『 暁の風 』
秋特有の青色が、空一面に広がっていた。
少し寂しさを含ませるその色に、暫く目を奪われながら
僕とアルトは、城を後にしてギルドに向かっている
アルトとサイラスに連れられて、城に戻った日から1週間程たっていた。
僕はすぐに、ラギさんが残してくれた家に戻るつもりで居たのだが……。
僕の姿を見た王妃様と
なぜかソフィアさんも僕を帰してくれなかったのだ。
昼間戻ろうにも、様々な人が邪魔をしてきて帰れなかった……。
仕方が無いので、夜アルトが寝てから1人で戻り、僕の設置した魔法にかかっている
人達を牢屋に送り、転移でまた城に戻るという生活をしていた。
ここ数日は、僕の魔法にかかっている賊や冒険者達がいなくなった事から
ほぼ、牢屋に入れたものと思われる。
「師匠、ギルドに報告遅れたけど大丈夫かな?」
「大丈夫だよ」
ギルドの扉の前で、少し緊張した面持ちのアルト。
アルトは、この1週間で目を見張るほど成長したように思う。
幼さが抜け、しっかりと自分で立とうとする意志が見え始めてきた。
僕は、アルトの背中を軽く押しギルドに入る。
その瞬間、緊張した空気がギルドの中に走る。
アルトはその、空気に首を傾げキョロキョロと周りを見渡した。
僕は、かまわずに受付まで歩く。
「おはようございます。ドラムさん。
先日は、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
僕の挨拶に、不思議そうに僕を見つめるアルトが居たが
あえて何も答えなかった。
「おぅ……セツナ。
ギルドの牢屋が満員だ……」
「それは、僕が悪いわけじゃないと思います」
「まぁ……そうだが。
この空気も、酷いものだな……」
ドラムさんはため息をついた。
「そうですか? 僕は気にしません」
「……おめぇ、ちっとは気にしやがれ」
ドラムさんに返事はせず、僕は肩をすくめた。
「おれぁ、おめぇは殺気を纏う事が出来ないと思っていた。
ナンシーの時も、殺気は混じらせてなかったからな……」
「……僕だって、苛立つことはありますよ……。
人間なんですから……」
「ああ……でもおれぁ、おめぇの殺気は二度と浴びたくない」
「普通なら、僕も殺気を抑える事が出来るんですけどね」
「おめぇの殺気は、人を殺せる」
「……」
ドラムさんの余りにひどい言葉に、思わずリヴァイルを思い出した。
それは、竜と比べてどうなんだろうか?
気絶する事も出来ないぐらいの恐怖を与える竜の殺気と
人を殺せる僕の殺気……。
「冗談なんかじゃないからな」
「……あれでもまだ抑えてたんですよ?
周りに、関係の無い人たちも居ましたし」
「……おめぇはもう、俺のそばで喧嘩はするな」
「……善処します」
「ああ……それで今日は何だ」
ドラムさんの言葉に、アルトを見ると
アルトと視線があう。アルトは僕からドラムさんに視線を移し
「依頼の報告に来ました」
アルトの話し方に、少し驚いた表情を作り
そして、その顔に労わりを宿しながらドラムさんはアルトの報告を聞いた。
「ご苦労だったな、アルト」
「……はい」
「ラギ氏からの、アルトとセツナに対する報酬は
あの家と土地だ。おめぇの師匠と話し合ってどうするか決めればいい」
ラギさんからの、報酬があの場所だと聞いて
アルトの瞳が一瞬揺れる……。
「それから、これはラギ氏から預かっていたものだ」
ドラムさんは、アルトに一通の手紙を手渡した。
「……じいちゃん……から……」
「ラギ氏はとても喜んでいたぞ、アルト」
「俺も、じいちゃんと過ごせて幸せだった」
真直ぐに、ドラムさんを見てそういいきったアルトに
ドラムさんは、珍しく優しく笑い、アルトに「そうか」と告げた。
アルトが宝物をしまうように
手紙をカバンの中に、しまい終わるのを確認してから
ドラムさんが、アルトの意識をこちらに向けるように声をかける。
「さて、後はアルトのランクだが……。
この仕事は、満足してもらえる事が結構難しいものだ。
それを考慮して……アルトのランクは3ランクアップというところだな」
「緑の3/3!?」
「そうだ」
「後、1ランクで青になれる!」
「そうだな、頑張れ」
「はい、ありがとうございます」
早速更新してもらった、紋様の色をアルトは嬉しそうに眺め
手の甲を撫でていた。
アルトの報告が終わったのを見て、今度は僕がドラムさんに話しかける。
「ドラムさん、以前言っていた "チーム"の話なんですが」
「月光に入れてもらうのか?」
「いえ、自分で作る事に決めました。
今日は、その登録もしてもらいたいんですが」
「かわまないぜ。リーダーは、おめぇで
サブリーダーはアルトでいいのか?」
「はい」
「チーム名はなににするんだ?」
ドラムさんにそう聞かれ、僕はラギさんの手紙を思い出す。
"沈み行く光ではなく、照らし行く光が似合う" ……。
そして、1週間前にアルトと見たあの光景。
その時、僕の胸の中に飛び込んできたもの。
ああ……ラギさんは、このことを言いたかったのかと。
沈み行く、黄昏ではなく……照らし行く、暁……。
よく似た色ではあるけれど、その意味は全然違う光。
1日の始まりの光と、1日の始まりの風。
そんな意味を込めて、僕はドラムさんにチーム名を告げた。
チームに所属すると、チームの名前とリーダーの紋様が
描かれたドッグタグが渡される。その中にもちろん自分の名前も刻まれている。
チームに所属している証を、ドラムさんから貰い僕とアルトは、首からかけた。
毎日の生活も、依頼も大きくは変わらないだろうけど……。
不思議と、胸の中が騒がしくなっている。
そんな騒がしさと一緒に、僕とアルトはこれから、”チームの家” となるであろう
ラギさんから受け継いだ家へと帰る。
新しい風を背中に感じながら……。
- 第一章 End -
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