『 挿話:アルトとダリアの乙女話 』
お留守番2日目の出来事
アルトは午前中に勉強を済ませ
ダリアと、昼食をとっていた。
今日の昼食はサンドウィッチだ。
カラフルな野菜に、味付けした肉が挟まっている。
「アル坊美味しい?」
ダリアの問いかけに、サンドウィッチをたべながらアルトが
首を縦に振る、その可愛らしさに思わず頬が緩むダリアだった。
そんなダリアを見ながら
アルトが少し気になっていた事をダリアに聞く。
「ダリアさん、つよい?」
ダリアが冒険者だったということを
セツナから聞き、強いのか気になったらしい。
「あらぁ、女性に向かって強いかなんて聞いちゃ駄目よ?」
「そうなの?」
「そうよぅ、女性はか弱いものなのよぅ
男は女を守るものなのよぅ?」
「ふーん」
「だから、アル坊も大きくなったら女性を守らないとね」
「うーん……」
「まだ、アル坊には早いかしらねぇ」
そういい、野太い声で笑うダリアだが
アルトの中の女性というのは、ダリアなのでこの大柄な女性を
自分が守る姿が想像できないでいた。
「だけどねぇ、女は強くならなきゃいけないときがあるの」
そういって、真剣な目でアルトを見るダリア。
「乙女はね、アルト。大切な人を守るときに強くなるものなのよぅ」
「おとめ?」
「そう、乙女。私見たいに可憐で、か弱い女性のことを言うのよぅ」
セツナが聞いていたら、否定しそうなことをアルトに教えていくダリア。
「女はこう書いて、乙女はこう書くのよ」
聞いても居ないのに、ダリアがアルトに文字を教える。
教えてくれるので、アルトは素直に覚えた。
昼食を終え、ダリアと一緒に家畜の世話をしに行くことになった。
ミニブタを見るのが初めてだったアルトは、ミニブタを追いかけまして
楽しそうに遊んでいる。
手伝いにはなっていないが、アルトが楽しそうなのでダリアは何も言わず
横目でアルトを見て笑いながら、自分の仕事をこなしていくのであった。
アルトは、今日の日記の内容をミニブタにしようと
ミニブタの文字を後でダリアに教えてもらおうと心に決めた。
家畜の世話が終わり、ほっと一息と言うことで
お茶を飲みながら、ダリアはアルトに話しかける。
「か弱い乙女には、家畜の世話は大変だわぁ」
あくまでも自分をか弱い乙女という位置においておきたいらしい。
「ほらぁ、つつかれて……こんなに赤くなっちゃったわ」
そう言って、アルトに肌を見せてくれるのだが……肌の色は
日に焼けているので、何処が赤くなっているのか分からない。
「にわとり、こわい?」
「そうねぇ、獰猛だからこわいわよねぇ」
話しながら、ダリアはアルトに文字を教えていく。
ミニブタ、鶏、怖い、獰猛、家畜、世話、大変、など
ダリアは会話に出てきた単語をアルトに教えていくのだった。
アルトがミニブタの単語を使い、セツナに報告するための日記の
内容を頭の中で考えていると、宿屋の入り口から人の声が聞こえる。
「あらぁ?誰か来たのかしらぁ?
アル坊、ここにいてねぇ?」
アルトに、顔を出さないようにいい。
ダリアは、宿屋のカウンターの方へ野太い声をだしながら移動して行った。
暫くして戻ってきたダリアの手には、紙のようなものがにぎられている。
「ダリアさん、それはなんですか?」
「これぇ? これはおてがみよぅ」
「おてがみ?」
「そう、直接会って話せないところにいる人や
直接話すことが出来ないときに、何かを伝えるためのものよぅ」
アルトに説明をしながら、封筒の封を切り手紙を取り出し読んでいく。
アルトはその様子を興味深そうに見ていた。
最初は、ニコニコと顔に微笑を携えながら手紙を読んでいたのだが
だんだん目の色が変わってくるダリア……。
目を見開いたかと思うと、ブツブツ何か呟き数枚ある手紙をめくり
手紙の内容に没頭しているのか、アルトの顔色が変わっていっているのに
気がつかない。
今のダリアの眼は血走っており、肩より少し下ぐらいの髪は怒りに
よってなのか、うねっているように見える。
肩が震え……手紙を持っている手も震えている。
口から漏れるのは荒い息。そばでその様子を見ているアルトは
ダリアの豹変していく様子に声をかけることもできずに固まっていた。
手紙を全て読み終えたのか、俯くダリア
アルトが、心配して声をかけようとした瞬間。
地を這うような声がダリアの口から漏れる。
「……さない」
アルトがその声にまた硬直する。本能的に危険だと頭がつげていた。
「……るさない」
「……」
「ゆるさんぞぅ!!!!」
腹のそこから出した殺気交じりの声に
アルトはガタガタ震えながら、ダリアを見ていることしかできない。
アルトは悲鳴を上げないように、手で口を押さえていた。
ダリアの言葉遣いは男性のそれにかわっている。
「乙女心を弄びやがって!」
「地獄を見せてやる!!」
そういうと立ち上がり、自分の部屋に行き
すぐに戻ってきたその手には
普通の女性ぐらいの大きな斧が片手に握られていた。
そのまま庭に出るダリア。
その後を、震えながら付いていくアルトは
隠れながら、ダリアを見ている。
巨大な斧を庭で振り回しながら、ダリアは雄叫びを上げた。
「どりゃぁぁぁぁぁ!」
「……」
「女をなめんなぁぁ!」
叫びながら斧を振り回すダリアは、髪はメドゥサのようで顔は般若のようだ
きっとアルトが、メドゥサと般若をしっていたらそう表現したに違いない。
筋肉によって、腕の周りの生地は破れてしまっていた。
準備運動が終わったのか、斧を肩に乗せ歩こうとした瞬間
ダリアとアルトの視線が重なった。
硬直するダリア。
同じく恐怖で硬直するアルト。
数分黙ったまま見つめあい、ダリアの武器が落ちる。
その大きさから、重量もあるのだろう地響きを立てて地面に刺さる。
その様子に体をビクつかせ、我に返るアルトとダリア……。
「……」
「……」
「アル坊、ご飯の用意しましょうかぁ」
アルトは無言で頷いた。今はダリアに逆らわない方がいいと思った。
ダリアの後ろを大人しく付いていく
ダリアが、テーブルの上の手紙を見た瞬間
また、怒りが湧き上がったのか……。
「乙女を……私を怒らせたこと後悔させて上げるわ……」
「……」
「ふふふ……ふふふふ……」
その声だけで、呪われるんじゃないかと思うぐらいの迫力があり
アルトは、ダリアの不気味な笑い声が収まるのを尻尾を丸めながら
聞いていたのだった。
アルトは、その笑い声を聞きながら
男は、本当に女を守らないといけないんだろうか?
そんな事を、漠然と考えていたアルトだった。
こうして、楽しかったミニブタの世話の記憶は遠い彼方にとび
ダリアの言葉と、ダリアの姿が強烈にアルトの心に残ることになった。
乙女や女を怒らせると怖いということを、知ったアルトは
それをセツナに教えるべく日記に書いたのだが
その日記の内容に、セツナはまた悩む羽目になるのである。
次の日、ダリアはセツナに午前中だけ宿屋に居てくれるように頼み
肩に巨大な斧を担いだダリアを無言で見送るセツナに
「おるすばんよろしくねぇっ」とにっこり笑い、出かけていき午後になってすぐ
すっきりした顔で戻ってきたダリアを見て、セツナは深く溜息をつくのだった。
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