『 僕らと2人の獣人 : 後編 』
一緒に旅をすることになった2人に、一応自己紹介をする。
相手は僕と仲良くするつもりなんて、全くないだろうけど。
「僕は、セツナといいます。
職業は学者、ギルドランクは青になります」
そんな僕を見て、アルトは不機嫌を隠そうともせずに
一応ちゃんと自己紹介をした。
「おれは、アルトと、いいます
しょくぎょうはけんし、ギルドランクは "きいろ"です」
「2人とも冒険者だったんか~。
あれ? 青年は職業学者? 魔導師じゃないの~?」
「学者ですよ」
ルドルさんが、名前を教えてくれるかなと言っておきながら
名前を呼ばないあたりいい性格をしていると思う。
カーラさんが、鼻で笑いながら馬鹿にしたような感じで一言。
「えらく若い学者さまだな」
学者って、本当に嫌われているんだな。
いや、僕が嫌われてるのかな?
両方か……。1人で考え、1人で納得する僕。
カーラさんの反応は、ビートの反応とそっくり同じだった。
「ルドルさん達は、冒険者じゃないんですか?」
「僕達は傭兵ギルドに加入してる~」
傭兵ギルドとは、対人専門のギルドだ。
冒険者ギルドも、盗賊の討伐など人を相手にすることもあるが
戦争には参加しない。
傭兵ギルドは、国同士の戦争に参加し報酬もらう組織だ。
ある意味、戦闘狂の集団といえる。
「そうですか」
「あれぇ~? それだけ?」
「何がですが?」
「やっぱり獣人は野蛮なんですね~とか
殺し合いしか興味がないんですか~とか言わないの?」
「人間にも傭兵はいると思いますが……?」
「ふ~ん」
「それに、強くなるには強い人と戦うのが近道なんでしょう?」
僕は、話しながらのんびり歩き出す。
それと同時にアルトも歩き出し、意識はもうルドルさんやカーラさんにはなく
周りのものに向けられている。
カーラさんは僕と話しをする気はないようで、アルトを目に入れながら
僕を警戒している感じだ。
ルドルさんと言えば、僕に話しかけながら情報収集といった所だろうか。
どちらかというと、カーラさんよりもルドルさんのほうが人間嫌いなんだろう。
言葉の端々に、そういう感情が伺える。
話す相手をイライラさせるような、見えない殺気を微かに
ちらつかせる様な、自分から誘っておいて
獣人の誇りを傷つけるようなことを僕が言えば
容赦しない……そんな感じの話し方に溜息をつきたくなる。
そんな挑発に乗る気がしないし
相手の思う通りに動く気もない。
「……なぜ、そう思うんだ?」
「何がですか?」
「僕達が、強くなる為に戦ってるなんて話してないよね~」
「なんとなくですが、色々な選択肢から一番
当てはまりやすいものを選んだだけです」
「獣人だからといいたいのかな~?
戦闘狂だろうと~?」
暗い笑いを顔に浮かべるルドルさん。
「そうではなく。戦う目的に何を持ってくるかってことです。
例えば、お金、名声、権力、強さ後は復讐とか?」
最後の復讐というところで、黒の耳が動く。
「貴方方を見ていると、お金や権力というのには
興味がなさそうですし」
「なぜ、そう思った」
ルドルさんの話し方に軽さが抜ける。
何か気に入らない言葉があったらしい。
カーラさんも耳をこちらに向けている。
「そういうものに興味がある人は、獣人の子供を助けようなんて
思わないんじゃないでしょうか。厄介ごとに巻き込まれたく
ないというのが本音だと思いますよ」
「……」
「名声は、強くなるために必要なものですし
ひとくくりで考えることも出来ますが……。
どちらかというと、名声にも余り興味がないように
思います。ここら辺は勘ですが」
「……」
淡々と話す僕に、ルドルさんの目が段々と鋭くなっていく。
「そうすると、選択肢が強くなるためというのが残ります」
「何かに、誰かに、復讐する為に自分の腕をスキルを磨いている。
その復讐対象は同じ獣人族ではなく人間。それも今の貴方方では
戦えないほど強い人間でしょうか? そして行方が分からないから
傭兵をしながら各国の戦争に参加し、その相手を探している。
冒険者ギルドではなく傭兵ギルドなのは、その相手も傭兵だから」
「お前、何者だ」
「僕の話は的を射ていましたか?」
ルドルさんとカーラさんが、警戒し僕から少し離れる。
その気配に気がついたのかアルトが振り返る。
僕はペースを乱さず、歩きながら答える。
「復讐というのも、ただの勘だといいたいところですが
カーラさんの持っている剣の紋章は、確か今は滅びた国のものですね」
「なっ!」
2人同時に、驚愕に目を見開いて僕を見ている。
「そこから少し仮説を立ててみただけなんですけどね」
滅びた国の生き残りが
復讐しようと力をつける話なんて、ありきたりだ。
しかし2人には、自分の剣の紋章を知っている人間がいるとは
思わなかったのだろう。その動揺はとても大きいものだったらしい。
「今から、40年ほど前ですか?
人間に滅ぼされた、エルンの国の紋章でしょう?」
「……」
「そのときに活躍した傭兵の名前は、スレディア」
警戒し、足を止める2人。
僕も足をとめ、2人を振り返る。
「ちょっと、知りすぎじゃないのかね……青年」
「貴様、私達の事を知っていて近づいたのかっ!」
カーラが剣の柄に手を置いた。
僕は溜息を吐く。
「貴方方から、近づいてきたんですが?
貴方方が、勝手に僕達の旅についてきてるんですが?」
「なぜ、この紋章を知っている青年」
答えることを拒否することは許さないという
ルドルさんの声。偽りを吐いたら殺すという明確な殺意。
アルトは僕の後ろにたって、2人の殺気に引きずられ
戦闘態勢に入っている。
「僕は学者ですから、特に歴史は僕の専攻分野です」
本当は、知識の引き出しからカーラさんの剣の紋章を見たときに
紋章に関する情報を引き出した。
付随して、その国の最後まで知ることが出来た。
アルトの背中をぽんぽんと叩きながら、アルトの緊張をほぐし
ルドルさんとカーラさんに声をかける。
「僕は、貴方方の旅の目的に興味はありません」
「なぜ……スレディアの名前まで知っている……」
「ある意味有名な傭兵じゃないですか。
残虐の限りを尽くした傭兵。
血に魅せられた傭兵スレディア。
有名になり始めたのは、この戦争からですしね。
貴方方が、エルンの国の末裔ならば
復讐を考えたとしても不思議ではない」
カイルの情報の中にある歴史は、とても凄惨なものだった。
人間達はエルンの国を滅ぼすために皆殺しにしたらしい。
エルンの国は、一面火の海になったと言われている。
その時一番殺し、一番残虐な方法をとったのがスレディアだと言われている。
逃げまどう女性、そして子供まで苦しみながら死ぬように切り付けたらしい。
「青年、君の旅の目的はなんだ」
「僕ですか? 僕は世界を見るため、知るために旅をしている。
アルトは、勉強するためですね」
「スレディアと、何か関わりがあるんじゃないのか」
真直ぐ、ルドルさんの目を見つめ答える。
ルドルさんも、僕から視線を外そうとはしない。
「情報として、戦争史として知っているだけです」
戦争史という言葉に、カーラさんが歯を食いしばる。
きっと、彼らにとっては過去ではないんだろう。
そこまで話すと、僕はアルトを促し歩き出す。
歩き出した僕の背中にルドルさんが問いかける。
「青年……。ここまで殺気を浴びながら
何故、剣を抜かない」
「僕は、剣を持っていません」
「青年」
低い声で、僕を呼ぶルドルさん。
僕は足を止め振り向く。
「戦う理由がありませんし
それに、貴方方が勝手に誤解し警戒し殺意を僕に向けている。
ご自分達の都合で、僕の立ち位置を勝手に決めるのは
やめてもらいたいですね」
「……」
「それに、僕が戦うことを決めたら
僕に非がないのに、貴方方に戦う理由を与えてしまう。
誰かの手のひらで踊るのは、まっぴらですから」
「そこまで気がついていて
僕達が旅に同行するのを認めたのか?」
「くだらない挑発に、辟易していますけどね」
「はは……ははははは」
ルドルさんが笑い出す。
そして警戒を解き軽い口調で
「まけたなぁ~。人間だとおもって甘く見ていたよ~。
挑発にのせる自信はあったのにな~」
「アルトがのっていましたからね
その分僕が冷静になれたんでしょう」
「まぁ~君を信用したわけでもないけれど~。
挑発するのはやめにするよ~」
「そうしてください」
それだけ言うとアルトと共に歩き出す僕。
ルドルさんとカーラさんは何か話しているようだ。
どうせ追いつくだろうから気にしないで進むことにした。
セツナ達の背中を見ながら、カーラがルドルに声をかける。
「ルドル……殺さなくていいのか」
「ことごとく、失敗してるからね~。
さすがに、人間だからといって殺すのは
気が引けるし~?」
「……」
「それに~。彼を殺すとアルトに怨まれそうだ」
「彼を殺せば、洗脳がとけるのではないか?」
「あれは、洗脳じゃないでしょ~」
「……」
「まぁ、暫く一緒に行動してみることにしようよ~」
「珍しいな……お前が人間と一緒にいようなんて」
「ん~興味があるのは本当、彼は今までの人間と
一々ちがうからね~」
「確かにな」
「その分、胡散臭いけどね~」
「まさか、紋章を知ってる人間がいるとは驚きだな」
カーラの声は沈んでいるようだった。
「獣人族の中でも、覚えている人はすくないのにな~」
「……」
「興味深いのに、殺したくなるこの衝動は病気かなぁ~」
「さぁな、本当にスレディアを知らないんだろうか」
「知らないと思うな~」
「どうしてそう思う」
「彼は、こちら側の匂いがしないから~」
「確かに」
「さぁ、行こうか追いつけなくなってしまう」
「それはないんじゃないか……?」
そう言って、ルドルとカーラが前方を見ると
さほど進んでいない2人が見える。
ルドルとカーラを待って、歩みを遅くしてるわけではなさそうだ。
「まぁ~。とりあえずいきますか~」
「そうだな」
2人は歩き出し、セツナ達のもとに向かうのだった。
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