『 僕とアルトの休息 』
幕間です。
リペイドの城から戻って2日目、宿屋の食堂で昼食後のお茶をのんびりと飲んでいた。
季節はいつの間にか、サルキス3の月がそろそろ終わろうとしている。
アルトと出会ってから、大体2ヶ月弱と言うところだろうか……。
その間に、ガーディルからクットに移動しその間にカーラさんとルドルと出会い。
ゼグルの山でトゥーリと出会い、ゼグルの森でサイラスさんを拾い
クットとリペイドを繋ぐ洞窟で、リヴァイルと会った。
こうやって思い返して見ると、アルトとのんびり旅をするつもりが
まるで詰め込まれたように慌しく時間が過ぎていったような気がする。
最初の頃は頻繁に思い出されていた家族の事も
多忙な日々の中で思い出される回数は徐々に減ってきていたし
カイルと分かれてからそろそろ半年がたとうとしてる事に
今日初めて気がついたのだ。
黙々と目の前で、食後のデザートを口の中にいれているアルトを見る。
アルトも文句1つ言わず、弱音を吐かず僕についてきていた……。
男の子なのに女装をして城で暮らすのは、色々大変だっただろうに。
「アルト」
僕の呼びかけに、顔を上げて僕を見るアルト。
「しばらく、この国で依頼を受けようか」
本当はクットで、数ヶ月依頼を受けるつもりで居たのだ。
そろそろ本格的に稼ぎたい。
僕をキョトンとした顔で見ているアルトに笑いかけ
「アルトも少し、ギルドランクをあげておきたいしね」
クットで受けたゴブリン退治の依頼の報告と、キューブの中に入っている
魔物を渡せばアルトのランクも2つぐらいは上がるとは思うけど
そろそろアルトのランクを黄色ではなく、緑のランクに持っていきたいと考えていた。
「おれも、はやくあおいろになりたい」
アルトの声が少し弾む。
「そうだね、黄色のランクの依頼ならアルト1人でも
受けることが出来ると思うんだよ」
「おれひとりで?」
「うん、基礎体力もついてきたし
僕との訓練でゴブリン程度の魔物も倒せるようになっているしね」
「だけど……」
アルトは1人で依頼を受けるということに
不安を抱いているようで歯切れが悪い。
「アルト、何事も挑戦して見たほうがいいと思うよ?」
僕と一緒でないと、何も出来ないというような状況は絶対に避けたいことだった。
今のアルトの全ては僕が中心になっている、年齢から言ってまだそれでもいいと思うが
少しずつ、アルトの世界と言うものを作っていって欲しかった。
1人で依頼を受ける、それはアルトの世界を作る第一歩だと思っている。
「……」
耳も尻尾もしょんぼりとしてしまったアルトを見て
少し可哀相に思うが……ここは心を鬼にせねばなるまい……。
「誰だって、初めては怖い。
僕だってねアルト、初めて依頼を受けたときは怖かったよ」
耳を寝かせたまま、僕を不安げに見つめるアルトに優しく言い聞かす。
「アルト、僕はアルトを置いて何処にも行かないから」
耳をピクピクっと激しく動かし、僕を見つめる瞳が一瞬揺らぐ
しかしすぐ歯を食いしばり、心を決めたのか僕を真直ぐ見返して
「おれ、ひとりでいらいうけてみる」
「うん、それでこそ僕の弟子だよね」
アルトは僕の言葉に照れたように笑い、しっかりと頷いた。
「ししょうは、なにするんですか?」
「僕? 僕もギルドの依頼を受けるよ。
それに、この国の歴史や文化も見てみたいし
遺跡めぐりもしてみたい」
その国のものを食べたり、文化に触れてみたり
その国で暮らして肌で色々なことを感じたいと思っていた。
それには、3日や4日で慌しく詰め込むのではなく
のんびりと生活しながら経験していきたかった。
「おれも、いせきみてみたいな」
「そうだね、1人で依頼を受ける日もあれば
一緒に受ける日も作ろうね、お休みをあわせて探検したり
遊んだりするのもいいね、アルトの勉強も落ち着いて出来そうだ」
「いっぱい、ほんよみたい」
「アルトは頑張りやさんだから沢山文字をおぼえたものね」
「ししょうみたいに、ちがうくにのことばもおぼえる!」
アルトの知識欲は2ヶ月たった今も衰えることはなく
あらゆる物を、あらゆる事を吸収しようとするその姿勢に
僕にとってもいい刺激になっていた。
「勉強ばかりじゃ疲れるからね、遊ぶ事も考えようね?」
「つり!、ししょう、おれつりいきたい!」
「釣りね……ここら辺にいいポイントあるのかな?
今度、サイラスに聞いてみようか?」
目をキラキラさせながら、大きい魚を釣って食べると
今から意気込んで、手や耳や尻尾を忙しなく動かしながら
新しいつりの方法を考えると話すアルトを微笑ましく眺め
不意に、2ヶ月前のアルトを思い出し
心のそこから、アルトが笑ってくれている今を嬉しく思った。
雑談を交えながら、アルトと一緒に大まかな計画を話し合っていく
一昨日とはちがう、のんびりした空気の中で僕とアルトは
リペイドの国で暫く過ごすことに決めたのだった。
読んでいただきありがとうございます。





