『 俺とあいつ 』
* ビート視点
「……ちくしょう」
俺は、最近イラついていた。
親父には、まだ半人前扱いされ
チームのサブリーダーからも、子ども扱いされている。
『ビートは、仕事というものを理解していない……』
兄貴から言われた言葉だ。思い出しても腹が立つ。
理解してるつーの……。
ギルドの依頼もこなし、冒険者としてのランクもまた上がってきている。
「何が、不満だっつーんだよ!!!!」
本当なら、今頃兄貴のPTに入って、ワイバーン狩りに行く予定だった。
冒険者になった頃から、ワイバーンを狩る事が目標だったから
兄貴から、一緒に行ってもいいといわれたときは嬉しかった。
なのに……。
「ビート。お前は、明日から父さんについて
風の遺跡の調査依頼に行ってくれ」
「はぁ!? 俺は、ワイバーン狩りのPTだろ!?」
兄貴から突然の、計画変更を言い渡されるが
目標の1つである、ワイバーン狩りを諦めることなんてできるわけがない!
「人手が足りない」
「調査ぐらい、親父だけでも事足りるだろう」
「国からの依頼だから、何が起こっても対処できるようにしておいたほうがいい」
「俺は嫌だ、他の奴を親父につければいいじゃねぇかよ」
「あいているのはお前だけだ」
「俺だってあいてねーよ!
ワイバーン狩りのPTに入ってるじゃないか!」
「今のワイバーン狩りのPTにお前より、弱い人間はいない」
その言葉に、ギリッと歯軋りをする。
「……どういう意味だよ」
「今のチームの人数を減らして、お前を入れる余裕はないってことだ」
「俺が弱いって、言いたいのか」
「弱いとは言っていない」
「俺は、ワイバーンを狩りに行く!」
「ビート、これは命令だ。お前は父さんと一緒に風の遺跡の調査だ」
「嫌だ!」
すぐさま、拒絶の言葉を吐いた俺に、兄貴は溜息を吐き
「ビートは、仕事というものを理解していない
それでは、まだまだ半人前だな……」
そういい、俺のそばから離れていく。
結局は、嫌々ながらも親父と兄貴の命令は絶対なので
俺は親父について、風の遺跡の調査に向かうことになった。
ワイバーン狩りに、風使いである母さんがついていくことになっていたので
ギルドで風使いを1人調達しなければならないらしい。
親父と2人でギルドに向かい、親父がギルドマスターと話をしている間
俺は、それとなく話を聴きながら依頼掲示板に目を向ける。
今頃ワイバーンを狩っているのかと思うと
また、イラついてきた。
何で俺が……という気持ちが消えない。
見るともなしに掲示板を見ていると、ギルドの扉が開いて
いかにも弱そうな男が1人入ってきた。
それと同時に、マスターの声がする。
「今、うちのギルドでフリーの風使いはそこの坊主だけだ」
その言葉に、坊主と呼ばれた男は怒るでもなく苛立つでもなく
ただ、自分の名前をマスターに告げるだけに終わった。
「おはようございます、マスター。
僕にはセツナという名前があるのですが」
話し方も気に入らなければ、お上品な言葉遣いも気に入らない。
一番気に入らないのは、坊主呼ばわりされていて怒りもしないということだ。
親父とマスター、そして風使いの男と話しているのを黙って聞き
男の職業が、学者と聞いて
あぁ、こいつは腰抜けなのか
だからマスターに何を言われても、怒れないんだなと思った。
そう結論付けた俺の中で、こいつが臨時であれ
同じPTになることは、ないだろうと思った。
親父も、何だかんだで厳しい人間だ。
風使いであるにも関わらず、学者として登録し
冒険者としてしがみついてる、人間を認めはしないだろうと思っていたんだ。
それなのに……。
「セツナ君だったね、私の仕事を手伝ってくれないだろうか」
親父の言葉に、俺は苛立ちを抑えきれずに叫んでいた。
「親父! 俺達の仕事に、足手まといのひよっこを入れてどうするんだよ!
俺は反対だっ! 魔法が使えるのに学者と書く臆病者にできる仕事じゃねぇよ!」
俺の言葉に、親父が嗜める事を言ってくるが、俺の耳には入らない。
しかし、その後の親父の言葉に俺の怒りは頂点に達した。
「彼の経験が足りないというのであれば、私たちが守ればいいのだ
それとも、ビートは魔導師1人すら守る自信がないのかな?」
俺の怒りがわかっているだろうに、親父は涼しい顔をしている。
この空気に耐えかねたのだろう、腰抜けが親父に声をかける。
「あの、アギトさん」
「すまない、セツナ君、愚息が失礼なことを言って」
「いえ、気にしてませんから」
こいつ……今なんていった……?
キニシテマセンカラ……?
その言葉に、俺は剣を抜きそうになるのを必死に押さえ
ギルドを後にした。
次の朝、結局、あいつをPTに入れて
風の遺跡に向かうことになった。
最後まで反対した俺だったが……親父は譲らなかった。
待ち合わせ場所で、冒険者をなめているのかという格好で来たあいつ。
色々言いたいことはあるが、俺は無視することに決めたので何も言わない。
親におんぶにだっこで、そろえてもらった装備で冒険か
あいつの装備している防具は、そこら辺で手に入る代物じゃないことは
俺にだってわかった。
駆け出しの冒険者が手に入れることができないものだという事も……。
月光のリーダーの顔で、俺に自己紹介しろと親父が視線で促す。
リーダーの命令は絶対だ、仕方なく自己紹介をするが釘を刺すことは忘れない。
"俺はお前を認めてはいない。"
遺跡までの道のりは、退屈なものだった。
いつもなら、メンバーの誰かと話しながら歩くのだが
親父は、あいつと話しているから会話に加わる気がしなかった。
親父とあいつの話を聞きながら歩く。
親父も気になっていたのか、あいつの持ち物が異様に少ない理由を聞いていた。
その理由に俺もおどろいたが……。
「貴族どころか、僕には両親もいません」
あいつの言葉に、少し心にもやっとしたものが広がった。
3日かかると思った道程が、半分ですんだことに内心感心する。
親父や俺のペースに、到底ついてこれるとは思わなかったのだ。
遺跡の扉を、あいつが開けた後、親父が言った言葉に驚いたが
それを反論もせずに、唯々諾々と従うあいつを心底軽蔑する。
その態度を隠しもせず、そのままの言葉であいつに吐きだした。
親父が、止めようとするがその前に、あいつが自分から話し出した。
「僕の今回の依頼は、この扉を開けることであって
遺跡の調査ではありません」
「お前、学者だろ? 誰も入ったことのない遺跡が目の前にあるのに
親父の言葉に、はい、わかりましたって、普通簡単に頷くか?
そういう言い訳を思いつくのは、学者だよな、最初から腰抜けですって
言えばまだ、かわいげがあるのによ!」
図星を指されて黙ってしまったあいつを、勝ち誇ったように見る俺に
真直ぐ俺を見つめ、静かに言ったセリフに俺は言葉を失った……。
「確かに、僕は学者なので、この遺跡を調べてみたいという欲求はあります。
だけど、今ここで僕が果たさなければいけない "役割"は
学者としての立場ではなく
アギトさんから "依頼"された、仕事を遂行するための "魔導師"です。
現在、僕の雇い主はアギトさんであり、遺跡の調査に "魔導師"が必要ないと
判断されたのであれば、僕はその命令に従うのが筋だと考えます」
『ビートは、仕事というものを理解していない……』
兄貴が俺に言った言葉が脳内を回る……。
あの時の兄貴と俺の会話、今の俺とあいつの会話
根本は同じものだ、それに対する考え方が……違った。
その事に気がついた俺は……。
俺は急に恥ずかしくなった。
俺の未熟さに、仕事に対する認識の甘さに。
そう……あいつの言葉で気がつかされたのだ。
依頼は遊びではなく、仕事なのだ。
それ以上、俺は何もいえなかった。
言えなかったから、その場に居づらくて俺は1人で遺跡に足を踏み入れ
あいつから、少し離れたところで親父を待つ事にした。
親父の後姿とあいつを見ながら……。
読んで頂有難うございました。