『 僕とアルトの紋様 』
朝食の片づけをし、城下町までアルトと一緒に歩いて帰る。
アルトは途中で咲いている花を見つけると
花の蜜が本当に甘いのかなめてみて、甘いことを知ると
驚いた表情を作っていた。
その他には、木になっている実をもいで食べて渋くて吐き出してみたり……。
美味しいものと当たれば、感動してみたりと
色々な物に興味を持って、自分で観察し、僕に聞き、それを覚え納得しながら
ゆっくりと、道を歩いていく。
狼なので鼻がいいのか、空気に混ざる香りにとても敏感なようだ。
僕は僕で、そんなアルトを観察しながらアルトの質問に答えていく。
甘い香りがする花を見つけたのか、アルトがふらふらと歩いていく。
「あまくて、いいかおり」
花を摘み、口をつけて蜜をなめてみるアルト。
口に入れた瞬間、アルトの体が震える。
僕はそんなアルトにのんびり声をかけた。
「アルト、その花の蜜は毒が含まれているんだよ」
「……」
体がしびれて動けなくなっているらしい。
「その花の蜜の成分はね、体を麻痺させる効果があるんだ。
さっきから、アルトは何でも口に入れているけど
食べるとそういう風に、危険な植物もあることを覚えておかないと
いけないよ」
「……」
「その花の毒は良く使われる、特徴はその甘い香りだから
その香りがする食べ物は食べていけない」
痺れて動けないアルトに、色々教えていく。
「草でも花でも木の実でも、食べられるものもあれば
薬に使うものもある、そして今アルトが口にしたもののように
食べると毒になるようなものもあるからね。
ちゃんと何が食べれて、何が薬になって、何が毒になるのか
これから覚えていかないとね」
僕は、アルトのそばに行き風の魔法をかけた。
「ししょう、ありがとうございます」
僕の方を振り返り
痺れがとれたことに、ほっとしたような表情を見せる。
「気をつけようね、なんでも口に入れるのは危険なんだから」
「はい」
少し荒っぽい教え方かもしれないが、何事も体験してみて
自分のものに、なるんじゃないかと思う僕は
ギリギリまで、アルトを好きにさせることにしたのだ。
アルトが興味を持ち、何か行動を起こし、その結果がどうなろうとも
僕がフォローを入れてあげればいいのだ、あれは駄目これは駄目というような
教え方はやめようと決めていた。
まぁ……色々なことに興味津々な
アルトの行動を見ていたいって、いうのが本音かもしれないけれど……。
そんな自分の考えに
苦笑してしまうが、師匠の楽しみということで大目に見よう。
アルトに視線を向けると、今度はまた違う花を持っている。
香りをかいで、何か考え、そして今度はそっと蜜をなめている。
注意した前と変わったのは、一気になめるか、そっとなめるかである。
アルトのその行動に思わず噴出してしまう。
蜜をなめたアルトは……。
「にがい、ししょう、くち、にがい」
うずくまって、苦味に耐えているようだ。
目に涙を浮かべている。
「うんうん、その花はとても苦いんだ。
効能は、食べ過ぎて気持ち悪くなったときに口にするといい。
胃を整えてくれる効果があるからね」
口の中にまだ苦味が残っているのか、舌を出している。
「アルト、僕はさっきなんでも口に入れてはいけないって言ったよね?
どうして、またすぐに口に入れたのかな?」
「はなのにおい、いいにおい」
「……」
「だから、だいじょうぶおもった」
「さっき、体が痺れたときの花もいい香りだったよね?」
コクコクと頷く。
「そうすると、花の香りがいいからといって
毒じゃないっていうことにはならないよね?」
耳と一緒に、しゅんとうなだれる。
「さて、アルトじゃぁどうすればいいのかな?」
顔をあげて僕を見ると、頭をフル活動させているのか
うんうん、うなって答えを出す。
「ちょっとだけ、なめてみる?」
だめだ、わらっちゃだめだ……
僕は、内心笑いたいの我慢しながら
真面目な表情を作る
「バカタレちゃん」
僕がそういうと、ショックという表情を作った。
そしてまた考える。
「ヒント、昨日僕と一緒に見たものはなんだったかな?」
「きのう、みた?」
「そう、ミルクを飲みながら一緒に見たでしょう?」
「えっと、ほん?」
「正解」
僕は鞄から本を出すと、アルトに渡す。
それを受け取り、アルトが僕と本を交互に見る。
「その本をアルトにあげるから、知らない花とか草や実を見つけたら
本で調べる、植物の名前、食べられるのか、薬になるのか
毒になるのか、その特徴や効能そういうものが全部書いてあるからね」
本をぎゅっと抱きしめるアルト。
「時間がないときは、植物の形を覚えておいて後で調べるんだよ」
「もらって、いいの?」
「ちゃんと勉強してね」
「はい!」
嬉しそうに笑顔を向けて、返事をするアルトの頭をひとなでする。
「アルト、あーんってしてごらん」
「あーん」
あいた口の中に、飴を1つ入れる。
あの花の蜜は、とても苦いからまだ口の中に残っているはずだ。
「あまい! おいしい」
「よかったね」
「ししょう、なに?」
「そういう時は、これは何ですかって言うんだよ」
僕の言葉を復唱し
僕にもう一度聞きなおす。
「ししょう、これはなんですか?」
「飴だよ、砂糖を溶かして固めたものだよ。
味付けに、果物の汁をいれてあるんだ気に入った?」
「きにいった!」
「それじゃぁ、残りはアルトにあげるよ。手を出して」
両手をくっつけて手を出すアルト。
そこに、僕の手のひらぐらいの袋に入った飴をアルトの手のひらに載せる。
「ポケットにいれておいて、疲れたら食べるんだよ。
一気に全部食べちゃ駄目だからね」
それはそれは、幸せそうに飴を受け取りポケットに入れる。
「ししょう、ありがとうございます」
尻尾を振り、耳を動かしながらお礼を言ってくれた。
「どういたしまして、さぁ歩こうか」
アルトを促しまた、城下町へ向かって歩く。
そんな感じで、あっちへふらふら、こっちへふらふら
興味の赴くままに歩くアルトに付き合いながら、ゆっくりと城下町に戻ってくる。
僕の足で、1時間ぐらいのところを4時間ほどかけて帰ってきた。
途中でお昼をとったから、歩いた時間は3時間ぐらいだ。
昨日の今日で、アルトは疲れていたようだった。
アルトに渡した飴に、体力回復の効果をつけていたけれど
アルト自身に、体力が無いのが問題だった。
「アルト、僕はギルドに行って来るけど
アルトは、先に宿屋で待ってる?」
「おれもいく」
「大丈夫?」
「だいじょうぶ」
「わかった、疲れたら言うんだよ」
アルトが頷いたのを確認し、ギルドへ向かう。
ギルドの扉をくぐると、いつもの調子でマスターが声をかけてくれる。
「おぅ、坊主えらいゆっくりだったな」
「ええ、ちょっと色々ありまして」
「その色々ってのは、そこの獣人の子供か?」
ギルドマスターが、アルトに目を向ける。
アルトは僕の後ろにひっついて、隠れているつもりらしい。
「坊主、お前奴隷を買ったのか」
僕に問いかける声には、厳しさが含まれている。
「はい、買いました」
「俺は、お前がそんな奴だとは思わなかったんだけどな」
僕を責めるような言葉に、アルトが僕の後ろから飛び出した。
「ちがう! ししょう、おれ、たすけてくれた!」
「アルト……」
「おれ、もう、どれいちがう!」
アルトがマスターに必死に叫ぶ。
僕は少し驚いて、でもアルトの気持ちが嬉しくて
アルトの頭をそっとなでる。
「ふっ……ふはははははは」
マスターがいきなり笑い出す。
「えらい気に入られたんだな、どうせ坊主のことだから
殴られてるか、殺されかけていたところを見て見ぬふりが
できなかったんだろう」
図星を指され、ばつが悪くそっぽを向く。
「おれは、それが正しいとはおもわねぇが
その子供にとっては、幸せなことだろうよ」
「そうあるように努力していくつもりです」
「どうするんだ? 国の施設に入れるのか」
施設という言葉に、アルトが硬直する。
心配ないという風に、背中をなで落ち着かせる。
「いえ、僕の弟子にします」
「弟子ね……それがいいかもしれないな。
この国の施設は余りいい噂をきかねぇからな」
「……」
アルトが居るせいか、それ以上のことを言うつもりはないらしい。
まぁ……僕が召喚されたときのことを考えると
僕にとっては、この国がまともだとはどうしても思えないから
マスターの言葉を聞くまでもなかった。
「マスター、アルトのギルド登録をお願いしたいんですが」
「おいおい、ギルド登録は12歳からだそんな子供は登録できない」
「アルトは12歳なんです」
アルトの年齢に、驚きそして僕と同じ考えに至ったんだろう。
マスターは、短く溜息をつき登録用紙を渡してくれた。
「わかった、これに必要事項を記入してくれお前が書いてやるといい」
登録用紙をもらい記入していく。
アルトは僕の横で、一緒に登録用紙を見ている。
「アルト、職業何にしようか」
頭の中で、獣人について調べた事を思い出す。
獣人族 : 狼、身体能力が高く戦闘能力も高い。
通常、獣人族は魔法は使えないがたまに魔法が使える獣人がいるらしい。
狼の一族でも、青狼と銀狼は必ず魔力を持っているようだ。
アルトは、気がついていないけど
アルトにも、魔力があるから魔法が使えるはずだ。
これを、記載するかしないか……。
しばらくは、記載しない方向で行こう。
「しょくぎょう?」
「そう、職業」
「うーん」
「うーん……アルト、剣と弓どっちがいい?」
「けん! ししょうとおなじがいい」
「拳で戦う方法もあるけど」
「ししょうとおなじがいい」
「そう。それじゃぁ……剣士って事にしておこうかな」
能力は……獣人の能力はどうなんだろう……?
わからないから……これも保留と言う事にしておこう。
名前 : アルト
年齢 : 12
職業 : 剣士
属性 : ……
ランク: ……
能力 : なし
今のところこういう感じかな
一応書きあがったので、マスターの所に持っていく。
「無難だな、ギルドの説明はお前が後でしてやってくれ」
「分かりました」
「おい、坊主この石に手を載せろ」
「僕とアルトの呼び方が同じですか……」
カウンターに、背が届かないので僕が抱き上げる。
少し戸惑いを見せるが、マスターに言われたとおりに
石に手を載せた。
「お前……本当に、この坊主に気に入られてるのな」
マスターは視線をアルトの手にやり、ニヤリと笑った。
僕は何のことか分からずに、マスターの視線を追う。
アルトの紋様は……双剣がクロスしていた。
その双剣の柄に僕と同じ椿の花の紋様がついていた。
この世界にない花なのに……。
「……」
「ししょう?」
アルトを抱く腕に力が入ったのか、アルトが僕を呼ぶ。
「ごめん、ごめんギルドの登録が終わったよ」
アルトを降ろし、マスターのほうを見るとまだニヤニヤ笑っている。
アルトの分のキューブを僕に渡しながら、マスターは表情をがらりと変える。
「そいつは、青狼だろう?」
「多分そうだと思います、確信はないのでわかりませんが」
「珍しいから狙われやすい。奴隷の首輪がついていれば
奴隷商人や人買いからは狙われないんだけどな」
「そうですが……さすがにそれは……」
「だから変わりに、耳輪をつけておいてやれ。
1つの耳輪は、誰かの弟子だという証だからな
お前が右耳、弟子が左耳だ」
マスターの言葉に頷く。
「それでも……こいつは狙われるだろうが
保護者がいるとわかったら、相手もそう簡単に手は出せないだろうよ」
「ありがとうございます」
「おぅ、せいぜいガンバレやセツナ」
マスターが、初めて僕の名前を読んだことに驚く。
そんな僕を見て、意地の悪い笑いを顔に浮かべ
「セツナにとっても、坊主と出会えたことは良かったかもしれないな
地に足が着いていないような感じだったが……。
守るものができて、自分の方向性がちゃんと固まったようだな」
マスターの言葉に、マスターが僕をとても気にかけてくれていたことが分かった。
嬉しい気持ちを胸にしまい、マスターに憎まれ口をたたく
「僕の名前を呼んでくれたのは、単にアルトを坊主って呼ぶためなんですね」
「それ以外になにがあるんだ」と鼻で笑うマスター。
「僕もアルトと一緒に、成長していこうと思います」
真剣に言う僕に、マスターが笑いながら告げた。
「まだまだ先は長いんだ、肩肘張らずにのんびりいけや」
マスターの言葉に、僕は頷く。
半分眠りながら、僕の服を握っているアルトを
抱き上げるとマスターに挨拶して宿屋に向かった。
読んでいただきありがとうございます。