『 暁 』
* アルト視点
じいちゃんの腕を掴もうとしても……。
俺の手は、じいちゃんを掴む事が出来なかった……。
「じいちゃん! じいちゃんまって!」
そこで俺は目が覚めて飛び起きる。
嫌な夢に、荒い息を落ち着けるように呼吸を繰り返す。
夢でよかったと一瞬思う……そして夢ではない事に気がつき
涙がこぼれる。そうだ……もうじいちゃんは居ないんだ
「じいちゃん……じいちゃん……」
哀しかった。寂しかった。
大好きだった、じいちゃんがもういないという事が苦しくて仕方が無かった。
この感情をどうすればいいのか分からなかった。
背中を丸め、耐えているとふわりと何かに包まれ背中を優しくさすられた。
「我慢せずに泣きなさい。
哀しいことを全部、出してしまいなさい。
アルト君が落ち着くまで、私はこうしていてあげるから」
師匠とはちがった、やわらかい腕。
じいちゃんとは違う、優しい香り。
そして、俺の心の中にあるものを包んでくれるような
優しい声に誘われて、俺は耐えることを止めて大声で泣いた……。
頭の中も、胸の中も哀しいという気持ちでいっぱいで
じいちゃんとの思い出が、色々ごちゃごちゃになりながら
渦巻いていた。
どれぐらいの間、泣いていたのか分からなかったけど
俺に泣けといってくれた人は
その言葉の通り、ずっと俺を抱きしめていてくれた。
泣きすぎて、麻痺した頭を少し動かすと
俺の頭を撫でてくれている人と目が合う。
「……おう、ひさま?」
俺を抱きしめてくれていた人は
師匠と同じぐらい優しい目で、俺に笑いかけてくれる。
「覚えていてくれたのね。
とても嬉しいわ、久しぶりねアルト君」
「なんで……おれ?
ここは……?」
「ここはお城よ」
「おしろ……?」
なぜ俺が、ここに居るのかという
質問には答えずに、居る場所だけ教えてくれる。
うまく働かない頭で、俺は考える……。
その瞬間、師匠の悲しそうな目が俺の目蓋の奥で蘇り
俺の血の気が引いていく。
「ししょう!!」
そうだ、俺は師匠にひどい事を言った。
だけど、自分の胸の中にあるものが苦しくて
師匠に謝りもせずに、その場を飛び出したんだ……。
「ししょう!」
俺が、寝かされていたベッドを飛び出そうとした時
俺の隣にいた、王妃様に止められる。
「セツナ君は、ここにはいないわ」
「どこに、おれ、ししょうのところにいく」
俺の言葉に、王妃様が少し困ったように首を振った。
「アルト君は、暫くここで生活して欲しいって
セツナ君が……」
ここで生活……? 王妃様の声が遠くで響いている。
俺……俺は……師匠に……。
-……す・て・ら・れ・た……?
俺の力が抜ける……。体中に嫌な汗が流れる。
俺の顔色が悪いのか、王妃様が顔を覗き込むようにして
何かを話しているが、俺の耳には届かない。
「おれ……ししょうに……あきれられた?」
「 -……」
「おれ、ししょうに……ひどいこといった」
「 -!」
「ししょうは、そんな、ひとじゃない……のに!」
「 !」
「おれが……。おれが!!
おれが……ひどいこといったから!!!」
「 君!」
「だから、ししょうは、おれのこと……!」
捨てたんだと言おうとした瞬間に
体を思いっきり揺さぶられ、俺の名前が呼ばれる。
「アルト君!!」
体をゆすぶられた方を見ると、王妃様が先ほどとは違った
怖い顔で俺の名前を呼んでいた。
「セツナ君は、アルト君を捨てたりしない!
いつも一番に、君のことを考えているの!」
「じゃぁ、どうして!?
どうして、おれは、ここにいるの!
ししょうが、おれのかお、みたくないって……」
「それは違うわ、アルト君!」
王妃様の後ろに、ソフィアさんが居た。
今まで気がつかなかったけど……ずっと居たのかもしれない。
王妃様が、俺の顔を自分のほうへ向けさせる。
視線を真直ぐ俺に合わせて、俺に言い聞かせるようにゆっくりと話す。
「セツナ君は、色々とすることがあるの。
だけど、アルト君の事が心配で1人にするのが嫌だったの。
だから、私達がアルト君を預かると言ったのよ」
「……」
「セツナ君からの伝言よ。
セツナ君が迎えにくるまで、アルト君はここで待っているようにって」
「おれは、ししょうのとこにいきたい」
「セツナ君が、迎えに来るまで会えないの」
「……いやだ!
だって、おれ……あやまってない!」
あれだけ泣いたのに、まだ俺の目から涙が溢れる。
そんな俺に、王妃様は涙をぬぐってくれる。
ソフィアさんは、涙を浮かべながら俺の手を握ってくれた。
王妃様とソフィアさんの暖かい体温に
俺の気持ちが少しずつ落ち着いていく。
「アルト君、セツナ君はちゃんと許してくれるわ?
今は少し我慢して……セツナ君が迎えに来るのを待っていましょう?」
「アルト君、セツナ様は私に迎えに行くまで
アルト君を、よろしくお願いしますって何度も言ってくれたのよ」
「……」
「いい子だから、今はここで待っていましょうね?」
「はい……」
王妃様とソフィアさんの言葉に
俺は、頷くことしか出来なかった……。
これ以上我侭を言って、困らせたくなかったから……。
俺の返事に、ほっとしたような表情を浮かべて
俺の顔を見る、王妃様とソフィアさん。
項垂れてしまった俺に、お腹がすいてないか聞いてくれる。
その言葉で、俺は昨日から何も食べていない事に気がついた。
ご飯の用意をしてもらうから、一緒に食べましょうと言われ頷き
ふと窓の外を見ると、外はもう真暗だった……。
食欲がわかないながらも、優しい人達に囲まれて食べたご飯は
とても優しい味がした……。
じいちゃんが居なくなって、師匠に会えなくて
部屋に引きこもってた俺を、将軍という人が来て
俺をじっと見てから、頭がもげるかというほど撫でてくれた。
撫で方は荒かったけど、その掌からは俺を気遣う空気が伝わった。
ひとしきり、俺の頭を撫でると俺の襟首を掴み持ち上げ
訓練場へ連れて行かれる。
剣を渡されて、将軍がわしと戦えと言った。
その時の俺は、戦いたい気分ではなく、ほって置いて欲しかった。
俺に、戦え戦えというので、適当に戦っていたら……。
将軍がむかつく事を言ったんだ。
「セツナ自身は強いが……人に戦闘を教えるのは不得手と見える。
弟子が使い物にならないのは、師匠が悪いからだな」
その言われ方に、俺は殺気を将軍に向ける。
「ししょうは、おしえるのも、じょうずだ!!」
俺が……悪く言われるのは我慢できる。
だけど、師匠を悪く言われるのは我慢できなかった。
「そうか? お前のその戦い方を見ていると
そうは思わないんだがなぁ?」
俺は本気で、将軍に向かう。将軍を倒す為に必死で戦って……負けた。
へとへとになって、訓練場で寝ていたら将軍が
「お前は、セツナの弟子なんだろう。
そして、英雄の孫なんだろう? それを忘れるなアルト」
将軍の言葉に、俺はじいちゃんと師匠の戦いを思い出した。
そうだ……俺は、じいちゃんみたいになると決めたんだ……。
じいちゃんの事を思い出すと、また涙が出た。
俺の涙を見て将軍が、「泣くだけ泣いたら、泣いた分だけ強くなれアルト」と言って
俺を抱えて、部屋まで送ってくれた。
1日目に、将軍と戦ってから俺は、訓練場に顔を出すようになっていた。
ジョルジュさんや、フレッドさんが相手をしてくれる。
サイラスさんは、忙しいのか俺と顔をあわせることは無かった。
ユージンさんとキースさんは、俺に本を持ってきてくれたり
勉強を見てくれるんだけど……キースさんがユージンさんの子供の頃と
俺を比べるたびに、ユージンさんが不機嫌になるので
どちらかというと、1人で勉強したいと思った事は秘密だ。
優しい人達に囲まれながら、城に預けられて4日が経った。
王妃様とソフィアさんは、相変わらず俺のそばに居てくれたし
ノリスさんとエリーさんは、俺に花を持ってきてくれたり
話し相手になってくれたりと、日が経つにつれて俺の中にある
寂しさや哀しみは、本当に少しずつだったけど軽くなっていった。
城での生活は、みんな俺に優しくて居心地がよかったけれど
俺は師匠に会いたくてしかたがなかった。
俺の帰る場所は、師匠のそばだから。
だから……4日目の夜、城を抜け出すことに決めたんだ。
夜が明ける、2時間ぐらい前に俺はそっと起きだす。
気配を殺し、そっと城を出ようとしたとき後ろから声がかかった。
「アルト、城を抜け出して何処へ行くつもりだ?」
「……」
この4日、一度も会わなかったサイラスさんが俺の後ろに立っていた。
「セツナが迎えに来るまで、ここにいろって言われているだろう?」
「おれ、は……ししょうにあいたい」
「セツナの命令を無視してか?」
「……」
「お前は、師匠を信じられないのか?」
サイラスさんの言葉に、反射的に言い返す。
「ちがう! おれは、ししょうをしんじてる!」
最初は、呆れられたと捨てられたと思った。
だけど、この城で生活している間に気がついたんだ……。
「じゃぁ、なぜ大人しく待っていない」
あの日、師匠に言った言葉が……。
ずっと、俺の心に引っかかっていた。
みんなに優しくされれば、されるほど師匠の顔を思い出した。
「……」
「どうしても行くのか?」
俺は、サイラスさんに頷く。
「セツナに、怒られる事になっても行くんだな?」
「いく」
俺の決意に、サイラスさんはため息をついた。
「わかった、その代わり俺も行く。
その条件が飲めないのなら、力ずくで部屋に戻す」
サイラスさんが俺をじっと見た。
俺は、サイラスさんに頷く。
「俺は、セツナにお前を近づけるなって言われているんだ
俺が、セツナに怒られたらお前……ちゃんと俺を庇えよ?」
そう言って笑うサイラスさんの馬に乗せてもらって
俺とサイラスさんは師匠の下へ向かった。
まだたった、4日しか経っていないというのに
じいちゃんの家に近づくにつれ、懐かしさがこみ上げる。
もう家には、じいちゃんは居ないんだと分かっていても
家に入れば、お帰りと笑って迎えてくれるような気がした……。
俺はふと、師匠から教えられている目印を見つける。
その目印を見て、慌ててサイラスさんに声をかけた。
「サイラスさん、とまって!」
俺の言葉で、サイラスさんが馬を止める。
「どうした?」
「あっちこっちに、ししょうの、まほうがかかってる」
「……わかるのか?」
「わかる。ここからは、あるいたほうがいい」
俺は師匠の目印を頼りに、歩き出す。
「サイラスさん、おれから、はなれないでね」
色々な場所に、師匠の魔法が掛かっている。
どうしてこんなに魔法をかけているのか、とても気になった。
それと同時に、かすかに血の香りが風に混ざり
嫌な予感が頭をよぎった……。
もしかしたら、師匠は怪我をしているかもしれない。
怪我をして動けなくなっているかもしれない。
最悪の場合……そう考えると、怖くなって足が震える。
無意識に早足になる。サイラスさんは何も言わずに
俺の後ろをついてきてくれていた。その事に少し安心感を覚えた。
目印を頼りに、じいちゃんの家までたどり着き
師匠の気配を探す。家の中には居ない……必死になって師匠の気配を探る。
裏庭のほうに師匠の気配を見つけ、俺は駆け出した。
そして……裏庭に入った瞬間……俺は……言葉を失った……。
4日前までは、何も無かった広い裏庭……。
じいちゃんが、『畑でもつくろうかのう?』といっていた裏庭一面に
白い小さな花が植えられ、風に揺れて咲いていた……。
その白い花畑の奥に、師匠が泥だらけになって1人たたずんでいた。
師匠の後姿を見た瞬間、サイラスさんが息を飲む音が聞こえた。
俺も師匠の変わり様に、心がざわつく。
4日ぶりに見た師匠は……すごくやせていた……。
師匠はまだ、俺達に気がついていないようだった。
何時もなら、とっくに気がついているはずなのに。
師匠は……表情の無い顔で、三日月を唯眺めている。
師匠のあんな顔は知らない。あんな、表情は知らない……。
薄い月の光を浴びながら、ただ黙って立っている師匠を見て
胸を鷲掴みにされるような衝撃を受ける。
王妃様の言葉が、俺の頭に蘇る。
『セツナ君は、アルト君を捨てたりしない!
いつも一番に、君のことを考えているの!』
気がついた……気がついたんだ。
みんなが俺に、優しさをくれるたびに
師匠が俺にこの場を与えてくれたという事を。
師匠……この4日間、俺の周りには、優しい人がいっぱいいてくれました。
師匠……この4日間、俺は温かいご飯を優しい人たちと食べました。
師匠……俺は、この4日間、暖かいベッドで優しく手を握ってくれる人がいました。
師匠……。師匠……。師匠……。
俺の目から、涙が溢れて止まらない。
師匠……この4日間、ご飯を食べたんですか……。
師匠……どうして、家の周りは血の香りが残っているんですか……。
師匠……師匠はずっと……ここで独りだったんですか……。
独りで……じいちゃんが寂しくないように
これだけの花を……植えたんですか……。
俺に、優しい場所を用意してから……。
師匠……独りで……。歯を1度食いしばって
思い切り息を吸ってから、師匠を呼ぶ。
「……っ……し……師匠!!」
俺の声に、びっくりしたように師匠が振り返る。
「アルト……? どうしてここに……。
サイラスも……」
俺は、一目散に走って師匠に飛びついた。
「アルト……?」
「師匠、俺……俺……師匠に酷い事を言った」
師匠は、じいちゃんとお酒を飲むのが好きだった。
「あんな事、言うつもりはなかったんだ」
師匠も、俺と同じぐらいじいちゃんが好きだった。
「師匠……ごめん……なさい」
師匠も、じいちゃんを大切に思っていたのに。
泣きながら謝る俺に、師匠は抱きしめ返してくれる。
「アルト……僕は気にしてないよ。
アルトが、本気で言ってない事はちゃんと分かっていたから」
久しぶりに聞く、師匠の声に肩が震えた。
師匠が、膝をついて真直ぐ俺を見る。
俺も、師匠を真直ぐ見返す。
「……ちゃんと話せるようになったね、アルト」
師匠の言葉に、俺の体が固まる。
「アルト、成長するのを怖がらないで。
心配しなくていいんだ。アルトがその腕輪を外さない限り
僕はアルトの師匠なんだから」
「……い……一生外さない、かもしれない」
「別にそうしたければ、そうすればいいんだよ」
「……」
「ただね、きっとアルトにも大切な人が出来るときが来る。
ラギさんみたいに強くなって、誰かを守りたいと思うときが来る。
その時に、その腕輪を外して僕に返したとしても
アルトが、僕と一緒にいた時間は消えないんだよ。
ラギさんと過ごした時間が、消えないのと同じようにね」
「……」
「アルトは、ラギさんと出会えて幸せだった?
それとも、出会わなければよかった?」
「じいちゃんと出会えてよかった。
俺は、じいちゃんと出会えて幸せだった」
「アルトの中に、ずっとラギさんが居るように。
僕とアルトも、どこかで必ず繋がっている。
だから、安心して成長しなさい」
「……はい……」
師匠は俺の頭を、1度撫でると立ち上がる。
そして、ポケットから丸い形の水晶みたいなものがついたペンダントを
俺の首にかけた。
「アルト、その水晶に触って "展開" といってごらん?」
師匠に言われたとおりに、水晶に触って展開と呟いてみる。
その瞬間、俺の頭の中に、じいちゃんと師匠の戦闘風景が流れた。
「それは、ラギさんがアルトに残してくれたものだよ。
僕は、獣人ではないから、アルトにその力の使い方を
教えてあげる事が出来ない。苦労するとは思うけれど……。
アルトは、ラギさんみたいに強くなるんでしょう?」
「……なる……師匠みたいに、じいちゃんみたいに!
俺は強くなる!」
「忘れないでアルト。今日のその言葉を。
進むのが怖くなったら、ラギさんが残してくれたものを思い出して」
「……はい……。はい……師匠」
師匠は、俺に頷いて……何時ものように優しく笑った。
その師匠の笑顔は、いつの間にか月が消え……太陽が昇る前の
夕日みたいな色の景色の中で、とても綺麗に思えた。
「綺麗……」
ポツリと出てしまった言葉に、師匠が空を見上げる。
俺は、師匠を綺麗といったのだけど、師匠は俺が空を見て
綺麗だと言ったんだと思ったらしい。
「そうだね……綺麗だね……。
この時間帯の事を、暁というん……」
師匠の言葉が、途中で止まり不思議に思って師匠を見ると
師匠が、目を見開いて空を見ていた。
「……師匠?」
気になって師匠を呼ぶと
はっとして俺を見て、なんでもないと首を振った。
そして、1度ため息をつくと
俺達の後ろで、成り行きを見守っていたサイラスさんに声をかける。
「さて……。
サイラス……?」
「なんだ?」
「僕は君に、アルトをここへ近づけるなって言ったはずだよね?」
「ああ……そうだったな。
約束を破ったから、今回の対価は無かった事にする。
俺の契約違反だ。また違う願いを言ってくれ」
サイラスさんの言い分に、師匠は少し困ったような顔をした。
「……初めから、そのつもりだったんだね……」
「さぁ、どうだかな。
それより、お前……その格好酷すぎるぞ」
「そうかな?」
「自覚無いのかよ?」
「さてね……」
師匠が、俺を呼ぶ。
師匠の隣に立つと、静かにこう言った。
「アルト、ここにラギさんが眠っている」
その場所を見ると、じいちゃんの名前が刻まれた墓碑があった。
その墓碑を囲むように、白い花が裏庭一面に植えられていた。
俺は、じいちゃんが眠る場所に膝をついて黙祷する。
心の中で、強くなると誓いながら。
黙祷を終え、立ち上がりカバンから
俺の相棒を取り出して、じいちゃんのそばに置いた。
「アルト……?」
「ジャッキーが、じいちゃんと一緒にいる。
だから、寂しくないし、ジャッキーは強いから
じいちゃんを守ってくれる」
俺の行動に、師匠もサイラスさんも少し驚いた顔をしたけれど
俺の言葉に、ゆっくりと頷きながら答えてくれた。
「そうだね」
「そうだな」
俺は、師匠の手をとり城に行こうと告げる。
「師匠、お城のご飯は美味しいんだ」
それに、優しい人がいっぱいいる。
俺が貰った優しさを、師匠にも与えて欲しいと思った。
「うん、美味しいね」
「でも、俺一人じゃ食べ切れないから
師匠も一緒に食べて欲しいんだ」
「えー、僕お腹すいてないな」
「片付け終わったんだろう?」
「一応終わったよ」
「じゃぁ、帰ろうぜ
お前は、飯を食え」
「うーん」
「師匠、お城のご飯は美味しいんだよ」
「……分かったよアルト……。一緒に帰る」
そう言って歩き出す師匠。
完全に夜が明けて、光が降り注ぐ道を
師匠とサイラスさんと一緒に歩いた。
じいちゃんが眠る場所を振り返ると
まだ少し、泣きたい気持ちになるけれど……。
俺は、強くなるって誓ったから
真直ぐ前を向いて、師匠の後を追いかけた。
読んでいただきありがとうございます。