『 お知らせ &小話 』
第二章開始しました。
『 刹那の風景 第二章 』もよろしくお願いします。
……これだけだとなにやら淋しいので……
『午後の庭での短編集』に乗せる予定でしたが没にしたものを
少し手直しして、載せておきます。
『サイラスの想い人』
* ソフィア視点
私達は、ゆっくりと家路に向かって進んでいた。
セツナ様とアルト君の旅立ちを、見送りに来たけれど……。
2人はもう旅立ってしまった後だった……。
本当は、エリーさんと2人で今日もお願い事をする予定だったのに……。
気持ちは、淋しい気持ちでいっぱいだったけど
サイラス様の言葉で、気分は少し浮上した。
ラギさんとセツナ様とアルト君の居た家を振り返ってから
視線を、前方に戻そうとした時に
サイラス様と、視線があってしまった。
ふと……本当にふと……ラギさんの一言が頭に蘇る。
あれは……みんなで初めて、お茶会をした時の会話だ。
男性9人に対して、女性が私とエリーさんだけなのを見て
ラギさんが、優しく笑いながら言ったのだ。
「これだけ、男性がいて……女性が2人なのは、甲斐性がないのかの?」
そのセリフに、ジョルジュ様とノリスさん以外の男性が固まった。
セツナさんは、柔らかく笑っていた。
ジョルジュ様が、サイラス様のほうを見てニヤリと黒い笑みを浮かべた。
ラギさんの家に着く前に、散々サイラス様にからかわれていたジョルジュ様は
何か、仕返しを思いついたような顔をしてサイラス様に話しかける。
「サイラス……」
「黙れ」
ジョルジュ様が何かを言いかけるのを、サイラス様が低い声でさえぎる。
兄様が何か思い当たったのか、苦笑しながらお茶を口に運ぶ。
ジョルジュ様とサイラス様が、にらみ合いをしている空気を微塵も気にせずに
ユージン様が、爆弾を落とされた。
「サイラスは、ノア嬢を口説いている最中なんだよね?」
キース様が、手のひらを額にあてため息をついた。
「なっ……!」
サイラス様は、固まって目を見開いている。
私やエリーさんは、もう興味津々という顔をして
黙って、サイラス様たちの会話を聞いていた。
私は特に、道中サイラス様の恋のお相手を聞いたのに
話が違う方向へ行ってしまって、ジョルジュ様と私を残し
馬で走っていってしまわれたので、続きを聞くのは諦めていたのだけど。
思わず、サイラス様の想い人のお名前を聞くことが出来た。
「誰から聞いた……。
なぜ……お前が、知っている……」
サイラス様が、ユージン様を睨みながら情報元を問いただす。
そんな、サイラス様にユージン様は、さくっと前から知っていたと告げた。
「僕は前から知っていたけど……。最近は、侍女達の噂の的だね」
噂になっているという言葉に、驚愕を隠せないサイラス様。
サイラス様が、ジョルジュ様と兄様に視線を向けると
2人とも、力強く頷いた。ジョルジュ様が話そうとしたことは
ユージン様と同じだったらしい。
「……」
私はドキドキしながら、成り行きを見守り。
ラギさんは、楽しそうに耳を傾けていたし
アルト君は、黙々とお菓子を食べていた。
「それは、サイラスに春が来たって言うことなのかな?」
セツナ様が、少し突っ込んだことをユージン様に聞くと
ユージン様が首を横に振る。
「3年ほど前からの、サイラスの片思いだね」
「てめーっ!! ユージンお前……何時から知ってたんだ!?」
「サイラスは、わかりやすいから私もキースもとっくに気がついていた」
サイラス様は、がっくりと肩を落としている。
そこに止めを刺すように、セツナ様が……。
「ノア嬢って、青い瞳と薄い緑の髪の女性だったよね。
とても元気な感じで、側にいると元気になれそうな人だよね」
セツナ様が、ノア嬢の特徴を挙げていくとサイラス様が完全に沈黙してしまう。
ユージン様は少し驚いた顔をして、セツナ様とノア様との関係を聞いた。
「……」
「あれ? セツナは、ノア嬢を知っているの?」
「竪琴を奏でたときに、側にいた女性の1人でしょう?」
「ああ、そういえば……」
ユージン様がその時の状況を思い出したのか
コクコクと頷いて納得していた。
その後、復活したサイラス様がそんな話は知らないといい
サイラス様の、想い人の話題で盛り上がったのだ。
そんな事を思い出し、私はサイラス様に
「サイラス様は、ノア様とどうなりましたの?」
と聞いてしまった。
国王様や王妃様とのお茶会の時にも、頑なに話すことを拒んでいたけれど
ラギさんとの時間を思い出した今
気になっていたことがすっと口からこぼれてしまった。
ジョルジュ様から、黒い雰囲気を感じる。
私の質問に、サイラス様は一瞬息を止め
そして……私から目を離すと……ぽそりと一言こういった。
「彼女は、吟遊詩人が好きらしい……」
その言葉に、今度はジョルジュ様が息を止め
そして私だけに聞こえるように「それ以上、聞くな」と一言告げた。
私は首をかしげながらも、意気消沈してしまった
サイラス様を、エリーさんと慰めながら今日という日がゆっくりと過ぎていった。
読んでいただき有難うございました。