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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『アネモネ : 貴方を信じて待つ 』
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『 僕と友人 』

 予想していた通り、リペイドの城でしばらく暮らすことになった。

その事については、国の内部事情に大きく関わってしまったわけだから

この国の宰相の言い分はとても正しいものだと思う。


ここで普通に帰されるほうが不安が大きい。

後々暗殺者を向けられる可能性が大いに想像できるから。


暗殺者に殺されるほど弱くはないけど……面倒な事は避けることが出来るなら

避けたほうがいいに決まっているから。


サイラスさんは、先ほどからイライラしていた。

多分、先ほどのやり取りを引きずっているんだろうとは思うけれど

どうもそれだけではないような感じもする。


僕達が案内された部屋はとても広く、部屋の内装も質素ではあるが

清潔に保たれている部屋だった。


質素というとこの城の中全体が質素だといえる。

僕が知っている城というのは、ガーディルしかないのだけど……。


ガーディルは、どこもかしこもお金をかけているような感じだったのを思い出した。

倒れてから1週間は城の中で面倒を見てくれていたのだ。

それからすぐに医療院に送られたが。


きっと、リペイドは国を立て直す為に最低限の体裁を保てるだけのものを残し

後は売り払ったんだろう……。


国民のために……ガーディルの国とは雲泥の差だ。

ガーディルとリペイドを頭の中で比較しつつ、ガーディルの事を思い出し

少し不快な気分になっていた時に


「ごしゅじんさま、たてごとどうする?」


「……」


アルトが気の抜ける呼び方をしてくれる。

アルトを見て1つ溜息をつき、竪琴を受け取り机の上に置いた。

もう、偽名を名乗らなくてもいいかとも思うが城にいる間は

このままで通すことにした。


「ありがとうアリス、疲れてない?」


「だいじょうぶ」


アルトを促し、一緒に椅子に座りカバンからお菓子を出す。

3人分のカップも出し、水筒から果実を絞ったジュースを注ぐ。


何か欲しいものがあればメイドに言いつけてもいいと言われたが

暫くは落ち着いて休憩したかったので、自分達で用意したもので

一息つくことにした。


「サイラスさん、一緒に休みませんか?」


サイラスさんを呼ぶと、チラッと僕をみてから椅子に座った。

サイラスさんは座ってすぐにイラつきを口にしだす。


「セナは……むかつかないのか……」


「なにがでしょうか?」


キリリっと歯をかみ締め、自分の感情を一生懸命抑えようとしている

サイラスさんを見ながらサイラスさんの前にカップを置いた。


「俺はいい……俺はいいんだ俺はこの国に忠誠を誓っているし

 ユージンは俺の主だから、命をかけるのは当然の事だから

 だけど!、セナは違うだろう!?」


思わず机を叩き、カップの中のジュースが振動で揺れる。

アルトが吃驚してサイラスさんを凝視している。


「何の見返りも……なく、俺に力を貸してくれたセナに

 あの態度はないだろう……あの言動はないだろう……」


僕は少し苦笑し


「サイラスさん、僕達のことを想ってくださるのは嬉しいのですが

 サイラスさんは僕達に少し情をかけすぎですよ……」


サイラスさんが僕の言葉に固まる。


「サイラスさんは、リペイドが置かれている状況を一番先に考えなければいけない

 貴方はこの国の、第一王子の第一騎士なのですから」


静かに言う僕にサイラスさんは顔を伏せ、寂しそうに笑う。


「確かにな、国の事を考えるならばキースの言い分が正しいんだろう」


机の上に置かれた手のひらをきゅっと握り僕を真っ直ぐに見つめる。


「だけどな、俺は……セナ……セナのことも大切なんだ。

 俺は……セナと友人になりたいと思っている。

 セナにとってはそれは迷惑な事かもしれないが」


サイラスさんの告白に僕が驚く。


-……。


正直、そういうことを考えた事もなかったから。

友人を持とうという気も、友人を作ろうという気もなかった……。


こんな僕を気にかけてくれている人がいることは理解しているし

その気持ちは、僕にとってもとても嬉しいものだった。


チーム月光のビートも僕を友人と言ってくれるかもしれない。


でも……友人を作るのが少し怖いとも思っていた。

ただ一瞬を通り過ぎるだけの関係だと割り切っていたのなら

僕は淋しいという思いをしなくてもすむのだから。


僕の初めての友人はカイル……。

出会ってすぐ僕に命をくれ眠りについた親友。


"一生旅してもいいけど……人と関われよ刹那 "


カイルが僕に言った言葉、心の片隅に残っているけれど

向かい合うことができなかった。


カイルとの別れが僕を臆病にさせているのかもしれない。


別れる時が怖くて

その淋しさに、僕は出逢ったことさえ嘆いてしまうかもしれないから

同じ想いをするのが嫌だった……彼らは僕より早く逝ってしまうから……。


でもこういう風に面と向かって友人になりたいと言われたのは

生まれて初めての経験だった、だからどう返事をしていいのか僕にはわからない。


僕が人間でなくてもサイラスさんはそう言ってくれるのだろうか……。


戸惑う僕にサイラスさんが話を続ける。


「セナが俺を助けてくれたように

 セナが困ったときは俺もセナを助けたいと思っている」


サイラスさんの真摯な言葉が僕の心に響く。

僕は今どういう顔をしているんだろう……そんな事が頭に浮かぶ。


サイラスさんに何か言葉を返そうと僕が口を開こうとしたときに

部屋の扉をノックする音が聞こえた。


サイラスさんが僕から視線を外し、返事をする。


「どうぞ」


扉を開けて入ってきたのはメイドさんだった。

夕食は部屋に運んでくれるらしいと言う事を伝えてくれた。


僕は結局その日サイラスさんに返事をする機会を失い

そして、サイラスさんは僕にそれ以上何も言わなかった。


翌日、調印式に同行するためにサイラスさんが一足先に城を出た。

国王と一緒に城を出ると不審に思われる為


僕が暫くここに滞在するという理由で、護衛の契約を解いた事にしたのだ。


サイラスさんを送りだした時に僕はサイラスさんが戻ってくるまでに

答えを出そうと心に決めた。


その夜、カバンの中からアルコールを取り出し空に浮かぶ青い月を見上げ

1人で飲んでいた……。青い月を眺めているとトゥーリの声が聞きたいと思った。

新月はまだまだ先のようだ……。


竜は……人間と騎士の契約を結ぶ竜は

どういうことを想いながら契約を結ぶんだろう

自分達より短い寿命の人間に何を想うんだろう……。


-……。


-……もし、トゥーリが人だったら僕はどうしていたんだろう……。


想像するだけで焦燥感にかられそうになる……。


僕は自嘲的な笑いを落とす。


-……僕は自分のことだけだ……。


自分達の国の事で精一杯だろうに、僕の為に怒ってくれていたサイラスさんを思い出す。

そんな彼の気持ちにどう応えるのか僕はまだ決めていないけれど……。

サイラスさんとの約束は遂行しなければ。


その時の僕に、出来る限りの手伝いをすると約束したのだから。


グラスにアルコールを継ぎ足しながら色々な気持ちを埋めるように

僕はアルコールを胃に落としていくのだった。




読んでいただきありがとうございます。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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