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刹那の風景 第一章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ミヤコワスレ : 別れ 』

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『 想いと涙 』

* ソフィア視点

 何処までも続く青空は、泣いて目がはれている私には

眩しすぎて……目を伏せた。思い出すとまた涙が落ちそうになるのを

ぐっと我慢して、飛び出し走っていった、アルト君を追いかける為に

私は外に出てきたのにアルト君を、完全に見失ってしまった。


アルト君を探す為にキョロキョロと周りを見渡していると


後ろから知った声が聞こえてくる。

声がしたほうに振り向くと

エリーさんとノリスさんが、こちらに向かって走ってくる。

一緒にアルト君を探してくれるようだ。


3人で、アルト君の名前を呼びながら歩いていると

小さな白い鳥が、私の肩に止まる。


エリーさんも目を丸くしながらも、可愛いと微笑んで鳥を見つめる。

その白い鳥は可愛い声で鳴くと、私の肩から少し先の枝に止まり

また囀る。


まるで私達を誘導するように……。


私はエリーさんと顔を見合わせ、頷きあいその白い鳥の後を

ついていくことに決めたのだった。


白い鳥に導かれながら、歩いているとエリーさんが

チラリと私をみて


「ねえ、間違ってたらごめんね?

 もしかしたら、ソフィアさんはラギさんの事知ってた?」


私は、エリーさんの言葉に驚いてしまう。


「どうして、そう思ったんですか?」


「うーん、今日の朝……騎士様達より落ち着いていたから」


「……」


「聞いちゃだめだったかな?」


「いいえ、詳しいことは話せませんが

 一昨日、王妃様から教えていただいたんです……」


「王妃様から?

 ジョルジュ様やフレッド様も知っていたの?」


「いいえ、兄様もジョルジュ様も知りませんでした。

 口止めされていましたから」


「え、私に話しても大丈夫なの?」


エリーさんは少し顔色を変えて、心配そうに私を見た。

私は少し微笑み、大丈夫と言うように頷く。


「ええ、知っているかどうかというぐらいなら大丈夫です。

 どうして私が知っているかという理由は答えられませんが」


「理由はいいよ……。今日のことを知っていたのなら

 ソフィアさん、辛かっただろうなって思っただけなの」


エリーさんの言葉に、私は思わず立ち止まり

エリーさんの顔を凝視してしまう……そして、胸に溜めていた何かがあふれる様に

私の目から、涙が落ちた……。


「大丈夫? 辛かったね……」


そう言って、私の手をぎゅっと握ってくれるエリーさんの目にも

涙が溜まっている。


「わ……私は……まだ……」


その先は言葉に出来なかった。

エリーさんに、話していいかどうか分からなかったから。


私はまだ……2日前に知った。

だけど……あの優しい瞳をした、彼は……ラギさんと出会ったその日から

今日という日のことを知っていたのだ……。


それはどれだけ……辛いことなんだろう。

悲しいことを、自分だけの胸に秘めることがこんなにもつらいものだとは

思わなかった。


それなのに、彼は……そういうそぶりを一度も私達に見せなかったし

アルト君のあの様子を見ていると、アルト君も知らなかったのだろうと思う。


どんな気持ちで、笑っていたのだろう。

どんな気持ちで、毎日を過ごしていたのだろう。


エリーさんとノリスさんと一緒に、ラギさんの家によく遊びに行った。

建国祭で何があったのか、兄様から聞いていたから


私がラギさんの家に遊びに行っていることは

ジョルジュ様にも兄様にも、言うことは無かった。


ラギさんとアルト君、そしてセツナさんもとても仲がよくて

1つの家族みたいな雰囲気が伝わってきていたし、私達もとても居心地がよかったのだ。


だけど……優しく笑う笑顔の裏には、どれだけの覚悟があったのだろう。


私が言葉に出来ず、ぽろぽろと涙をこぼしていると

エリーさんが、ハンカチを取り出して私の目元を抑えてくれる。


「アルト君を探さないとね」


そう言って、私の手を引いて歩くエリーさんの手が暖かくて

私は、また少し涙を落とした……。


ノリスさんが、先頭を歩き暫く行くと

鳥が枝に止まったまま、動かなくなった。鳥が止まった木の下を見てみると

アルト君が、泣き疲れて眠っていた……。


昨日から寝ていないようだったので

精神的にも体力的にも限界だったんだろうと思う。


「よく寝てるね、僕がこのまま運んでいくよ」


ノリスさんがそう言い、アルト君を起こさず

火葬場まで戻る事にし、来た道を戻っていると前方からジョルジュ様が

歩いてくる、どうやら私達を迎えに来たようだ。


彼は、ノリスさんが抱えているアルトを見て

少し悲しげな表情を見せ、ノリスさんに、代わろうかと声をかけていたが

ノリスさんは、大丈夫といってそのまま4人で火葬場まで戻った。


私達が戻ると、ラギさんの家に戻る準備が終わっていたのか

セツナさんは、ラギさんのお骨を納めた壷を持ち

火葬場の管理者と話をしているところだった。


ラギさんは、ラギさんの家の庭に埋めて欲しいと言っていたそうだ。

アルト君を、エリーさんとノリスさんが乗ってきた馬車に寝かせ

セツナさんがその隣に座る。私達に頭を下げお礼を言うセツナさんに

私達は、頷いて返した。


日当たりのいい、ラギさんの家の裏庭に

サイラス様が穴を掘り、セツナさんがその穴に骨を納めた壷を入れる。

そして、私達全員でゆっくりと土をかけていく……。


アルト君は、眠ったままだった。


土をかぶせ終わると、エリーさんとノリスさんが花を供えて

全員が、黙祷をささげ終わった後、セツナさんが皆に声をかけた。


「疲れてないですか?

 僕はこれから、出かけなければいけないんですが

 皆さんは、ラギさんの家で休憩していってください」


「セツナ君どこにいくの?」


「僕は、ギルドに行ってきます」


セツナさんのギルドに行くという言葉に

エリーさんの眉根にしわが作られる。


なぜ、このようなときにギルドに行く必要があるんだと

その表情が語っていた。


セツナさんは、少し困ったような顔で

エリーさんにギルドに行く理由を告げた。

理由を聞いたエリーさんの目から涙が落ちる。


きっと、私と同じ結論にたどり着いたのだろう……。

ノリスさんが、エリーさんの手を優しく握って慰めていた。


そんなエリーさんに、セツナさんは泣かないでくださいといい

「僕は、ラギさんと過ごせて幸せだったんです」と寂しそうに笑った。


セツナさんが居ないなら、私達も家に戻ろうということになり

それぞれが帰る準備をはじめる。


「セツナさん、アルト君、部屋に運びますか?」


「セツナ君が帰ってくるまで、私とノリスで見てようか?」


ノリスさんとエリーさんが、まだ馬車で寝ているアルト君に

視線をやりながらセツナさんに聞く。


「いえ……」


セツナさんが1度そこで言葉を切り、ユージンさんのほうを向く。


「ユージンさん、王妃様にアルトの事

 よろしくお願いしますとお伝えください」


その答えに、ユージン様が頷き

エリーさんとノリスさんが驚いた顔をみせる。


「それから、ソフィアさん

 暫くアルトの側にいてくれると、王妃様から聞きました。

 ご迷惑をかけるかもしれませんが……よろしくお願いします」


私にかけられた言葉に、全員が私に注目していた。


「どうして?」


エリーさんが、いろいろな疑問を一言にまとめて

首をかしげながら呟いた。


「僕は、これから色々とやらなければいけない事があります。

 その間、アルトを連れまわすわけには行きませんからね。

 かといって、アルトを1人にもしたくなかったんです。

 だから、王妃様にお願いしました」


「……普通……王妃様には頼めないよね……?

 私達でもよかったのに」


「アルトは見た目大人しそうですが……。

 結構やんちゃなんですよ。預けられたと知ったら

 抜け出そうとすると思います……」


セツナさんと、エリーさんが話をしている横で

兄様が私に、確認の意味を込めて話しかけてくる。

ジョルジュ様は、私達の話を隣で聞いていた。


「ソフィア、王妃様の侍女にという話は

 アルト君を、城で預かるためのものだったのかい?」


「うん、アルト君が、気兼ねなく話せる人が必要だと仰って

 私を選んでくださったの」


「なるほどね……。だから、ソフィアは侍女になると決めたんだね」


「……数日の間だけですけどね……」


「そうか……。しっかり頑張るといいよ」


「はい」


私が兄様と話しているうちに

セツナさんとエリーさんの会話もおわったようだった。


少し腑に落ちない顔をしているエリーさんに

セツナさんは、苦笑していたが……。


アルト君を、このままエリーさんとノリスさんの

馬車で城まで乗せていくことになり。


私達は、ラギさんの家を後にする。


別れ際、セツナさんが私にもう一度

よろしくお願いしますと頭を下げてくれる。


城に戻る私達を見送るセツナさんの姿が

とても寂しげに見えて……その隣に、ラギさんがいない事が

とても悲しかった……。




読んでいただきありがとうございました。

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