『 僕とサイラス 』
2杯目のお茶を入れ、サイラスさんが落ち着くのを待った。
アルトはもう寝てしまっている。
いつもは狼の姿になって、一緒に寝ているのだけど
サイラスさんが居るため一人で寝ていた。
隣に不気味なぬいぐるみがあるのは、寂しいからだろうか。
しかし、あのぬいぐるみと一緒に寝るのなら1人で寝たほうが
安心して寝られるようなきがするのだが……。
目が覚めて目があうと怖くないのかな?
そんな事を考えながら、アルトを見ているとサイラスさんも
お茶の入ったカップを持ちながらアルトのほうを見ていた。
「1つ聞いてもいいか?」
落ち着いた声で、サイラスさんが僕に話しかけてくる。
「ええ、どうぞ」
カップに視線を落とし少しためらうように
「あの時……あの時、俺が助けてくれといわなかったら
セツナ……さんはどうしていたのか……って」
「僕のことは呼び捨てでかまわないですよ」
僕の言葉に少し苦笑しながら
お茶の入ったカップから視線を外し僕を見る。
「あの時というのは、サイラスさんが死のうとしていた時ですよね」
「ああ……」
「もし、あの時サイラスさんが助けを否定していたなら
僕は魔法を解いていたでしょうね、そしてサイラスさんが襲われたのを
確認してからその魔物を殺していた」
僕の答えに少し意外だという表情をし、唇を湿らせる為か
お茶を一口口に含み飲み込む。
「そこは拒絶しても助けるのが普通じゃないのか?」
「そうですね、普通は問答無用で助けるのかもしれませんね」
「じゃぁなぜ?」
僕は少し考えながら、僕のカップに新しいお茶を入れる。
そして視線をサイラスさんに移し
「自分の思う通りに生きる事が出来ないなら
死に場所ぐらい、自分で選べばいいんじゃないかと」
僕を凝視するサイラスさんに続けて話す。
「死に場所も、死に方もその人が選択したのなら
それでいいんじゃないかと僕は思います」
チラリと僕はグローブに隠れているギルドの紋様に視線をやる。
そこには、椿の花が刻まれている。
「そうは思いませんか?」
「……」
「生き様が自由にならないのであれば
死に様ぐらい自由に選べばいいんじゃないでしょうか」
「……生きていたら……いいことがあるかもしれない」
僕はその言葉にクスリと笑ってしまう。
僕の笑いに少し眉をしかめるサイラスさん。
「そういえるって言う事は、今は生きていて良かったと
思う事が出来ているということですね」
少し罰が悪そうに僕から視線を外し頷く。
「ああ、死ななくて良かったと思っている」
「それは良かった」
「セツナはそうは思わないのか?」
僕は首をかしげて、サイラスさんを見る。
「生きていればいつかはいいことがあると
セツナは思わないのか?」
サイラスさんの問いかけに僕は曖昧に笑い
「そう思って生きるのは素敵な事だと思います」
「……」
「僕は、一生懸命生きるべきだと思います。
一生懸命生きて、必死で足掻いてでも生きるべきだと思います。
だけどそれと同じぐらい、自分の引き際は自分で選んでも
いいんじゃないのかとも思っています」
「……」
「ただそこに生きているだけというのであれば
僕はそれはもう死んでいるのと同じ事かと……」
僕は、サイラスさんを真直ぐ見つめる。
「あの時のサイラスさんは、ただそこに在るだけという
感じだったので死を選ぶならそれを尊重しようかと
思いました」
「……確かに」
「生きる意志がないのなら、そこで助けてもきっと
生きるのは難しいでしょうから……この世界はそんなに
優しい世界ではないでしょう?」
何処の国も問題を抱えている、日本もたくさん問題を抱えてはいたが
日本みたいに平和ではない、自分で自分を守らないと生きていけない世界。
最低限の生活を保障してくれる機関もないのだ怪我ひとつでも生活が困窮する。
自分でどうにかしなければ、生きる事が出来ないのだから。
歯車が1つ狂えば、何処までも簡単に転がり落ちていく。
「死に場所を決め、死に方を決めたのなら
僕は何もするつもりはないですね」
「……」
「だけど、僕を必要としてくれて
僕に助けを求めてくれるならば、僕はその時の
僕に出来る限りの事はしようと思います」
負の連鎖から抜け出したいと、相手が必死で生きたいと願ったなら
カイルが僕を助けてくれたように、僕も誰かの助けになりたいと思う。
「選ぶのは僕ではなく、その人本人だと思います。
あの時、サイラスさんはギリギリの所で生きる事を選んだ。
今のサイラスさんの状況は、僕から見てもとても厳しいものだと思う。
それでも……サイラスさんが生きようと足掻くのであれば
僕はサイラスさんを助けたいと思っています」
「散々厳しい事を俺に言ったくせにか?」
少し拗ねた様な物言いに、笑ってしまう。
「それは、サイラスさんが自分の立ち位置をちゃんと
わかっていなかったのが悪いんですよ」
プイッと僕から視線を外してもう冷めてしまっているだろうお茶を飲む。
そんな様子を見て苦笑した僕にサイラスさんが小さな声で
「……ありがとう、本当は今も凄く怖い。
俺が戻らなければ、俺達の国はどうなるんだろうかと考えると
気が狂った方がましなんじゃないかと思うほどの恐怖を感じる。
きっと……1人じゃ耐えれなかった……1人だったとしたら
死んでいた……必死に戦っている友を残して……」
「今を選びとったのはサイラスさんです。
そしてこれからを選び取っていくのもサイラスさんです。
僕はその手伝いしか出来ません」
「……」
「まだ何も解決していません。
解決している事といえば、僕が解毒剤を作れるぐらいです。
どうやって1ヶ月でサイラスさんの国に戻るか……この方法が
見つからなければ僕が解毒剤を作れても意味がありませんからね」
サイラスさんには、こう伝えるが
いざとなったら転移でいけない事はない。
だけどそれは最終手段として……今はサイラスさんと解決できる
方法を探そうと僕は心に決めた。
「そうだな……そうだよな……」
「そうです、明日はクットの城下町には戻らないで
ここから一番近くにある村に行くことにしましょう。
そこで色々用意してから方向性を検討しましょう」
「わかった……」
僕はカバンから毛布を取り出し、サイラスさんに渡す。
「いや……俺は大丈夫だから」
「もう一枚あるので気にしないで使ってください」
「ありがとう……」
カバンから毛布を出したのに少し驚いていたが
何か思い当たる事があったのか、詳しく聞いてくる事はなかった。
「それでは、お休みなさい。
見張りは必要ありません、結界を張っていますので
安心して眠ってください……休めるときに休んで体をしっかり治さないと
動かなきゃいけないときに動けませんから」
僕の言葉に苦虫を噛み潰した表情をし
「俺はこれでも騎士だから、そこら辺はわかっている。
ちゃんと寝るから大丈夫だ」
「それならいいですが……ぐずぐず悩まれても迷惑ですしね?」
「お前……丁寧な言い回しなのに、言う事本当にきついね?」
「本当の事しか言ってないんですが?」
僕のセリフにサイラスさんが眉間にしわを寄せ、それを見て僕が笑い
サイラスさんも釣られて笑う。
「笑う事が出来るなら大丈夫です。
先のことを考えるのも大切ですが、今は僕達ができる事に
集中しましょう」
「まいったな……セツナには口で勝てそうにないから
もう寝る、おやすみ」
そう言って僕に背中を向けて寝る姿を見て少し笑い僕もゆっくりと
眠りに落ちたのだった。
読んでいただきありがとうございます。