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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『アネモネ : 貴方を信じて待つ 』
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『 僕と王妃様 』

 キースさんとユージンさんの背中を見送りながら

もう一曲竪琴を女性達に奏でた後、僕はアルトと一緒に城の中を探検することにした。


まとわりつかれると面倒なので、少し魔法を使い女性達の意識を僕からずらす。


部屋の外に居るときは監視がついているが、監視を気にせず城の中を見て歩く

時々立ち止まりアルトに建物の説明をしたりしながら、失われた建築様式である

城を堪能していた。


この世界は北と南を分断するように山脈が連なっている。

北と南を移動するには、魔の国を通るか海を渡るかしかない。

クットとリペイドを繋ぐ洞窟が何時頃作られたものかはわからないが


今の技術、魔法では作る事が出来ない洞窟だった。


「アリス、世界中にある遺跡や城は今は滅びてしまった種族が

 作り出したものだといわれているんだよ

 特に、南北を遮る山脈から北は、そういう遺跡や城が沢山残っている

 アーティファクトと呼ばれる魔力の篭った物も北側で見つかる事が多いんだよ

 だけどね、南側に住む人の方が魔力は強いんだ」


昔の種族が残した魔力のこもった道具、僕は同じものを作り出すことが出来るが

この世界の人達の技術や魔力では作り出せないものが多い。


このリペイドの城も、古の種族が作ったものだと言われている。


「歴史を簡単に説明すると、ガーディルの国は大体7千年前の文献が残っている

 クットは建国されてから大体6千年ぐらい、魔の国はガーディルの文献で出てきているから

 7千年ぐらいなのかな……? そして今僕達が居る北側に残っている文献は

 大体2千年前からのものしか残っていないんだ

 だけど北側の建造物はガーディルの歴史よりも遥かに古いんだよ」


「ししょう、じゅうじんは?」


「獣人族は、国と言う形ではなかったけれど南側で生活していたみたい」


北から移住してきた人々は見た目の違う獣人族を迫害し殺していった……。


「遺跡と一言に言っても、北側と南側では異なる点が多くて

 もしかすると、獣人族の人は南の遺跡の事を知っている人がいるかもしれないね」


-……人間の僕に教えてくれるかどうかは分からないけれど……。


花井さんが生きた時代は

ガーディルと魔の国との争いがとても激しい時代だったらしい

魔の国と魔の国の下にある宗教国が出来たきっかけはどうやらガーディルが握っているようだ。


花井さんの情報から見た北側の土地は魔の国以外は

不思議な力に阻まれて入る事ができなかったとある。

歴史書などには"神の怒りに触れた種族""恩恵の大地からの追放"などと書かれているが

その時代に何が起こったのか、真偽の程はまだわかっていない。


-……竜族ならしっているだろうか

 知っていても教えてはくれないだろうが……。


カイルが生きた時代は

領土戦争が激しかったようだ、獣人族と人間の戦争、宗教国と魔の国の戦争

人と人の戦争、南側の土地の奪い合いが長い間続いたようだ。


-……元をただせば同じ種族だというのに

 土地の奪い合いをするのは何処の世界でも同じなんだろうか……。


そこから逃れるようにして、北側に人間が移住して行き

その頃には、北側の大地に干渉する不思議な力は消えていたらしい。


そう考えるとカイルは北側の国が出来ていった経緯をきっと見ているんだろう。

そして、カイルのカオスバックの中に入っている遺跡から発掘されたであろう大量の

アーティファクト類は北側に国が出来る前にカイルが遺跡や城を探検して手に入れたに違いない。

カイルは北の大陸の種族や文明が滅びた謎を解く事が出来たんだろうか?


情報を検索しても引き出すことが出来ない。

歯がゆいと言う思いと、知ることが出来なくてよかったと言う思いが混ざる。


南側の領土の奪い合いは今のところ沈静化しているようだが

魔の国の戦争と獣人との対立は未だに続いている。


獣人と人間との戦争が沈静化しているといっても

最後の戦争から、まだ40年しか経っていないのだ……。


-……滅ぼされた国の生き残りの2人は今もまだ戦いの中に居る……。


傭兵を続けている2人を思い出し少し溜息をつく。

思考を北側の滅びた文明に戻す。


「北側から南側に移住して人が無事だったと言う事は

 文化や技術も残っているはずだよね……それがどうして残っていないのか

 でも、遺跡や城を作った種族には羽が生えていたと言うし……」


残されている魔道具や遺跡や城からみて滅びたとされる種族は

相当高い魔力を持っていたと思われる。


魔力を奪われ、羽も奪われた?

それとも、2つの種族が共存していて一方の種族が魔力が高く

今残っている種族の先祖は魔力が低かったのだろうか?


2つの歴史が重なって発見されている事もありえる……。


「ね、アリス不思議なことばかりだね?」


滅びてしまった文明、残った遺跡やアーティファクト……。

冒険心を刺激するには事足りる。


-……でも遺跡で新しい何かを発見する事はなさそうだなぁ

 カイルが荒らした……いや探検した後だろうから……。


自分で新しい遺跡を探検するというワクワク感を味わえないのかと

思うと少しカイルを責めたくなった。


どれだけの種族や文明が滅びていったんだろう、そのきっかけは何だったのだろう

自然災害? ……神の裁き? 竜が滅ぼした国もあったとリヴァイルは話していたし

地球に居た頃もテレビでそういう番組が放送されていたら、鏡花と一緒に色々な話をしたものだった。


地球とは違って、魔法で跡形もなく消し去る事が出来る種族がいるだけに

謎はもっと深まりそうだけど……。


伝承や伝説、世界の不思議……色々見て見たいと改めて思うのだった。


僕が今居る時代は、北側の歴史が激しく動きそうだ。


ガイロンドが建国されてからもうすぐ千年……。

千年前のガイロンドはまだ小さな国だった

それがこの100年余りで領土を拡大していったのだ。

領土が大きくなり、今ではガイロンド帝国となっているけれど……。


帝国のシンボルは竜、そう……トゥーリが滅ぼしたグランドの国の子孫達。

今の皇帝が皇位についてから、ガイロンドの国と周りの周辺諸国の歯車が

悪い方向へまわり始めたのだ。


-……トゥーリが知ったら心を痛めるかな……。


もちろん僕はトゥーリにガイロンドが元グランドだと言う事を

教えるつもりはないけれど。


「ねぇ、貴方歴史学者なの?」


僕の思考を断ち切るように声がかかる。


先ほどから、僕達を監視している兵士のほかに数人の気配を感じていたけれど

あえて気がつかない振りをしていた。


ゆっくりと後ろを振り向き、相手を見る。

額に輝く青色の宝石をつけたティアラ

リペイドの国で、瞳の色と同じティアラをつけることが出来るのは

この国の王妃だけだった。


僕は、王妃に礼をし質問に答える。


「吟遊詩人をしながら旅をし歴史を紐解いております」


「そう……貴方の竪琴はとても素晴らしいそうですね」


僕は、王妃のそばにすっと寄り片膝をついてその手をとり口付け

王妃を見上げ見つめたまま微笑む。


「よろしければ……王妃様の為に竪琴を奏でることを

 許していただけますか……?」


僕の無礼な行動に、王妃の護衛の騎士が剣を抜きかけるがそれを王妃が止める。


「……」


「国王様のお心も僕なら慰める事が出来ると思いますが」


国王と言う言葉に、王妃の目が訝しげに細められる。

きっと僕が国王が不在だと言う事を知っているのを聞いているのだろう。


「……よろしくてよ、王様の寝室へ行きましょう」


王妃が許可を出すと、僕達を監視していた兵士と王妃を護衛していた騎士が

王妃を止めようとする。


彼らを一瞥し黙らせると、僕を促し国王の部屋へと向かった。


僕達が国王の部屋に着いて椅子に腰掛けようとしたとき

入り口のドアが激しく開く。


僕を見つけると、殺気を込めた目を向け胸倉をつかみ上げるユージンさん。


「貴様……何を考えている……」


ユージンさんの後ろに居るキースさんは扉を閉め鍵をかけた。

僕が応えるよりも先に、王妃がユージンさんを宥めた。


「ユージン、国王様の恩人に手荒な真似はいけませんよ」


そういいながらも、本気で僕を助けようとしていないのは丸分かりだった。

一応、王妃の言葉に従ったのか僕の胸倉をつかんでいたのを離す。


ユージンさんが、僕に何かを言いかける前に僕は人差し指を立て自分の唇に当てる。


怒りを含んだ目を僕に向けているがその視線を受け止める事はせず


僕は、スッと周りに視線をやると同時に本当は必要ないのだが口の中で呪文を唱え

国王の部屋に、遮音と魔法使用不可の魔法をかけた。


パシッという音と同時に魔法の気配が消える。

王妃がハッと息を呑み


「貴方……王様の魔道具がつかえるの……?」


顔色を青くしながら僕に問う。

ユージンさんとキースさんも王妃同様に青くなっている。


「いえいえ、使えませんよ。

 あの魔道具は、この国の王様にしか扱えないものですから」


「……この結界は同じものだわ……」


「国王様が魔道具を発動させるのを見ていますから

 その魔法をトレースして僕の魔力で作り出した結界です」


驚愕の表情を見せる3人。

王妃が一番早く立ち直り、僕とアルトに座るように促す。


ユージンさんとキースさんもノロノロと椅子に腰掛ける。


「……貴方の目的は、この部屋に結界を張る為だったのね」


「ええ、国王様が居る場所は必ず結界が張られていましたし

 午前中はともかく、2日間一度も結界を張らないとなると

 流石に疑われますから……現に今、魔法で盗聴されかかっていましたし」


「……」


「王妃様も、僕に何か御用があったのではないのでしょうか?」


用がなければ、この微妙なときに国王の部屋に入れるわけがない。

それも、国王は不在なのだ男と2人で部屋に居たとなると妙な噂が立つかもしれない。


「普通に話してくれてかまわないわ」


「……お言葉に甘えさせていただきます」


「貴方が女性好きだと聞いて確かめようと思ったのよ」


「……」


王妃様の言葉の意味が理解できない……。


「私が貴方に声をかけたら、ホイホイと私を口説いてきたから

 その情報が正しいと確信したのに……貴方の瞳には何の熱もなかったわ」


「……」


「それが少し……不快に感じたの

 だから、貴方の話に乗って目的が何なのか探ろうと思ったのよ」


「母上……」


ユージンさんが、王妃を責めるような口調で呼ぶ。


「ユージン、小言は聞きません。

 ちゃんと貴方もキースも部屋に来たのだから問題はないでしょう?」


僕は苦笑しながら、自分のことは棚に上げ王妃に釘をさす。


「そうは言いますが……余りそういうことはしない方がよろしいかと

 僕ならこの部屋に誰も入れないようにすることなど簡単ですから」


僕が結界を張った事を思い出したのか青くなる王妃。

しかし、不快感を顔に出し少し声を荒げながら


「サイラスが居ない間に、貴方の化けの皮をはいで 

 私の可愛いサイラスを取り戻そうと思っていたのに!」


「……」


「謁見の間で、あの子私にも見せた事のない表情で笑っていたわ!」


「母上……また覗いていたんですか……」


謁見室の何処かに隠し部屋があるのだろう。


「あの子が居なくなってから、心配で心配で眠れなかったのよ!

 帰城したと聞いたら、無事な姿を見たいのは当たり前の事でしょう!?」


「……」


「私は、ユージンとキースとサイラスを自分の息子だと思っているのに」


王妃の言葉に、キースさんは手のひらを顔に当て項垂れ

ユージンさんは、僕は本当の息子ですから……と溜息をつく。


どうやらこの王妃は、少し変わっているらしい……。

それが僕の王妃に抱いた感想だった。


「なのに……サイラスは帰って来て、1度も私と目を合わせてくれないのよ!」


見る見るうちに目に涙が溜まっていく……。

王妃の涙に、ユージンさんもキースさんもかける言葉がないようだった。


「あの子は変わってしまったわ、この城にいて貴方にしか心を見せない。

 それがとても寂しいわ……」


僕にしか心を見せないというのは、きっとサイラスさんが

ユージンさんとキースさんとも視線を合わせようとしないのに気がついているんだろう。


ポロポロと涙を零す王妃の背中をユージンさんが優しくなでていた。


「当たり前じゃないですか……」


僕のセリフに、ユージンさんとキースさんが気色ばんだ。


「確かに……サイラスを酷い状況に追いやったのは私達だ。

 私達よりも、君を選ぶのも当たり前なのかもしれない

 だが、君に言われたくはない!」


キースさんが歯を食いしばる音が聞こえる。

僕はぼんやりと、サイラスさんを羨ましく思った。


「いえ、僕が言いたいのはそういうことではなく

 サイラスさんが王妃様と視線を合わせないのは

 自分の正体がばれるわけにはいかないからですよ」


涙をハンカチで拭いながら僕を見る王妃。


「何処で誰が見てるかも分からないんです。

 僕は一応ユージン様の客人と言う事になっていますが

 サイラスさんは僕の護衛と言う立場なんですから……。

 王妃様と視線を合わせたら、一目散にサイラスさんに抱きつきそうですし?」


図星なのか、僕から視線を外す王妃。


「では……なぜ私とも視線をあわせてくれない。

 謁見室では人目を気にせずとも良かったはずではないか……」


ユージンさんが、少し疲れた様な声音で僕に問いかけた。


「……それは、僕から話していいものか……」


少し思案する僕。


サイラスさんも、この2人も不器用そうだからな……。

そう思い、話すことに決める。


「ユージン様もキース様も、サイラスさんに罪悪感があるように

 サイラスさんも、ユージン様とキース様に罪悪感を抱いているんですよ」


「なぜ、サイラスが私達に罪悪感を抱く必要がある」


視線を真直ぐ僕に向けて、足を組みなおし僕に問うユージンさん

嘘は許さないと言う様子で僕の言葉が本当か見極めようとしていた。


「僕がサイラスさんを見つけたときに、彼は命を自ら絶とうとしてましたから」


王妃が悲鳴を飲み込み、キースさんが立ち上がりユージンさんが組んでいた足を下ろした。


「……うそ……だろ……?」


ユージンさんが目を見開き愕然とし呟く。

キースさんが僕の胸倉をつかみ叫ぶ。


「サイラスはそんなに弱い奴じゃない!!」


殺気を込めたキースさんの態度に

僕は、3人にその時の様子を魔法で流し込む。

僕が言葉で伝えるよりも確実だろうから。


頭の中に直接入ってくる映像に、最初は驚いていたが

その顔がだんだん曇っていき、王妃は嗚咽をこらえながら涙を流していた。


3人に見せたのは、サイラスさんとの出会いだけ

サイラスさんが気を失うまでの映像を流し込んだ。


僕の胸倉をつかんでいたキースさんの手がダラリと落ちる。

ユージンさんは、俯いたまま顔を上げなかった。


「……なぜ……サイラスが罪悪感を抱く必要がある?

 私達を恨んでも……罪悪感を抱く必要などないだろう……?」


腕を下ろしたまま、力なくキースさんが呟く。

僕は静かに話を続ける。


「貴方方を信じる事が出来なかったから。

 貴方方が託した事の意味を、気がつく事が出来なかったから。

 貴方方が必死で戦っているのに、自分は死を選ぼうとしたから。

 そして、貴方方がとった行動の辛さを慮る事ができなかったから」


「……」


「サイラスさんは自分を恥じて自分を責めている。

 だから、貴方方と視線を合わすことが出来ないんです

 貴方方が好きだから尚更……」


「……」


「ユージン様が言った "貴方を信じて待つ"この言葉を胸にサイラスさんは

 必死にここまで戻ってきたんです」


黙ったまま、僕の話を聞いているキースさんとユージンさん。


「サイラスさんは、命すら僕に渡す事は出来ないといったんです。

 自分の命は、たった一人の主のものだからと」


こらえる事が出来なくなったのか。ユージンさんが俯いたまま肩を震わせる。


「あの笑顔は、貴方方の元に戻ってくる事が出来たからですよ。

 サイラスさんが、自分の心と折り合いがつくまで待ってあげてください。

 彼はこの国を愛してますから、僕と一緒に旅に出る事はありません」


断言した僕の言葉に、キースさんは顔を上げばつが悪そうな顔をした。

椅子が倒れる音がしたかと思うと、王妃が僕に抱きつく。

泣きながら、声を詰まらせながら


「ありがとう……ありがとう……サイラスを助けてくれて。

 つれて来てくれて……守ってくれて……ありがとう」


僕は、王妃を抱きしめる事はせず手を下げたままで返事を返した。


「どういたしまして」


暫くして落ち着いたのか僕から離れ

僕の態度に、目に涙をためた王妃がのたまう


「普通そこは抱きしめ返すんじゃないの?」


少し不機嫌に言う王妃。


「……僕が女性を抱きしめ返すのは、僕の妻だけですよ……」


「……」


「……」


「……」


3人が黙り込んで僕を見つめる。


「何か……?」


「……妻?」


王妃がそう呟く


「ええ、僕は妻帯者ですから……」


そういい、右腕の腕輪を見せる。

王妃だけではなく、ユージンさんとキースさんも驚いたように腕輪を凝視した。


「貴方! その若さでもう妻帯者なの!?」


王妃が信じられないと言う風に声を出す。


「女性好きじゃなかったの!?」


「……違います……」


「お庭で、貴族の子女を侍らしていたと聞いたわ!」


「城の空気が余りにも緊張して張り詰めていたので

 お嬢さん方を少し利用させてもらったんです……」


笑いが少し引きつっているだろう僕をまじまじと見つめ


「貴方……何処まで考えて行動しているの……」


真剣に僕に問いかけた。


「……そうですね、サイラスさんが第一騎士に戻るまで

 協力すると約束しましたからね、僕ができる事はするつもりです

 サイラスさんが居ない間に、この国が内部から喰われない様に

 ぐらいのところまで考えています」


「……貴方、この国に……」


王妃が全てを言う前に、キースさんとユージンさんが口を出して止める。


「母上っ!」


「王妃様っ!!」


その勢いに吃驚する王妃。


「な……なに……?」


「駄目です、母上その言葉を彼に告げたら

 彼はここから出て行ってしまいます」


王妃は謁見室での僕と国王のやり取りを思い出したのか顔をしかめた。


「貴方を敵に回すのはとても怖いわ……。

 帝国に行ってしまったら、きっと私達は貴方に勝てないわ……」


王妃が僕の腕を握りながら本音を零す。


「大丈夫ですよ、僕は帝国とガーディルは大嫌いですから

 仕えるぐらいなら、滅ぼします」


にっこり笑い、僕も王妃に本音を零す。

僕の言葉に本気を感じ取ったのか3人が硬直する。


「……少し可哀相な気がしたわ……?」


王妃の言葉に、僕は軽く笑い思ったことを口にする。


「王妃様は変わった方ですね」


その言葉に、誇らしげにそして楽しそうに答える王妃。


「私は平民の出だからね、王妃様らしくないのよ」


胸を張って堂々と言い切った王妃に僕は目を細め


「この国はとても暖かい感じがします。

 それはきっと、みんながこの国を大切に思っているからなんでしょうね」


僕の感想に、王妃はそれはとても素晴らしい笑みを返してくれたのだった。


僕達が話している間、アルトは午前中にお菓子をおなか一杯食べたせいか

幸せそうに机の上に突っ伏して眠っていた。


その様子を王妃が目を輝かせて眺め、僕はキースさんとユージンさんに

サイラスさんとの旅の話を聞かせた。


翌日、無事に調印式を終えた国王が隠し通路を使って部屋に戻り

帝国の要求は呑まないと手紙を書き、キースさんを監視していた帝国の隠密に

手紙を持たせ帰国させたのだった。


サイラスさんは、極秘の任務を達成したということで

褒美を貰い、無事ユージンさんの第一騎士にもどることができた。

何かしらの反発があるかと思われたが……サイラスさんの額にある竜紋を目にすると

誰も何も言わなかったらしい。


サイラスさんとユージンさんとキースさんの仲は

まだギクシャクしているみたいだったけど、ユージンさんとキースさんの

気持ちに余裕があるせいか、2人はサイラスさんに自然に接しようと努力していた。


近いうちに、3人は今まで以上に深い友情で結ばれるんじゃないかなっと思う。


僕がこの城でやるべき事は後1つ、それが終わったら

僕はアルトと一緒に宿屋に戻ろうと思っていた。



読んでいただきありがとうございます。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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