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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 杜若 : 音信 』

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『 風からの使者 』

* リヴァイル視点

 700年ぶりに家に戻った私の姿を見た瞬間

母は、蹲って泣いてしまった。


母の生きていてくれてよかったという言葉に

胸が痛む。


弟は、人間に騙されていたのを知らず

自らの心臓を抉り出して与え。


妹は、弟の復讐の為に禁忌を犯し

名を剥奪され、追放の上1000年の幽閉。


そして、私は700年前にこの国を飛び出し

妹が幽閉されている国の洞窟で、1人過ごしていた。


妹が生きているかも分からない状態で

体の痛みに耐えながら……。


私の無事を喜び、私の帰宅を喜ぶ母を見て

私達は、なんて親不孝なんだろうと感じた……。


父も戻り、私の顔を見て驚きの表情を浮かべていたが

その目には、安堵ともとれる光があった。


久し振りの、母の食事に戻ってきた事を実感する。

食事が終わり、お茶を飲んでいたときに父が私に聞いた。


「…………」


口を開くが、音にならない声が漏れる。

妹の名前は、剥奪された為に音にする事が出来ないのだ。


「あの娘は……」


生きているのか? 死んだのか?

多分、父はそう聞きたいのだろう。


「ッ……」


私は、思わず今の妹の名前を口に乗せそうになる。

咳払いをする事でごまかし、父に答えた。


「わからない」


「そうか……」


父は複雑な表情を浮かべていた。


私は、本当は知っている。

妹が生きていることを。

独りではないことを。


私にそれを教えたのは、偶然逢った人間だった……。

妹が生きている証を、その人間は持っていた。


そして、妹が名前を得た事もその人間に聞いた……。


妹に名を与えたのが、その男だと知って

殺したい衝動にかられたが……。


父はともかく、母に妹の事を教える事が出来たなら

どれだけ喜ぶだろうか……。


妹に名前があり、魔力を暴走させて死ぬ事だけは無いのだと

伝える事が出来たなら……。


(トゥーリ)という、妹に相応しい名前があるのだと……。

話したい衝動を、ぐっと胸の奥に沈めた。


その時に、私は私自身に魔法をかける。

トゥーリの名を、口にしない為に……。


「お前が帰ってきたということは

 竜王と契約を結ぶという事でいいのか」


低い声で、そう私に尋ねる父に私はもう契約を結んでいる事を伝える。


「私はもう、人間と契約を交わしている」


私のこの言葉に、母が持っているカップを落とし割れる音が部屋に響く。

その顔色は蒼白に近い。父も言葉が出ないようだった。


「どうして!」


母が叫ぶ。


「どうして! 人間と!!」


その声は、哀しみに彩られていた……。

母の気持ちは痛いほどわかる。私も人間を心底嫌っていたのだから。

人間と関わらなければ、私達家族は今も幸せに笑っていたのかもしれない

そう思うと、どうすることも出来ない、衝動にかられる事もあるのだ……。


父は、母を宥め椅子に座らせながらもその表情は苦渋に満ちていた。


「お前は……人間と契約してでも

 竜王との契約を拒むのか」


「……」


父の問いに、沈黙で答える。


「また、ここを出て行くのかリヴァイル」


「いや、私の主に邪魔だから帰れといわれたからな

 暫くは、ここでのんびりするつもりだ」


私の返答に、父も母もよく分からないという顔をする。

普通は、契約した人間と行動を共にするのだ。


「人間と契約したという事は 

 その人間を守るという事だろう。側にいなくてもいいのか?」


「いいらしい。

 私と契約を交わした人間は、おかしな人間で

 私との契約の願いを対等と言い切った」


「対等?」


「友人という意味らしい」


「……」


「私に、望む事は何も無いと言った」


「それでは、契約している意味が無いではないか」


「彼の願いを、1つだけ聞いたときの対価として

 私が契約を強要した」


「……」


私は、人間と出会った時の事を話す。

私と戦った事、妹の事は伏せて……。


強要したといっても、竜と契約できるというのなら

普通喜ぶはずなのだが……あれは嫌な顔をしただけだった。


信じられないと首を振る父

とても疲れた表情を見せ、父が呟く。


「なぜ帰ってきた。 

 お前は、もう帰ってこないと思っていたが」


父の言葉に、なんと答えるか考える。

本当のことは話せない……が嘘をついても父には分かるだろう。


「後2年だ……。

 だから、ここに居た方が……助ける可能性が上がるかもしれない」


「……」


「ここに、帰ってこれないのは知っている。だが……。

 私は、妹が生きていた場合、竜王が妹をこのままにするとは思えない」


ここに戻ってきた理由は、父に話した通りだが

本当の目的は、少しだけ違った。


私は、妹がなぜ幽閉されなければならなかったか

竜王や父が、何を隠しているのかが知りたかったからだ。


それが分からなければ

妹を助ける事ができないと、あれ(・・)が言ったからだ。


私の言葉に、母は息を呑み父は黙り込んだ。

その態度に、父と母は何かを知っていると確信する。


2人の苦しそうな表情を見ていられず

私は席を立ち、綺麗に掃除されていた私の部屋に戻った。

母は、毎日掃除していてくれていたのだろう……。

きっと、弟の部屋も妹の部屋も……。


前に1人で住んでいた、家を700年前に引き払ってしまったから

また新しく借りなければいけないと、思いながらベッドに横になる。


そして気がつけば、朝になっていた。

私は体を起こし、弟妹と一緒によく遊びに行った場所へ出かけた。

そこは何も変わらない……。優しい風が吹いていた。


私達の住む場所は、高い場所にあり住むのは竜の一族だけで

竜王の結界が張られてあり、基本竜の一族以外は入れないようになっていた。

竜王に認められたものか、竜王以上の魔力の持ち主にしか入る事が出来ない。


たどり着いた場所から、眼下に見る街には竜と一握りの人間が住んでいる。

何かを考えるわけでもなく、景色を見ている私の頭上に

一羽の白い鳥が羽ばたいていた。


風と共に私の側に降りてきて

私の周りをクルクルと回り、私が手を出すとその上にとまる。

そして、綺麗な声で囀ったかと思うとすっと消えた。


その瞬間、あれ(・・)の声が私の頭に響く。

目の前に浮かんでいるのは、魔道石……。


それを、手に取るとポケットへ仕舞う。

私と連絡を取る為の道具を、飛ばしてきたようだ。

不思議な事に、この石には私の魔力が宿っていた。


私は、あれ(・・)に魔力を渡した覚えは無いのだが……。

考えて行き当たったのは、私の血だった……。


「……」


薄ら寒いものを感じる。

あの追い込んだ精神状態のときに、あれ(・・)は私の血を採取したというのか……。


私は頭を振り、あの時の記憶を頭から振り払い

鳥が運んできた情報を思い出し、少し口角が上がるのを意識しながら

家へと戻った。


”トゥーリは、元気です。最近、薬の調合を学び始めました”


それだけだったが、妹が前向きに生きようとしているのだと

感じる事が出来て、少し安心したのだった。





読んでいただき有難うございます。

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2025年3月5日にドラゴンノベルス様より
『刹那の風景6 : 暁 』が刊行されした。
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