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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 クリスマスカクタス : 冒険心 』
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『 俺等と師弟 』

* ルドル視点

 相棒のカーラが、イライラしているようだ。

理由は、クットまでの道程が全く進んでいない。

俺……表向きは僕といい、話し方も軽い感じで話すことにしているのは

人当たりがいいだろうということを演出しているだけだ。


そう、特に人間の前では……自分を演じていなければ

見境なく殺してしまいたい衝動にかられるから。


顔に人好きのする笑みを浮かべ、友好的に見せ

俺よりは僕のほうが、自己主張をしていない感じがするだろうと

思い使っている。口調も顔にあわせ、相手に警戒を抱かせないように……。


俺もそうだが、相棒のカーラも好戦的だから

2人とも好戦的な感じを押し出すと

警戒されて、情報が引き出せなかったりするのだ。


前を歩く青年を見つめ、今までうまくいっていた事が

行かなかったのを、歯がゆく思った。


この青年から、情報を聞き出すのは難しそうだ……。


であった時から一風変わっていた。

カーラの攻撃をよけ、そして俺の気配を感じ取り

襲われたというのに、反撃せずにただ淡々とカーラに話しかける。


正直不気味だ。

人間らしさがかけている。これが第一印象だった。


獣人を嫌悪する風でもなければ、怖がりもしない。

獣人とチームを組んでいる冒険者もいるが

それは仲間と認めたからであって

獣人が2人、殺気を放ちながら対峙しているというのに

青年の目は至って静かだった。


そう、静か過ぎる……。

国によってずいぶんと違いはあるが

やはりある程度獣人と人間の間には溝がある。


それをこの青年は微塵も感じさせない。

それが俺とカーラには不気味に写った。


戦いを生業とする獣人と接したことがなく

俺達を見くびっているのかとも思ったのだが……。


俺達の殺気に反応したのは青年ではなく

弟子だと言い張る獣人の子供だった。


人間を守ろうとする獣人……。これにも驚かされた。

ありえない事ではないが、この子供の体つきから見て

人間に虐げられてきたであろう事は一目瞭然だったし

ぎこちない話し方の理由も、俺達獣人には簡単に想像できた。


そこまでの経験をしていながらも

人間に傾倒する理由が分からなかったし

人間が、獣人の子供を弟子にする事も理解不能だった。

仲間や相棒として認め合った仲の奴らはいる。


だけど、獣人が人間を人間が獣人を弟子にするということは

俺達が生きてきた中で、一度も見たことがなかったし

聞いたこともなかった。


だから、正直俺もカーラも青年の言うことは信じていない。

しかしあのまま堂々巡りで、口論するのも時間の無駄だと思ったから

この奇妙な2人の旅に同行することにした。


青年が、獣人の子供を虐待するようなことがあれば

青年が、俺達に少しでも攻撃してくるようなら殺すつもりで……。


さりげなく会話をする風を装い、人好きのする笑顔の仮面を被り

その裏に、相手がイライラするような殺気をひそかに込めていたのだが

この青年は全然挑発にのってこなかった。


挙句の果てに、こちらが度肝を抜かれるような爆弾を落としやがった。


俺達の故郷の名前と旅の目的……。

何一つ会話の中に混ぜていなかったはずだ。

今まで何十回と繰り返されてきた会話で

正確に言い当てられたのは初めてだった。


そして警戒し腹を探る会話の中から、俺の意図もばれていた。


あれだけ青年に懐いている獣人の子供の前で

問答無用で、疑わしいから殺そうというには

その動機が足りなさすぎた。青年から戦いに持っていくように仕向ければ

こちらは正当防衛だったんだと言い訳ができる。


その全てが無駄になったが……。


やはり、俺達の殺気に反応したのは弟子の方だったから。

カーラの機嫌は、下降一直線だし……。


獣人の子供アルトが、何度目になるのか青年のセツナに話しかける。

話しかけるそれは、師匠と弟子そんな感じに見える。


そこにカーラが


「お前らいいか……」


何か言いかける前に、カーラを俺が止めた。


「ルドル、何をするっ!」


「邪魔しちゃだめでしょ~?」


「何がだ! このままじゃいつまでたってもクットに着くわけがない!」


「それは~、あんな所で朝からのんびり魚釣りなんてしてたんだから

 想像はしていたんじゃないの~?」


「……そうだが」


「それに、アルトの目的が勉強することなら

 それを邪魔するのは駄目だと思うな~」


溜息をつき2人を見る、説明が終わったのか

アルトは本を開き、植物と思われるものと本の絵とを見比べているようだ。


その横でセツナはキョロキョロっと視線を周りに送り

アルトからはなれたところにある小枝を拾い鞄に入れた。


俺は小枝を集めて何に使うのか聞いてみる。


「青年、小枝を鞄にいれてどうするんだい~?」


「これは、今日の夜の薪ですよ。

 アルトが何かをしている間に集めるんです」


「何時もこんなペースなのかい~?」


「大体こんな感じですね。

 あぁ、暇でしたら先に行ってもらってもかまいませんが?」


セツナを眺めながらカーラが口を出す。


「そうして逃げるつもりなんだろう!」


「僕たちはクットに行くんですけどね……」


カーラの言葉に、もう半分諦めた感じで小枝を拾う。


「ししょう、あのとり、なんですか?」


カーラがまたかというような顔でアルトを見る。

セツナはそういうアルトに嫌がらず指差す方を見て


「あれは、啄木鳥かな」


「きつつき?」


「正確に言えば、啄木鳥っていうのは鳥の総称なんだけどね」


「あのとりは、なにしてるの?」


「餌をとってるんだよ」


セツナが鳥の説明を始めた。

アルトが何かに興味を持つ度に本を広げ、セツナに聞き

それに対してセツナが丁寧に答える。

その様子を俺もそばで聞いていた。

案外その説明が、俺の知らないことばかりで面白い。


カーラと一緒に戦ってばかりの人生だ。

何かに興味を持ち、教えてもらうなど考えたこともなかった。

いや……若いときは勉強するのが楽しかった。


自分達の国が無くなるまでは……。

暗い思考に落ちそうなギリギリのところで踏みとどまる。

そうでないと、背中を向けているセツナを殺しそうになる。


俺は自分の心に蓋をし、セツナの説明に集中する。

カーラも興味なさげではあるがしっかり聞いているようだ。

耳がこちらにむいている。


「きに、えさがついてるの?」


「木の中に虫がいるんだよ」


「あの、おおきいきから、どうやってみつけるの?」


「見ててごらん」


セツナのセリフに、俺も思わず啄木鳥を見る。


"コンコン"


嘴で少し木をつつき、少し位置を変えてはまたつつく

それを繰り返し、あるポイントで激しくつつきだした。


そして嘴を入れたかと思うと、飛び立ってしまった。


「ししょう?」


「最初数回木をつついていたよね、それで木の中にできている

 空洞を探してたんだ、嘴でつついて音の変化で空洞があるか

 ないか判断していたんだよ」


「どうして、くうどうをみつけるの?」


「虫が木を食べて中に入るんだけど

 木を食べるということは、道ができるって事だよね」


そういって、セツナが小枝を拾い地面に図を書き出した。


「でも、ししょう、くちばしみじかい」


「うん、あの鳥は嘴で食べるんじゃないんだよ。

 嘴より長い舌を使って食べるんだ」


「おぉ、すごいね!」


「すごいね」


アルトはセツナの説明を真剣に聞き

聞き終わったら考え、分からないところがあったら

また聞き、また考えるを繰り返していた。


俺も思わずすげーって言いそうになったのは秘密だ。


「青年、物知りだな~」


そういう俺に、少し苦笑して


「たまたまですね」


そうじゃないだろうと思ったがそれは口に出さなかった。

いや、出せなかった……。


何かを認めるような、そんな感じがして嫌だったのだ。


歩くスピードはゆっくりだったが

やっと、前進しているように感じる。


セツナが時折何かを採っている様だ。

よく見てみるとそれは茸だった。

それを見て同じように採っていくアルト。


俺達は、携帯食を食べるつもりだがあの2人は

何かを作って食べるつもりなんだろう。


そしてそれもつかの間、アルトが立ち止まり

尻尾を振って、目をキラキラさせセツナを見ていた。


今度は何を見つけたんだと思い様子を見ていると


「僕達は、今日はここで野営をしますが……」といきなり言い出す。

まだ日が暮れるにはだいぶとあるし

それにほとんど距離をかせいでない。


カーラが遂に切れたようで

セツナに食って掛かっている。


「お前は、ふざけてるのか?」


「ふざけてませんが」


「まだ、十分歩けるだろう!

 それに、今日はほとんど歩いてないじゃないかっ!」


「まぁまぁまぁ、カーラ落ち着いて~」


一応仲裁はするが、俺も納得したわけではない。


「青年、ここで野営する理由を教えてくれるかな~」


アルトが理由だろう事は分かる。

分かるのだが、ここで野営する理由が分からない。


「アルト、釣りをするときはちゃんと結界針を立てて

 するんだよ」


アルトが走り出したのを見て、そう注意するセツナ。

俺とカーラはここで野営をする理由を知り絶句する。


「お前は、弟子に甘すぎるんじゃないのか?」


思わずといった感じで、カーラがセツナに話しかける。


「あの調子じゃ、何時クットに着くか分からないではないか」


「確かに、何時着くんでしょうかね」


別段どれだけ遅れてもかまわないという言い方に

カーラが器用に片眉を上げ、不機嫌そうに尻尾を振った。


「お前、クットに行くつもりがないのか?」


「いえ、行きますが」


「じゃあ何故だ、私達に対する嫌がらせか」


「だから、僕は同行するのはお勧めしませんと

 言ったじゃないですか」


「……ぐっ……」


「こんなにのんびりとは~

 さすがに思わなかったのさ~」


そういう俺達に、セツナは鞄に手を入れ釣竿を2本取り出す。

釣竿と餌を俺達に渡す。


「クットまでの食料が足りないんじゃないですか?

 竿をお貸ししますんで、アルトと一緒に釣ってくるといいですよ」


「……」


本当に、意味が分からない人間だ。

カーラもそんな顔をしている。


あれだけ俺達に嫌な思いをさせられながら

俺達の食料の心配かよ……本当に殺したい……。


自分自身が酷く滑稽に思えてくる。

多分こいつの優しさは正しいのだろうだけど、その正しさは

俺達みたいな者の心を抉る正しさだ。


ニンゲンニドウジョウサレテルノカ……。


竿を折って、殺してしまいたい

目の前の人間を……。


「ルドルさん、殺気が駄々漏れですよ」


セツナの言葉にハッとする。


「僕は野営の準備でもして

 本でも読んでます」


殺気を抑え軽口を叩く。


「弟子に夕飯まかせっきりか~」


「いえ、食事は各自で用意することになっているので

 アルトの分はアルトの分です」


「んじゃ~、竿と餌かりるわ~」


「どうぞ」


セツナに背中をむけカーラと一緒に歩き出す。


「よく抑えたな……殺すかと思った」


「俺も抑えられたことにびっくりだ」


「……久しぶりだな」


「なにがだよ」


「ルドルが自分のことを俺って言うのは」


「……」


「あの人間は調子が狂う」


カーラがポツリと呟くように告げた言葉に。

俺も同意しながら、思っていることを口にした。


「余り長く一緒に居たくない人間だな」


苦々しいものを吐き出すように言う俺に頷くカーラ


その理由はとっくに気がついていた。

ただ認めたくなかったのだ。


認めることができなかったのだ。



読んでいただきありがとうございます。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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『緑青・薄浅黄 X』
よろしくお願いいたします。
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