『 僕と能力開花 』
* 残酷描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
軽い……。
僕の腕の中で、意識を失っている子供はとても軽かった。
体重というもをまるで感じさせない。
野営できる場所を探し、新しく作った結界針を地面に刺す。
結界を張り、子供を地面に寝かせ鞄から毛布をとりだしかける。
それから火をおこし、子供の様態を調べていった。
子供はとても細かった……。
右手が曲がっている……。
右足も……曲がっていた。
暴力を振るわれて、折れたまま放置されたのだろう。
これでは、歩くだけでも辛かったはずだ。
血に塗れ汚れた服を脱がし、毛布を巻きつけ風の魔法をかける。
魔力量によって、違いは出てくるがこの世界の治癒魔法である
風の魔法は、全てを治してしまえるほど万能なものではない。
怪我ならば、怪我をしたところの傷をふさぎ、出血を止め、疲労を回復する。
自己治癒能力を高める。病気もある程度の病気なら治せるが
難しい病気は治すことはできない。薬に頼ることも多い。
骨折は治せるが、一度ついた骨を真っ直ぐに治すことはできない。
「痛かっただろうな」
あちらこちらにある、青あざ、鞭で殴られたであろう傷が
無数についていた。
なぜ、種族が違うからというだけでこんな扱いができるのだろうか。
いや、彼らは人間でも同様に実験体にしてしまえる。
「……」
自分の思考に入りかけるが、目の前の子供を見て意識を切りかえる。
「ごめんね、少し記憶を探らせてね」
この子が奴隷になった経緯を知りたかった。
もしさらわれたのなら、親の元に戻してやれるかもしれないと思った。
記憶を探っているうちに、自分の眉間にしわがよっていくのが分かる。
先祖返りか……。
父方の血か、母方の血に獣人族の血が混ざっていたようだ。
普通の人間の夫婦に、獣人の子供が生まれた。
先祖がえりなど、知らない2人は子供を育てることを放棄する。
父親は母親を責め、母親は子供を嫌悪し出て行き
父親は部屋の一室にこの子を閉じ込め
抱き上げることもなくご飯だけを与えていた。
その方法は、牛や馬を育てるのと同じだ。
外の世界を知らず、食事も満足に与えられず、ただ生きているだけの毎日。
ある日、部屋の扉が開き初めて外に出られることに喜ぶ子供。
あちらこちら、薄汚れてはいたけれど
その笑顔はとても可愛らしいものだった。
「金貨2枚だ」
「6枚だ、そいつを金に替えるためだけに今日まで育ててきたんだからな」
「3枚」
「5枚これ以上は譲れん」
「仕方ない、5枚で手を打とう」
皮袋から金貨を取り出し、子供の父親だろう人に渡す。
子供はじっとその様子を見ていた。
父親は、子供を見ると一言
「トアルガ」というと家の中に入っていった。
その後の子供の人生は、悲惨というしかなかった。
逃げようとして殴られ、蹴られ、売られたところで反抗し主人に怪我をさせ
また奴隷商人に売られる。
そのようなくり返しで2年間を過ごしてきていた。
父が……迎えに来てくれるかもしれないと心に期待を抱きながら。
奴隷の男に言葉を教わり
最後に言った、父の言葉の意味が分かるまで……。
「……」
歯を食いしばる、怒りが胸にこみ上げてくる……。
僕が怒る権利なんてないのかもしれない、人それぞれ理由があるのかもしれない。
だけど、それでも、生まれてきた子供に何も罪はないのだ。
自分の姿がどのような姿で生まれてくるかなど
自分で決めることはできないのだから……。
子供の不自然に曲がった手足を見て
僕は、心の底から治したいと願う。
せめて、手と足の骨が真直ぐになるように。
物が持てるように。走れるように。
歩いても辛くないように。
この子がせめて、肉体的に自由になれるように。
心から願う、この子の体を癒す力が欲しいと。
それはもしかしたら、自分の過去を垣間見ていたのかもしれない。
自分の思う通りに、生きれなかった過去の自分と重ねていたのかもしれない。
「この子を癒す力を……」
無意識のうちに、そう呟いていた。
そして自分の手をあわせ、ゆっくり間隔をあけていく
その空間に優しい光を放つ球体が現れ
それがピンポン球ぐらいの大きさになったのを確認して
その球体を子供の胸の辺りにそっと落とした。
その光は、スッと子供に吸収され
次の瞬間、子供の体が淡く光り出す。
その時間は短いものだったけれど、光が消えた時には
子供の曲がっていた骨が元通りの形へと戻っていた。
同時に体の傷も消えている。
「僕の能力は、癒しの力」
僕らしい力だといえば、僕らしいかもしれない。
体の異常を全て完治させることができるが
血や肉を作り出すことはできないらしい……。
能力が開花すると同時に、この能力で
できる事と、できない事がわかる。
万能な力だけど、余り人前で使うのは避けたほうがいいかもしれない。
面倒なことに巻き込まれかねないから。
カイルの想像具現とあわせれば、エリクサーなど作れそうな気がする。
カイルの能力は、肉体に摂取するものが作れないけれど
僕の癒しの能力を、入れる容器は作れるだろう……。
でも売りに出したとしても、やっぱり面倒なことになりそうだ。
できれば、国であるとか権力者とかには近づきたくない。
自分の能力について、簡単に把握し
応用などは、落ち着いてから考える事にした。
寝ている少年を見ながら、彼に必要なものを考えていく。
「まずは食事かな? 体が治ったから何を食べても大丈夫だと思うけど
やっぱりここは、胃をびっくりさせないようなものがいいのかな」
転移で城下町まで一度戻り
食材と着る物を、調達して戻ってくることに決める。
この子を連れて転移で戻ってもいいのだが、体が異常に汚れている上に
着る物もない……。生活しているところが、ギルドの宿舎なので
ギルド員以外は、連れてはいることができない。
「やっぱり1度戻って、宿屋も確保してきたほうがいいな」
普段体を鍛えるために、めったに転移は使わないのだが
転移を使って往復することを決める。
城下町で用意するものを頭の中でリスト形式にして
抜け落ちているものがないか確認する。
結界を少し強化し、僕しか出入りできないようにしておき
ついでに、外からも見えないように不可視の魔法をかけておくことも忘れない。
"転移"そう考えた瞬間、僕はもう城下町のはずれに移動していた。
そして、服や靴を購入してから……能力で作ればよかったと気がつき
少し落ち込むのだった。
読んでいただきありがとうございます。





