表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 挿話 : デージー : 乙女の無邪気 』
31/126

『 挿話:アルトとダリアの野菜話 』

「アル坊? セツ君は、まだまだ帰ってこないからぁ」


宿屋の入り口付近で、外をじっと睨んだまま微動だにしない

アル坊といわれた、アルトはダリアの方を振り返り哀しそうな顔をした。


「アル坊。セツ君に言われたお勉強終わったのぅ?」


「おわった」


午前中、寂しさを紛らわせるためにわき目も振らず勉強していたアルト。

お昼になって、ダリアに呼ばれたから部屋から出てきたのだ。


アルトは朝ダリアとあって、少し違和感があったのだが

それが何かは分からなかった。


そんな違和感よりも、セツナがアルトを置いて出かけてしまったという方が

アルトにとっては一大事だったのだ。


「じゃぁねぇ、アル坊。私のお仕事手伝ってくれるぅ?」


アルトは正直、ここでセツナが帰ってくるまで待って居たかったのだが

セツナに、ダリアさんの言うことをちゃんと聞くよう言われていたので

ダリアを手伝うことにした。


「はい」


「いいお返事ねぇ、それじゃぁお庭にいってぇお野菜を採りましょう」


「おやさい?」


「そうよぅ。セツ君がお腹をすかせて帰ってくるからぁ

 美味しいお野菜でぇ、美味しいお料理をつくるのよぅ」


「ししょうのため?」


「えぇ、アル坊もセツ君のために

 美味しいお野菜を、採るの手伝ってねぇ?」


セツナの為に、何かをするのだと聞いてアルトは眼を輝かせながら

コクコク頷いた。


庭には、趣味の域では作れないだろうという畑が広がっている。

朝、セツナとアルトが鍛錬をしていたときは

セツナのことで、頭が一杯になっていたので

畑の存在には気がつかなかったらしい。


「アル坊、そこのトマトをもいでこのかごの中に入れてくれるぅ?」


「とまと?」


「その赤い実よ、朝サラダに入っていたでしょうぅ?

 これを切ってサラダに入れるのよぅ、スープに入れても美味しいわぁ」


「ダリアさん、とまと、どうかく?」


「どうかく?」


「もじ」


「あぁ、なるほどぅアル坊は勉強熱心ねぇ」


ダリアは落ちていた小枝を拾うと地面に文字を書いた。

それを見て、同じように何度か地面に書いて練習するアルト。

練習して覚えたのか、ダリアに言われた通りトマトをもいでかごの中に入れていく


「アル坊、トマトはそれぐらいいわぁ

 次はピーマンをもいで頂戴」


ピーマンと文字を地面に書いて、練習したあと

ダリアがピーマンを指差す。


アルトが、ピーマンを触ろうとして手が止まる。

動きの止まったアルトに声をかけるダリア。


「アル坊?」


「おれ、これ、きらい」


アルトは大体のものは好き嫌いなく食べれるのだが

ピーマンの香りと味がどうしても好きになれないようだった。


「あら、アル坊好き嫌いはいけないわぁ?

 好き嫌いをすると、私みたいに美人になれないわぁ?

 ピーマンは美容にとても言いのよぅ、ビタミン一杯よぅ」


「でも、にがい」


そんなアルトに、ダリアは優しく語りだす。


「アル坊、お野菜は太陽の神サーディアと

 大地の神グラディアの子供なのよぅ?」


「かみさまのこども?」


「そう、ここにあるお野菜はキラキラと光っているでしょうぅ?

 それは、太陽の神と大地の神が愛を一杯与えて子供達を育てているのよぅ?」


アルトは黙ってダリアの話を聞いている。


「だから、神様の愛を一杯受け取って育ったお野菜を嫌いというのは

 可愛そうだわぁ? それにねぇ、神様の子供には神様の力が宿っているから

 アル坊も、ちゃんとお野菜を食べないと強くなれないわぁ?」


ダリアの強くなれないという言葉に、アルトの耳がピクリと動く。


「かみさまのこども、たべて、いいの?」


「神様の子供達は、1人では成長できないの

 だから、お野菜を作る人がぁお手伝いをしているのよぅ。

 そうして、成長してお花が咲いたら神の国に戻ることが出来るの。

 育ててくれたお礼にって、神様の子供達が残していってくれるのが

 お野菜なのよぅ?」


アルトは、ピーマンをじっと見つめ何か考えているようだ。


「ダリアさん、おやさい、かみさまのこども、おくりもの?」


「そうね、おくりものねぇ」


「おやさい、たべると、かみさまのこども、なれる?」


その言葉に、ハッとするダリア

そういう発想は、子供特有のものなんだろう。


「そうねぇ、なれると思うわぁ

 だって、セツ君はとてもつよいものねぇ」


「ししょう、つよい、おれも、かみさまのこどもなる」


そういいながら目をキラキラさせ、ダリアを見上げたアルト

その目が、キラキラから驚愕に変わっていく

アルトの視線はダリアの顎に釘付けだった。


優しく微笑みながら、吃驚したような顔をしている

アルトに声をかけるダリア


「どうしたのぅ、アル坊?」


「……ひげ」


「……」


「……」


アルトの一言に固まるダリア。

顎を不思議そうに見つめるアルト。


昨日と同様、微妙な空気が流れるがアルトは気がつかない。

アルトに悪気があったわけではなく、ただ朝の違和感に

気がつき、違和感の正体が分かったことが嬉しかったのだ。


自分が発見したことを、セツナに報告しなくてはと思うが

日記に書くための、ひげの単語が分からない。


「ダリアさん、ひげ、どうかく?」


アルトの言葉に、笑顔が引きつるのが分かる……。

しかし、ただひげのことを言われただけで怒るのは大人気ない。


これが子供じゃなかったら……。


アルトが小枝をダリアに差し出す。

それをうつろな目で見ながら、受け取り地面に "ひげ"という単語を書いた。


アルトはそれを見て、御礼を言い

地面に何度も "ひげ "と書いて練習する。


それを見ているダリアはただうなだれることしか出来なかった……。


アルトの中で、一番大きかった出来事がトマトやピーマン

神様の子供のことではなく。"ひげ"となった瞬間であった。


ダリアをへこませ、セツナを悩ませることとなった"ひげ"の日記である。



読んでいただきありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



html>

X(旧Twitter)にも、情報をUpしています。
『緑青・薄浅黄 X』
よろしくお願いいたします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ