『 僕とカイル 』
「……ということだ」
カイルは、5番目の勇者の事を話してくれた。
5番目の勇者も、日本から来た人物だったらしい。
名前は、花井重人。
この人物との出会いが、俺の人生を大きく変えたんだと
カイルが笑って言う。
「で、ここからが本題なわけだ
お前の右腕に、腕輪がはまっているだろう?」
そういうと、カイルはチラッと僕の右腕を見る。
「それは、お前の居場所と生命反応を発信している
魔道具とよばれるものだ。」
「……それは、僕が何処に逃げても居場所が分かるし
生死も分かるってことだよね?」
「そうだ、だからその腕輪がついている限り逃げるのは無駄だ。
自分で外すと死ぬ事になる」
カイルは、1つため息を落とすと
「ようは、奴隷の首輪と同じ役割だ。
それをつけたやつが外すか、死ぬ事でしかとることが出来ない。
召喚されたやつは、必ずそいつをつけられる……。
別名は、勇者の証」
忌々しそうに、腕輪を見ながらカイルは話を続ける。
「腕を落としても無駄らしい、右腕が使えなくなったら左腕に移動する。
俺にも、その腕輪がつけられた。毎日毎日、命を削りながら魔物を倒し
国王の命令を実行する事でしか、生きていくすべが無かった……。
そんな生活に、辟易していたときに、さっき話した5番目の勇者と出会ったんだ」
「花井さんには、腕輪はついていなかったの?」
「いや……花井さんも勇者として召喚されたからな。
腕輪をつけられたらしい。だが、今よりは性能が不安定だったこともあってか
魔物との戦いで、仮死状態になった花井さんを死亡と、魔道具は判断したようだ。
花井さんが気がついたときには、腕に腕輪は無かったらしい」
「死亡と判定されるだけの、大怪我って……」
「よく生きてたよな」
「本当に……」
「それでな……花井さんは俺にこういった。
腕輪が無くなったの見て、自分の人生をやり直そうと思ったって。
花井さんは、魔物を殺す事に躊躇はしなかったが
自分の意志をねじ伏せられる生き方が苦痛だったって……」
「……」
そこでカイルは一度話を切った。
きっと、カイルも花井さんと同じ事を考えたり、思ったりしたんだろうと思う。
僕は、カイルが話し出すのを黙って待っていた。
カイルは、そんな僕を見て軽く笑い少し話題を変えるような事を言う。
「花井さんはさ、この国の5000年前の歴史書にのっているんだぜ?」
「有り得ないでしょう? 花井さんが5000年前の歴史書に名前が載っているなら
カイルと花井さんが逢うのは、無理なんじゃないの?」
驚きながら答える僕に、カイルが悪巧みを考えているような顔を見せ
「刹那、俺の年齢を当ててみろよ?」
「見た目は、25歳くらいに見えるんだけど
花井さんの、話を聞いた後じゃ……25歳ではないなって思うよ」
「そういうのを加味して、当ててみろって言ってんの」
「うーん……。花井さんが何かの魔法を使ったとして
カイルは、35歳ぐらい?」
「はずれ。俺はこれでも2500年ぐらいは生きてるんだぜ?」
「……」
目を見開いてカイルを見る僕。
そんな僕に、カイルはこの世界の寿命というものを教えてくれる。
この世界は、魔力量が多いほど寿命が長いらしい。
国の平均寿命は、大体200歳~250歳だそうだ。
王族とか貴族等の平均寿命は、350歳くらい。
あくまでも、平均というだけで
魔導師などは、それ以上生きる人も多いらしい。
魔力の無い種族もいるらしく、そういう種族は
人間とは違う寿命を持っているという事だった。
王族の平均寿命が350歳としても
カイルの2500歳というのは、いきすぎなような気がする……。
「花井さんもそうだけど、俺も魔力のそこが無い。
だから、不死に近いんだと思う」
そう告げると、カイルは真剣な目で僕を見た。
「俺は、花井さんからこの膨大な魔力と花井さんが培ってきた
知識、技術、能力を貰ったんだ。
花井さんが、この世界を十分生きて死を望んだ時に、俺と逢った。
死ぬまで外れない、俺の勇者の証を見たときに花井さんはこういったんだ」
カイルは、少し懐かしむような目をしながら続きを語る。
「お前は、その腕輪が外れたらこの世界で何がしたい? てな」
その問いは、カイルが僕にした問いとよく似ていた。
「だから俺は、自由に生きたいといった……。
がんじがらめに……縛られた生ではなく、自由に生きたいと」
「……」
「そう答えた俺に、花井さんは……自分はもう十分なぐらい人生を楽しんだ
だから、私が君に自由をあげようと言ったんだ」
カイルは、その時の花井さんとの会話を思い出すように話す。
「そしてだな……花井さんは俺に、3度目の人生を与えてくれた。
だから、俺はここに居る。花井さんに会わなければ……俺はこの世界を
呪ったまま死んでいただろうな」
僕は、黙ってカイルの話を聞いていた。
この先に、カイルが話すだろうことを、半分分かっていながら
カイルの話をさえぎることはしなかった……。
「だから、今度は俺がお前に3度目の人生をやる。
お前はその体を捨てて、俺のこの体にお前の魂を入れる事になる。
簡単に言えば、お前の魂と俺の魂が混ざり合うって事だな……。
もちろん、花井さんの魂も入っている。
魂が混ざり合うといっても、俺達の……俺と花井さんの魂はただ単に
情報というものに置き換えられるから、お前の人格になんら影響されるものではない。
膨大な魔力、俺達の技術、知識、能力全てがお前のものになる。
花井さんも俺も強かったから、融合したらお前最強だぜ?」
そう言って笑うカイルに、僕はポツリと呟く。
「嫌だ……」
やっと出会えた、僕に語りかけてくれる家族以外の人。
この世界で、僕を理解してくれる友人が出来たと思った。
心許せる、親友が……。それなのに……。僕の心は暗く沈んでいく。
「刹那、俺は2500年生きてきた。
お前は、日本でもここでも、まだ何もなしていないだろう?
お前は生きるべきだ、色々なものを見て生きていくべきだ。
もちろん、楽しい事ばかりじゃないだろうし
辛い事も多いはずだ。ここは地球じゃないし、価値観自体が違う。
正直生き易いとは思わない。だが、それでもお前は生きるべきだ」
カイルが、僕を諭すように語り掛ける。
「い……嫌だ」
「お前が、この話を断っても、俺はこの世界から消えるつもりだぜ?」
頑なに拒否する僕に、カイルは衝撃的な言葉を僕に投げた。
余りにもな言葉に、僕の体が固まる。
「刹那……。お前がこの体を使ってくれたら
俺の自我は消えるが、お前と一緒にいる事が出来る。
お前は、この世界を自由に旅する事が出来る。
お前が、望んだ世界を歩く事が出来るんだ。
一歩踏み出せよ、刹那」
何も言う事が出来ない僕に、カイルは淡々と僕を追い詰めていく。
「俺は、お前に生きて欲しいよ。
まだ逢って数時間しかたっていないが
友達には、幸せになって欲しいと思うものだろう?」
僕の頬に、涙がつたって布団に落ちる。
「俺も花井さんも、剣術も体術も完璧だ。
魔法の能力も、俺達に敵う奴はいないだろう。
その使い方も、全部お前のものになる。もちろんこの世界の常識も
俺達が生きてきた知識も全てだ。だが……刹那、身を守る能力は別として
知識は、検索が出来るようにしておいてやるな」
そう言って笑うカイルに、視線を向けるとカイルは少し
困ったような表情を作る。
「お前、日本でも外に出た事が無かったんだろう?
全てを最初から知っているというのは便利だが……。
お前が、調べたいと思わなければ、情報が提供されないようにしておいてやるよ
そのほうが楽しいだろう? お前は、本を読むのがすきそうだしな。
最初から、分かっている世界なんて新鮮味が無いだろうし……。
お前は、お前のペースで経験しながらこの世界を歩いていけよ」
「……」
「イメージとしては、パソコンの検索をかけるような感じだな
便利だが……不便みたいな?」
視線をさまよわせている僕に、カイルが力のこもった声を僕に飛ばす。
「刹那、頑張ってみろよ」
その言葉に、断ろうとしていた感情は薄くなり
僕は心を決める。
「うん。カイル……頑張ってみるよ。
ありが……とう」
そう呟く僕に、カイルは満足そうに頷き、楽しそうに僕の未来を語る。
「刹那、世界征服なんてのも夢じゃないんだぜ?
俺と花井さんの能力……まぁ融合すれば分かるだろうが
2人の勇者の能力に、お前の能力が合わさるんだ。
お前の能力が、何かはまだ分からないが……そのうち分かるだろう。
旅に飽きたら、魔王になるなりどこかの国を守るなり好きなように過ごせばいい。
一生旅をしてもいいけど……人と関わっていけよ刹那」
人と関われというカイルに、僕は
「カイルは……? カイルは2500年という時を、どう過ごしていたの?」
「それは秘密だな、そうだな……情報の中に鍵を2つかけて置く。
お前が、その鍵を見つける事ができたら
俺の過去を、見る事ができるようにしておいてやる……。
俺は、お前の記憶を見たわけだしな」
カイルは、少し寂しそうな目を向け僕にそう告げると
一度目を閉じ、ゆっくりと目を開ける。
「心の準備はいいか、刹那?」
心の準備なんて出来るわけが無い。
色々と、心の中に渦巻く感情が暴れている……。
本当は嫌だと叫びたいのに、何かが邪魔をして叫べなかった。
カイルが僕の背中を押してくれたんだ……。
色々な感情に蓋をして、僕はカイルに頷いた。
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