『 私と手紙 』
「それでは、リヴァイルさん転送よろしくお願いします」
「ああ……それから、セツナ私のことはリヴァイルと呼べ」
少し意外だという表情をするセツナに
「どのような理由であれ……騎士契約を交わしたからな。
セツナの望みは私と対等であることなのだろう?」
セツナは少し俯き、チラリと私を見る。
「そうですね、兄さんっと呼ぶその日まで」
そう言ってニヤリと笑うセツナに、私は眉間にしわがよるのを
はっきりと意識しながら答えた。
「私は、トゥーリの番として、お前を認めていない」
「時間はたくさんありますし……ゆっくり懐柔していきます。
まずは……トゥーリのご両親からですね」
外堀から埋めますよ発言に思わず苦笑する。
「私より……父の方が難しいと思うがな」
菫色の瞳に、決意を灯しながら私の目を真直ぐに見つめるセツナ。
「時間はたくさんありますから……」
セツナの言葉に含まれている様々な意味を読み取り
私も深く頷いた。
-……そう、2年後で終わりではないのだ。
私は、転送魔方陣に魔力を籠め始める。
「リヴァイル様、ありがとうございました」
「道を違えるなよ」
「はい」
加護を与えたサイラスという人間に釘を刺し
次にアルトに視線を向ける。
トゥーリの兄と認識してからは脅えもせずに
私と話すようになった獣人の子供。
-……きっと、トゥーリはこの子供を可愛がっていたのだろう…… 。
「お前が強くなって、力の使い方を覚えたら
私がお前に加護をやろう……」
そういう私にキラキラした瞳を向けて、大きく頷いた。
アルトから視線をセツナに移し、セツナが頷く。
頷いたのを見てから、私は魔力を籠め3人を転送させた。
3人を見送り、引き出しから手紙を出し椅子に座る。
-……。
「この私が人間に加護を与え、騎士の契約までするとはな……」
少し自嘲気味に呟く。
弟が自分で命を断ったと聞いたときの衝撃は今も忘れられない……。
それが偽りで塗り固められ、弟の命を契約者本人ではなく
違う相手の為だと知ったときは、その国の人間を滅ぼそうとまで考えた。
しかし、契約をしたのは弟であり
その道を選んだのも弟なのだ……。
その為に、道を踏み外す事になった妹……。
親友だった男との友情を壊した私……。
何もかもが一度に私の手の中から零れ落ちていった。
-……。
今はともかく昔は、竜が人間の国を滅ぼす事など珍しくはなかった……。
その事で裁かれた竜などいない。
だから、妹の罪は禁忌となっている呪歌を使い大地を不毛の地にしたことだろう……。
妹の他にも禁忌を破った竜はいる。呪歌ではないが大地を海に沈めたものもいる。
でもその竜たちはここまで重い刑を科せられていない……。
それに……竜が関わった事件とはいえ、人間にそこまで干渉すること自体が
今まで一度だってなかったことだ。人間の呪いを解き、代わりの土地を見つけ
与えた事など……。
その事で私は竜王に不信感を抱き、人間に対して冷酷になっていた。
人間を見つければ殺し排除した。
竜王と契約を結んでいる以上、竜王のそばを離れる事ができなかったし
竜王も離れる事を許さなかった。
300年、私の心は晴れる事はなくただ時が過ぎるのを待っていただけだった。
竜王が変わり契約が破棄されると同時に国を飛び出しこの大陸に渡った。
生きているのか死んでいるのかもわからないが、妹のそばに居たかったのだ……。
独りで暗闇の中に居るであろう妹を思うと心が引き裂かれるようだった。
徐々に増していく体の痛み……それでも国に帰ろうとは思わなかった。
セツナが私の傷を癒したときに体の痛みも消えた。
あの力が何なのか、なぜそれほどの力を持っているのか聞きたい事は沢山あったが
私がセツナを追い詰めた手前聞くことが出来なくなってしまった。
ふっと、セツナとの契約の内容を思い出し口元が緩む。
-……対等であること……。
そんなことを言うとは思わなかった。
妹が、番に人間を選んだという事が信じられなかったが……。
なんとなく、妹の気持ちがわかるような気がした。
人間との契約など……一番嫌悪していた私が悪くないと思っているのだから。
セツナには一生言う事はないだろうが、"トゥーリ"という名も気に入っている。
セツナ自身、少し危ういところはあるが……。
セツナが私に残していった
カイルからの最後の手紙に視線を落とし溜息をつく。
封を開き手紙を取り出し読む。
"またな、リヴァイル
それから、弟をセツナを頼む
-カイル-"
-……。
たった三行の手紙。
手紙を持つ手が震える……肩が震える。
「ククッ……」
笑いがこみ上げてくる。
「あは、あははははは」
腹が痛い。
最後の最後まであいつらしい手紙だ。
謝罪でもなく、言い訳でもなく、私を恨む言葉でもなく
私のした事を許すという言葉でもない。
ただ、そう……カイルのいつもの別れ際の言葉。
可笑しくて涙が零れた。
ああ、あいつはそういう奴だった。
様々な思いが胸をよぎるが……カイルに対する罪悪感はもうなかった。
カイルが気にしていないといっているのだ
私のことを親友だと思ってくれているのだ。
口元に笑みを浮かべ、カイルに語りかける。
「お前の弟は、私の弟にもなりそうだ……当分認める気はないけどな」
私はカイルの手紙を胸ポケットに入れ
様々な思いと、決意を胸にこの洞窟を後にした。
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