『 挿話:ダリアと言う女性 』
書籍はWebの内容を再構築して物語を綴っており、書籍は足りない部分をかなり補っております、書籍とは異なる部分があると思いますのでご注意下さい。
アルトとダリアのお留守番の物語。
数話続きます。
・・・ ハジマリ ハジマリ ・・・
冒険者ギルドの扉が開いて、2人づれが入ってくる。
1人は優しそうな感じの青年、もう1人はフードを目深にかぶった少年
ゆっくりと、ギルドのカウンターに近づき、マスターに挨拶をした。
少年はフードを外すと、ブラウンの髪に菫色の目をギルドマスターに向けた。
頭の上には、狼の耳とおもわれるものが付いている。
青年の方がセツナで、フードをかぶった少年がアルトである。
挨拶が済むと、セツナがマスターに話しかける。
「マスター、ここら辺に安く家を借りれるところを知りませんか?」
「宿屋に泊まっていたんじゃなかったのか?」
もう泊まっている所があるだろうというような感じで
答えを返すギルドマスター。
「そうなんですが、少し節約しようと思いまして」
ギルドマスターは、じっとセツナの顔をみてそばに居る
アルトに聞こえないようにセツナに聞いた。
「追い出されたか」
正解とばかりに、顔に苦笑を浮かべ頷く。
ギルドマスターが顎に手をやり考えながら話す。
「賃貸は無理だろうな……」
「同じ理由でですか?」
「そうだ、それに坊主は余りこの街をうろうろさせないほうが
いいかもしれん」
自分のことを言われているのに気がつき
アルトがきょとんとした顔を、ギルドマスターに向ける。
「次の街へ行きたいのは山々なんですが
アルトの体力がもう少し回復するまでは……」
この国は、獣人にとって過ごしやすい国ではない。
城下町に居るほとんどの獣人は売られてきた奴隷だ。
そんな環境に、セツナはアルトを置いておきたくないのだが
長旅をするだけの体力がアルトにはなかった。
「いざとなったら僕が抱えて旅をしてもいいんですけどね」
セツナの言葉に、ギルドマスターは笑いを添えながら
「ギルド宿舎もいい環境ではないしな……」とこぼす。
マスターは、セツナがよく他の冒険者達に絡まれているのを知っていた。
職業が学者ということにくわえ、年が若く甘い優しい感じのする顔つきが
なめられる原因になっているようだ。
そこに、獣人であるアルトを連れて行くと何が起こるかは想像にかたくない。
「そうだな……一箇所、お前達でも大丈夫な宿屋があるが……」
そういいながら、言葉尻を濁す。
「何か問題があるんでしょうか」
「いや、泊まるのには問題がないだろう。
元冒険者で、ある程度活躍していたやつだ
チームに獣人族もいたから心配するようなことはないし
気持ちがいい奴なんだが……」
そう言って、黙るギルドマスターにセツナが
「値段が高いんでしょうか?」
「いやいや、客はほとんど居ないというかまったく居ない」
不思議そうに、ギルドマスターを見るセツナに
「客を選ぶ宿屋でな……」
「そうですか、他に泊まれそうなところも知らないので
教えてもらってもいいですか、1度行って見ます」
「あぁ、俺のほうからも連絡を入れておくか」
「お手数をおかけしてすいません……」
「いや礼はいい、面倒見はいい奴だから
気に入られたら良くしてくれるだろう。
気に入られない方がいいかもしれないが……」
マスターは、よく分からないことを言いながら
宿屋の地図をセツナに渡した。
「今日はもう依頼は受けないんだろう?」
「はい、宿屋に行って色々必要なものをまとめて見ます」
セツナはアルトにフードをかぶせると、冒険者ギルドを後にし
ギルドマスターから教えてもらった宿屋に向かった。
10分ぐらい歩いたところにその宿屋はあった。
外観は少し古い感じがするし、宿屋だと言うのに、建物の中が薄暗い。
「ししょう、ここ?」
「うん、地図に描いてある場所はここだね」
アルトは少し怖いのか、セツナにしがみついている。
セツナはアルトの背中を数度軽く叩き、緊張をほぐした。
アルトの緊張が少し緩んだのを見てから
宿屋の扉を開け、入っていく。
「すいません、部屋をお借りしたいのですが」
そう声をかけると、受付カウンターの奥の部屋から
野太い声と一緒に1人の女性……がでてきた。
「はいはい」
「……」
「……」
セツナはしばし呆然とし、その女性を見ている。
アルトにいたっては、思いっきり見上げる形になっているのだが。
目が零れ落ちそうなぐらいに、カウンターに現れた女性の顔を凝視していた。
「あらぁ、私の顔に何か付いてるかしらぁ?」
そういいながら、女性はアルトに微笑む。
我に返ったセツナが、いえなにもと言おうとした瞬間
アルトが一言正直に言葉を放った。
「ひげ」
「……」
「……」
その言葉に、気まずい沈黙が2人の間に流れる……が
その沈黙を破ったのはセツナだった。
「すいません、まだ子供なもので」
「いいのよぅ、気にしてないわぁ」
と言いながらも顔は少々引きつっている。
アルトは、目をぱちぱちしながら2人を見ていた。
「僕達は、ギルドマスターに紹介してもらいここに来ました。
よろしければ部屋を貸していただきたいのですが」
「ええ、マスターから聞いているわぁ」
コホンと咳払いをすると。
「私は、ここの宿屋を経営しているダリアというのよろしくねぇ
か弱い女主人よぅ」
か弱いと自己紹介するダリアの身長は、2mを超えるかと思われるほど高い。
元冒険者と言うだけあって、体つきもがっしりしている。
そう……。がっちりした体つきの男性が
ワンピースを着て化粧をしている感じだ。
なんといって返事をしていいのかわからなかったセツナは
無難に自分も自己紹介をすることにした。
「僕は、セツナといいます。
職業は学者、ギルドランクは青です」
セツナのランクは緑から青にあがっていた。
自分の紹介が終わると、アルトのほうに顔を向ける
「アルト、アルトも自分で自己紹介して」
まだ少し固まっているアルトに、そう声をかける。
我に返ったのか、アルトが頷き
「おれは、アルトと、いいます。
しょくぎょうはけんし、ギルドランクはきいろです」
ちゃんと言えた事を
褒めるように、アルトの頭をなでるセツナ。
アルトは、褒められて嬉しいのか尻尾がゆっくりと揺れている。
「セツ君にアル坊ねぇ、お部屋は2人部屋でいいわよねぇ?」
呼ばれたことのない呼ばれ方で、セツナは少し遠い目をしながら答える。
「はい、2人部屋でお願いします」
「アル坊は獣人族ね、久しぶりにみたわぁ
可愛いわねぇ……おねーさんが恋の手ほどきを教えてあげようかしらぁ?」
ダリアの言葉に驚いて、セツナがすぐに断る。
「いえ、それも僕が教えるので間に合ってます。大丈夫です」
「あらそうぅ? 残念ねぇ、それじゃぁセツ君に教えてあげましょうかぁ?」
「いえ、大丈夫です人に教えてもらうより自分で覚える方がすきですから」
セツナが、色々突っ込みどころ満載な返事をし
丁寧か丁寧じゃないのか分からない答え方をする。
「まぁ、そういうのは人それぞれよねぇ……」
納得したのか1人で頷いているダリア。
アルトは会話の意味が分からないのか、首をかしげながら
少し疲れたようなセツナを見上げていた。
「マスターから詳しく聞いてるわぁ。セツ君が居ない間
私がぁアル坊の護衛をしてあげるからぁ、心置きなくでかけるといいわぁ」
ダリアの申し出に、少し驚いた後セツナは笑顔を見せ
「よろしくおねがいします」と頭を下げた。
「一応、この宿屋全体に結界を張ってもいいでしょうか
ダリアさんとアルトに、悪意を持った人間が入れないように」
「いいわよぅ、セツ君は風使いだったわねぇ」
「はい」
「それなら、不可視の魔法はかけれるぅ?」
「はい。大丈夫です」
「セツ君は、優秀な魔導師なのねぇ。
かけれるなら、お庭にかけてアル坊がお庭で遊べるようにも
してあげてちょうだい。屋敷の中だけじゃ息が詰まってしまうでしょう?」
「いいんですか……?」
「いいのよぅ、どうせ誰も来ないからぁ」
「ありがとうございます……」
ダリアの心遣いに感謝すると、部屋の鍵をもらい2人は
借りた部屋へと移動した。
読んでいただきありがとうございます。