『 風からの便り 』
* アギト視点
レグリアの、最南端の街のギルドから受け取った何十通とある手紙に
私は、今日の野営地である焚き火の前で目を通していた。
ギルドマスターに、挨拶してすぐに出発したので
手紙に目を通している余裕が無かったからだ。
次の目的地は、レグリアから西にあるサハルの国。
サハルの北西がクットで西がアルオン。
最西端がリシア、冒険者ギルドの本部がある国だ。
リシアとアルオンの間にあるのが、バートルという国だ。
私達、月光はレグリアからサハル、アルオン、バートルを経由し
リシアに向かう事にしている。
冒険者ギルドの本部でしか、手に入れることが出来ない
アイテムや武器の補給に向かう予定になっていた。
各々が野営の準備に当たっている間、私は黙々と手紙に目を通す。
大体は、月光と同盟を結びたいというチームからの要請の手紙だったが
私達のチームは、同盟を結ぶ必要性を感じていないので全て断っていた。
チーム同士の同盟とは、依頼にあたりメンバーが足りない場合
それを補い合うというものだ。
同等の力の在るチームとなら、同盟を組んでもいいと思うが
大体が、甘えを含む内容の手紙である事から次々と切り捨てていく。
そして、最後の1枚の手紙の表書きは
リペイドのギルドマスターだった。
封筒には、チーム暁の風からの同盟要請と書かれてある。
その中に、ギルドマスターからの
簡単な、チームの紹介が書かれている手紙と
そのチームからの、手紙が同封されていた。
私の顔に笑みが浮かぶ。本来はこうあるべきなのだ。
自分のチームより、格上のチームに要請を出す場合
ギルドマスターを経由して、伺いを立てるのが筋である。
それが、最近では自分勝手に手紙を送りつけてくるチームが多くなっていた。
野営の準備を終えたものから、私の周りに集まり
休息を取っていた。
私は、封ろうを剥がし手紙を読み始める。
丁寧に書かれた文字と、文体に好感が持てる手紙だった。
読みすすめていくうちに、私の体に鳥肌が立つ。
私が、余程驚いた表情を見せていたのか長男のクリスが声をかけてきた。
「何かありました?」
メンバー達も、訝しげに私に注目しているのが分かるが
私は、それには答えずに手紙を最後まで読みすすめた。
「……同盟要請だ」
「黒のどなたかが、要請してきましたか?」
「いや、チームを結成して
まだ3日ぐらいしか経っていないチームだ」
クリスは、よく分からないという表情をしている。
「3日ぁ? 身の程知らずな奴らだな」
三男のビートが、飲み物を飲みながら
私達の会話に口を挟む。その口調は不快だと告げている。
「親っちは、何をおどろいているんだ?」
私に、そう聞いたのは次男のエリオ。
「余りにも身の程知らずだから
驚いていたんじゃねーの?」
ビートが私の変わりに、エリオに返事をしていた。
「いや、私はこのチームと同盟を組むつもりでいる」
私の言葉に、息子達だけではなく
メンバーも、驚きの表情を浮かべている。
「……父さん?」
「親父……?」
「親っち……?」
クリス、ビート、エリオがそれぞれ私を呼んだ。
同じ育て方をしてきたはずなのに……どうしてこの三人は
私の呼び方がバラバラなんだろうと、いつも思う。
「いやいやいやいや、親っち。
今まで、何処とも同盟を結んでこなかったのに
行き成りなぜ? それも、結成3日め? 話にならんだろう?」
「親父……ぼけてきたのか?」
エリオの言い分はともかく、ビートが失礼な事を口にする。
「大きなチームなんですか?
有名なチーム同士が、新しくチームを組み直したとか?」
クリスが、視線を手紙に向けて尋ねる。
「いや……メンバーは2人しかいない」
「……」
「おい、親父どうしたんだよ?
3日前に、チーム結成でメンバーが2人って
どう考えても、お荷物だろう?」
「俺っちも、そう思うな」
ビートとエリオが、反対を唱える。
「私も、同盟を組む利点がないように感じます」
続けてクリスも、反対に回る。
「このチームのリーダーは
半年で、ギルドランクが赤の2/10になっている」
私の言葉に、全員が絶句する。
エリオが、一番先に反応して声をあげた。
「嘘だろ?
赤の2/10って……俺っちと一緒じゃないか」
「彼の場合、ギルド貢献が大きいんだろうが
それでも、赤のランクを任せられる実力がなければ
本部が、それを許さないはずだ」
ビートが、真直ぐ私を見つめてくる。
彼は気がついたようだ。
「ギルド貢献?」
「ああ、薬の包装及び薬の調合方法を
ギルドの医療院に提供した」
「……父さんが、出会った青年ですか?」
「そうだ」
薬の包装と調合というところで
クリスにも、誰の事を話しているか分かったらしい。
「しかし、それだけで赤になれるとは……」
私はクリスに頷き、私なりの仮説を立てていく。
「これは、私の推測にしか過ぎないが……。
多分、セツナ君は時使いなんだろう」
「あいつは、風使いだろう?」
ビートが、口を挟んだ。
「風と時の使い手というのが、正しいのかな?」
「どうしてそう思うんだよ」
「ギルド本部が、躍起になって時使いを探していたのは知ってるね?
黒の紋様持ち全員に、本部から依頼がまわってきていただろう。
それが、取り消されたのがハルマン氏がリペイドに行ってからだ。
その前に、セツナ君から薬が送られて来た場所がリペイドだ」
「……」
ビートが考えるように、黙り込む。
「偶然の一致にしては、出来すぎていると思わないかい?」
「時の使い手なら、噂になるはずだろう?」
「ギルド本部が隠蔽しているんだろう。
セツナ君との間に何があったのかは、わからないが」
「ああ……あいつは、魔導師なのに学者って書く奴だしな。
それに、いつも指なしのグローブをつけてるから
ランクは、分からないか……」
ビートが頷いている隣から、エリオが私に疑問を投げかけた。
「俺っちには、親っちがセツナって奴に肩入れする
理由がわからないな。確かに、規格外だとは思うけどさ
結局は、発想と提供と珍しい魔法を使えるって事だけだろう」
「うーん。子供を持つ親として、気にかかるというのもあるけど。
興味もある。彼が、この先何をしていくのかっていうね」
「ふーん、例えば? どんな所に興味がわくんだ?」
「例えば……彼がどうやって、リペイドへ行ったのか」
「船で行ったんじゃないの?」
「いや……。サルキス2の月には、セツナ君はクットにいたはずだ。
私からの手紙を、クットのギルドで受け取っている。
それが、サルキス3の月にリペイドから薬が届いた」
エリオが、目を見開いている。
ビートとクリスは、私達の話を黙って聞いていた。
「それ、おかしいしょ。
クットから、リペイドまでは最低でも2ヶ月はかかるはずっしょ?
それも、相当無理をしなきゃならない。何かの間違いだろ?」
「だから、不思議なんだろう。
ありえないことを、やっているんだから……」
「……」
「ひとつ考えられるのは、リペイドとクットを結ぶ洞窟を使った」
私の仮説に、エリオが息を呑む。
「いや……いやいやいや。ありえない!
親っちは、あんまり感じないかもしんないけど
魔導師なら、あんなおっかない魔力に近寄らない!」
火の使い手である、エリオが顔を青くし反論する。
何年か前に、あの洞窟の調査を依頼された事がある。
その時に出した報告書はエリオが書いた。
「前にも言ったけど、相当魔力を持った何かが
洞窟の中にいたことは確かだ。結界は簡単に壊せるけど……。
魔導師がついているなら、絶対に壊そうとは思わないはずだ。
三流の魔導師なら……わからないけどな」
そういって、腕をさするエリオ。
「それなら、どうやって
クットから、リペイドへ渡ったと思う?」
「……」
私の疑問に、誰も答えられなかった。
黙ってしまった、エリオを見つめ
私は、セツナ君と話がしたい衝動にかられていた。
分からない事を、考えていても仕方が無いので
話を先に進める。
「本当は、セツナ君には月光に入ってもらいたかったんだけどね」
私は、エリオから視線を外し全員に問いかける。
「さて、私は彼のチーム暁の風と同盟を組みたいと思うが……」
そう告げ、息子とメンバー達を順番に見ていく。
真先に答えたのは、エリオだった。
そして順番に、クリス、ビートが私に返事を返していく。
「俺っちは反対」
「私も反対です」
「俺は、保留」
息子達は乗り気ではないらしい。
ビート以外は、本人を見ていないから判断がつかないと言う意見が多かった。
それなら1度、顔合わせをしてみようかという事に決まり
私は、セツナ君に返事を返すために手紙を書くのだった。
読んでいただき有難うございます。