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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 カーネーション : 忍耐強さ 』
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『 僕とトゥーリの兄 : 後編 』

 2杯目のお茶を入れ、先ほどまで殺しあっていたとは思えないほど

ゆったりと時間が流れているように感じる。


僕がカイルの知り合いであるという事が

リヴァイルさんの感情に、どういう風に作用したのかわからないけれど

僕に対する態度が少し遠慮のないものになった……。


僕がトゥーリとどうやって出逢ったかという話をし

今のトゥーリの現状を話し独りではない事を伝える。


リヴァイルさんは話を聞きながら、所々で僕に質問をし全てを話し終えた後

少し安心したような憔悴したような感じの表情を見せた。


「そうか……独りじゃないのか」


「一緒に居るのは、僕と契約した精霊ですけどね」


「私がトゥーリに手紙を送ることも可能なのか?」


「僕経由でしたら可能ですが……僕は送るつもりはありませんよ」


僕の送るつもりは無いという言葉に、僕を睨む。


「僕は、リヴァイルさんと逢ったという話もする気はありません」


「なぜだ……」


少し苛立ったような声を上げるリヴァイルさん。


「トゥーリが泣くでしょう?」


「……」


「トゥーリの為に、貴方がずっとこの大陸に居たなんて

 話せるはずがないじゃないですか。

 自分の為に貴方がそんな状態で居ると知ったら

 どうおもうんでしょうか?」


「……自分を責めるな……」


「そうです、だから後2年リヴァイルさんも我慢してください。

 僕だって我慢するんですから……」


「ふんっ……」


僕の気持ちなどしったことかと鼻で笑うリヴァイルさんに

少し殺意が沸いた。


数秒にらみ合ったまま微動だにしない僕達……。

こんな事をしていても仕方ないので、次の話に移る。


「とにかく後2年は会えないんですから

 リヴァイルさんは、竜の国に1度戻ってください。

 戻る前に1つ弟のお願いを聞いてもどってください」


「誰が弟だ、何をふざけた事を言っている。

 私はここから離れるつもりはない」


「いえ、離れてもらいます。

 ここを、人が通れるようにしたいですから」


「なぜ……私がお前の言う事を聞かなければいけない……」


「え? 僕に負けたから?」


勝ち誇ったように笑って答えると

僕とリヴァイルさんの間に、冷たい空気が流れる。

今更そんなものは気にしない。


僕は笑みを消し、真剣な表情でリヴァイルさんを見る。

リヴァイルさんも、僕の雰囲気がかわったのに眉をしかめ僕を見た。


「今の貴方では、トゥーリを守る事が出来ない」


「なっ!」


立ち上がり僕の胸倉をつかむリヴァイルさん。

リヴァイルさんと僕の視線が交差する。


「今の貴方のその魔力では、トゥーリを守る事が出来ません。

 僕との戦いでさえ、力の半分も出せていなかったんじゃないんですか?

 魔力が足りないせいで、体の動きが鈍る……思考力も落ちる。

 だから簡単に、僕に毒を盛られるんですよ」


辛辣な僕の言葉に、とても近い位置で殺気を含んだ目を僕に向ける。

彼の殺気を受けながら、僕は話を続けた。


「貴方はトゥーリのことで頭が一杯だ。

 だから先の事がまったく見えていない。

 2年後、魔力が暴走しないとわかったら

 竜王はどう行動するんでしょうかね?」


瞳の中の殺気が消え、深く思案する光りが灯る。

僕の胸倉を握っていた手が下に落ちる。


「……トゥーリを殺そうとすると思うか……?」


「十中八九、殺そうとするでしょうね」


「私も……おかしいとは思っていたんだ。

 人間は竜を敬ったり畏怖したり忙しそうだが

 私達にとって人間は正直どうでもいいものだ。

 その人間に魅せられる竜もいるが……」


ずっと心の中に貯めていた何かを

吐き出すように語るリヴァイルさん


「禁忌を犯した事は確かに裁かれるべきだが

 あれほどまでの刑を科せられるのは納得がいかなかった。

 だから、何度も竜王に刑を見直してくれと頼みに言ったが

 聞き入れてはもらえなかった……」


「今まで竜の一族の中で禁忌を犯した人はいないのですか?」


「いや……いた若い竜が多いが、だけど一族を追放されたものは居ない」


「リヴァイルさんは、カイルと親友でしたよね

 カイルは何か言っていませんでしたか?」


「……あいつは、ただ私に謝っていた。

 私が殴ろうが蹴ろうがただ黙って受け入れていた」


「……」


「妹が……トゥーリがかけた呪いを解く事が出来るといって

 竜王と交渉するからと言ってくれた。トゥーリの刑が軽くなるようにと」


僕は黙ってリヴァイルさんの話しを聞く。


「だが……カイルは……人間だけにかかった呪いを解き

 大地にかかった呪いは解かなかった……。

 トゥーリは幽閉され、一族を追われた……。

 その先にあるのは妹の死だ……私は逆上したよ

 理由はどうあれ人間に弟を奪われ、その人間の呪いを解き助けたカイルに

 人間は助けて、トゥーリを助けてはくれないのかと」


リヴァイルさんはぎゅっと拳を作る、その手は少し震えていた。


「理由も言わない、言い訳もしないカイルに…

 私は二度と顔を見せるなといった。

 八つ当たりだ……行き場のない怒りをあいつにぶつけた。

 カイルはなにも悪くないのにな……」


カイルが手を出せなかった理由とは……いったい何なんだろうか。

それがわからなければ、僕も下手に手を出す事が出来ない。


親友と親友の妹をカイルは助けようとするはずだ……。

それが出来なかったのはなぜ?


考えれば考えるほど分からなくなっていく。


「それ以降、カイルは一度も竜の大陸には来なかった……」


リヴァイルさんは少し疲れた顔をして肘を机につき

両手で頭を支え項垂れていた。


「リヴァイルさんはよく、この大陸にこれましたね?」


「ああ……700年ほど前に竜王が代替わりしたからな。

 前の竜王も生きているが……竜王の代替わりの時だけ

 騎士契約が一度破棄される、私は新しい竜王とは契約を結ばす

 ここに来た」


「新しい竜王にも頼んでみたのですか?」


「もちろん……結果は同じだった」


「……腑に落ちないところが多いんです……」


僕の呟きに顔を上げその先を促すように僕を見る。


「……トゥーリの結界の中に意味がわからない魔法陣があったんですよ」


「意味がわからない……?」


「ええ、トゥーリの魔力を吸収する魔法。

 結界を維持する魔法。

 太陽と月の力を借り結界を壊そうとするものに攻撃を加える魔法。

 結界の中の物の時間を止めるための魔法。

 何かを浄化する為の魔法……」


「……浄化……?」


「そう、浄化です。

 最初はグランドの国を浄化する為のものかと思ったんですが

 あの魔法陣では大地を浄化するには無理があります」


「……」


「トゥーリの刑は表向き

 若い竜に対する見せしめもあったのでしょう。

 しかし裏では別の意図が働いている。

 それが何なのか僕にはわからない」


「……だから私に戻れというのか」


「別に竜の一族の動向を探るぐらいなら僕一人でもできますが

 使える人は使った方がいいでしょう?

 僕もまだトゥーリと婚姻を結んだ事は

 知られないほうがいいと思いますしね」


「確かに、今なら破棄できるしな」


「破棄なんてしませんよ」


「……」


少し睨みあい、話を続ける。


「それに、リヴァイルさんが2年後トゥーリと会うとして

 そんなヘロヘロの魔力で会うつもりですか?」


「……ヘロヘロ……」


僕の言葉に、がっくりと肩を落とすリヴァイルさん。


「貴方は、2年で魔力をちゃんと回復してください。

 そしてそれとなく竜の国に変わったところがないか調べてみてください」


「……」


「それと……僕にとっても父さんと母さんになるんでしょうかね?

 お2人にも僕とトゥーリのことは言わないようにしてくださいね」


「まだお前の両親じゃない、なぜ話してはいけない」


リヴァイルさんとしては、色々話して安心させてあげたいんだろうけど……。


「竜王の意図を貴方の両親は知っている可能性があります」


僕のセリフに顔を上げてそれはないだろうという顔をするが……。


「竜の愛情は人より深いものでしょう?……貴方が自分の体に鞭打って

 ここに居るように……」


何か思うところがあったのか、それ以上は何も言わなかった。


「何かがあります、その何かがわからなければ

 トゥーリを助ける事が出来ない……」


僕は、冷えたお茶を口に含み飲み込む。


「2年……2年もあるというべきなのか

 2年しかないというべきなのか……お兄さんにとっては

 2年しかないというべきですね、そのヘロヘロを回復させるのに」


「私はまだお前の兄ではない。

 それから、ヘロヘロというな……」


僕はクスリと笑い、重くなりそうな気分を払拭した。




読んでいただきありがとうございます。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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