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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 クリスマスカクタス : 冒険心 』
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『 僕らと2人の獣人 : 中編 』

 自己紹介をした男性の方がルドル、そのルドルにカーラと呼ばれていた女性。

その2人が今僕たちと少し距離を置いた位置で立っている。


ルドルの方は、軽い感じのする青年でその風貌は一見愛嬌がある感じがする。

しかしこちらを警戒する様子に隙がない。

耳の色は黒、髪の色も黒だった。瞳の色は金色だ。


黒豹だろうか?


カーラと呼ばれる女性は、少しキツイ感じを受ける女性で目つきが鋭い。

その肢体ははしなやかで程よい筋肉が付いている。色であらわすなら赤

先ほどの様子を見ても、好戦的な性格らしい。

耳は一般的な豹、髪の色は金、目の色も金色だ。


ルドルが武器を持っていないのは、魔導師だからだろうか

獣人というのは、余り魔力を持っていないようなのだが

ルドルからは魔力を感じるし、今もいつでも詠唱し

発動できるようにしている。


カーラのほうは、剣士なんだろう先ほどの一撃といい俊敏な動きに似合わず

一撃がなかなか重い、強い部類に入ると思われる。


「やっぱり~、カーラを見ても驚かないね」


少し興味深そうに僕を見る。

獣人ということで

人間から受ける視線や態度に、辛酸をなめて来たのかもしれない。

彼らの気持ちは、僕には分からないけれど

僕が命を狙われる理由にはならない。


「用がないのなら、僕たちは戻りますが?」


「君は、怖くないの?

 目の前に、人間の力では及ばない獣人が2人もいるんだよ?」


「怖くありませんが?」


「それは……僕達がなめられてるってことかな~?」


少し不機嫌さをルドルがあらわす。

アルト以外の獣人族と会話をするのは、これが初めてだけど

獣人族は、人間に対してこんなものなのだろうか?


「言葉が通じるのなら、人間も獣人もそう大差ないと思いますが。

 僕も言葉の通じない獣が2匹いるのなら、戦闘態勢をとりますが

 見たところ言葉は通じそうですし? こちらの話している意味も

 通じていますよね?」


僕に問答無用で攻撃してきた、カーラに対する厭味を含ませた

僕の言動に、ルドルが苦笑する。


「いやぁ~……怖いもの知らずなのかな……青年」


ルドルの感じがガラリと変わる。

僕の受け答えが気に入らなかったのか

僕を試しているのかそんな感じの殺気が届く。

一触即発の空気が流れた。


ルドルとカーラの殺気に反応し

アルトが剣を抜いた。その反応に、驚く2人。


「アルト?」


「ししょう、てき、おれにとってもてき」


その眼差しは真剣だ。


怖いだろうに……。ルドルの殺気に当てられて

アルトの体は小刻みに震えている。


「アルト、剣を収めなさい」


僕の命令に、僕の顔を凝視し僕の意図をはかろうとするアルト。

そんなアルトに、微笑みかけ頭をぽんぽんっと2,3度たたく。


「青年のその余裕はどこからきてるのかなぁ~?」


アルトを見て大人気ないと思ったのか

少し殺気を収め、僕を見る。


「自分に何も非がないのに、脅える必要などないのでは?

 それでも僕を殺すと言われるのなら、僕も殺されたくは

 ないので抵抗します。しかし、貴方方が僕の弟子を守るために

 行動したというのであれば、話をすれば誤解が解けるはずだと

 思ったわけです……が、そちらの女性は僕の言葉を信じる気は

 なさそうですね」


チラリとカーラのほうを見て最後のセリフを付け足す。


「人間の言葉を信じられるわけがないだろう」


カーラが、噛みつくように返答する。

ルドルがカーラを目線で抑えながら


「あくまでも、青年は奴隷商人ではないというんだね~」


「ええ、違いますから」


僕の返事を聞き、ルドルが膝を突き

アルトに目線をあわせた。


少し脅えている、アルトに笑いかけ

そして真剣な目でアルトに尋ねる。


「本当に、この人は奴隷商人じゃないんだね~?」


アルトはその質問に、手のひらをぎゅっと握り締め

ルドルを睨んだ。


「ししょうは、おれを、どれいしょうにんから

 たすけてくれた」


そして、カーラのほうを見て睨む。


「おれは、たすけてくれなんて、いってない

 かってなことするなよ!」


アルトの言葉に、息を呑むカーラ。

ルドルはあちゃーっという感じで立ち上がる。


そんなアルトに、今度は僕がしゃがんで目線を合わせる


「アルト。アルトが自分の尻尾を吊り上げて

 叫んだから心配して来てくれたんでしょう?」


「だけど、ししょうに、きりつけた!」


「それは僕が怒ることだよ。アルトはこの人達を

 責める前に心配して来てくれたことに対して

 お礼を言うべきだと僕は思うけどな?」


アルトの気持ちは嬉しい。僕に危害を加えられたこと

僕を奴隷商人と間違えたことに、アルトは僕よりも

悔しく感じてくれたのかもしれない。


アルトといる事で、これからも起こるであろう出来事だ。

しかし、その一つ一つに楯突きアルトのために心配して

差し伸べてくれる人の手を振り払っていたら

アルトの為にもならないし、何より同じ種族の人達と

仲違いをさせてはいけないと僕は思った。


「アルトが僕のことを心配して怒ってくれたように

 この人達は、アルトを心配して怒ってくれたんだよ」


僕の言葉に、項垂れるアルト。


「アルト? 僕は怒っているわけじゃないんだよ。

 アルトが、僕のために怒ってくれるのはとても嬉しい。

 だけど、物事の本質は1つじゃない事を覚えて置かないと駄目だ

 今この人達は、アルトにとっては敵なんだろうね?

 それは僕を殺そうとする人だから」


「うん」


「だけどね、見かたを変えてみたら

 今、アルトには2つの手が差し伸べられているんだよ」


「……」


「僕がアルトを守ろうとする手と、彼らがアルトを守ろうとする手

 どちらを選ぶかはアルトの自由だ。だけど忘れてはいけないのは

 自分のために差し伸べられた手があるということ」


「だけどっ!」


僕の言葉はちゃんと理解しているはずだ。

だけど、心がついていかないのだろう……。

僕は、アルトに笑いかけ


「アルト、僕はこの人達に1度でも僕から攻撃をしかけた?」


僕の言葉にアルトだけではなく、カーラも驚く。


「もし、この人達がアルトや僕に理不尽な殺意をむけ

 攻撃してきたのなら僕も戦ったよ。

 だけどね、この人たちの戦う理由がアルトの為

 いや……獣人族の為だと分かったから、僕は攻撃をしなかった」


「……」


「話せばわかってもらえるかもしれないと思ったからね?

 話してわかってもらえる可能性がある内は、その努力をするべきだと

 思わないかな?」


「それにしては、挑発的な言動なきがしないでもないんだけど~」


ルドルの言葉は無視する。黙っていてくれないかな。

アルトは少し考え同意した。


「おもう」


「この人達が僕にしたことは、正直感心できることではない。

 臨機応変に見極めなきゃいけないのは難しいことだけど

 今回の立場から言えば、周りをちゃんと観察すれば

 アルトが危機的状況じゃないことはすぐにわかったはずだしね」


ルドルは苦笑をし、カーラは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「さて、ここまで話をしたわけだけど

 どういう答えを出すかは、アルトが考えることだよ」


僕の言葉を反芻しながら考えるアルト。

答えがまとまったのか、僕の目を真っ直ぐ見ながら


「おれ、しんぱいして、くれたことはうれしい。

 だけど、このひとは、ゆるせない」


そういいながらカーラを見る。

アルトの真っ直ぐな視線を受けて少し居心地が悪そうだ。


「そう、アルトが考えて出した答えなら

 僕は何も言わない」


僕の言い分に、ルドルが疑問を投げかける。


「それでいいの~? 普通、弟子が師匠の言うことを

 聞かなかったら怒るんじゃない~?」


「反対に聞きますが、貴方は自分で出した答えを

 師匠だからといって頭ごなしに否定され

 考えを押し付けられるのが、好きなんですか?」


ハッとして僕を見て、1つ溜息をはき少し重い口調で答える。


「嫌だな……」


「弟子の出した答えは、自分の気持ちに正直なだけです。

 悪いわけじゃない、自分がどう考え、何を選んで

 それをどう行動にうつすかだと思います。

 もちろん、それが悪いことなら僕も注意しますが」


「ふーん~、じゃあ君は弟子がした行動に責任を持つって言うの?」


手を頭において、髪をかきあげながら、少し意地の悪い笑みを浮かべる。


「ええ、それが師というものでしょう」


視線をしっかり合わせ答える僕に、ルドルは視線を外し俯いた。

ルドルが視線を外した理由が少し気になったけど

僕は彼らを慮る気はサラサラなく、会話を進める。


「それで、僕たちはそろそろ出発したいのですが」


「私はまだ貴様を信用できない」


カーラがそういい、アルトはそんなカーラを見て明らかに不機嫌になる。


「まぁまぁまぁ、君達は何処に行くの~?」


「僕達は、クットの国へ行く途中です」


「ガーディルの国ではなくて~?」


「ガーディルの国から来たんですよ。

 戻ろうとは思いませんね」


行き先を告げると、2人とも少し驚いたようだった。

きっと、僕がガーディルに向かうと言ったら力ずくでも

アルトを保護しに来ただろう事が伺えた。


「僕とカーラは、レグリアからクットに行く途中なんだ~。

 向かう方向は一緒だし、一緒に行かない?」


レグリアは、ガーディルより南の国だ

確か、この国もガーディルとは仲が良くなかったはずだ。


「それは、僕を監視するって意味でしょうか?」


「いやいやいやいや……ただ、少し興味を持っただけ

 君という人間に」


最後の言葉は軽い調子ではなかった。

そんなルドルを、不思議なものを見るような感じで見つめるカーラ。


「ルドル?」


「いいよね~? カーラもこの子の事がきになるんでしょ」


「それはそうだが、人間と一緒なんて」


「僕達と旅を共にするのは、お勧めできませんけどね」


「それは、疚しいことがあるからじゃないのか!」


すぐに突っかかってくるカーラを宥めながらルドルが


「君達の邪魔はしないって誓うよ~?

 ここら辺が妥協点だと思うけど~?」


僕は1つ溜息を落とし、好きにしてくださいと伝えた。

こうして、僕とアルトとルドルとカーラという人間1人に獣人3人で

クットの国へ行くことになった。



読んでいただきありがとうございます。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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よろしくお願いいたします。
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