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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 椿 : 控えめな優しさ 』 
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『 僕と召喚 』

「あなたは、68番目の勇者様です」


女性を思わせる、少し高い声がそう告げる。

死んだと思ったのは、夢だったのだろうか?

そんなことをぼんやり考えていた。


「……」


「聞いておられます? あなたは勇者様です」


もう一度そういわれて、意識を彼女に向ける。

僕に話しているんだという事は、理解できたけど

話している意味が理解できない。

ぼんやりしながら、彼女の話に返事を返す。


「貴方の言っていることが、僕には理解できないのですが」


「そうですわね、説明させていただいても?」


手馴れているのか、彼女はさほど表情も変えずに淡々と僕に告げる。

彼女の態度や口調から、きっと慣れているんだろうと思う。

勇者うんぬんはともかく、僕は68番目らしいから。


なぜ僕は生きていて、勇者と呼ばれるのか

ここは何処で、彼女は誰なんだろうとか。


いろいろな疑問が浮かぶけれど、彼女が余りにも落ち着いていて

その雰囲気に、飲まれたような感じになっていた。


後から思えば、その場には何らかの魔法が掛かっていたのかもしれない。

召喚された()の精神を麻痺させるようなそんな魔法が。


「それでは、お部屋に案内しますお話はそちらで……」


そう僕に声をかけると、彼女は歩き始め

彼女の後ろをついていこうとするが……。

僕の足は、歩く事はなくその場で倒れてしまったのだった。


僕の意識が、遠ざかっていくときに

今まで話していた、彼女の姿が目の中に入ってくる。


今まで話していたというのに、彼女の姿に意識が向かなかったのは

どうしてなのか分からなかったけど……。

彼女の姿は10代の頃に遊んだゲームに出てくる黒魔導師そっくりだった。


目が覚めてから、受けた説明はまとめるとこういうものだった。

ここは僕が、生まれ育った地球ではなく、違う世界だということ。

命を終えた" 勇者 " の素質がある魂を

召喚するという" 魔法 " がある事。


元の世界での命は終えているので、地球に帰る事はできないという事。


何故、魂を召喚しただけで肉体が付随するのかはわからないが……。

僕の姿は地球での姿と変わってはいなかった。

変わったところといえば、年齢が18歳ぐらいに見えるということぐらいだ。


" 勇者 " とは " 魔物 " といわれる生命体から

人類を守るために " 召喚 " された人に与えられる "役職 " らしい……。

そういう冒険小説は、僕も妹の鏡花も好きだったからよく読んだ。

まさか僕に、そういう役割が回ってくるとは思わなかったけど……。


何故、勇者を召喚するのかという疑問に対して

召喚された人間は肉体的、精神的に多大な恩恵を受けられるらしい。

肉体的という面で言えば身体の強化・不老など人によって違い

精神的な面で言えば、魔力といわれるものが

この世界の人間と比べて、遥かに上回るというように。


だけど、僕は今白い部屋のベッドの上にいる。


結論から言うと、僕の病気は治っていなかった。

生きていく世界が違うだけで

結局、僕の役割というものは変わっていなかったのだ。


僕は、肉体が強化されることもなく、魔力が多いということもなくこの世界の人と

変わらない平均的なものしか、持ち合わせていないらしかった。


僕としては、それでもよかった。

大きな力などなくても、特別な力などなくても良かった。

恩恵を受けることができるというのなら


僕は、病気を治して欲しかった。


勇者という役割を与えられた僕だけど

病気の僕にそんな役割が演じられることもなく。

地球にいた頃と変わらず、僕は病院と思われる一室で治療を受けることになる。


治療といっても、この世界にも僕の病気を治す方法などなく

ただ寝ているだけだった。


衣食住は、一応は提供されている。

治療という名の監禁・監視それが一番正しい認識だと思う。

勝手に召喚しておいて、使えないと思ったら自由を与えない

だけど、僕が使えたとしても自由はないような気がした。


どちらにしても、救いはないという事か……。


僕に情報が入ってくることは殆どなく。

僕はきっとただ独りで、また、ゆっくりと死に向かうことだろう。

地球にいた頃となんら変わるところはない……。


あえて、地球にいた頃と違う点を挙げれば……。

僕を支えてくれる人が居ないという事……。ただ独りだという事だ。


独りというのが、こんなにも不安で寂しい事だったことに

僕は初めて気がついた。親のありがたみ、妹のありがたみ

僕が思っていた以上に、家族は僕を大切にしていてくれたんだ。


地球と同じ白い部屋の一室で、地球とは違うこの場所で

僕は家族の事を想った……。



読んでいただきありがとうございます。

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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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