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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 コリアンダ- : 隠れた価値 』
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『 僕と月光 』 

 この空は、僕の知る場所には続いていないのかと

頭の隅で思いながら、感傷を吐き出すように歌を口ずさんでいたら

思ったよりも早く、アギトさん達が帰ってきた。


一瞬、歌を聞かれたかなと少し恥ずかしかったけど

聞かれてはいなかったみたいだ。


「依頼完了ですね」


「こちらはね、拍子抜けするほど簡単に終わったよ」


アギトさんがそう教えてくれる。

ビートさんは、僕が縛ってある3人組のそばへ行き

つま先でつついている。


「セツナ君の方も、大丈夫だね」


3人組の方をチラッとみて、アギトさんが確信していたように言った。


「ええ、ちょっと試してみたい魔法があったので

 それを使ってみました」


「どんな魔法だい?」


僕は少し考え、「秘密です」と答えた。


この世界では、魔導師というのは魔法がご飯の種だから

自分の魔法を、ペラペラと言いふらすことはしないらしい。


術のイメージ・構成・詠唱というのが、ちゃんとそろわないと

魔法が発動しないらしい。より強力に、より使いやすくする為に

魔導師も自分の術を開発するのに必死なのだ。


「秘密ならしかたないね」


アギトさんは、少し残念そうに

しかし口元には、笑みを浮かべながら肩をすくめた。

そこに、ビートさんがこちらを見て首をかしげていた。


「あいつら、傷ひとつなかったけど風魔法で傷1つつけずに

 意識を刈り取るってどうやったんだ? 俺が知る風魔法って

 風の塊を飛ばしたりするのがほとんどだが……。

 争った形跡もないしさ?」


ビートさんの、口調に驚く。

僕に対しての、トゲトゲしさが消えている。


僕が、不思議そうにビートさんを見ていたのに気が付いたのか

少したじろいだ感じで、僕から視線をそらす。

ボソッと呟くように、それでもちゃんと僕に聞こえるように一言告げた。


「わるかった」


ビートさんの、思いがけない謝罪にまた驚いた。

僕の表情を見て、少し不機嫌そうに話すビートさん。


「俺だって、自分が悪いと思ったら謝る」


そう言って、そっぽを向いてしまう。

僕は、もう気にしていない事を伝えると

話題を変えるように、僕に3人を倒した方法を聞いてきた。


「で、あれ、どうやったんだ?」


「あれは」と僕が説明しようとすると

アギトさんが「ビート、魔導師の魔法を聞くのはどうなんだ?」

と告げた……。


アギトさん、アギトさんも知りたかったんじゃないんですか……。

それは、僕の心の中にしまって置いて、アギトさんに窘められたからなのか

僕に聞いてしまった事に対してなのか、しまったという顔をして

それ以上聞いてくることはしなかった。


僕達は、3人組が乗ってきていた馬を回収し

1人ずつ後ろに男達を乗せて、城下町に戻ってきた。


ギルドに報告に行くついでに、この3人も引き渡す事になったのだ。


「おぅ、ひよっこ仕事はできたか?」


僕達がギルドの扉をくぐると、ギルドマスターが声をかけてくれる。


「僕には、セツナという名前があるんですが……マスター」


「その分だと、うまくいったようだな」


相変わらずの受け答えに、マスターが笑う。


「セツナ君は、文句なしに仕事をしてくれた」


アギトさんがそういうと、僕の依頼用紙に達成のサインをいれ

ギルドマスターに渡した。


「ほぅ、あそこの男達も、坊主がつかまえたのか」


「私達は、遺跡の中に入っていたからな。

 どうやって捕まえたのか……気になるところではあるが」


「まぁ……魔導師の魔法は、そう気軽に教えられねぇわな」


そういいながら、僕の方に視線をやると

僕を労う言葉をかけてくれた。


「ご苦労だったな、坊主、明日ぐらいはゆっくりやすめよ?」


「はい、ありがとうございます。

 それから、僕を紹介してくださって有難うございました」


そういった僕に、マスターは口角を少し上げ頷いた。


「ぼちぼち、有名になっていけ……。

 お前なら黒に なれるだろうさ」


マスターの言葉に、笑って返事するだけに留め

アギトさんと、ビートさんにもお礼を言う。


「アギトさん、ビートさん、ありがとうございました。

 臨時とはいえ、PTに入れてくださったこと感謝してます」


「君は……本当に、礼儀正しいね。

 半分ビートに分けてもらいたいぐらいだ」


「俺が、セツナみたいになったら気持ち悪いだろうがよ。

 それから、セツナ。俺のことは呼び捨てでいい

 年も、5歳しか変わらないんだからよ」


「ありがとう、ビート」


ビートは、僕の返事に一度頷き

右手を挙げ、簡単に挨拶をしたかと思うとギルドを出て行った。


「んじゃ、またな、セツナ」


ビートの背中を見送り

僕も宿舎に戻ろうかと考えていたところに、アギトさんからの

意外な申し出に、僕はとても驚く。


「セツナ君。君さえよければ、私のチームにはいらないかい?」


「アギトさんのチームにですか……?」


「そう、私のチームは現在12人でチームを組んでいるんだが

 学者はいないし、風使いも1人しかいないんだよ。

 セツナ君が、はいってくれるなら大歓迎なんだけどね」


思いもよらない、アギトさんからの誘いはとても嬉しいものだった。

僕は少し考え、そして僕の気持ちを正直にアギトさんに話す。


「僕は……僕は、世界を見たいと思っています。

 知らないことが沢山あって、見たことがないものも沢山ある。

 アギトさんのお誘いはとても……とても心惹かれます。

 だけど、今はまだ1人で頑張ってみようと思います」


僕が、アギトさんの目を見て真剣に答えると

アギトさんが、僕にやわらかく笑った。


「多分、セツナ君はそういうだろうなと思っていた。

 冒険者になったばかりだし、1人で世界を見てまわるのも悪くない」


アギトさんの言葉に、頷くと

とても真剣な目を、僕に向けた。


「セツナ君、君が旅の途中で、悩んだり、困ったことができたり

 1人ではどうしようもない問題が起こったときは、私を頼ってほしい。

 きっと力になれると思うから」


僕にそう言って、アギトさんが

胸ポケットからカードのようなものをとりだす。


「このカードは?」


「これは、私の名前とチーム名が入ったカードだよ」


カードを受け取るが、アギトさんはカードから手を離さない。

僕が少し首をかしげると


「セツナ君、ここの模様の上に指を置いてくれるかな」


アギトさんの指示通り、模様の上に指を置くと

カードの上に、僕の名前が表示される。僕が驚いて凝視していると

僕の反応が面白かったのか、アギトさんが笑いながら説明してくれた。


「これで、このカードは私からセツナ君に渡された証明になるからね。

 もし、どこかで困るようなことがあったら、これを近くのギルドのマスターに

 見せるんだ。そしたら、私の所に連絡が入るから」


僕が、この世界で頼れる人がいないことを心配してくれているんだろう。

たった、数日僕と過ごしただけなのに、僕のことを心配してくれるアギトさんに

胸が熱くなる。


「……はい……ありがとうございます……」


僕は、そのことに気がつかれたくなくて

アギトさんの返事を待たずに、質問する。


「アギトさん、このカードは何処で作るんですか?

 簡単にできるものですか?」


「あぁ、お金がかかるけど

 ギルドで作ってもらえる、すぐできるよ」


「アギトさん、まだ時間ありますか?」


「大丈夫、まだあるよ」


アギトさんの返事を聞き、僕はギルドマスターのところに行って

カードを作ってもらった。


出来立てのカードを、アギトさんに渡す。


「もし、学者、もしくは風使いの魔導師が必要なときは

 また僕に、依頼をまわしてください」


アギトさんは、頷きながらカードを持ち

模様の部分に指を当てる。

その動作もなれたもので、洗練されているように感じた。


「了解した」


そう言って、カードを仕舞うアギトさんを見る。

誰も知り合いの居ない状況から、僕を心配してくれる人が出来た。

その事がとても嬉しくて……少しだけ照れくさかった。


「セツナ君」


今までとは違って、少し緊張したアギトさんの声音に

僕も少し緊張して、アギトさんに返事を返す。


「なんでしょうか……?」


「セツナ君……あのだね」


「はい」


何か、不手際があったんだろうか……?

僕は、少し緊張しながらアギトさんの言葉を待つ。


「君が作った、結界石を私に譲ってくれないか?」


そう真剣に……本当に真剣に言うアギトさんが可笑しくて

思わず、笑いをこらえる。


きっと、初めて使ったときから気になっていたんだろうなと思う。


僕は、ベルトのポケットから結界石を2つ取り出し

アギトさんに渡す。1つは、アギトさんにもう1つはビートに。


僕の事を、気にかけてくれた優しい人達の仕事が

少しでも安全になるようにと、願いを込めながら……。


こうして僕の初めての、PTでの仕事は終わりを告げたのだった。



読んでいただきありがとうございます。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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