『 挿話:アルトの恐怖日記 』
【おんな、は、こわい
おとめ、も、こわい】
僕が居ない間に何があったんだろう?
今日も、アルトをダリアさんに任せて
ギルドの依頼をこなし、旅に必要なものを購入して帰って来た。
夕食を食べている時のアルトが
少し、元気がなかったように感じたけれど
ダリアさんが言うには、お昼に庭で
はしゃぎすぎたんじゃないかということだった。
今日は勉強はしないで、もう寝るかと聞いたが
勉強すると言うので、今日も夕食後アルトの勉強を見ていた。
アルトの文字を覚える速度には驚かされる。
昼間、ダリアさんもアルトに言葉を教えてくれているみたいだ。
どうしてそれが分かるのか。
僕が教えてない文字が、日記に書かれているからだ……。
昨日は、単語を文章にする方法を教えたのが
ちゃんと使えているのが凄いと思う。
だけど……。
アルト、僕はこの日記の返事を
どう書けばいいんだろうね……。
たった2行だ、たった2行の日記なのに
それも子供が書いたものなのになんて奥が深いんだ!
僕はまだ女性を、怖いと思ったことがない。
女性と深く話す機会も、そういう経験もないからだけど……。
たぶん、アルトの女はダリアさんを指しているんだろう。
きっと、これは間違いないはず……。
じゃぁ……この乙女というのは誰を指しているんだろう?
いや、考えなくても分かる考えなくても1人しかいないのだから……。
「はぁ」
知らず溜息が出る。アルトは狼の姿になってベットで丸まって寝ている。
気持ちよさそうに寝ているけど、たまにうなされているような気がするのは
気のせいだろうか……?
僕の居ない間に、いったい何があったんだろう?
気になる、非常に気になる。
だけど、アルトが僕に報告するために書いた日記の内容を
根掘り葉掘り聞くのは、どうかともおもうしな……。
この2行の文字には、アルトが僕に伝えたい事と
今日の努力の結果なのだから……。
返事。返事を書かないと。
もう一度、アルトが書いた日記を見る。
【おんな、は、こわい
おとめ、も、こわい】
状況が分からないだけに、どういった怖いなのかが分からない。
ダリアさんが、アルトに怒ったということも聞いていない。
アルトもダリアさんに怒られた様子はない。
どちらかと言うと、本能的に怖いに近い気がする。
頭の中でアルトにする返事を考える。
女性は怖いねっと肯定するとする。
今のアルトの頭の中は、女性=ダリアさんになっているはずだ。
そうすると僕は……ダリアさんが怖いと肯定することになってしまう。
女性は怖くないよと否定するとする。
女性はか弱いものだから……か弱い?
やっぱりどう考えても、ダリアさんがか弱いとは思えない。
女性=ダリアさんっていう縛られた状況の中で
答えを見つけるのは、とても難しいような気がした。
それに、乙女ってなんなんだ……。
乙女も、ダリアさんのことを言っているのだろう?
乙女……乙女……乙女の定義ってなんなんだ!
こうして、僕の夜は更けていく……。
アルトへ
こわいものは、ぼくといっしょに
こくふくしていこうね。
この日も、ぼくが寝たのは朝方だった。
用意できた答えは平凡だ……。
克服しようといった僕に、アルトが青い顔をしていたが
昨日のことを思い出したのかな……?
ダリアさん、貴方いったい何をしたんですか?
アルトの日記を見せて、問い詰めたい気持ちになったが
もちろんそんなことが出来るわけもなく。
朝食の時間が心配だったけど、アルトがダリアさんを
避ける感じもなく、普通に話しているのを見て少し安心した。
安心する心とは裏腹に、疑問は膨らむばかりだった。
読んでいただきありがとうございます。