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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 クリスマスカクタス : 冒険心 』
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『 僕らとクットの城下町 』

 大きなあくびをしながら、アルトが目を覚ます。

アルトが起きる前に、カーラさんもルドルさんも

クットに向かったから、2人が急にいなくなった事に

首をかしげていたけれど


アルトにしてみれば、2人がいなくなってほっとしたのか

居なくなっても興味がなさそうだった。


僕たちものんびりとではあるが、後1日か2日でクットの城下町に

着きそうだ。途中、カーラさんとルドルさんが戦ったらしき

後を見つける。とても丁寧に、魔物を倒して歩いて行ったらしい。


もしかしたら、後ろを歩く僕達のために

魔物を減らしてくれたのかもしれない。


今向かっている国は、ガーディルとは違って獣人が歩いていても

不思議ではない街らしい、らしいというのは情報だけで

僕も行くのが初めてだから。


獣人も外に出て歩けるのなら、アルトと一緒に

買い物へ出かけるのも悪くない。そんなことを考えながら

ふと、アルトはお金を知っているのか気になった。


「ね、アルトお金って知ってる?」


僕の問いかけに、きょとんとした顔をして


「しってる、きんか5まい」


「……」


自分が父親に売られた値段のことを言っているらしい。

複雑な気持ちを、アルトに見せないように僕は話を続ける。


「アルト。アルトはクットの国でとてもお腹が空きました。

 とても大きいお肉を食べたいと思いました。

 アルトはどうやって手に入れる?」


「ころして、うばいとる」


どうしてだ……。


「いやいやいや、殺しちゃ駄目だよね!?」


自信満々に答えたアルトが、目を見開いて信じられないという

顔をしている。その顔に僕が信じられない……。


「ダリアさんが、たいせつなものは

 ころしてでも、うばえっていってた」


またダリアさんか……。


「そこは、働いてお金を稼いで買うが正解だよね?」


「にく、たいせつ」


「お肉を食べるたびに、殺して奪い取ったら

 お肉を売ってくれる人がいなくなるよ?」


そう告げた僕に、アルトは眉間にしわを寄せて渋々答える。


「それは、こまるから、おかねでかう」


嫌そうな顔で言うアルトに、僕は少し溜息を吐き

歩きながら顎に手を当て考えていた。

どうやって教えようかな……。


文字と一緒に、数字と簡単な計算も教えている。

お金で何かを買うということは知っているし

お金の単位と、お金の使い方を覚えたら問題ないと思うけど。


ちょうど休憩するのにいい場所を見つけたので、アルトを促し

少し休憩することにした。


そこでアルトにお金を見せながら説明していく。

十分銅貨・銅貨・半銀貨・銀貨・金貨

全てのお金をアルトに見せた。


そこから、銅貨1枚をアルトへと渡す。


「アルト。アルトに銅貨を1枚あげる」


銅貨を受け取ったアルトは、手のひらに載せて眺めていた。

僕は、果物のジュースをコップに入れたものと

果物の林檎をアルトの前に並べた。


アルトは、ジュースと林檎を見て尻尾を振っている。


何時もなら、すぐに渡すけど

今日は渡さずに、アルトと視線を合わせると

アルトは、きょとんとしたように僕を見た。


「さっき、アルトに銅貨を1枚渡したよね?」


「うん」


「そのお金で、少し買い物の練習をしてみようか」


「れんしゅう?」


「そう」


アルトは首を傾げているけど、僕は話を続けた。


「アルト。果物ジュースは十分銅貨5枚。

 林檎も十分銅貨5枚だよ。アルトはどっちを食べたい?」


「じゅーすがいい」


「それじゃ、アルトの持っている銅貨を僕に渡してください」


アルトは素直に僕に渡す。

そして僕はアルトに、果物ジュースを渡そうとするが

いったん手を止める。


僕を見上げるアルト。


「アルトが僕に渡したお金が銅貨1枚。このジュースが十分銅貨5枚。

 残りのお金は十分銅貨何枚になるでしょう?」


「うーん」


僕はアルトの前に、銅貨1枚を置きその横に十分銅貨10枚を置く。


「十分銅貨10枚で、銅貨1枚になるっていったよね。

 このジュースは十分銅貨5枚だから……」


説明しながら、十分銅貨を5枚減らしていく。


「残りは何枚になった?」


尻尾をパタパタ振りながら、自信満々に答えてくれる。


「5まい!」


「そう5枚だね」


僕は、十分銅貨5枚とジュースをアルトに渡す。

それをじっと見たアルトは手のひらの十分銅貨を見て

林檎を見る。


「ししょう、こののこりのおかねで

 りんごもかえる?」


「そうだね、買うことができるね」


「アルト、林檎を買うのかな?」


「買う!」


元気よく答えるアルトに、僕は笑う。


「それじゃあ、この林檎は十分銅貨5枚になります」


アルトが、手のひらにのっている十分銅貨5枚を僕に渡し

林檎を受け取る、ジュースと林檎両方手に入って嬉しそうだ。


そして僕はここで、鞄から飴が5個ほど入った小さな袋を

アルトの前に置く。


「この飴の値段は十分銅貨3枚になります」


僕が出した飴に視線は釘付けになり

僕がいった言葉に、驚愕した表情を見せた。


「3枚!?」


「そう、3枚」


「おれ、あめかえない!」


「買えないね。アルトは銅貨1枚でジュースと林檎を買ったから

 飴を買うだけのお金を持っていないもんね」


手元の林檎とジュースを見て耳をしゅんと寝かせる。


「一度買った物は基本返品できないからね。

 お金も考えて使わないと、本当に欲しい物が買えなくなる

 かも知れない」


「……」


「欲しいからと言って何でも買うのは駄目だって事だね」


僕はアルトに、笑って飴を鞄の中にしまった。

アルトはしょんぼりしながら、林檎をかじりはじめた。


駄目だ……可哀相だけど、ペタッと寝ている耳が

哀愁を漂わせていて、笑ってしまいそうになるのを必死に堪える。


「アルト」


僕の呼びかけに、アルトが顔をあげて僕を見た。


「これから、僕とアルトは冒険者ギルドで依頼を受けて

 お金をもらうことになるよね?

 アルトがもらったお金のうち2/3は生活費として僕が貰う。

 残りの1/3はアルトのお小遣いになるからね。

 ちゃんと考えてお金を使うように」


そういう僕に、アルトが頷いた。


「アルトの鞄の中に、お金を入れる財布が入ってるから

 出してみて?」


僕は、アルトと同じジュースを飲みながらアルトの鞄を指差した。

鞄をごそごそして財布を出し、財布を開けてみるアルト。

そこには、銅貨が1枚入っている。


アルトは、目を丸くして銅貨と僕を見た。


「ししょう!」


僕は膝にひじを置き頬杖をつき、アルトを眺めていた。

耳が元気に動いて、尻尾もパタパタ忙しそうだ。


「さっきの飴買う?」


「かう!」


元気よく返事をするアルトを見て

笑いながら鞄から飴を取り出し

アルトから銅貨を貰い飴を渡す。

飴が手に入って満足しているアルトに


「アルト? 飴の値段は十分銅貨3枚。

 今アルトが僕に払ったのは銅貨1枚、お釣りをちゃんと

 返してもらわないと損するよ?」


「おつりください!」


「ん~お釣りは十分銅貨4枚でよかったかな?」


僕の言葉に少し考えて答える。


「ちがう! 7まい!」


僕は、アルトに十分銅貨7枚を返した。


「よく出来ました。間違えなかったご褒美に 

 飴をもう一袋プレゼント」


目を輝かせながら飴を受け取り、1つは服のポケットに

もう1つは財布と一緒に、鞄の中にしまう。

その様子を微笑ましく思いながらアルトを見ていた。


クットの城下町に着くまでに、そういうやり取りを何度か行い

お金にも慣れた様で、この分だと1人で買い物もできるだろう。


ガーディルからクットまで6日程で着く距離を

8日かけて旅をしてきた僕達。城下町でギルドの紋様をみせ

クットの城下町に入る。


ガーディルと違って、明るい感じのする国だ。

新しい国に、新しい街に気分が高揚するのがわかる。


それはアルトも同じようで、キョロキョロと周りを見回していた。

アルトはフードをかぶっていなかったが、ガーディルのように

冷たい視線が向くことは、あまりなかった。


色々見て歩きたいとは思うけど、今日はまず宿屋を探し

部屋でゆっくりくつろぐことにする。


アルトと一緒に、チェックインしても何も言われることもなく。

改めてガーディルの獣人に対する偏見と差別が、酷いものであることが

浮き彫りになった。


僕もアルトもお風呂に入り、汗を流して僕はベッドに横になる。

久しぶりのベッドの感触に、気が緩んだのか睡魔が襲ってきた。


僕は念のため部屋に結界を張り、隣を見るとアルトは僕の横で

狼になって眠っていた。


アルトの柔らかい毛皮をなでながら

僕の意識も静かに落ちていった。



読んでいただきありがとうございます。



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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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