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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 コリアンダ- : 隠れた価値 』
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『 僕と盗賊 』 

*:残酷描写が入ります、苦手な方はご注意ください。


『 僕と盗賊 』 

*:残酷描写が入ります、苦手な方はご注意ください。


 二人が、遺跡の中に入ったのを確認して

鞄から、剣を取り出しベルトに吊るし遺跡の入り口に結界を張る。


魔物は遺跡には入れない

では、何故結界が必要なのか……。


殺気のこもった気配が僕に届いたために、

ゆっくり振り返ると、武器を持った男が三人

近づいてくるのが分かった。


さぁ、アギトさんに任された、仕事を始めようか……。


「ここは、立ち入り禁止になっています。

 申し訳ありませんが、出て行ってください」


僕がそう声をかけると、彼らは馬鹿にしたような顔で

ニヤニヤと笑いながら、三人の中の一人が口を開いた。


「そういわれて、はいそうですか、とはいわねぇよな?」


「大人しく出て行ってほしいのですが……」


僕が、丁寧な口調で話しているせいか

荒事に慣れていないと、判断したのか

男達は、僕の言葉に耳を貸さず一方的に会話を進める。


「お前が、抵抗しなければ痛くないように殺してやるよ」

と右の男が下卑た笑いで、僕に声をかけた。


僕の言葉は、完全に無視らしい。


「すぐに、殺そうとするなよ。いい面してやがる。

 貴族様にうっぱらったら、いい金になるだろうさ」


右の男の、殺してやるという言葉に左の男が殺すのは止めろというが

その内容が、気に入らない……。


「だそうだ、抵抗しなければ

 痛い目にあわなくて済むぜ。よかったな」


「しかし、仲間の二人は薄情だよな?

 こんなところに一人置いていかれて、かわいそうによ」


ケタケタと笑いながら、僕に同情したような言葉を投げるが

その態度や笑みから、そうは思っていないことは窺い知れた。


「……」


相手にするのも、面倒になってきたので黙っていると

彼等は、僕が絶望して話せなくなったと勘違いしたらしく

彼らの無駄話は、まだまだ続くようだった。


「怖いか? その様子を見るからに

 まだ駆け出しの冒険者ってところだよな?」


確かに、駆け出しではあるけど

彼らを怖いとは、少しも思わない。


対人戦は、初めての経験だというのに

恐怖や嫌悪というのも感じない。


自分の感情が、どこか遠くにある感じともいうのだろうか?

かなで から命をもらったあの日から、僕の心の動きが

以前と違うように、感じる。


多分……。それは、僕の中にかなでと花井さん

二人分の経験と知識……そしてその他のモノもすべてが

僕の一部となったからだろうと思う。


「後の二人には、俺達がちゃんといい聞かせてやるからよ。

 仲間を置いていくなんて最低だってな」


三人が楽しそうに、僕の人生とアギトさん達の

今後を決めたところで、この三人のくだらない話を

終わらせようと決めた。


この世界では、盗賊を殺しても罪にはならない。


それでも、生け捕りにして

アギトさんに指示を仰ぐ方がいいかと考えつつ

腰につるしてある剣に手を移動させる。


しかし、男が僕の動きをみてそれをとがめた。

 

「おっと、その武器はこちらに渡してもらおうか……。

 余計なことはするんじゃねぇぞ……」


男達が剣の方へと意識を向けた瞬間に

僕は、彼らに気がつかれないように魔法をかける。


そして、剣を構えながら僕を脅す彼らの要求に応えるように

僕は、剣をベルトから外し男達の方へ投げた。


「そうそう、大人しく……」


僕が剣を投げると同時に、男が一人倒れる……。

剣を投げて、当てるような事はしていない。


「おい、どうした?」


いきなり倒れた、仲間を見て

二人の男達が浮足立った。


「お前……何をしやがった……」


「何か、悪いモノでも食べたのでは?」


僕が、倒れている理由をいいかげんに答えると

男達が、いきりたつ。


「そんなわけないだろうがっ!!」


男達の殺気を込めた視線と言葉が、僕に突き刺さるが

痛くも痒くもない。


そして、二人目が同じように倒れた。


「おい」


残った一人が、倒れた男に声をかけるが

一人目も二人目も完全に意識が途切れている。


同じ魔法をかけたのに、魔法のかかり具合が違うのは

個人の魔力量の違いだろうか?


魔物相手に攻撃魔法は使ってきたけれど

人間相手に回復魔法以外の魔法を使うのは

そういえば初めてだ。


色々と検証のしがいがありそうだ……と内心思う。

元の世界にはなかったものだから、戸惑うことも多いけれど

深く知れば知るほど、面倒になっていくような

面白くなっていくような、そんな予感がした。



一人目が、三分ぐらいで

二人目が、四分ぐらいか。


頭の中で、おおよその時間をはかりながら

僕は、残っている男に声をかける。


「お仲間が倒れているようですが……。

 早く、医師に見せたほうがいいのでは……?」


心配するように声をかけた僕に

残っている男は殺気を強めて叫んだ。


「てめぇ……! 何をしやがった!」


威勢のいい声を響かせてはいるが

その体は震えている。視線を彷徨わせているところを見ると

逃げることを考えているようだ。


逃げることを考えている男に

先ほど、僕がいわれた言葉をそのまま彼に返した。


「仲間を放置しておくなんて、最低なのでしょう?

 まさか、この二人を置いて逃げたりなんてしませんよね?」


僕の台詞が気に入らなかったのだろう。

僕の言葉と同時に、男は僕との距離を縮め

剣を振りかざし下ろした。


僕は、その剣を難なくかわし

襲ってきた男の胴体に蹴りを入れる。


衝撃を受けたような声を響かせ

襲ってきた男は、腕でお腹の辺りをおさえながら膝をついた。


僕は、膝をついている男と距離を開けるために後ろに下がる。


「なにを、した……」


苦しそうに呼吸をしながら、こちらを睨み

意識が、落ちそうになるのを辛うじて耐えている感じだ。


僕を睨みながらの問いに、答えるかどうかを少し考える。

アギトさん達が戻って来るまで、まだ時間があることだし

理由を知りたがっているこの男に、種明かしをしてもいいかと考え

彼の質問に答えることにした。


「風の魔法を使いました」


そう告げる僕に、男は目を見開き驚愕の表情を見せる。


「お、お前、魔導師、だったのか?」


言葉が途切れ途切れなのは、今にも瞼が落ちそうだからだろう。

僕は、ゆっくりと男の方へと一歩を踏み出し

男のそばにある自分の投げた剣を拾いに行く。


「そうです」


「何故、剣を、持っている」


男は僕が拾い上げた剣を見た。


「魔導師が、剣を持ってはいけないという事はないでしょう?」


僕は、彼の問いに薄く笑いながら答えた。


「くそがっ……」


まだ、悪態をつく元気があるらしいが

その体は、抗うことのできない睡魔によって

体が傾いていっている。


「命を奪う魔法ではありませんから

 安心してください」


「……」


「ただ、深い眠りにつくだけの魔法です。

 まぁ……魔法で命を落とすことはありませんが……。

 目が覚めた時には、ガーディルの牢の中になると思います」


「み、のがして、くれ」


蒼白な顔をしている男の表情から

多くの余罪がありそうだと感じた。


「お断りします」


自分が思うよりも冷たい声が響いたのは

彼らが余計なことをしなければ、僕も遺跡に入れたのに、と

思っていたからだろうと思う……。



盗賊三人の意識が完全に落ちたところに

明日の朝までは、目が覚めないとは思うけれど

念のために、もう一度眠りの魔法を重ねてかけておく。


その後に、三人の身体を調べて、

武器や魔道具などを取り上げてから、一人一人ロープで縛り

転がしておいた。

 


腰に吊るしていた剣を鞄にしまい、代わりに水筒を取り出す。

水が入っている水筒ではなくて、果物を搾ったものを入れた水筒だ。

カイル作、冷蔵機能付き水筒だ……。


遺跡の階段に座って、水筒の中身を一口飲んだ。

美味しいと思いながら、僕が考えていたのは魔法のことだ。

与えられた知識を探りながら、魔法の知識を紐解いていく。

日々、魔法について勉強はしているが……。

魔法についてすべてを理解するのは……遥か先のことになりそうだと

内心溜息をつきながら、僕はアギトさん達が帰ってくるのを待つのだった。



読んでいただき有難うございます。


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僕達の小説を読んでいただき、また応援いただきありがとうございます。
2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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