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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 カーネーション : 忍耐強さ 』
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 『 小話:ジャッキー 』

クリスマスという事で、緑青&薄浅葱で写真入の小話を書いてみました。


 洞窟を抜け、リペイドの国へと向かう途中の野営地で

サイラスは眠れないからと、少し見回ってくると何処かに行ってしまった。


やはり、自分の国が近くなってくるにつれて落ち着かないのだろうか。


あたりに魔物の気配はないし、リヴァイルの加護もついているから

そう心配はしていない。


寝ているアルトを見て、アルトの日記を開いて読み始める。


"ししょうが、おれにくれたぬいぐるみ。"

"なまえは、じゃっきー、とてもつよそうだ。"


アルトの日記にぬいぐるみの名前をつけたと書いてあった。

ジャッキー……。


どこかの映画に出てきそうな名前だな……確かに名前は強そうだ。


最初はウサギのぬいぐるみの頭の上に斧が刺さっていたんだけど。


「セツ? 頭に斧が刺さっているのは情操教育に悪いわ?」


っとトゥーリが言うものだから、今は頭に斧は刺さっていない。

そういうことを言うのなら……冒険者をやっている時点でどうかと

思わなくもないけれど……動物に斧が刺さっているというのが

駄目なんだろうなっと言う事にしておく。


アルトは何がどう気にいったのか、時間があればぬいぐるみを

カバンから出して一緒に本を読んだり、勉強したりと隣においていた。


同い年の友人が居ないせいなのかな……。

そればかりは僕もアルトに与えてあげる事ができないから。


アルトの日記の続きを読む。

最近は、文章が長くなってきているし書ける文字も格段に増えていた。


"じゃっきーの、とくちょう"

"しろめをむいている"

"てがながい"

"みみもながい"

"あしがながい"

"いろがくろい"

"しっぽに、すこししろいろがある"


-……ぬいぐるみの観察……?

アルトの日記を微笑ましく思い僕はクスリと笑う。


"きょう、じゃっきーがむこうに、きれいな、おはながあるよ

 っと、おしえてくれた"

"いってみると、きれいなはながさいていた"

"ししょうは、いつ、じゃっきーがはなせるように、してくれたのかな?"


-……僕そんな魔法かけてないし!?


背中に嫌な汗が流れる……。

チラリとぬいぐるみを抱っこしながら寝ているアルトを見る。


いやいやいやいや、僕そんな魔法使ってないし……。

ジャッキーは普通のぬいぐるみのはずだ。


-……知らない間に魔法をかけてた?


頭の中に、呪いの人形とか夜な夜な徘徊するぬいぐるみであるとか

夏のホラー特集でとりあげられるような想像が頭に浮かぶ。


そういうものが浮かんだのはきっと

ジャッキーの見た目にも左右されているのだろう


心配になった僕は、アルトのほうへ移動し

ジャッキーを持ちあげ見つめる。


-……見た感じは、ただのぬいぐるみなんだけどな……。


-……。


ぬいぐるみに話しかけるのは抵抗がある。

しかし、確認しておかなければいけないだろう……。

少しの間葛藤し……そして溜息をつき……小さな声で話しかける。


「ジャッキー? 君は話せるのかい?」


一応、話しかけてみるがやはり反応はない。


「……」


なにか、合図みたいなものがあるのだろうか?

よくアルトは頭を、ぽんぽんっと叩いているけど……。


-……。


僕は、ジャッキーの頭をぽんぽんと叩き

もう一度声をかけてみる。


「ジャッキー、話せる?」


すると……。


「クククっ……」


っと言う笑い声が聞こえた。


少し驚いてぬいぐるみを見る。

本当に、話した!?


僕は暫くジャッキーを見つめていると……。


「クククク……」


おかしい、声はジャッキーから聞こえてるのではなく

後ろから聞こえる……。


振り返らなくても誰かわかる……。


「……ぶはっ、駄目だ……死ぬ……死ぬ……笑い死ぬ!」


そういって、今まで必死に笑いをこらえていたのだろう

サイラスが声を出して笑い出した。


僕は、静かにジャッキーをアルトの横に戻し……アルトの周りに

遮音の魔法をかける……少し、うるさくなりそうだから。


「ねぇ? サイラスさん?

 何時から見ていたんですか?」


振り返らずに聞く僕に、サイラスさんは


「え……日記を読み始めたところから?」


そう……最初から見ていたんですか……。


「今日のアルトの日記の文章を教えたのはサイラスさんですね?」


ヒーヒーっと笑いながら機嫌よく答えてくれる。

悪戯が成功したのだから、機嫌も良くなるだろう。


「ああ、アルトにジャッキーが向こうに綺麗な花が咲いてるって

 言ってると教えてやったんだ、セツナが魔法をかけたのかなって」


「……」


「まさか、本気でぬいぐるみに話しかけるとは思わなかったけどな!

 葛藤している様子が……ククっ……」


お腹を抱え笑っているサイラスのほうへ

僕はゆっくり振り向いて、サイラスさんと視線を合わせ……にっこりと微笑む。


「……」


凍りついたように動かなくなるサイラスさん。


「僕が、日記を読んでどういう反応を示すか見たかったんですね」


笑顔はちゃんと顔に張り付いているし、声もいつもの通りの声だ。

なのに、サイラスさんの顔からフツフツと汗が流れ落ちている。


「あ……セツナ……?」


「サイラスさん、元気ですね

 眠れないようなら僕が訓練に付き合ってあげますよ。

 体を動かせば……眠れるでしょうから……」


洞窟を出たあたりから、アルトと僕の訓練に

サイラスさんも加わるようになっていた。


リヴァイルから貰った力の加減を覚えなければいけなかったのだ。


「い……いや……そろそろ寝ないと……明日もあるし?」


後ずさりしながら……僕と距離をとるサイラスさん。


「大丈夫ですよ、その後にちゃんと魔法で蘇生してあげますから

 先ほども、死ぬって言っていましたし……」


「そんな魔法ないし!?

 そういう意味じゃないし!?」


顔が青くなって、声が裏返っている。


「サイラスさんなら大丈夫です。

 ちょっとやそっとじゃ死なないですから……」


「アルトが起きるとかわいそうだろう?!」


「気にしなくてもアルトの周りには遮音の魔法をかけてありますし

 起きません……心置きなく叫んでください」


「叫ぶ!? 叫ぶってなんだ!?」


サイラスさんのそのセリフを開始の合図として僕はサイラスさんに

風魔法で攻撃を仕掛けた……。


-……。


-……。


大の字になって伸びているサイラスさんを見下ろしながら

微笑みながら声をかける。


「これで気持ちよく眠れそうですね」


「……」


「明日も、早いですからそろそろ寝ましょうか」


「……」


疲れて、声も出ない様子のサイラスさん。

恥ずかしいところを見られた記憶を上書きするように

サイラスさんに報復した僕は、サイラスさんに回復の魔法をかけアルトのそばに戻る。


サイラスさんは動く気力もないのか、そこで寝てしまった。

僕は苦笑を浮かべながら、サイラスさんの周りに結界をはり僕も眠りについたのだった。


朝、アルトが起きてサイラスさんを見つけ不思議そうに首をかしげていたのだった。





アルトへ


ジャッキーというなまえは、とてもつよそうななまえだね。

ぬいぐるみが……もし、はなすことがあったら……。


にっきにかかずに、すぐぼくにおしえてください……。


最後の一文は、どうしても書かずにはいられなかったのだ……。




読んでいただきありがとうございます。

写真は、薄浅葱の手作りのウサギです。


画像はこちらからどうぞ。

http://2188.mitemin.net/i15771/

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