事があったんじゃないの?」


「……」


僕がそう切り出すと、いやに真剣みを帯びた眼差しが返って来た。


「……お前は私がソフィアと結婚してもいいのか?」


ジョルジュの問いかけに僕は少し呆れてしまう。


「今更? ジョルジュ……君今更それを僕に聞くの?」


本当に今更な質問に思わず笑ってしまう。

そんな僕を困惑した表情で眺めポソリと話すジョルジュ。


「……普通は嫌なものなんだろう?」


-……誰かに何かを言われたのかな?


余りにも真剣な彼の言葉と表情に僕も真剣に答える事にする。


「そうだな……でも僕は君なら妹を任せてもいいと思っていたからな

 君の人となりは僕も認めているし……それに……」


ソフィアが彼に惚れたのだ……。


何時も私の後ろをついてきて、兄様っと可愛らしい声で呼んでくれた妹。

年が離れているせいもあって目にいれても痛くないほど可愛がっていた。


嫁になどやるものかと思ったこともある。


『私大きくなったら、兄様のお嫁さんになってあげるね』


っと言われた時には顔がだらしなくも緩んだものだった。

きっと親よりも可愛がっていたかもしれない……今も可愛いと思う気持ちに変わりは無いが。


それが何時からだっただろう?

僕がジョルジュと知り合い、この無口で不器用な男と親友になり3人で遊びだした頃は

妹はまだ7歳ぐらいだったと思う。


僕べったりの妹を見ても別に何も言う事もなく、ただ妹の我侭を優しく受け入れていたジョルジュ。

彼にとってソフィアは妹に近い存在という感じだった。


その性格から普段あまり子供と縁が無かったジョルジュだが以外に面倒見が良く

僕が仲良くしている友達という事もあってソフィアが懐くのも早かった。


兄様のお嫁さんになるから、ジョルジュのお嫁さんになるに変わったのはソフィアが10歳の頃だ。

僕とは結婚できないと知り、少し落ち込んでいたが……。


何時も近くにいたもう一人の存在を見つけたようだった。ただその頃は僕もジョルジュも

そんな妹を微笑ましく見ているだけだった。そう誰にでもある一過性の気持ちだと思ったのだ。


身近な人にあらわす好意のその延長だと……。妹自身もその時は僕の変わりと言う感じだった。

それが変わってきたのは何時頃からだったろうか……。


確か……ソフィアが12歳の春頃だ。

今まで彼をジョルジュと親しく呼び捨てにしていた妹が彼に対して様を付け出したのだ。


突然変わってしまった呼び方に僕もジョルジュも驚いたが

その時はただそういう年頃になったんだろうと2人寂しく苦笑した事を覚えている。


でもその頃からソフィアはジョルジュに対する思いを秘めていたのだろう……。

ただ1人で、誰に打ち明けるでもなく……。


早熟といえば早熟なのかもしれない……それはソフィアの周りに大人が多かったせいなのか

僕といる事が多かったせいなのかはわからないが……。


僕が何時までも幼いと思っていた妹は僕の知らないところで、彼が毎日妹に贈っている

薔薇のような蕾に成長していたのだ。


そう感じたのは妹が1人で声を殺して泣いているのに遭遇したときだった。

今までは、家族の前で泣いたり僕の前で泣いたりしていたソフィア。


それが知らない間に1人で耐えるように涙を流す姿を見たときに

僕の手から妹は巣立ったのだと痛感したのだった……。

なぜ泣いているのか問いかけても答えない。


ただなんでもない、大丈夫というばかり。そんな事が数回続いたのだろうか。

そして思い当たるのだ、妹が泣いている理由に。

妹が涙を見せる前日必ずジョルジュと会っている事を。


会っているといっても……僕が彼を誘いそれにソフィアがついてくるというものだったが。

僕の知らないところでソフィアが彼に何か言われているのかと思った僕は妹を問い詰める。


ジョルジュに何か言われたのかと。

親友とはいえ、妹を泣かす奴を容赦するつもりはまったくなかった。


『お前が理由を言わないのなら、僕があいつに直接きくことにする』


半分脅しのような僕のセリフに、ソフィアはポツリポツリと理由を僕に告げるのである。


『兄様、私はジョルジュ様の事が好きなんです……』


思いもよらなかった妹の告白に衝撃を受ける……。

僕はジョルジュがソフィアを妹みたいな存在としてみているように

ソフィアもジョルジュを兄みたいな存在として見ていると思っていたのだから。


『なのに、ジョルジュ様は私を妹としてしか見てくださらない』


そういって、涙を流す妹……。


『どれだけ私が努力しても、彼の目には私は子供としか映らない……』


『ソフィアが、あいつに様を付けるようになったのはそれが理由なのかい?』


『……少しでも私を女性としてみて欲しかったの』


俯き小さな声でそう話す妹に


『……焦らなくても……いいんじゃないか?

 ソフィアはまだ14歳だろ? これから嫌でも綺麗になっていくんだし』


僕の言葉に、首を横に振りはらはらと涙を零す妹は僕が知る妹ではないような感じがした。


『私は今すぐ大人になりたい……だって、次ジョルジュ様にお会いしたとき

 その隣には私以外の女性がいるかもしれない……』


ソフィアは涙をためた目で僕を見つめる。


『兄様……私は何時も不安なの……』


ソフィアの言葉に僕は、1人の女性と話している気がしてならなかった。

ソフィアの涙を僕の指で拭いながら……僕の胸中は複雑だった。


あの頃の妹が膨らみ始めた蕾なら……今のソフィアは花開く前の蕾……。

日に日に美しくなっていくソフィア……綺麗な花を咲かせる時まであと少し……。


何ともいえない感情が僕を支配する。

きっと父も同じ気持ちを抱いている事だろう……ここ数日の父の落胆振りは

はたから見ていても笑えるほどだから……。


-……父の事をいえないか。


僕は1つ溜息をついて、酒を流し込んだ。

目の前のジョルジュは僕を見て首をかしげている。


「どうした?」


「それになんだ……?」


ああ……思考に耽って続きを話してなかったのか。

僕は少し考え、クスリと笑い。


「それは言わないでおこう、そのほうがきっと君にとっても幸せだから」


僕の言葉にジョルジュは眉根にしわを寄せるが、それ以上聞こうとはしなかった。

何かの感が働いたのかもしれない。


そんな彼の様子を見て僕はまた笑う。

僕の心にしまった真実。


『それに、君の縁談は僕がことごとく潰してあげたからね……だから僕にも責任がある』


僕は妹の味方なのだ。


「君が僕の弟になるのか……ふふふ……」


僕のセリフに、ジョルジュの動きが止まり本当に嫌そうな顔を僕に向ける。


「よろしくね、僕の弟よ」


「……」


返事が返ってこなかったことに、僕はまたひとり笑うのだった。


"真実 君と私、お互いの真実を認め合って生きて生きたい。 ジョルジュ"

 

残り後2日……。



『 愛情 : 12本の薔薇 11/12』


「……」


「……」


今日で11日目、そろそろ行かなければと思うのだが……。


彼女の不安そうな瞳に縫い付けられたように、足が動かなかった。

明日は、大勢の前で最後の薔薇を渡す事になるだろう。彼女と2人きりで話す時間を

明日はとることが出来ない。


「……本当に私でいいのか?」


これが最後の確認だった。私はソフィアの瞳を見つめ静かに問うた。

私の質問に彼女は艶やかに笑い深く頷いた。


その笑顔に私は言葉もないほどに魅せられた。


何時の間にこんなに美しくなったのだろうか……。

目を見張るほどに輝く彼女の顔から視線を外す事が出来なかった。


「そうか……」


伝えたい事はまだあるような気がした。

聞きたい事もたくさんある。


だが……私は何も言葉に出来なかった。




明日の薔薇を用意する為に

今日は帰りにもう一度花屋によることになっている。


毎日リボンに自分の気持ちを綴っていくごとに募る想い。

薔薇を彼女に贈るたびに増す愛しさ。


1日が終わるごとに私の気持ちが固まって行く。


彼女を幸せにしようという気持ち。

彼女をどんなものからも守ろうという決意。


そして、彼女と生きていくという覚悟。


最後のリボンに私の気持ちを綴った後

私はセツナにひとつの事を頼んだ。


彼女を女性だと認識したときからずっと抑えていた衝動。


"愛情 私は君を心から愛している。 ジョルジュ"


残り後1日……。



『 永遠 : 12本の薔薇 1 』


今日貰った薔薇に綴られていた言葉は、今まで貰った中で一番嬉しいものだった。

時も忘れてその薔薇とリボンを見つめていたら、兄様に


「明日、寝不足の顔でジョルジュからの求婚を受けるのか?」


っと言われてあわててベッドの中に入った。これまでの事、今日の事、明日の事

色々考えるとなかなか眠りの妖精は訪れてくれなかったのだけど……。


鳥の鳴き声で目が覚める、思ったよりもぐっすり眠れたのか目覚めは快適だった。

私は起きてすぐ薔薇のそばにより薔薇についているリボンを摘む。


不思議な事にこのリボンは解こうとしても解けなかった。

昨日貰った薔薇のリボンにかかれた文字を次の朝もう一度読むことが私の楽しみに

なっていたので、口元が緩みそうになっているのを自覚しながらリボンに目を落とした。


-……。


昨日貰った薔薇に結ばれているリボンだけではなく、全てのリボンの言葉が消えていた。

消えていないのは1輪の薔薇に1つの言葉である11の言葉だけだった。


"感謝 尊敬 誠実 栄光 努力 信頼 情熱 幸福 希望 真実 愛情"


なぜ消えてしまったのかはわからない……。

文字が消えてしまった事に寂しい気持ちがよぎったけれど……。


消えてよかったと少し思う。

あの言葉は、彼が私だけに贈ってくれた気持ちだから

他の人に見せたくないと思ったのだ……。


-……もしかしたら、ジョルジュ様も同じ事を考えてくれたのかしら?


そうだったらいいのにと思いながら、私の1日が始まったのだった。



最後の日……12日目、ドキドキと胸が高鳴ると同時に不安もこみ上げてくる。

お客様の中に、第一王子と宰相そして王子の第一騎士様まで来られているようだ。


どうか、今日という日が無事過ぎますようにっと祈りながら私は彼を待つのだった。


彼が私に最後の贈り物を贈るまで、彼は私に触れる事は出来ず家の中にも入れない為に

自宅の庭に全てが用意されていた。招待されたお客は庭に集り彼がくれた薔薇を眺めている。


純粋に薔薇を褒めてくれる方もいれば、全て同じ贈り物かと言う人もいた。

喜んだり、イラついたりと私の表情がくるくる変る様子がおかしいのか兄が私の隣で

ずっとクスクス笑っているのが一番許せなかったのだけど。


彼の到着を今か今かと待ちわび、庭の入り口に目をやる。

招待客の方々が挨拶をしてくれるのだが……私は気持ちは彼のことで一杯だった。


周りがざわめいて、人が左右に割れる。


彼が到着したのだ……緊張が体中を駆け巡る。そんな私を兄が優しくエスコートしてくれる。

私は用意された場所に11本の薔薇を腕に抱えて上がり……彼が入ってくるのを待った。


花瓶に刺したままにすればっと母に言われたのだけれど

私は彼の気持ちを抱きしめたまま彼との12日間を締めくくりたかった。


トクトクっと自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。彼の姿が見えた瞬間。


-……。


彼の姿に……私は……。


私は一気に体の体温が上がるのを感じた……。

白い騎士の正装を身に纏い、肩からは濃紺のマントが翻っている……。

腰には彼愛用の剣を携え、何時もの姿とはかけ離れていた。


何時もの姿ももちろんかっこいい……かっこいいのだけど

はじめてみる彼の騎士の服装は何時もより2割増しなほどかっこよかった。


彼が近づくたびに私の鼓動は早くなる。

彼の瞳は真っ直ぐ私だけを捕らえていた。


スッと視線を移動させると彼の後ろに白いフード付きのローブを身に着けた

2人の人物が腕にかごを抱えて歩いてくる。2人は途中で止まり


彼だけが私に近づき……私の3歩手前で止まり騎士の礼をする。


私は薔薇が腕の中にあるので、ドレスを摘む事が出来なかったけど

出来るだけ優雅に見えるように礼を返す。


彼と視線があった瞬間……彼の瞳に宿る光が今までと違う事に気がついた。

私を見つめる瞳が……とても甘い。


「今宵、この時を君と迎える事が出来た事を私は心から幸せに思う」


静かに紡がれていく彼の言葉……私もそして周りも誰1人口を開くものはいない。


「今日で12日目、最後の贈り物を受け取ってもらえるだろうか」


そう言って彼が私の前に1歩踏み出し

すっと差し出してくれたのは白色の薔薇だった……。


まるで情熱的な赤を静謐な白で宥めるような印象。

お転婆な私を赤色の薔薇に例えるなら、それを見守る彼が白色の薔薇。


其の薔薇もまた蕾だったけれど、とても素晴らしいものだった。


私は片方の腕で11本の薔薇をかかえ、もう一方の手で彼からの薔薇を受け取る。

その白い薔薇には、白のリボンと赤のリボン2つが結ばれていた。


「ジョルジュ様、ありがとうございます。

 私も……今日この日を貴方さまと迎える事が出来た事を幸せに思います」


彼は私の言葉に頷き1歩下がる。


彼の背筋が伸びる、そしてスーッと息をすったかと思うと。

私の目を見つめる。


彼の真剣な瞳に私の心がわしづかみにされた感覚に陥る。

こんな目をした彼をはじめてみた……大人の男の人……初めてそう感じた。


「ソフィア、私との結婚を受け入れてくれないだろうか

 是なら白色のリボンを否ならば赤色のリボンを私に返して欲しい」


彼からの求婚の言葉はとても単純明快だった。

そこには飾る言葉は何もなく……ただ真っ直ぐ私の心に届く。


彼の求婚の返事をする為に私は今日貰った薔薇に視線を落とし。

白色のリボンと赤色のリボンを見る。


赤色のリボンには、永遠とだけ書かれていた。

私の頬が赤くなっていくのがわかる。


白色のリボンには、永遠の別れと書かれていた。


リボンを見つめ、少し考える。

彼が間違ったんじゃないかと思ったのだ。

だって、求婚の返事なのに永遠の別れのリボンを渡すのは変なのではないかと。


チラリと彼を見ると、私の考えがわかったのか。

大丈夫というように目が優しく笑った。


私達の行動を招待客が緊張した面持ちで見守っている。


私が白色のリボンを解き、彼の手のひらに乗せる。


「君が私に返してくれたのは、永遠の別れ」


彼の言葉に周りの人がどよめいた。

それはそうだろう、私も間違いだと思った。


「私は、このリボンを今君の前で消す事にしよう……」


彼がそう言った瞬間、白色のリボンが燃え上がった。

一瞬にしてリボンが燃えて消えてしまう。


私も周りの人々も一瞬の出来事に目を丸くして見つめるばかりだ。


しばらくして、彼のとった行動の意味を理解して私の目には涙が浮かぶ

泣いては駄目だ……。まだ終わっていないのだから。


彼は……私と永遠に別れる気は無いと……そう言ってくれたのだ。

ふわふわした感覚の中にいる私に彼の言葉が続く。


「ソフィア、昨日までの薔薇の言葉を今日の薔薇に誓う

 私の気持ちを受け取って欲しい……」


昨日までの薔薇に書かれていた言葉は


"感謝 尊敬 誠実 栄光 努力 信頼 情熱 幸福 希望 真実 愛情"


今日の薔薇の言葉は……永遠。


-……。


思わず言葉がこぼれる。


「永遠に……?」


「永遠に」


-……永遠に誓う……。


そう断言する彼の言葉に、目に浮かんでいた涙が1つこぼれる。

薔薇の蕾が涙で濡れた。薔薇の言葉の意味が今繋がった。


今日のこの言葉を私に伝える為に、彼は毎日私に薔薇を贈ってくれたのだ。

彼の気持ちと共に……。


私は自分の腕の中にある薔薇を胸の中心でぎゅっと抱える。

彼の気持ちの1つ1つが愛しくて……感情があふれそうだった。


「ソフィア、愛してる」


彼の言葉と同時に、私の胸の中の12本の薔薇が光りだす。

その光がとても綺麗で幻想的で……見とれてしまう。


そして……私の腕の中でいっせいに蕾だった薔薇が花開いていく。

1本1本の蕾がとても大きかったのだ、これが咲いたらどれほど美しいのだろうと

毎日想像していた。


明日咲くかと……咲く瞬間を逃したくないと毎日気にしながら薔薇を見つめていた。


その薔薇が……いっせいに私の腕の中で開花していく。

綺麗だとか、美しいとかそういう音を口にのせることが出来ないくらいの情景に

ただただ……花開いていく薔薇に魅せられるばかり。


それは、私達を見ていた人達も同じだった。

そこに居た人々の全ての時間が止まった気がした。


誰かが我に返ったのか、私たちに拍手を送る……。

それがだんだん大きくなっていき

沸いたように感嘆と歓声とが混じった祝福の言葉になった。


今私の胸の中に抱えられている薔薇はとても美しく大きな花束になっていた。

それはとても不思議な魔法……。一瞬の魔法。彼が私のためにくれた気持ち。


こんなの……ありえない。

こんな贈り物は知らない。


チラリと彼を見ると、彼はとても甘い瞳を私に向けていた。


彼が1歩私に向かって歩く。その瞬間私と彼の周りに風が起こり。

彼の後ろの人達が持っているかごから花の花びらがいっせいに風に舞う。

一瞬だけ、フードの隙間から菫色の瞳の人と目が会ったような気がした。

くるくると私達を祝福するように私たちの周りを踊るように舞っている。


招待客がどよめき踊る花びらに夢中になっている。


それが一気に上空へ風とともに昇っていく。


その瞬間、私の唇に彼の唇が……重なった。

そして、薔薇を潰さないようにふわりと抱きしめてくれる。


「……ここ数日君を抱きしめたくて仕方がなかった」


彼の呟きに私は……彼の胸の中で頷いた。

私も彼に触れたかったから……。


彼はそっと私の目元をなでると、身を引いた。


その時……。


「くそ!! お前! ジョルジュ何てことしやがる!」


王子の第一騎士様が何か叫んでいた。

彼のほうを見ると、花びらが彼の体を埋めていた……。


クククっと低く少し意地の悪い笑い声が聞こえる。

顔を上げると、彼がとても楽しそうに笑っていた。


私も彼につられて笑ってしまう。

彼は私に視線を落として優しい声で私に告げる。


「ソフィアは何時も笑っていてくれ……」


彼の言葉に私は笑って「はい」っと答えた。


そんな私達を見て、私の家族も友人も手を叩き私達をもう一度祝福してくれたのだった。




"永遠                     "



 

読んでいただきありがとうございます。

これで、ブータンマツリの章は終了です。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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よろしくお願いいたします。
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