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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ミヤコワスレ : しばしの憩い 』
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『 僕とアルトと依頼主 』

 冒険者ギルドから20分ぐらい歩いたところに、依頼主の家があった。

住宅街から外れたところに建っていて、周りに家などは無くひっそりとしていた。


雨のせいなのか、それとも普段からこんな感じなのか静寂の中に佇む

こじんまりとしたお屋敷そんな感じだ。


この場所なら、どれだけアルトがジャッキーとプロレスを繰り広げようが

人に迷惑がかかる事など無いだろうと思われる。


それだけ人の気配というものが無かったのだ。


僕とアルトは、家のドアの前に立ち

チャイムなど無いのでドアノッカーを使い、この家の住人を呼び出す。


しばらくして中から人が動く気配がしドアが開く。

ドアを開けて僕達を見る人物の頭には狼の種族なのだろうか

アルトと同じ耳があった。


「どちら様でしょうかな?」


落ち着いた温和そうなその声音は

カチカチに固まっていたアルトの緊張を少しほぐしたようだった。


何時もなら僕がギルドから依頼を受けてきた事を伝え

自分の自己紹介をしてから、アルトが続けて自己紹介をするのだが

今回は、僕が受けた依頼ではなくアルトが受けた依頼なので

僕は何も言わず、その場でアルトが行動するのを待っていた。


僕が何も言わないのを、不思議に思ったのだろうか

アルトが首をかしげて僕を見ていた。


「アルトが依頼を受けたんだよ」


静かにそう告げると、今思い出しましたと言わんばかりに目を開く。

あわてて、依頼主の方に視線を向けると。


「おれは、アルトといいます。

 しょくぎょうはけんし、ギルドランクは " きいろ "です。

 きょうは、ぎるどからいらいをうけてきました」


ちゃんと自己紹介をしてから、ギルドマスターから貰ってきた

紹介状を依頼主に渡した。


それを確認してから僕もアルトに続いて自己紹介をする。


「僕は、セツナといいます。

 職業は学者、ギルドランクは " 紫 "です。

 アルトの師をしています。依頼を受けるのはアルトですが

 年齢の事が書かれていませんでしたので

 付き添いという形で同行してきました」


僕とアルトが、訪ねてきた理由を答えると

依頼主の男性は笑みを浮かべてアルトを目を細めて見つめた。


「これはこれは、この雨の中をよく来てくださった。

 それもこんな可愛らしい冒険者さんが訪ねてきてくれるとは

 立ち話もなんですからな、どうぞあがってください」


僕達を家の中に招き入れてくれる。

質素だが、綺麗に掃除されている客間に案内される。


僕達をソファーに座るように促し、ここで待っているように僕達につげ

暫くしてからお盆に飲み物を載せて戻ってきた。


「お若い人の、お口にあうかわかりませんがな……」


僕たちの目の前と自分の前に、暖かいお茶らしきものをおき

僕たちの向かいに自分も腰掛けた。


「ありがとうございます、頂きます」


お礼をいい口をつける。


「ありがとうございます」


僕が口をつけたのを見て、アルトもお礼をいいお茶を飲む。

僕たちの様子を興味深く眺めている依頼主。


一口飲んで、緑茶のような味のお茶に僕は驚く。

色々お茶を買って飲んできたけれど、緑茶は初めてだった。

続けてもう一口のみ、思わず出た一言に依頼主が驚いたようだった。


「美味しい……」


そして、次に舌を出しながら言った

アルトの一言に、顔を綻ばせて笑った。


「に……にが……にがい」


この依頼主は、悪戯好きなのかもしれない。

なんとなくそんな感じがする。


「美味しいといわれるとはおもいませんでしたな」


「初めて頂きましたが、僕の好きな味です」


「それはよかった、大体の反応はアルトさんみたいな感じですな」


アルトに視線を向け、優しい顔で見つめていた。

アルトは舌を出したまましょんぼりとお茶を眺めていた。


依頼主はアルトの耳をみてクスリと笑い

立ち上がり部屋を出て行くと、その手に違う飲み物を持って戻ってきた。


「ミルクに蜂蜜を入れました。

 これならアルトさんにも気に入ってもらえますかな」


アルトの前にミルクを置き、飲むように進める。

アルトは僕を見て僕が頷くと嬉しそうにミルクを飲み始めた。


アルトが落ち着いた頃を見計らってか

依頼主の男性が依頼について話し始める。


「あらためまして、ギルドに依頼をお願いしたラギと申します。

 今回私の依頼を受けていただけるのは、アルトさんで間違いないですかな?」


ラギさんの言葉に、背筋を伸ばして返事をするアルト。


「はい、おれでもだいじょうぶ、ですか?」


一生懸命、丁寧に話す努力をしているアルト。


「ええ、力仕事ということではないからの。

 私の話し相手が主な仕事になりますが……よろしいのですかな?」


アルトはコクコクと頷き


「ラギさん、よろしくおねがいします

 おれ、がんばります」


仕事の内容の理解と、仕事に対する意気込みをラギさんに伝える。

僕はアルトとラギさんのやり取りを黙って聞いていた。


「それからアルトさん、私のことは

 おじいさんとでも呼んでくださいな、そのほうが私はうれしい」


ラギさんの言葉に、少し意表をつかれたような顔をするアルト。

ラギさんはアルトがどういう反応を返すのかを見たいのか

口元に優しい笑みを浮かべたままだが、その目はアルトを観察するように見つめていた。


アルトはラギさんの言葉をそのままの意味で受け取り

少し照れたように、僕とラギさんの顔を見比べながらどうしようか考えているようだった。


僕の顔を見ても、僕が何も言わない事を悟ったのか

意を決したような表情をするとラギさんに向かって一言。


「じいちゃん」


「……」


「……」


その場に少し沈黙が下りる。

その沈黙を破ったのは、ラギさんだった。

抑える事が出来なかったのか、クツクツとそれは楽しそうに笑い始める。


アルトはなぜ笑われたのか分からないという顔をして困惑していた。


「いやはや……とても素直な反応だの……裏表の無い」


ラギさんの言葉の裏には本当にそう呼ばれるとは思わなかったと

続くはずだったんだろう、だけどアルトの顔を見てその言葉を続けるのをやめたようだ。


「ええ、アルトさんその呼び方で結構ですよ」


今度の言葉は本気でいっているようだ。

僕にはラギさんが何を確かめたいのかが分からなかった。


「おれのこと、アルトってよんでください」


「わかりました、アルト」


自分の願いが叶ったのが嬉しいのか、尻尾を忙しなく動かし

喜びを伝えるアルト。


その様子を微笑ましく見ていたラギさんが僕の方へ視線を向ける。


「さて……アルトに私の依頼を受けてもらう事に決めましたが

 セツナさんはどうされるのですかな?」


アルトがハッとしたように僕を不安げに見上げる。

僕はアルトの頭の上に手を置き

口の中で呪文を唱えアルトに眠りの魔法をかけた。


「アルトには聞かせたくない内容ということですかの」


僕の行動に少し非難の色を目に浮かべるラギさん。


「はい、少し確認しておきたい事がありましたので」


「それはこの依頼の報酬に関することですかな?」


ラギさんの言葉に、彼が何を考えているのかがはっきりと分かる。

僕は少し苦笑して


「いえ、報酬は僕ではなくアルトと話をしてください。

 ラギさんの依頼を受けたのはあくまでもアルトなので」


僕の言葉が意外だったのだろうか、少し驚いたように僕を見た後

話を続けるように目で促す。


「僕が確認したかった事というのは……」


正直、少したずねにくかった。

僕は、背筋を伸ばしラギさんの顔を真直ぐ見つめ


「依頼の期限の事です」


ラギさんも僕の目から視線を外さず

僕の言葉の真意をはかろうとしているのがひしひしと感じられた。


「僕の勘違いなら謝罪いたします。

 しかし僕はアルトの師として、知っておかなければいけない事だと

 判断しました。気分を害される質問かも知れませんがお答えいただけると

 嬉しいです」


「……」


僕の前置きに何も答えず、ただ静かに僕を見つめている。

僕とラギさんとの間の空気は、先ほどアルトとラギさんが作っていた空気とは

激しく異なっていた。


「この依頼の期限は

 ラギさんの命の期限と思ってもよろしいのでしょうか?」


僕の質問にラギさんは少しも同様することも無く淡々と答える。


「そうだと返したらセツナさんはどうされるのですかな?

 この依頼を受けたときにわかっていらっしゃる事だと 

 こちらは認識してたんですがの」


「僕は……気がついていました。

 しかし、アルトは気がついていません」


ラギさんはアルトも知っているものだと思っていたのか

驚愕の表情を見せている。


「……どういうことですかな……この依頼はセツナさんが

 アルトに受けるように促したのでは?」


-……やはりそう捉えられていたのか……。


内心少し哀しくなりながら

それを表情には出さずに、ラギさんに事情を話していく。


「いえ、この依頼を掲示板から見つけて

 受けたのはアルトの意志です」


「なぜこの依頼の意味をアルトに話さなかったのですかな?」


ラギさんの声には、僕を責めるような感じが窺えた。


「僕はアルトの師として……アルトの行動に口を出す事はしないと決めています。


 それがどのような事であろうとも、アルトが自分自身で決めたのなら

 僕はアルトを見守る事しかしないと心に誓っている。

 しかし、アルトがラギさんの依頼用紙を僕に持ってきたときに

 葛藤しなかったかと言われれば嘘になります……」


僕は言葉を選びながら、ラギさんに僕の考えを伝えていく。


「長いときを生きてきたであろうラギさんなら

 アルトの話し方がぎこちない意味も理解されていることでしょう」


僕は僕とアルトとの出会いをラギさんに語る。

少し哀しそうにアルトに目をやるラギさん。


「今のアルトの世界には僕しか居ないんです。

 僕を中心に世界が回っている。

 そしてアルトは、いつか僕がアルトの手を離すんじゃないかと

 アルトを置いて僕が居なくなってしまうんじゃないかと脅えている」


朝起きると何時も真っ先に僕の姿を探すアルト。


「今回、僕がアルトに自分で依頼を選び自分で考え受けるように

 言ったのは……アルトの世界を少しでも広げたいと思ったからです。

 僕が居なくても1人で依頼をこなす事が出来ると自信をつけて欲しかったんです。

 そして僕の居ない世界に少しずつなれていって欲しいと思っていました」


「……」


「僕はアルトが、魔物の討伐系統の依頼を持ってくると思っていたんです。

 人間が好きではないアルトが、人間が依頼主の依頼を1人で受ける事は無いと

 考えていました」


ぬるくなったお茶を手に取り、僕の胸の中に在るものを

少し苦い緑茶で流すように飲み込む。


「しかし、僕に持ってきたのはラギさんの依頼でした。

 正直、他の依頼を選んだほうがいいと喉まで出掛かったんです」


僕はラギさんにとても失礼な事を言っている自覚はあった。

この先の話をラギさんに話していいものか……僕が思案していると。

ラギさんが僕に話の先を促した。


「……私のことは気にせず話を続けるといい」


肺の中に入れた空気をゆっくりと吐き出し

そしてもう一度新しい空気を取り入れラギさんに話を続ける。


「初めての依頼の終了が、避けられない別れで終わる事になるならば

 それはアルトにとって、とても辛い経験になってしまう。

 自信をつける前に……世界を広げる前に

 アルトが悲しみに囚われてしまうかもしれない」


ラギさんとアルトの様子を見て僕は確信してしまった。

きっとアルトは、ラギさんを好きになる。

ラギさんもアルトを可愛がってくれるだろう……。


それは、今まで優しさや暖かさというものを極端に受け取る事が出来なかった

アルトにとっては、とても幸せな時間になるだろう……。


だけど、幸せであれば在るだけ

ラギさんとの別れがアルトにとって辛いものになるのが容易に想像できた。


「そこまで考えていて、なぜ止めなかったのかな……?」


「……依頼主が貴方だったからです……」


わからないという顔をするラギさん。


「アルトが選んだ依頼が、貴方を慮るように選んだものだったからです」


ラギさんの肩が少し揺れる。


「……」


「貴方の依頼用紙は、とても目立ったんだろうと思います。

 用紙の色は変わっていましたし、継続という印も3度押されていた。

 アルトはきっと、なぜ誰もこの依頼を受けないのか

 なぜ貴方の依頼が残っているのか考えたんだと思います」


「そこで思い至ったのが、私が獣人だと言う結論だったのかな?」


「ええ、選んだ理由を聞いたらそう答えていましたから」


「……」


「それだけなら僕は止めたかもしれません。

 だけど、僕と離れる事を嫌うアルトが住み込みで在ることも

 僕と依頼の期限の間、逢えなくなるという事を伝えても

 アルトの気持ちは変わらなかったんです」


お茶の入ったコップを握る手に力がはいる。


「アルトが覚悟を決めたのならば、僕は口出すことはしない。

 アルトが期限の理由に気がつかなかったというのは

 人生経験の少なさからくるものです……。だけどそれさえも

 自分が選んだ事なのだから、自分で責任を持たなければいけない

 僕は……そう考えています」


そう、そういうものも全て含めて依頼を選ばなければならないのだ。

まだ子供のアルトに、そこまで求めるのは酷かもしれない事は

僕もわかっている。ラギさんもそう思ったのか


「少し……アルトに対して厳しくないかね

 まだまだ子供だ……」


労わるようにアルトを見るラギさん。


「アルトが普通の獣人であるのなら

 僕はここまで厳しくはしなかったかもしれません」


僕はアルトにかけてある、髪の色と瞳の色の魔法を解く。

アルトは眠っているので、瞳の色を見る事は出来ないけれど

アルトの本来の髪の色を見て、ラギさんが衝撃を受けたように

目を見開いていた。


「……青狼か……人の世界でよく生きていたな……」


ラギさんの言葉に僕は頷き


「青狼が……月の神の捧げられる供物だと言うのは

 今は、エラーナの国の一部の神官しかしらないようです」


青狼の事を調べているうちに知った事実に、僕は愕然としたことを覚えている。

アルトは奴隷商人からだけではなく、宗教国のエラーナからも身を守らなければ

ならなかったのだから。


「エラーナの神官の目に留まれば、神に捧げられるだろうな

 瞳の色に青ははいっているのかな……?」


「紫と青です」


「……それは……」


ラギさんの声が詰まる、沈痛な面持ちでアルトを凝視していた。


「……神の中で一番冷酷といわれる月の神エンディアと同じ瞳ですね

 エラーナの国が信仰する神でもある……エンディアと同じ髪の色

 エンディアと同じ瞳の色……エラーナに連れて行かれれば

 アルトの人生はそこで終わってしまう」


「……」


「僕が出会った頃のアルトはもう少し髪の色が薄かったんです。

 だから汚れていて、青色だとは気がつかれなかった。

 エラーナに連れて行かれなかったということも

 理由のひとつだとは思いますが……」


「種族によって違うが……。

 どちらかの親の色を引き継ぐからの……白が黒に変わる事もある」


「僕とであった少し前あたりから色が変わり始めたのかもしれません」


「……」


「僕はアルトが1人でも生きていけるように

 自分の身を守れるように、教えていかなければいけません」


ラギさんが真剣な面持ちで僕を見た。


「私は、セツナさんに謝らなければなりませんな……」


「え?」


「私は貴方を誤解していたようだ……。アルトが何をするにも貴方の顔色を

 窺っているように見えたので奴隷の首輪は無くとも縛られているのかと

 思ってしまった」


「……」


「だがそれにしては、アルトが貴方を見る瞳の色が

 脅えている様子もなければ、媚びている様子も窺えなかった」


「……」


「そこで、アルトに私の呼び方をかえるようにお願いした」


「ああ、あれはアルトの反応を見るためではなく

 僕の反応を見ていたんですね」


ラギさんは深く頷く。


「貴方が私に媚を売ろうとするのか、私の機嫌をとろうとするのか

 私の予想に反して貴方は何も言わなかった

 まさか、アルトが本当に私をじぃちゃんと呼ぶとは思ってもいなかったがの」


その時の様子を思い出して、クツクツと笑うラギさん。

僕は苦笑するしかなかった。


「申し訳ありません……」


「いやいや……アルトは真直ぐ育っているようだ……」


「……」


「貴方がアルトを大切に思っている事も理解できましたからな」


そう言って笑いかけてくれるラギさんに僕は面映いものを感じた。

僕はアルトの頭をなで、髪の色と瞳の色を戻す。


「話が少しそれてしまいましたな

 私からアルトに期限の話をしたほうがいいのかもしれませんな……」


ラギさんの言葉に僕は首を横に振る。


「いえ、アルトにはこのまま何も言わないでください」


「……それは、アルトの心に傷をつけることになりませんかな」


「……それも経験だと……僕は思います……」


僕のコップを持つ手が震えている。


「それに、これは僕の自己満足かもしれませんが

 何も知らないほうが……貴方との時間を純粋に楽しめるでしょう?」


ラギさんの目を見る事が出来なくて俯いてしまう僕。


「何が正しいのか僕にはわかりません。

 だけど……僕は、アルトに今を楽しんで欲しい。

 僕では与えてあげる事が出来ない楽しい時間を……」


人間には人間の楽しみ方が在るように

獣人には獣人の楽しみ方が在るのだと思う。


僕は人間だから、獣人の楽しみをアルトに教えてあげる事が出来ない。


「僕の言い分は……とても自分勝手なものだと自覚しています。

 知らない事でアルトが後に深く傷つくかも知れないことも

 貴方に、とても負担を強いるお願いをしている事も……」


ラギさんが、僕の言葉に深く深く溜息をついた。


「私のことは、気になさらずともよいのです。

 私は自分の死期がわかっていて、ギルドに依頼したからの。

 セツナさんが自分勝手というのなら、私こそ自分勝手なのだ。

 自分の死を、他人である人に看取ってもらいたいと願っているのだから。

 住み込みでの依頼は、私が独りで居るのが不安だからなんですよ」


「……」


「独りで死ぬのは寂しい……。

 だから、ギルドに依頼を頼みました」


僕はラギさんにかける言葉を見つけられなかった。

ラギさんは寂しそうに笑う。


「本当はもう諦めかけていたんだがの……。

 私は獣人です、獣人と一緒に住もうと思ってくれる人が現れるとは

 思っていなかった……。それでも、少しの望みにすがりたかったのです」


こういう依頼は、珍しい事ではない。

人間の場合は女性が通いで手伝う事が多いようだ。


自分で動けなくなった人の身の回りの世話をする仕事に近いのかもしれない。


「私は……残していく立場だ。

 一番辛いのは全てを知っている、セツナさんのほうでしょう……」


「僕は……」


「私の死と向き合い、アルトを支えなければならない役目が

 セツナさんにまわってくる」


僕はきっと、アルトと同じようにこの人の事が好きになるだろう。

正直この人が生を終える時、アルトの前でちゃんと立っていることが出来るのか

僕は自信が無い……。


ラギさんの雰囲気は、僕の祖父のものととてもよく似ていたから。


「どうか……許してください」


そう言って頭を僕に下げるラギさん。


「……アルトをよろしくお願いします」


僕もラギさんに頭を下げた。


ラギさんが病気で余命が少ないのであれば、僕は助ける事ができただろう……。

しかし、彼に訪れようとしていたのは " 老い "だった。


僕は " 寿命 "を延ばすことは出来ないのだ……。

この世界が定めた絶対的なルールをかえることは誰にも出来ないのだから。




読んでいただきありがとうございます。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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