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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『アネモネ : 貴方を信じて待つ 』
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『 僕達とリペイドの城下町 』

 洞窟を抜けてから3日ほど歩き、途中に村もあったのだが立ち寄らずに

リペイドの城下町にたどり着いた。


リペイドの町は思ったよりもにぎやかで

帝国の影に脅えた様子もなく、そこで生活している人の顔は活気付いていた。


水面下では、色々な攻防を繰り広げているのだろうが

国民を不安にさせないような対策をとっているのだろう。


少し早歩きのサイラスさんの後ろをついていきながら、僕とアルトは新しい町に

興味を引かれていたのだった。


サイラスの足が止まる、目前に見えるのは " 木の葉の酒場 "と看板が掲げられていた。

右足を踏み出し、一目散に酒場に入ろうとするサイラスさんの腕をとって止める。


「ラス? お昼から酒場にいくつもりですか?」


冒険者ギルドで登録した名前で、サイラスさんを呼ぶ。

僕が止めたのを少し不審げに見るサイラスさん。

サイラスさんの額には、竜紋が隠れるようにバンダナが巻かれている。


「まずは、宿屋にいって荷物を解くべきだと思いますよ」


「そんなひまは……」


サイラスさんが、一刻も早く酒場に行きたい気持ちはわかるのだが……。

僕はサイラスさんにしか聞こえないように言う。


「酒場に見張りがついています、視線を動かさないでくださいね」


僕の一言で、サイラスさんの顔色が変わる。

木の葉の酒場の周りに、雰囲気の違う気配を出している人間が数人いる。

酒場に入る人間をチェックしているようだ。

僕は、怪しまれないように気をつけながらサイラスさんとの会話を続ける。


「この前も、宿屋に行く前に酒場に入って宿がとれなかったでしょう?

 先に宿を決めてからお酒を飲むべきですよ」


サイラスさんは一瞬視線を足元に落とし、すぐに顔を上げ僕の目を見る。

自分でも、酒場の周りにいる気配の違う人間を感じ取っていたんだろう。


「はぁ~、セツナはまじめなんだからいいじゃないか

 少しぐらい」


「駄目です」


「仕方ないな、先に宿屋に行くか」


「はいはい、後ろ髪ひかれてないでさっさと歩いてください」


僕に促され、サイラスさんはしぶしぶという感じを演じながら

僕達はその場を離れ宿屋に向かった。


宿屋の部屋の扉を閉め、部屋に結界を張り話している内容が

もれないように注意を払う。


アルトが、僕に勉強をしてもいいかと聞く。


「ししょう、おれべんきょう、してもいい?」


「うん、今日の分の課題だね」


コクコクと頷き椅子に座って勉強道具を取り出し

問題を解き始める。


最近は僕がノートに、日本で言うところの算数の問題を書き

それをアルトが時間のあるときに解く事になっている。


文字もずいぶんと読めるようになってきた事から、辞書も一冊渡してある。


アルトから視線をサイラスさんに移すと


サイラスさんが、ベッドに腰を下ろし両手で額を抱えて

溜息をついた。


「……あの酒場は……敵の手に落ちたと思うか?」


サイラスさんが顔を伏せたままポツリという。


「そうですね。あの見張りが帝国側なのか

 これから連合国を、組もうとしている国が異変に気がついて

 見張らせているものなのかはわかりませんが……。

 あの酒場経由で、解毒剤を届けるのはやめた方がいいでしょうね」


「……なぜだ? 隠密は味方だろう?」


「普通なら、隠密が経営している店が特定される事はないでしょう?

 国が情報を集めるところなんですから。それが見張られているという事は

 内通者がいるのかもしれません」


「……」


「サイラスさんは、確実に味方である人がわかりますか?」


「……城の状況も、人の状況もわからないからな

 俺が居ない間に変わってないとは言い切れない」


「だとしたら、僕達が直接届けるしかなさそうですね」


サイラスさんが、ぱっと顔を上げて正気かっと言うような顔で僕を見る。


「無理だろう……簡単に謁見してくれる状態じゃない」


「確かに簡単に城に入れてくれるとは思いませんが

 こちらにはサイラスさんがいることですしどうにかなるとは思いますよ?」


「俺は、追放された身分なんだが……?」


「まぁ、元の姿で謁見するのではなくその姿で行ってもらいますが」


「おいおい、余計無理だろう」


僕は掌を口元あたりに当て考える。


「ん……サイラスさん、第一王子が興味を持っている事とか

 好きな趣味とか……ありませんか?」


「ユージンの……?」


「そうです」


「うーん……趣味とかそういう時間をとること自体が

 難しいからな……」


「そうですか、少し考えてもらえますか?」


サイラスさんは1つ頷くと考え始めた。


サイラスさんが考え込んでいる間に、僕は宿屋の人からお湯を貰い

3人分のお茶を入れそれぞれの近くに置く。


僕も椅子に座りお茶を飲みながら、城に入る方法を考えていた。

とりあえず、今の城の状況をちゃんと把握しておきたい。


僕は、魔法の知識の中から情報収集に適している魔法がないか

検索する。


-……花井さん、この魔法はえげつないと思います……。


数個見つかったのだが、花井さんが得意とする情報収集の魔法を

1つ見つけた。


意外だったのは、カイルより花井さんのほうが情報収集系の魔法を

使いこなしていたようだ。


-……花井さんも良くわからない人だよね……。


こういう魔法や、戦闘知識そのほかの雑学などを調べる度に

思う事だった……カイルも花井さんも何をしていたんだろうと……。


-……この2人は、僕みたいにどこかのカテゴリーに入りたいと思ったことは

 なかったんだろうか……? それとも、ちゃんと居場所を見つけられたんだろうか……


ついつい違う方へ意識が流れてしまい、今やるべきことに意識を戻す。


花井さんが使っていたえげつない魔法を使うことにした。

それぞれの属性、火・水・風・土・光・闇を使い透明な魔法の鳥を作る。


鳥の大きさは、10円玉に乗るぐらいのミニチュアサイズだ。

見えたとしたら小さい球体のものが浮いてるようにしか見えない。

もちろん僕にはちゃんと見えている。


概念は使い魔に近いのかもしれない。

花井さんは有り余る魔力で沢山の鳥を作り、世界各地にばら撒いていたらしい……。


火のあるところ、水のあるところ、風のあるところ、土のあるところ

光のあるところ、闇のあるところ……色々な場所での情報収集……。

触れた対象の心や思考までトレースできるという恐ろしい鳥。


-……プライバシーなんてないよねこれ……。


僕はフルッと体を震わせる。

サイラスさんに気がつかれないように、透明な魔法の鳥を100羽ぐらい作る。

僕の周りに音もなく浮いている鳥たち、羽を動かしているだろうに

羽音など一切しなかった。


とりあえず、町に60羽城に40羽飛ばす事にした。


際限なく情報が僕の頭に入ってくるのも面倒そうなのでキーワードを設定しておく

帝国・連合国・宰相・王子・国王……と言った具合に。


心の中で、" 行け "と命令すると一斉に羽ばたいて壁を通り抜け

飛んでいった。


早速情報が頭に流れるが、とてもうるさい……。

頭を抱えてしまいたくなる情報量に、花井さんはどうしていたのかと検索する。


30分もすれば、慣れて気にならなくなるらしい……。

脳の中の処理領域を鳥専用に一部切り離し、情報をいつも流しておく。

1度頭の中に入った情報は何時でも取り出すことが出来るようだ。


-……。


花井さんやカイルの知識量というか情報量が半端じゃない理由が

わかった気がする。


-……情報は大切だよね……でもこれは……。


うまく、鳥専用チャンネルとして切り離せていないのか

慣れていないだけなのか頭痛がしてくる。


花井さんやカイルができていた事だから、僕も出来るはずなんだけどな。

そう思いながらひたすら耐えていた。


「セツナ……? 顔色が良くないぞどうした?」


よほど悪い顔色をしていたのだろう。

サイラスさんが声をかけてくる。


「少し頭痛が……ちょっと横になっててもいいですか?」


「ああ……大丈夫か?」


アルトも心配して僕を見ていた。


「少し休めば大丈夫だと思います」


多分……と心の中で付け足す。


サイラスさんとアルトに横になる事を告げ

僕はひたすら、頭の中に入ってくる情報に耐えるのだった。




読んでいただきありがとうございます。



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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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