『 幕間 : 僕と星 』
意識がゆっくりと浮上し上半身を起こす。
窓の外はまだ日が昇っていないがそろそろ明るくなり始める頃だ。
少しけだるさが残っているような気がする。
ベッドから離れ、服を着替え訓練する為に外へ移動する。
-……ラギさんも、もう起きているのか早いな……。
1階へ降りると、ラギさんの部屋からラギさんが動く気配を感じた。
きっと、僕達を起こさないように部屋で過ごしてくれているのだろう。
-……後でラギさんに
僕達を気にせず行動してもらうように言おう……。
僕は、極力気配を殺しながら外に出て何時ものように訓練を開始する。
しばらくしてアルトも参加し訓練が終わるころには
僕の気だるさも、綺麗になくなっていた。
ラギさんが窓から僕達を眺めていて、その事に気がついたアルトは
まだちゃんと訓練が終わっていないのにもかかわらず、ラギさんのほうに駆けて行こうとし
僕は少し口うるさいかなっと思いつつも、けじめは大事と思いアルトを窘める。
終わりの挨拶をしてない事に気がついたアルトは、しまったっと言う顔をしてから
僕に挨拶をし、僕が訓練の終わりを告げると一目散にラギさんの方へ駆けていった。
僕も汗を拭きながらゆっくりラギさんのほうへ歩いていき
アルトと一緒にラギさんに挨拶をする。
挨拶した後は、3人分の朝食を作るために台所へ向かい
簡単な朝食を作りラギさんとアルトと一緒に食べた。
3人で話しながら食べる朝食は、アルトが何時もよりはしゃいでいて
少しふざけた時に、手がコップに当たりミルクをこぼしてしまい
アルトがしょんぼりするというアクシデントがあったが、今回は大目に見る事にした。
本人も、反省していたようだし。
それに……なんとなく、アルトがはしゃぐ理由も分かるから。
ここはとても落ち着けるのだ……人目を気にしなくていいというのも
アルトの精神的な負担をとっているのだと思う……。
僕はラギさんとアルトに出かける事を伝えると
アルトが一瞬不安そうな顔をする。しかしきゅっと唇を結び1度俯き
次に顔を上げたときに見せた表情は笑顔だった。
「ししょう、いってらっしゃい!」
-……。
僕はアルトの表情を見て安心したような
少し寂しいような気持ちになった自分自身に驚きながら。
アルトに笑顔で返事を返した。
「行って来ます」
僕の言葉に嬉しそうに頷くと、僕に手を振っていた。
ラギさんの方を見ると、その目に優しさをたたえてアルトを見ている。
そして僕の方に視線をやりしっかりと頷いてくれたのを見てから
僕は " 木の葉の酒場 "へ向かうのだった。
木の葉の酒場は、リペイドの国が情報を集める為に開いた酒場らしいが
今は2~3名の人数を残して引き払ったらしい、お昼は簡単な料理を出し
夜は酒場になるといったスタイルのお店だ。
扉を開け中に入ると、お客は数人居るだけだった。
後2時間もすれば夕食という時間だからだろうか……。
僕はカウンターの奥に居るマスターであろう人に
サイラスから貰ったカードをマスターだけに見えるようにして渡した。
サイラスから貰ったカードは、僕とサイラスが連絡を取るためのもので
木の葉の酒場に残っている隠密の人がサイラスに用件を伝えてくれたり
手紙を届けてくれたりするようになっている。
正直、僕と連絡を取るためだけに隠密の人を使うというのもどうかと思うのだけど
連絡の取り方をサイラスと話し合っていると、ユージンさんがこの酒場を使う事を
すすめてくれたのだった。
冒険者ギルドを使ってもいいと思ったんだけど……。
-……まぁ……僕の監視という意味合いも含まれているのだろう……。
僕は、それなりに力が使えることを見せてしまったのだから。
あの時、国王の部屋に結界を張るのに
わざわざ、国王の寝室まで行く必要はなかったのだけど
急に国王が使うものと同質の結界を張られたら混乱を招くと思ったのだ。
僕は少し嘆息しながら、そのままカウンターの席につこうとするが
僕が座る前にマスターが僕を奥の部屋へ案内しようとする。
「いらっしゃいませ
奥の部屋があいておりますのでそちらへご案内いたします」
僕は少し訝しげに思いながらもマスターの後ろをついていく。
案内された部屋に入ると部屋の内装がかなり変わっていた。
木の椅子ではなくソファーが置かれており
周りに置かれているものも少し高級な感じになっている。
-……何か嫌な予感がする……。
サイラスに僕とアルトの居場所を連絡する為だけに来たのに……。
嫌な予感に帰りたい気持ちになりながら
座るように促されたソファーに大人しく座ったのだった。
しばらくして、マスターが紅茶を手に戻り
僕の前に紅茶を置いて、そのまま僕の向かいに腰を下ろした。
それからしばらく、木の葉の酒場のマスターと話し冒険者ギルドによって
アルトが依頼を受けた事を報告し家に帰ろうとする頃には日が暮れていた。
トボトボと家に向かい歩く僕の心の中は
木の葉の酒場のマスターから聞いた話で少しぐったりしていた。
できれば聞かなかった事にしたい……。
僕は溜息をつきながら歩き
ふっと空を見上げると空にはうっすらと青い月が浮かんでいる……。
-……新月までもう少し……。
新月の夜はきっと星が綺麗に見えるだろう……。
月の光に邪魔されないで……。
僕もエンディアに邪魔をされることなく
トゥーリの声を聞くことが出来るだろう……。
トゥーリの顔を思い浮かべながら、早く新月が来ないかと願う。
トゥーリの事を想い少し気分が浮上する。
-……そういえば、まだトゥーリに手紙を書いたことがなかった……。
山を降りてすぐサイラスと出会い、そのままこの国に来たのだ。
-……時間もできた事だし……トゥーリに手紙を書こうかな……。
そう決めると、早く手紙を書きたくなって
僕の足は自然に急ぎ足になったのだった。
読んでいただきありがとうございます。