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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 杜若 : 音信 』

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『 風の想い人 』

* トゥーリ視点

「君は、僕から学ぶ覚悟がある?」


刺すような真剣な声音に、すぐに返事が返せなかった。

何かを学びたいと心から思う……。

だけど、罪の中にいる私が……人の命に関するものを作ってもいいのだろうか?


最初の新月から、セツとは連絡を取っていなかった。

私から手紙を送ることも無かったし、セツから手紙も来なかった。

答えを出せなくて悩んでいるのに、どうして何も言ってくれないんだろうと

少し、膨れてみたり。


自分で考えて答えを出す事が、大切なんだと気がつくのに少し時間がかかった。

だから、マナキス1の月のセツからの呼びかけに……答える事が出来なかった。

まだ迷っていたし、少し拗ねていたし

それにどう返事を返していいのか分からなかったから。


2回目の新月から、8日程たってやっと返事をセツに返した。


"一生懸命頑張ります。だから、私に教えてください。"


手紙の内容は、一行だけしか書けなかったけど

セツからの手紙の返事は、すぐに届いて

手紙と一緒に、薬を調合する為の道具や本

薬草図鑑など、沢山のものが転送されてきた。


セツの手紙には、色々な道具の説明

使い方が、とても丁寧に書かれてあって……。

彼は、この手紙を私の返事よりも前に書いていたのかもしれないと思った。


私は、手紙の内容と道具種類や使い方を照らし合わせながら

覚えていく。見たことがないものもあって、とても楽しかった。


その手紙には、私にセツを(つがい)として男性として意識させる

言葉は一言もなく、表現するのであれば……先生と学生の手紙

そんな感じで……。竜の国にいた時に魔法を教えてもらった

先生を思い出して、私はセツ手紙にこう書いた……。


"先生へ

 

 道具の名前も使い方も覚えました。薬草はクッカに実物を

 見せてもらいながら、図鑑とにらめっこしています。"


この私の軽い思い付きが、私の中のセツの位置を男性としてではなく

教師として、見る事になってしまうきっかけで……。


この後の新月の夜も、私は自分の知識欲を満たす為に

セツの事を、先生と呼び彼の名前を長い間呼ばなくなってしまう。

その事で、どれほどセツを苦しめていたか知るのは……。


セツについた沢山の小さな傷が、1つの大きな傷になった時だった。


この時の私は、自分の事だけで精一杯で

何をするにも、罪悪感が付きまとうこの檻の中で……それでも

新しい事を覚えるのが楽しくて、クッカとお話するのが嬉しくて。

自分の罪を忘れてはいけないと思いながらも、学ぶ事に夢中になっていく。

そして自己嫌悪に陥るという繰り返しで……。


だから、セツにまわす気持ちの余裕が無かったし

考えたくなかった……。向き合いたくなかった。

セツと正式な婚姻を交わすまで、2年あるのだからと

後回しにしてしまった……セツの気持ちを考えなかった。


私は……。


セツに対する気持ちを考えるのを止め……好意を尊敬に変えた。

セツが人間だという事を考えるのを止め……憎しみを奥底に沈めた。

私がセツの番だという事を、見てみぬ振りをし……教師として接した。


私は楽なほうへと逃げたのだ。

セツが用意してくれた場所へ、逃げてしまった。


彼は、こんなにも私の事を想っていてくれたのに

私が笑えるようにと……自分の想いを隠してくれたのに……。


想いを伝える事が出来ないというのが

どれほど辛い事なのか……私が理解するのは全てが終わった後だった。


時折、甘い言葉と一緒にプレゼントが届く事もあったけど。

彼は、いつも私が頑張っているご褒美だと書いてくれたから

私は素直に受け取った……彼の隠された気持ちに気がつくことなく。



"トゥーリへ

 

 先生? 僕にはセツナって名前があるんだけどな。

 トゥーリの先生で、アルトの師匠で、クッカの主人?

 僕という感じがしないけれど……。僕も頑張るよ。


 本を見ても、わからないところがあったら

 自己完結しないで、一々聞いて欲しい。

 それでは、頑張ってください。 "


彼からの返事に、隠された短いメッセージを

見つけることが出来ていたなら……。

だけど、この時の私は何も気がつかない……。



読んでいただき有難うございます。

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2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
活動報告
詳しくは上記の活動報告を見ていただけると嬉しいです。



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