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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『アネモネ : 貴方を信じて待つ 』
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『 僕達と城 』

 頭痛と格闘しながら、なんとか自分のものに出来たのは

2時間ぐらいたったあとだった。

今は、他の事をしながらでも情報を精査することが出来るようになっていた。


-……考え方としては、マルチタスクっぽいのかな……。


自分がどんどん人間から、かけ離れていくような気がするが

今は気にしない事にした。


鳥がもたらす情報に意識を向けて見ると、色々面白い情報も多い

今のところ、人に触れての情報収集は行っていないが

この国の中枢にいる人達は一丸となって、国王を支えているようだ。


当たり前といえば当たり前のことなのだろうが……。

その当たり前のことが出来ない国の方が多いのだから少し驚いた。


鳥からの役に立つ情報といえば、5日後に調印式があるということ。

国王の中に入っている毒の進行が思ったより早い事など。


-……このままだと調印式の場所に移動するのも大変そうだ……。


5日後までに解毒剤を届けないといけないかな。

正確に言えば4日後か……。


さて、どうしたものか……。


僕は、ベッドの上で横にしていた体を起こし座る。

僕が起きた事に気がついたサイラスとアルトが

心配そうに僕を見ていた。


「セツナ、大丈夫か?」


「ししょう、だいじょうぶ?」


「ええ、もう大丈夫です」


僕の顔色もちゃんと戻っているのだろう

2人ともほっとしたような表情を僕に向けている。

僕が起きるのを待っていたのかサイラスさんが


「セツナ、さっきセツナが話していた事な

 ユージンの趣味についてなんだが」


「何か見つかりましたか?」


「俺達が遊学していたときの話しなんだが

 自国では、ユージンの意識はいつも国政に向いていたから

 そういう類のものは余り縁がなかったんだ」


サイラスさんが立ち上がり、カップに水を注ぎ

僕に渡してくれながら話を続ける。


「ありがとうございます」


サイラスさんにお礼をいい、水を口に含み飲み込む。

思ったよりも冷たい水が美味しかった。


サイラスさんはそのままベッドに腰掛け


「だけど、どういう状況だったかは思い出せないんだが

 吟遊詩人と話す事があって、その時にユージンが

 竪琴の音は心が安らぐような気がしますって言ったんだ」


「竪琴ですか」


サイラスさんは頷き


「そう、遊学中は何度か吟遊詩人を招いて竪琴を奏でてもらってた

 国に帰ってからはそういうことはなくなったけどな」


「どうしてですか?」


「ユージンは……早く国王様の仕事を手伝いたくて仕方がなかったんだ。

 真面目な奴だから、手を抜く事を知らないし

 少しでもこの国が良くなるように、国王様もユージンも心を砕いている。

 セツナなら知っているかもしれないが……この国の先王がかなり浪費家だったからな

 この国の財政はひっぱくしていたんだ、税金も酷かったし

 国民は生きていくだけで精一杯の状態だったし治安も悪かった。

 ユージンは、国を建てなおうそうと必死になっていた国王様を見ているから

 少しでも早く大人になろうとしていた」


「なるほど……国王様と王子様が国民に人気がある理由がわかりますね」


それだけ身を粉にして働いているのだろう、自国民のために。

サイラスさんは、僕の言葉に誇らしげに頷く。


「これからもっともっと発展させていくんだ……だから、帝国なんかに

 奪われてたまるか……」


視線を足元に落とし、僕に言うでもなく自分自身に言い聞かせるように呟いた。

僕に言ったわけではないだろうけど、話が少しずれてしまったので修正する為に

返事を返す。


「そうですね、その為には解毒剤を早く届けないといけませんね」


僕の意図に気がついたのか、軽く笑う。


「すまない、少しはなしがずれた」


「かまいません」


「ずっと、ユージンのそばにいるが……ユージンが国政以外に

 興味を示したのはその竪琴ぐらいじゃないかと思う。

 色々な……狩りであるとかそういった類のものは

 嗜みのとしては一通りやってはいるが、自分から進んでやるほど

 好きでもないらしいし」


サイラスさんの情報をもとに

僕は暫く考え、城に入る理由を組み立てる。


「竪琴ですか……それなら何とかなりそうですね」


「なんとかなるとは?」


「吟遊詩人の振りをして、王子様に謁見を申し入れるんですよ」


「吟遊詩人を雇うのか?」


「いえ、僕が吟遊詩人に変装するんです」


「……セツナは竪琴がひけるのか?」


「まぁ……それなりには……」


「……」


「本当に竪琴を弾くわけではありませんし

 王子様に会えればそれでいいんですから」


「そうだが……そう簡単に城にいれてもらえるかどうか」


「必ず入れますよ、サイラスさんがいるんですからね」


僕は、不安そうにしているサイラスさんに笑いかける。


「俺は、セツナの自信が何処から来るのかさっぱりわからねぇよ」


僕はサイラスさんに軽く笑いかけ


「駄目なら違う方法を考えればいいんですよ。

 手荒な方法もありますが、それは最終手段ということで……」


「……」


「そうと決まったら今日中に色々準備をする必要がありますね……。

 明日には城に行きたいですし」


明日にはというところで、サイラスさんの目が真剣になり

自分の役割を僕に確認する。


「俺は吟遊詩人に雇われた冒険者って事でいいよな?」


「ええ……問題はアルトなんですが……」


名前を呼ばれた事で、アルトが本から視線を外し僕を見つめる。


「アルト、宿屋で留守番……」


「ししょうと、いっしょにいく」


僕が全て言う前に自分も行くと主張する。


「うーん……僕の付き人って言う事でいいかなぁ

 僕もアルトも髪の色を変えて……瞳の色も変えて髪の長さも変えるかな」


「なぜ?」


「この姿がばれてしまうと、この国で動きにくくなるでしょう?

 僕はこの国に仕える気はありませんから」


「ああ……そうだな……」


少し寂しそうな表情をするサイラスさん。

サイラスさんの心情を理解して僕は少し苦笑する。


「そんな顔しないでください、ちゃんとサイラスさんが

 第一騎士に戻れるまでお付き合いしますから」


「……」


黙り込んでしまったサイラスさんを励ますように声をかける。

サイラスさんは、心の中にあるものを吐き出すように溜息をつき


「ああ、よろしく頼む」


サイラスさんは、真直ぐ僕を見つめてそう言った。


方向性が決まった事で、さっそく城の周りを歩いて調べたり

吟遊詩人っぽく見える僕の衣装と、付き人っぽく見えるアルトの衣装を用意した。


目立つのを避けるために、サイラスさんとアルトは宿屋で留守番していてもらい

一通り準備を済ませると、宿屋に戻り3人で夕食をとり早めに休んだのだった。



朝から変装のために、魔法を使い

僕は、髪の色を銀色にし目の色を青色にする。

アルトは、髪の色を金色にし目の色を薄い緑にした。


僕の髪の長さは、腰まで伸ばし1つにまとめる。

アルトは肩ぐらいまでの長さにし、頭の上に白いヒラヒラのカチューシャをつける。


僕の服装は、上等の布で作られている白のズボンと淡い色の青色の服に

少し濃い目の青色のマントをつける。


僕は鏡の前で色々チェックしながら呟く。


「吟遊詩人って顔の整っている人が多いですよね。

 僕では少し見劣りするかもしれませんが……こればかりはしかたありません」


僕の呟きを聞いて、サイラスさんが口を開いて僕を見ている。


「どうしたんですか?」


「……いや……セツナお前それ本気で言ってるのか?」


「え? ええ」


「……」


なにやら黙ってしまったサイラスさんから視線を外しアルトを見る。


「アルト着れた?」


「ししょう……これ……」


「ああ、やっぱり可愛いね。似合っているね」


アルトを見て笑う。

サイラスさんが、僕の言葉につられてアルトを見て驚愕の表情を浮かべる。


「……アルトなのか?」


「うん」


「セツナ……どう見てもアルトがメイドの女の子に見えるんだが……」


「見えるようにしているんですよ……」


アルトの服は、膝丈のメイド服だった。

色は黒ではなく、淡い青色に白いエプロンだヒラヒラのカチューシャは白色にしている。


「ししょう、おれ、おんなちがう」


「知ってるよ……」


「これ、おんなもののふく」


「変装なんだよ。人間と獣人と言うことで目立つだろうしね

 これだけ接点がなければそう簡単にはばれないでしょう?

 それともアルトここでお留守番している?」


アルトの寝ていた耳がピンと立って一生懸命首を振る。


「おれ! みもこころも、めいどに、なる!」


置いていかれるのがよほど嫌なのか、訳のわからないことを口走る。

というか……そういう言葉を何処で覚えてくるのかな?


「……付き人さんの演技でいいからね?」


僕の言葉が聞こえているのかいないのか、何かを決心したような目で

僕を見上げていた。


僕はアルトから視線を外し、カバンから竪琴を出しアルトに渡す。


「アルトはこれをもって僕の後ろから歩いて来るんだよ」


「はい、ごしゅじんさま!」


「……」


なりきっているアルトにあえて何も言わず……僕達は城の近くまで

転移を使い移動した。


宿屋から出るところを見られるのを避けるためだ。

城の入り口に、謁見を申し込む為の受付があるらしいのでそこまで歩いていく。


途中、チラリチラリと人の視線がこちらに向いているのがわかるが

気にせず目的地まで歩く。


受付の順番がまわってきた所で、受付の人にカバンからアネモネの花を取り出し

ユージン王子に渡してもらえるように頼む。


アネモネの花は、必ずユージン王子の手元に届くように魔法がかけてある。


「私は、ユージン・リペイド王子様が遊学のおり

 お目をかけていただきました吟遊詩人です。

 本日は、私の国の珍しいアネモネの花と歌を献上しにまいりました」


もちろん、珍しいアネモネというのはサイラスさんのことだ。


受付の人に、謁見したい理由を述べ、書類に名前と人数を書く。

名前は全員偽名を使う事にした。


僕はセナ、アルトはアリス、サイラスさんはラスというように。


暫く待つように言われ、そしてすぐに謁見の許可が下りた。

僕達は、兵士に案内されて城の中に足を踏み入れたのだった。





読んでいただきありがとうございます。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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