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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 椿 : 控えめな優しさ 』 
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『 僕と手紙 』

「……さて、どうしよう」


これが今の僕の、本音だった。

行き成り病気が治り、歩いても息切れしない体が手に入り

そして、何の苦労もなく魔法が使え、戦う事も出来るらしい。

……精神的な面を、考慮しないならばの話だけれど。


とりあえず、ゆっくり考える事が出来る場所が欲しい。


自分の外見もわからない。

どういうことが出来るのかもわからないし

どういう風に、生きていくかも決まっていない。

ないないだらけでしょうがない……という感じだ。


昨日は、カイルと一晩中話していたので眠ってもいないし

お腹も空いたかもしれない。ゆっくり休めて食事の取れる場所。


ホテル……いや、こういう世界では宿屋かな?

宿屋を探して、部屋を確保してから次の行動に移そうと考える。

そう考えてはみるが……宿屋に泊まるにはお金がいる事に気がついた。 


「お金……」思わず呟いてしまう。

そう、僕はお金などもっていない。

この世界に、召喚されてからお金に触った事も無かった。


ふと、自分の体を見るとカバンらしきものが肩からかかっている。

そっと手を入れてみると、珈琲色の布製のカバンの中に

珈琲色の巾着袋みたいなものが入っていた。


巾着袋を開けて、中を見てみると、お金らしきものが入っている。

カイルは、本当に自分の全てを僕に残してくれたらしい……。


カイルが、眠りにつく前とても楽しそうに

「俺の、最高傑作の鞄をお前にやるから

 大切にしろよな!」と言っていた事を思い出す。


カイルは、この鞄のことを言っていたのだろうか?


この鞄の中から、すぐにお金の入った袋を取り出す事が出来たけど

この鞄の中には……他に何が入っているんだろう?


色々なことが新鮮で

興味が尽きないが、とりあえず宿屋に向かわなければと思い

宿屋を探しながら、お金の事を頭の中で検索する。


お金の単位は……。


十分銅貨10枚で、銅貨1枚。

銅貨5枚で、半銀貨1枚。

半銀貨2枚で、銀貨1枚。

銀貨10枚で、金貨1枚となるようだ。


日本円に換算すると……。


十分銅貨、100円。

銅貨、1000円。

半銀貨、5000円。

銀貨、1万円。

金貨、10万円という事になるんだな。


お金の単位を把握できたところで、宿屋らしき所に到着する。

少し緊張しながら、扉を開けて中にはいった。

自分自身で、店に入るなんていったい何時ぶりなんだろうか。


「すいません、部屋を取りたいんですが」


緊張気味な声で、受付と思われる人に声をかける。

中々返事が返ってこない。僕は不思議に思いもう一度声をかける

我にかえったように、受付の人が僕の顔を見つめながら答えてくれた。


「いらっしゃいませ、1人部屋ですと1泊、銅貨4枚となります。

 夕食つきで、1日半銀貨1枚となりますが?」


お腹も空いているし、ゆっくり休みたいという気持ちから

食事つきを頼む事にする。


「食事つきで、3日間お願いしたいんですが」


「はい、食事つきで3日間ですね。

 先払いになりますので、銀貨1枚と半銀貨1枚になります」


僕は、珈琲色の巾着から、言われた通りのお金を取り出し渡す。

受付の人は、とても綺麗な笑顔で受け取る。


「お部屋は、2階の一番端のお部屋になります。

 201号室です。ごゆっくりおくつろぎください」


鍵を貰い、お礼を言いながら部屋に行く。

あてがわれた部屋は、ベッドと机と椅子と質素な感じだけど

清潔な部屋だった。


ベッドに腰を下ろし、ため息を1つ吐く。


疲れた……。


ベッドが、軋む音を聞きながらふと壁にかかっている鏡に目を向ける。

鏡に映りこんだ姿に、僕は目を見開くように凝視した。


僕の姿……。

顔のつくりは、元の僕とは全く似ていなかった。

かといって、カイルと似ているわけでもなかった。

だけど……不思議と、僕はこの顔が僕だとすんなりと受け入れることができた。


黒髪に、黒い瞳ではなく

髪はカイルと同じブラウン。

濃いブラウンではなく、甘い感じがするブラウンだ。


カイルの瞳は薄い翠色だったけど、僕は薄い菫色だった。

ブラウンの髪に菫色の瞳……。鏡の中の僕を僕はじっと見つめて

心の中で、よろしくと呟いた。


鏡の中の顔から視線を下げると、体が目に入る。

体つきは全てが違っていた。日本で夢見た、筋肉もちゃんとついている。

バランスのいい体……。頬が緩むのは仕方がない事だと思う!

そう、憧れの細マッチョ!


鏡花に見せたら、きっと泣いて喜んでくれただろうな等と考えていたら

いつの間にか眠りについていた。


ほぼ半日寝ていたようで、目が覚めたら夕食だった。

夕食を済ませた後、部屋に戻り気になっていた鞄の中身を調べる。


貰った、プレゼントの中身を楽しみにしている子供のような

そんな気持ちになっている僕に、僕は軽く笑う。


「さて、何が入っているのかな?」


鞄の中に手を入れ、つかめたものから出していく。

白い服に、白いローブ。黒い服に、黒いローブ……。

RPGの魔導師みたいな? ちょっと高級感漂う服……貴族が着るような……?

マント……と最初は、服ばかりが出てくる。


次に出てきたのは、護身用短剣、杖、鞭、弓、矢……。

これは絶対、店売りじゃないだろうと思われるものや

どこかの、ダンジョンの宝物だろうというような剣……。


水筒に、お金の入った袋がみっつ……椅子……。

椅子!? この椅子には見覚えがあった。


あぁ……僕と話していたときの椅子は、この鞄から出したのか?

あの時の、カイルの笑いが今ならわかる様な気がした。


椅子の次は、ぬいぐるみ。ぬいぐるみが……1つ2つ……。

……。……。


25個! 何でぬいぐるみが25個も入っているの!?

首を傾げながらも、次は何が出るのかと手を入れると

楽器が出てきた。ハープみたいな感じの弦楽器が2つ。

1つは普通の楽器みたいだけれど、もう1つからは魔力を感じた。


楽器の次は、本……。

本! 本好きな僕は、そのタイトルを見て呆然とする……。


”デートスポット穴場! 今日はこれで完璧 ”

”彼女と泊まるならこの宿屋 ”

”初めての…… ”


タイトルを見る前に、鞄に戻す。

鞄の中身を出していくうちに、僕の頭の中は疑問でいっぱいだった。


カイル……君はいったい何をして生活していたの?


その後も、よく分からないものや、どうしてこんなものがと思われるもの

売れば、凄い金額になるのでは……と思われる魔道具まであった。


そして、次に取り出せたものは、薄い紙だった。

それを広げてみると、そこには少し癖のある文字が書かれていた。

懐かしい……日本語で……。


僕宛の手紙だ……いったい何時書いたんだろう?

カイルとの時間を思い出しながら、僕は手紙を読み始める。



”刹那へ


 この手紙を、何時書いたんだろうと考えるだけ無駄だ。

 能力で書いたに決まっているだろう? 今のお前ならわかるはずだ。


 俺の能力、想像具現で作ったものだ。

 わかっているとは思うが、花井さんの能力も俺の能力も

 そしてこれから、現れるであろうお前の能力もとても稀な力だ。


 だからといって、全てを隠さなきゃいけないって事は無い。

 この世界は、いろいろな人種が入り乱れているから

 不思議な力を持ったやつは、そんなに珍しくないからな。


 ただ、お前はその中でも異質だという事は理解しておくべきだ。

 俺と花井さん、そしてお前の3人分の経験が魂に刻まれている。

 お前が、俺達の能力をどう使っていくか、俺が知る事はできないが

 この世界を滅ぼせるだけの、力を持っているという事は忘れるなよ。


 なんせ、勇者補正3人分なんだからな。


 この世界に来て、ほとんど何も知らないお前は

 戸惑う事も多いだろうから、少しだけアドバイスしてやろうと思う。

 嬉しいだろう? もっと喜べ! ”


ここで、一枚目が終わっている。

二枚目に行く前に、手紙の内容とカイルの心遣いに

色々な意味で、複雑な心境を抱えながら二枚目に視線を落とす……。


”まず……。

 この鞄の中身だが、全部出そうとするのは止めておいたほうがいい。

 俺も、最初はわかりやすくまとめてはいたんだ。

 俺は几帳面なほうだからな。


 だが、この鞄は大きさ重さ関係なく何でも入る。

 そして、入れたときのまま維持される……。

 なので……500年あたりから、俺にもいったい何が入っ……。”


僕は手紙から鞄へと視線を移した。


2500年間の鞄の中身……?


片付けというのは、捨てるのが基本だ。

捨てないと、他の物を収納するスペースが確保できないし

際限なく、物が増えていく事になる。


だけど……この鞄は

スペースを気にしないで物を入れることが出来るらしい。

その事から、導き出される答えは

この鞄の中身が、凄い事になっているだろうということ!


僕は、鞄から手紙に視線を戻し

少しげんなりしながら、手紙の続きを読んだ。


”整理整頓なんてしなくても、頭の中で欲しいと思ったものが

 手の中に入ってくるから、何も問題は無いはずだ。


 ないものはもちろん出てこない。

 その時は、諦めて買うか自分で作れ。”


こんな状態で、よくこの手紙が

僕の手の中に入ってきたなと思う。

もしかしたら、手紙の事を全く知らずにいたかもしれないのだ。

一度顔をあげ、遠くをみてからまた、手紙に目を落とす。


”今、お前の頭の中によぎった質問に答えてやろう。


 よく、この手紙がこの段階ででてきたな……だろう?

 読んで驚け。お前が、鞄から出したものの数を数えてみろ67個だろ?

 この手紙は、68番目に取り出される事にしておいたんだ。


 よかったな、召喚されたのが500番台とかじゃなくて。”


本当によかったよ……68番目で……。


カイルの手紙に、心の中で突っ込みながら

手紙を読み続けていく。


”さて、少し脱線したが

 道具も金も、お前が心配する必要も無いほどあるが……。

 お前がどれだけ生きるのか、俺にはわからないからな

 ちゃんと働いて、稼ぐ事をすすめる。


 暫くは、働かないで世界を見る旅に専念するものいいけどな。

 鞄の中身を少し説明しておくと、水筒があったろう?


 その水筒は、自分で水を足さなくても勝手に水がでてくるから

 水の確保は必要ない。まぁ、水筒を出すのが面倒なら魔法で出せばいいんだが。

 食料は、自分で調達して鞄の中に入れろよな。


 一応、携帯食は入っているが……余りうまくないからな。

 旅の楽しみといえば、食べる事だ。美味いものを食い漁れ。


 金は、金貨、銀貨、銅貨の袋で分けてある。

 もう1つ在るはずだが、そちらには半銀貨と十分銅貨が入っている。

 宿屋などで、必要な分だけ移し変えるといい。


 後、冒険者ギルドの登録は必ずしておけよ。

 旅の助けにもなるし、金にもなる。適度な情報も入ってくるしな。

 俺からは、そんなところからな?


 あー……そうだ。

 ギルドに登録するときに、使える魔法の属性を書くんだが

 お前は、全属性使える。


 この世界では、魔法は8属性だ。

 能力は、各個人が持っているもので魔法と能力は別物だ。

 魔法は、魔力量で使える属性の数が増える。属性は選べないが……。

 今一番強いといわれている、魔術師で3属性が扱える。


 ここら辺は、情報として入っているが……一応な、一応。

 過保護じゃないからな?!


 火・水・風・土、ここの人間はこの4属性が主流だ。

 使い手の多い順番に、火・水・土・風だ。

 そして稀に、光・闇・空・時が使える奴もいる。


 まぁ……俺の能力が最強だと思うけどな! ”


確かにカイルの能力は、想像した物を作り出せるんだから

最強といえば……最強かもしれない。


”さて、俺の能力自慢はとりあえず横において……。

 ギルドに登録するときに、お勧めする魔法は

 風だ風の本質は癒しだ。驚いたか?

 俺は魔法を知ったとき驚いた。癒しは水だろう!! と思った。

 だが……ここでは風なんだ。


 刹那の好きにすればいいが、癒し魔法が何処に行っても重宝されるからお得だ。

 風使いは、火に比べて圧倒的に少ないしな。


 能力は、持っているやつと持っていないやつがいる。

 魔法と違い、能力は1人につき1つだ。お前は、3つ持つ事になるから

 少し注意したほうがいいかもな。


 注意事項と、俺の鞄の引継ぎはこれぐらいか?

 あ、鞄は何処に置いてもお前の元に戻ってくる便利な鞄だ。

 お前にしか扱えないし……ククク……。”


それは、便利というのではなく……呪われてるんじゃ?

笑い方が、悪役だし……。


”後、最後に……自分の命を優先させろ。

 殺される前に殺せ。


 ここは、日本ではないということを、心で納得しろ。

 その為に、暫くは冒険者ギルドの依頼を受けるんだな。

 何事も、基本は大事だ。


 俺からは、これぐらいだ。

 それじゃ、またな刹那。”


またな?


最後の一文が気になったけど

3枚目があることに気がつき、そちらを読む。


”追伸


 鞄の中に手を入れてみろ。

 小さな箱が取り出せたか?


 指輪とピアスが入っているだろう?

 右のピアスは、魔法防御。

 左のピアスは、物理防御。

 指輪は、魔力制御だ。


 体に魔力がなじむまで、外さないように。”


過保護だなっと思いつつも

僕の事を、考えて用意してくれていた物に喜びを隠せない。

この世界に、僕の事を心配してくれる人間はカイルしかいないのだから。


そのカイルも今はもういない……。

淋しさを、胸に押し込め手紙の続きを読む。


”それから、本は俺の培った経験の集大成だ。

 刹那に一番ひつ……。”


ガサガサ……。

一気に淋しさが、別の感情へと変わった。


僕は、手紙を折りたたんで鞄の中に入れる。

今の所、カイルが用意した本は必要がない。

まぁ……いつか必要になるときが来るかもしれないけれど。


そんな事を考えながら、指輪とピアスをつける。

ピアスの穴なんて開いてなかったから、無理やり刺したけど……。

思ったより痛かった。風の魔法を使って自分を治してみる。


すぐに血が止まり、痛みも消えていった。

便利だなと、感心しながらアクセサリーを眺める。


飾り物をつけるなんて、経験は初めてで

少し違和感がする。照れくさいような感じが……。


そのうち慣れるだろうと思い、カイルの手紙を頭の中で反芻し

色々ごちゃ混ぜの感情の中で、明日はギルドに行ってみようと思った。




読んでいただき有難うございます。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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