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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ブータンマツリ : いたずら心 』
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『 僕と時の魔法 』

 僕とジョルジュさんは向かい合ってお茶を飲んでいた。

お店は完全に閉めてあり、ノリスさんはジョルジュさんが使う花を摘みに行っている。


僕が持ってきて欲しいといった花は2本

1本はシンディローズでもう1本は実験用の花。


しばらくして、ノリスさんが戻ってきた。

息を切らして戻ってきたノリスさんに僕はお茶を用意した。


「ノリスさんご苦労さま」


「申し訳ない……」


「セツナさんただいま

 ジョルジュ様、気にしないでください」


ノリスさんは、摘んできた花をバケツごと僕に渡してくれる。

バケツの中に入っているシンディローズを見て目を細めるジョルジュさん。

思わず言葉が出たという感じでジョルジュさんは薔薇を褒める。


「素晴らしい薔薇だな……」


「ありがとうございます」


少し照れた感じでノリスさんがお礼を返した。


僕はそんな2人を見ながら今日買ってきた白のリボンを手に取る。

何時もの風魔法ではなく、時の魔法を使う。


アルト以外の人の前でわかるように風魔法以外を使うのは初めてだ。

呪文を呟き、リボンに魔法を籠める。


魔法を籠められたリボンは淡く光り、徐々に光が消えていった。

僕が今から何をするのかと興味津々の顔で僕を見ているノリスさんとは対照的に

ジョルジュさんは少し不安げに僕の手元を見ている。


僕はそんな2人に声をかけることなく、魔法をかけたリボンを適度な長さに切り

バケツの中に入っている実験用の花の茎にリボンを結んだ。


そしてその花をバケツから出す。

バケツから出されると花は開くものだけれど……。

リボンを結ばれた花は開花する事は無かった。


「え……」


「……」


ノリスさんの目が零れ落ちんばかりに見開かれていた。

信じられないものを見たという風に。ジョルジュさんは黙って成り行きを見ている。

僕は考えていた事が再現できたので嬉々として言う。


「成功しましたね

 これで僕の考えていた事がちゃんと形になりそうです」


僕が2人に笑いかけるとノリスさんが未だに目を見開いていた。

僕の手の中の花から視線は外れない。


しばらく部屋の中は沈黙に包まれていた。

それをぶった切ったのはノリスさんの弾けたような声音で僕につげたセリフだった。


「ありえない! ありえないですよ!?

 セツナさん、花はバケツから出されたら開くものなんですよ?!

 どうしてこの花は開かないんですか?!」


僕はありえないと断言するノリスさんの様子に苦笑していると

ジョルジュさんが静かに僕に言葉を落とした。


「……君は時の魔法の使い手か?」


ジョルジュさんの言葉にノリスさんが僕を凝視しする。


「はい、今このリボンにかけたのは時の魔法です。

 そこで2人にお願いがあるのですが……僕が時使いだということを

 秘密にしていて欲しいんです」


「……セツナさん……風の魔法もつかってましたよね?」


ノリスさんのセリフに今度はジョルジュさんが驚く。

僕はノリスさんに花を手渡しながら


「ええ、何時もは風使いで通ってますから」


「2種使いがなぜ花屋で働いている……?」


ジョルジュさんの言う事は至極まともな質問だった。

大体の人は1種類しか魔法が使えない、今この世界で偉大な魔法使いと言われている人は

3種類つかえるらしい。2種類使える人もいることにはいるがその数は少なく2種類使える

魔導師は国に高待遇でスカウトされる事がおおいのだ。


「それも……風と時の使い手……」


風使いも少ないのだが、時使いは見つけるほうが難しいとされている。

ジョルジュさんが僕にあることを言う前に僕は釘を刺す。


「僕は国に仕える気がありません」


ジョルジュさんの目を真っ直ぐに見て断言する僕。

僕の言いたいことがわかったのか、ジョルジュさんは少し思案した後頷く。


「……わかった、他言はすまい」


僕がお願いしますと頷くと、ノリスさんも秘密にしておきますと約束してくれる。


僕とジョルジュさんの微妙な空気を、ノリスさんが吹き払うように僕に聞いてきた。

蕾のままの花を持っているノリスさん。その目は好奇心で満ちていた。


「セツナさん、これどうするんですか?」


「リボンを外してみてください」


ノリスさんは頷いて少し緊張気味に白いリボンを解く。

リボンが解けたと同時にふんわりと花開いた。


「うわー……」


「……」


ノリスさんは感嘆の声を上げ

ノリスさんとジョルジュさんの目が花に釘付けになっている。


「セツナさんこれは……これは……すごいですね……。

 花を贈った相手がリボンを解く事で花開くんですね?」


僕はノリスさんににっこりと笑って肯定する。

ノリスさんがリボンと花を見比べて、ふっとバケツの方へ視線をやり

驚愕の表情を見せる、そして少し声を振るわせて僕に聞いた。


「こ……これをシンディローズでするんですか……?」


「半分正解というところでしょうか?」


僕は、ノリスさんにお茶を飲むように促し落ち着いてもらう。

ノリスさんは興奮冷めやらずという表情をしていたしジョルジュさんの目も

心なしか楽しそうな光が見て取れた。


僕は、ノリスさんが落ち着いたのを見計らって僕のアイディアを2人に説明していった。


話の途中で気になったのかジョルジュさんが


「1本の予算はいかほどだ……?」


「1本銀貨2枚というところでしょうか」


僕の値段設定に、ノリスさんが勢いよく椅子から立ち上がる。

少し声が裏返った感じで僕に抗議した。


銀貨2枚(20.000円)!? セツナさん高い! 高いよ!!」


ジョルジュさんは僕がつけた値段に何も言う事はなく

僕の話を最後まで聞くつもりのようだ。


「えー? 僕はこれでもやすいと思いますよ?」


「12本使うんでしょう!? 全部で金貨2枚と銀貨4枚(240.000円)ですよ!?」


「花の値段だけでなく、魔道具の値段込みですしね

 内訳は薔薇の値段が半銀貨1枚(5.000円)魔道具が銀貨1枚(10.000円)細工料半銀貨1枚(5.000円)です」


ノリスさんは立ち上がったまま言葉も無い様子だ。


「とりあえず、最後まできかせてもらえるか……?」


ジョルジュさんが話しの先を僕に促す。

ノリスさんは抜け殻のようにストンっと椅子に腰掛ける。

目の前にあるお茶の入ったカップに手を伸ばしちびちびと口をつけていた。


僕は2人にかいつまんで説明していく、12本の薔薇の意味

魔道具を使う意味、ジョルジュさんにしてもらう事そういった事を丁寧に伝える。


説明していくにしたがって、ノリスさんの目は輝いてきていたし

ジョルジュさんは顔を赤くして項垂れていた。


「しかし、時の魔法をこんな事に使う魔導師はいないだろうな……」


ジョルジュさんが少し浮上したのか僕に問いかける。

僕は苦笑を返しながら


「確かにそうかもしれませんね」


「セツナさんの頭の中には何が詰まっているんでしょうね?」


「それはどういう意味でしょうか……?」


「ほら、花束の包装といい今の考えといい

 今まで誰も考えもつかないことばかりですから」


「……たまたま、いい考えが浮かんだだけですよ」


僕のアイディアはこの世界のものではないですから……。

そう言うわけにはいかないから僕は返事を濁した。


話題をかえる為にジョルジュさんに

僕のアイディアで話を進めていいのか確認する。


「僕の考えでよろしいでしょうか?」


「ああ、よろしく頼む」


こうして、僕達の計画はスタートしたのだった。


「ノリスさん、ジョルジュさんの婚姻申し込みの儀が終わるまで

 シンディローズとラグルートローズは売らないようにしたほうがいいですね」


-……今売りに出すのは勿体無い……話題になるまで寝かしておくのが正しいよね。


僕はそう考えてノリスさんに提案する。

ノリスさんは、頷きかけたのだが途中で止まってしまう。


「うー、そうしたいけど

 それをしてしまうと摘んだときに花開いてしまう……」


僕に困ったような顔をむけるノリスさん。


「大丈夫ですよ。

 薔薇の区画だけ僕が時の魔法をかけますから。

 摘んでも花が開かないようにしておきます。

 魔法の解除は今まで通りにしておきますからね」


僕がサラリと解決策を提示するとノリスさんが

首と両手をブルブルと振りながら顔を青くしている。


「そ……そ……そんなこと……してもらえません!」


「僕の楽しみの為ですから協力してください」


僕が手を合わせてノリスさんに言うとノリスさんが悲鳴を上げる。


「やめてください! セツナさんが頭を下げる事なんてないじゃないですか!」


半泣き状態になっているノリスさんに僕は少し驚きながらノリスさんを宥める。

僕達の様子を眺めていたジョルジュさんが口元に笑みを浮かべて。


「……君は、少し変わった魔導師だな」


「どこがでしょうか?」


「いや、魔導師という人種は……」


言いかけてやめるジョルジュさん。


「無駄な事に魔力を使わない?」


ジョルジュさんの言葉を引き継いだ僕。


「……ああ」


「僕はフリーですからね

 自分のやりたい事に魔法を使えますから

 これが国に仕えていたり、ギルドのチームに入っていたりすると大変でしょうけど」


僕の魔力は尽きる事はないから簡単に魔法を使う事が出来るけれど。

普通は使える魔力量が決まっているから遊びに使おうなんて思う魔導師はいないだろう。

特に、国やチームに所属している魔導師はいつ戦闘で呼び出されるかわからないのだから。


だから、魔法のかかった道具は高くなる。

1人が作れる数が決まっているからだ。


「だから何処にも所属しないのか?」


ジョルジュさんの少し突っ込んだ質問に


「ええ、先のことはわかりませんが

 今は自分のやりたい事を優先させたいので」


「花屋か?」


ジョルジュさんの花屋か? の問いかけに思わず笑ってしまう。


「いえ、僕は冒険者なんですよ。

 このお仕事は依頼で受けました

 花屋のお仕事もとても楽しいですけどね」


ノリスさんが僕の後ろで頷き、ジョルジュさんは少し驚いた顔で僕を見ていた。


「冒険者には見えないな

 いや……そうでもないか……」


昼間の出来事を思い出しているのだろうか。

僕は苦笑を返しながら、ジョルジュさんに言う。


「それよりも、早く書いてくださいね?」


ジョルジュさんは困ったような表情を僕とノリスさんに向けるが……。


「それはお1人で考えてください」


僕がはっきりというと、ノリスさんも頷いた。

恨めしそうに僕達を見た後溜息を付いて姿勢をただしペンを持ったジョルジュさんを見て

僕とノリスさんは顔を見合わせて笑ったのだった。


真紅を纏わせた薔薇の蕾がついた茎に純白のリボンを結ぶ。

僕の手元をノリスさんは、自分の子供をお嫁に出すような目でシンディローズを見つめている。


僕はシンディローズを見ながら、こういう作業も楽しいものだなっと思った。

アイディアを出し、計画を立て、それを実行する。


自分だけではなく人と一緒に何かを作っていくのは楽しいと思った。


-……2人が何時も幸せでありますように。


そう願いながら僕は、薔薇にも時の魔法をかけるのだった。


後はこれを12日間続けるだけだ。

ジョルジュさんが婚姻申し込みの儀に僕達も招待してくれるといった。


僕達は身分が違うという事で断ったのだが……。

押し切られる形で僕もノリスさんも頷いてしまったのだった。


帰り道、今日あった様々な事を思い返してとても濃い内容の1日だったっと思った。

ノリスさんの顔色は、赤くなったり青くなったり白くなったりその出来事に応じて

リトマス紙みたいにかわっていたし、青ではなくて黄色だったら花屋だけに

歌があるなっとか思ったり……。


黄色の顔色はちょっと危険だよねっとか1人で心の中で突っ込んでいた。


それから数日後、ジョルジュさんの方は順調に進んでいるらしい。

少し顔色が悪いような気がするのは緊張のせいなんだろうか?


ノリスさんのお店も順調に行っている。シニアス商会はこの間の騒動から

噂が立ちその噂を消すのに躍起になっているようだ。


もうしばらくは大人しくしていて欲しいものだと思いながら

僕は今、木の葉の酒場の一室でお茶を飲みながら王妃を待っていた。


-……王妃がこんな所にきてもいいんだろうか。


そんな事を考えていると扉の向こう側から足音が聞こえる。

僕は椅子から立ち上がり、扉が開くのを待つ。


扉がゆっくりと開き、酒場のマスターがすぐに脇へと下がる。

王妃がゆっくりと部屋に入ってくる……なり。


「セナ君! 王様もユージンもみんな酷いのよ!」


第一声が挨拶ではなく、国王と王子の愚痴というのはどうなんだろうか?


挨拶もなしにササッとソファーに座り、僕にも座るように促す。

すぐに王妃の前にお茶が出され王妃の話は途切れることなく続いてく事になる。


酒場のマスターに促され部屋を出て行く王妃が僕を振り返って……。


「お願いセナ君、私の依頼を受けて欲しいの」


後ろ髪引かれながら部屋を出された王妃の後姿を見送って

僕もその部屋を後にしたのだけど……。


-……単純な願いだからこそ難しいよね。


王妃からの依頼は、想像を裏切らない面倒なものだった。

正直、話し合いでどうにかしてくださいって思うものだったけど。

なんとなく受けてもいいかなっという気になるのは

あの王妃が持っている雰囲気なんだろうか?


王妃の愚痴を思い出し、クスッと思い出し笑いしてしまう僕。


-……依頼受けてしまいそうだな。


王妃からの依頼はノリスさんの依頼が終わってからでも

十分間に合うものだったので、先にジョルジュさんの方に力を入れるべきだろう。


そう結論付け僕はノリスさんが待つ花屋へ戻った。







読んでいただきありがとうございます。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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