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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『アネモネ : 貴方を…… 』
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『 俺とキース 』

* サイラス視点になります。

 誰かが起きた気配を感じてその気配を探る。

少しあわてた様子で、パタパタと軽い足音が聞こえる。


俺は暫く寝た振りをしながらその足音を聞いていた。

用意が出来たのか、足音はだんだん遠くなっていく。


俺は上半身を起こし、周りを見渡すがセツナの姿も見えない。

走っていったのはアルトなんだろう。


しかし……セツナが起きた気配をまったく感じる事が出来なかった。

俺の体調が悪かったせいなのか、セツナの力量が俺よりも上なのか……。


-……見た目は学者っぽいけど……。


学者といっていたけど魔法も使えることから魔導師でもあるんだろう。


軽く背伸びをし、体の調子を見る。

思った以上に回復している事に驚く。


-……これなら十分戦える。


そう考えながら、2人が何処に行ったのか興味があり探す事にした。

暫く進んだところに2人はいて、アルトの訓練をしているようだった。


「アルト、体温まったよねそろそろ始めようか」


「はい、ししょう」


気配を消して近づいたはずなのに、こちらをチラリと見るセツナ。

俺は、セツナに気がつかれたことに驚くが

セツナはすぐに俺から視線を外し、アルトの方を見た。

声をかけて邪魔するのも悪いので、訓練の様子を見ている事にする。


セツナは自分の中心に円を書く、その円は今自分が立っている所を中心とし

そこから半歩分動けるぐらいの大きさの円だ。


「それじゃアルト、僕をこの円から出す事が出来たらアルトの勝ちね」


「はい」


セツナの言葉に頷き、ひとつ深呼吸をするアルト。

それを見計らったようにセツナが始まりの合図を出す。


「それでは……はじめ」


アルトが戦闘態勢にはいる、双剣を構えセツナとの間合いをはかっている。

先に動いたのはアルトから。一直線にセツナに向かって行き攻撃を与える。


それに対しセツナは

風の魔法を使い、アルトの攻撃を風の盾のようなもので受けはじく。


体全体を風の防御で守る魔法は見た事があるが

その部分だけの防御魔法が見た事がなかった。


大体にして、風魔法は癒しと守りの力でチーム全体を守る魔法が主流なのだ。

ソロで使っているのを見るのはとても珍しい。


アルトはスピード重視の攻撃を繰り出しているが、攻撃が軽い。


-……まだちゃんと体ができていないしな……。


セツナに攻撃を加えるも、それを防がれはじかれる。

それを繰り返しているのだが、セツナは円の中で一歩も動いていなかった。


-……。


-……俺に同じことが出来るだろうか……。


あの円から出ないで、アルトの攻撃を防ぐ事は俺にもできるだろうが

動かないとなる難しいかもしれない……。


アルトとセツナの動きを見ながら、無意識に自分の頭の中で

シミュレーションしている。


何度か繰り返しているうちに、アルトの動きが変わってくる。

セツナの死角や隙を見つけて攻撃をしかけているらしい。


でもそれはわざとセツナが作り出しているようだ。

だんだんと、アルトの息が切れてくる。


セツナはそんなアルトに

にっこりと笑い、アルトを挑発する言葉を吐いた。


「アルト、弱すぎだね?」


その言葉にアルトの目の色が変わる。

先ほどよりもスピードが上がるが……その分攻撃がぶれている。

腹の辺りに隙ができ、セツナがアルトの腹に思いっきり蹴りを入れた。


「うぐっ……」


蹴られた衝撃で後方へ吹っ飛び、木に激突するかと思われたが

セツナが魔法でアルトと木の間に緩衝魔法を唱えたらしい。


蹴られた腹を押さえ

蹲って動けないアルトに、セツナが淡々と告げる。


「ねぇ、アルト今のアルトの攻撃はどうなのかな?」


「……」


「安い挑発に乗って、攻撃を仕掛けた挙句

 大きな隙を作って返り討ちにあう。

 僕が魔法を使わなければ、木と衝突していたよね?

 お腹に受けたダメージと、木にぶつかった時のダメージが

 体に残ることになるね?」


「……はい」


蹴りを入れられた衝撃が大きいのか、返事をするのもやっとのようだ。


「ダメージを受けることはこれからもあるだろうけど

 そのダメージが避けることが出来ないものなら

 どうすれば最小限に抑える事が出来るのか

 そういうことも考えながら動かなければ駄目だ。

 防ぐ事が出来ないのなら、自分の怪我は最小限に

 一瞬一瞬の判断が大切だよ」


「はい、ししょう」


アルトの様子を見て

今日はこれ以上無理と判断したのかセツナが終わりを告げる。


「それじゃ、今日はこれで終わりにしよう」


「ありがとうございました」


その後、セツナはアルトに回復魔法をかけていたが……。


-……。


正直2人の訓練を見て驚いた。

師弟というが、セツナのアルトに対する態度は

師弟というよりも、兄弟みたいだと思った。

年の離れた弟と一緒に、旅をしている青年という感じだった。


しかし、この訓練を見て師弟なんだという事が納得できた。

訓練に甘さがまったくなかったのだ……。


話す言葉はとても丁寧で優しい感じがするのに

殺気を放っているわけでもない、ピリピリとした空気を感じた。


-……生きる方法を叩き込むという感じだ……。


「おはようございます、サイラスさん。

 体の調子はどうですか?」


2人の訓練に引き込まれていたらしい俺は、セツナの挨拶で我に返る。


「ああ……体は大丈夫だ。

 セツナの手当てのおかげだな」


「鍛え方が違うからでしょう」


そう言って軽く笑うセツナから、アルトに視線を移す。


「おはようございます、さいらすさん」


目があうとアルトもちゃんと挨拶をしてくれた。

蹴られたところは大丈夫なようだ。


「おはよう、アルト……訓練厳しそうだな」


俺の一言に顔を顰める。

自分自身に納得が出来ないそんな感じの表情だ

その感情は俺にも覚えがあることだった。


「きびしく、ない」


「強くなるには必要な事だしな」


俺の言葉に頷き、手のひらをぎゅっと握る。


「朝食をとってから、村に移動するとしましょう」


そう言って、歩き出すセツナの後ろをアルトがついて行き

その後を俺が付いていった。


村までは簡単に着き、俺は宿屋でセツナとアルトを待っていた。

俺の服は目立つという事で、セツナが服を買ってきてくれることになったのだ。


暫く待っていると2人が帰ってきて、服のほかにも色々荷物を調達してきてくれたらしい。

俺は今無一文なのでどうしようか悩み、唯一残っていたナイフをセツナに渡そうとした。


「今俺の手持ちのものはこれしかない

 代金の代わりにはならないが……貰って欲しい」


セツナはそのナイフを手に取り


「これは、サイラスさんの大切なものではないんですか?」


何故そのような事がわかるのだ……。

そう、あのナイフはユージンがくれたものだ。

キースとユージンもおそろいのナイフを持っている。


「なぜ……そう思う?」


「……ナイフにかかっている魔法が、サイラスさんを守るものだからですよ。

 このナイフの魔法は、サイラスさんしか発動させる事ができません。

 1度発動してしまえば効力を失って、普通のナイフになりますが

 それでも売るといい値段がつくんじゃないでしょうか」


「え……?」


「このナイフには保護の魔法がかかっていますよね? このナイフをサイラスさんに

 渡すときに何か言ってませんでしたか?」


俺は少し考え……。


「そういえば、呪文を唱えると1日保護の魔法がかかると……」


「ああ、ゼグルの森からこの村まで安全にたどり着く方法を

 ちゃんと確保してくれていたんですね」


俺は絶句し……キースが立てた計画の全容をここではじめて知ることが出来たのだった。


「俺は本当に何も見ようとしてなかったんだな……」


「そうかもしれませんが、もしサイラスさんがその事に気がついて

 1人でこの村についていたとしたら僕とは出会っていませんね」


「……何がいい方向へ転ぶかわからないってことだな」


俺は苦笑し、セツナは微笑する。


「どちらにしても、生きているからわかったことです」


「ああ」


セツナは俺にナイフを渡す。


「これは、サイラスさんが持っておくべきものです」


俺は何も言わずにナイフを受け取る。


「すまない……」


「ちゃんと報酬はいただきますので、大丈夫です」


俺はナイフをじっと見つめ

キースが立てたであろう計画を、俺なりに組み立ててみた。

帝国を欺き、連合に知られないように国王の解毒剤を手に入れ国に戻る。


キースはゼグルの森に飛ばした後の事もちゃんと考えていたんだ……。

そうすると、戻る方法も考えていたに違いない……何かあるんだ。

戻る方法が、それはきっと俺も知っているはずなんだ。


考え込んでしまった俺の邪魔する事はせず

セツナとアルトは自分達の部屋へ戻っていった。


-……キース、お前は俺をどうやって国に戻すつもりだったんだ……。


リペイドの地理に関する情報を片っ端から思い出していく。

普通は船で海を渡るしかないはずだ……だけど、何処かに陸路があるんだな……?

あるから飛ばしたんだろう……キース。


心の中でキースに話しかける。

あいつが何を考えていたのか、あいつの思考をできるだけ思い出しながら。


-……。


-…………。


-……ありえない……。


1つ思い当たるルートがあった。

それはありえないだろう……キース……。


そのルートを使えば10日前後でリペイドには戻れるだろう……が

クットの国とリペイドの国で通行禁止になっていたはずだ。


800年ほど前に使われていた洞窟。

どういう理由で作られたのかは未だにわかっていないらしいが

その洞窟を使って、クットとリペイドは交易を行っていたらしい。


しかし……魔物が住み着いたのだ、騎士や冒険者ギルドの人間が討伐にでたが

誰一人として戻ってくる事がなかったらしい。


だから……クットもリペイドもそこを通行禁止にしたのだ

通行禁止はいまだに解かれていない……魔物が未だに居るのか確認しに行く人間が居ないから。


-……おいおい、俺に確認して来いって言うのかよ……。


800年前だろう? まだ使えるのかその洞窟は……。


でもこのルートを行くしかないんだろうな……色々な不安を胸に抱え

俺は自分の部屋を出て、セツナの部屋に行くのだった。



いつも読んでいただきありがとうございます。

国の配置を簡単に書いた地図を投稿しました。

http://mitemin.net/imagemanage/top/icode/40874/

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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